34話 告白
家について玄関を開けると茜が慌てて走ってくる。
「おう、ただいま。どうしたそんなに慌てて?」
「おかえりなさい義兄さん。ってそうじゃなくて舞にはちゃんと会えましたか?」
今日の勉強会キャンセルして滝に行くって茜には言ってなかったな。まあ別に言う必要もないし、滝に出掛ける時には茜もどこか遊びに行ってたみたいだから親父からも聞いてないだろ。
「いや、会ってないぞ。今日は勉強会キャンセルしてな。ちょっと一人で滝に行ってたんだよ」
「だから滝で舞に会わなかったんですか?舞は義兄さんを追いかけて滝に向かったんですよ」
慌てた様子で茜が聞いてくるが、俺は状況を把握できずに混乱する。
「え?なんで、そんな事してんの?」
「義兄さんが勉強会いきなりキャンセルして滝に行ったから心配になったんですよ。義兄さんの中であの滝がどれだけ大事な場所か舞も知ってますよ」
たしかに舞には話した事があるが、茜は何で・・・・親父か・・・余計な事話しやがって・・・いや、それよりも今は舞の事が心配だ。
「それで舞と連絡とれたか?」
「いえ電波が悪いのか電話は繋がらないし、メッセージは送ってますが既読になりません」
あの滝の散策コースは電波が全く届かなかったはずだ。茶屋辺りは届いた気がするが・・・電話が繋がらないって事は舞は散策コースでも歩いてるのか?
「っていうか今何時だ?スマホ忘れてて分からん。」
「えっと今15時回ったぐらいですね。」
ヤバいな。シーズン中は臨時バスが出てるからまだ大丈夫だと思うが、シーズン以外は16時前のバスに乗らないと帰ってこれなくなるぞ。今がまだシーズン中ならいいけど。
中学の頃に一人で一度だけ滝に行った事があるが、辺鄙な場所なのでバスで行くと乗り換えも多く乗り換えの待ち時間もあるので、バイクの倍以上の時間が掛ったはずだ。さらに16時前のバスに乗らなければ帰ってこれないというおまけ付きだったので、それ以降はバスで行っていない。
思い出せ。今日のバス停はどんな様子だった。・・・家族で行った時はシーズン中だった。確かバスの時刻表に桜の飾りつけがされてたはずだ・・・今日はどうだった・・・いつもと変わりなかったよな?桜の飾りはなかったはずだ!
「茜!舞に16時前のバスに乗らないと間に合わないってメッセージ送っておいてくれ。間に合わなかったら俺が今から迎えに行くから茶屋の所で待ってるようにって伝えておいてくれ」
自分の部屋に駆け上がっていく。部屋に置かれたスマホを見ると何件か舞と茜から連絡が来ていたが今は内容を確認している時間はない。舞用の防寒着をカバンに詰めて玄関に向かう。
「義兄さん、舞にはメッセージを送っておきました」
「ありがとう。じゃあ行ってくるから、もし舞がバスに乗れたって分かったら連絡してくれ」
「分かりました。気を付けて下さい」
茜の心配する声を背に外に出てバイクに乗って再び今帰ってきたばかりの道を戻る。
バイクで駐輪場まで着くと、すぐにスマホを確認。茜からは何も連絡は来ていないので、舞はバスに間に合わなかったのだろうか。すぐに舞に連絡する。駐輪場も電波は繋がる事を確認しているので、舞が電波の良い所にいるのを願うが。
「もしもし、修一?」
すぐに舞が電話に出ていつもと変わらない感じで俺の名前を呼んでくれてホッとする。
「ああ、今どこだ?もうバスに乗ったのか?」
「ううん、今、茶屋の所、バス乗り遅れちゃった。茜からのメッセージ見たけど修一本当に迎えに来てくれるの?」
「ああ、っていうかもう着いて茶屋に向かってる。ちょっと待ってろ」
そう言って返事を待たずに通話を切る。すごく短いやり取りだが舞も特に何事もない様子なので安心した。声を聴くとすごく嬉しくなるので舞が好きな事を再確認したものの今から直接会うのはかなり恥ずかしい。なんとなく体が冷えたななんて考えながら缶コーヒーと紅茶を購入するが自分でもこれが時間稼ぎだと分かっている。ただいつまでも時間稼ぎをして会わない訳にもいかないので覚悟を決めて茶屋まで歩いていく。シーズン外でも昼間はまだそこそこ人がいたがさすがにこの時間になると人が全くいない。そんな中昼間に俺が座って考えていたベンチに一人の影が見える。正月に紅葉と歩いている時に見た陸上部のジャージに身をつつみ、足を伸ばして足首を右、左と振ってつまらなさそうにしている舞が座っていた。
舞は、つまらなさそうにしていたが俺に気付くと笑顔になり、立ち上がろうとするので、手で止めてから、隣に腰かける。
「ほら、冷えただろ。おごりだから有難く飲むように」
気恥しいので、何となく偉そうに言いながら先ほど買った紅茶を渡す。
「いいの?ありがとう~。あったか~い。えへへ~」
とても嬉しそうにお礼を言ってくる舞を見ながら俺もコーヒーを一口飲む。今からこの嬉しそうな顔を困らせると思うと胸が痛い。
コクコク
俺のあげた紅茶を美味しそうに飲む姿はあの時苦いのを我慢してコーヒーを飲んだ舞と同じには見えない。
「フー、美味しい。ありがとうね。あと迎えに来てくれてありがとう。ちょっと慌てちゃって良く考えずに動いてたわ」
「本当だぞ!なんでいきなりこんな事した?」
「それはこっちのセリフよ!いきなり勉強会中止にしてどこ行ったかと思ったら滝じゃない!心配するわよ」
「それは・・・・その・・・・なあ、舞、大事な話があるんだけど・・・いいか?」
「・・・・私も大事な話があるんだけど・・・うん、修一が先で」
舞の大事な話って何だ?振られた後に聞くのは嫌だが決心が鈍る前に先に言おう。
「・・・・あのな・・・今日三条に告白された」
今日の午前中の話なのに数日前のように思える。今日はそれぐらい色々あるな。
そう言うと舞は悲しいのか悔しいのかよく分からない表情になる。
「・・・それで?・・・三条さんと・・・付き合うの?」
なんて言おうか考えていると舞が聞いてきたので正直に答える。
「・・・いや、断ったよ」
「え?・・・なんで?」
正直に答えると俺が断った事にビックリしたのか疑問を口にする。舞は俺が三条に好意を寄せていたと思っていたのだろうか?さすがに好きな人からそう言われるとこれから口にしようとする事を少し躊躇ってしまう。
「・・・三条に告白された時に言われたんだよ。これから俺と一緒に勉強したり、出掛けたりしたいって。・・・でさ、その時に俺はそういうのは舞としたいなって思ったんだよ」
「・・・え?」
「そう思ったら、俺は舞の事が好きだって自覚したんだよ。茜の為に俺と恋人の振りをしてるだけだから、勘違いするな、好きになるなって考えてたんだけどな。でも舞と一緒にいると自分でも思っている以上に楽しかったみたいだ。だから駄目だと思ってても舞の事が好きになってしまった。ごめんな」
「・・・うん?」
「これは俺の我儘だ。俺の気持ちだけ伝えたかった、すまん。だから返事はいらないから」
情けない、直接振られる事が怖いので自分から返事はいらないと伝える。そうやって心の傷を少しでも軽くしようとしている、俺って意外にヘタレなんだと気付いてしまう。
頭を下げながらそんな事を考えていたが、舞が何も言ってこないので、不思議に思って顔を上げると、まあ、当たり前だが怒った様子だった。茜の為にやってたのに俺が勘違いして告白したのだ、今から文句言われるだろう。
「なんで、返事はいらないのよ」
当然怒り口調で言われる。やっぱり分かっていてもきつい。
「いや、お前告白断るの大変だって前言ってただろ」
「なんで、断られるって思ってるのよ」
「?前にすごい鈍感だけど好きな奴がいるって言ってただろ」
「ええ、今、私の目の前で訳分かんない事言ってるわね」
「ああ?誰が訳わかんない事言ってるんだよ?」
・・・・・・うん?今なんて言ってた?
とりあえず周りを見渡す。薄暗くなってきたが、まだまだ周りの様子が見えないという状況ではない、そして俺と舞以外周囲に人は見当たらない。
舞の目の前にいるのは俺だけど、別に訳わかんない事言ってないよな?いや、その前に何か話が嚙み合ってなくないか?
「???」
「なんで、そんな戸惑った顔してるのよ。だから私も修一の事が好きなの」
・・・今何て言った?俺の事が好き?舞が?え?マジで?
更に混乱するが、舞はそんな俺にお構いなく俺に抱き着いてくる。
「やっと言えた。・・うぅ・・・う・・・。好き」
抱き着いてきたので顔が見えないが体が震えているので泣いているみたいだ。
また泣いてるな~とか思ったが、さっき言った事がすごく気になったので、今回は泣き終わるまで我慢できない。
「え?本当に、俺の事・・・好きなの。いやまた揶揄ってるんだろ?さすがにこのタイミングでそれは・・・む、む~」
抱き着いて泣いていた舞が顔を上げるとまだ俺が喋っている途中なのに口で口を塞いできた。
「信じてくれた?」
俺は何も言えずにコクコクと頷くしかできなかった。俺が頷いた事を確認すると、舞は再び俺の胸に顔を埋めてまた泣いているようだ。
しばらく待つと抱きしめている手に力を入れた後で俺から離れて顔を上げる。その目にはまだ涙が溜まっているが真剣な顔をして聞いてくる。
「本当に私の事好きなの?」
少し・・・いやかなり恥ずかしいが、ここは真面目に答える場面なのは分かる。
「ああ、好きだ」
真っすぐ舞の目を見て答える。顔が熱くなってきているが目は逸らさない。
「今更、冗談でしたとか言わない?」
「言わねーよ。どんだけ性格悪い奴なんだよ」
そう言うと真面目な顔をパッと輝かせてまた俺に抱き着いてくる。
「えへへ。私も好き~」
舞って抱き着くの好きだな~。そういえば茜から抱き着き癖があるって言われてたな~と思いながら、何となく舞の頭に手を乗せて撫でてみる。舞の頭を撫でるのは体育館裏で慰めた時以来、どんな手入れしているのか不思議になるぐらい髪の毛は相変わらずサラッサラだ。
「~。~~~~」
頭を撫でると舞は声にならない声を上げて気持ちよさそうにしている。俺も嬉しいし、撫で心地も気持ちいいのでそのまましばらく続けながら考える。
改めて言われてもいまだに信じきれないな。何でこんなに可愛くて人気者、恐らくクラスカースト上位の舞がボッチの俺を好きになってくれたのか。
「何考えてるの?」
俺が考え込んでいるので撫で方に違和感があったのか、舞は顔を上げて質問してくる。
今、正に考えている本人から質問をされ、正直に言うか迷ったが、実際俺もすごく気になっているので、かなり自意識過剰な事を聞いてみる。
「いや、何で舞が俺なんかを好きになってくれたのかな?・・って」
「『なんか』って言わないの!前にも言ったけど修一は自己評価低すぎるわよ。・・・で何で好きになったかだったわね」
軽く俺を怒ってから一息いれる。さっき買った紅茶を一口飲んでからまた話し始める。
「ええっと、あんた達の両親のデートを追いかけた時の事を覚えてる?」
「ああ、茜と3人で変装して後をつけた時の事だろ?」
「そう、あの時、マックで修一がトイレに行った時、私達ナンパされたでしょ?で、修一が私を庇って殴られたじゃない?」
「ああ、あったな。・・・!まさか庇ってくれたから好きになったとかか?・・・舞、あんまり言いたくないが、それはちょっとチョロすぎるぞ」
「違うわよ!そこじゃないわよ!あと、彼女に対してチョロいとか言わない!失礼ね!」
「・・・・・彼・・・女?」
舞の一言に今まで理解していなかった事を理解してしまい驚いて固まってしまう。
「そう、彼女、何で疑問形なのよ!・・・・ちょっと!まさか私の事好きって言っときながら付き合わないとか言わないわよね!」
俺の胸倉を掴んでブンブン揺すってくる。
「舞、取り合えず落ち着け。付き合う!付き合うから!・・・しかし・・・彼女か」
マジマジと舞を見てボソリと呟く。
えっと今、俺の隣に座っているこの可愛い子が俺の彼女かちょっと信じられないな。




