33話 後悔
土曜日
いつも通り新聞配達のバイトをしてカップラーメンを買って学校に向かう。さすがに受験生なので、バイトも新しい人が入るか6月まででやめる事になっている。これで今後は更に勉強時間が確保できるだろう。まあ志望校はA判定だが油断は禁物だ。
学校に着くと1年の空き教室で勉強を始める。自分の教室は他のクラスメイトが来る可能性があるので、今後はここで勉強をする事にしている。勉強を始めてしばらくすると、
コンコン
扉がノックされたので、顔を上げると三条が立っていた。その格好は休みの日の俺が見慣れたガリ勉モードの三条ではなく平日の三条の格好をしていた。そして何か思いつめた表情で俺を見ている。その格好と様子に心配になったので扉まで向かう。三条は何故か教室へ入ってこないというかノックした扉も開けずに立っている。
ガラガラ
「どうしたんだ?空き教室に誰か人が来たから逃げてきたのか?」
扉を開けて声をかけるが、見た感じ勉強道具を持ってきていないので、逃げてきた訳でもなさそうだ。本当にどうしたのか
「???」
何も言わずにただ立っている三条に困惑していると、三条が俺の胸を軽く押して教室に入ってきた。そして後ろ手で扉を閉めると下を向いて深呼吸を始める。
本当に何やってるんだ?これは放置して勉強始めたら多分駄目なやつなんだろうな。
そのままほったらかしにして勉強を始める訳にもいかないので、しばらく三条を観察していると、俯いていた顔を上げると。
「橘君、あなたの事が好きです。私と付き合って下さい」
俺の顔を真っすぐ見つめてはっきりと言ってきた。
「・・・・・・・・」
何を言われたのかすぐに理解できず、何も答えられない。だから今の三条の言葉をもう一度自分の頭の中でゆっくりとスロー再生する。
「・・・・・・・は?いやいや三条何言って「私は本気で言ってる」
意味を理解した俺から出てきたのは「はい」でも「いいえ」でもなく何とも情けない誤魔化しの言葉だったが最後まで口にする前に三条は遮って強い口調で答えてくる。
・・・マジで?俺の事を?いや本気って言ってるよな。いきなり好きだって言われてもどうすればいいんだ。こんな事言われた事ないからどうすれば。
人から好きだと言われたのは初めての経験なので俺は必死でどう答えるべきなのか考えていると、三条が再び口を開いた。
「私は橘君の事が好き。橘君の笑った顔が好きになりました。だからこれから一緒に勉強したり、出掛けたり、ご飯食べたりして少しでも橘君の近くにいたいです。だから、お願いします。私と付き合って下さい」
そう三条に言われた瞬間に俺は近くにいたい奴の顔が思い浮かぶ。そうなるともう俺は自分が誰を好きか分かってしまった、いや自覚してしまった。自分でも好きになってはいけない、勘違いしてはいけないと思い込んでいた相手だ。そう自覚した俺は自然と三条に話しかける。
「すまない。俺には好きな奴がいる。っていうかたった今自覚したんだけど。だから悪い、三条とは付き合えない」
三条に頭を下げて断る、そして頭を上げると何故か呆れた顔をしている。
何でそんな顔しているんだ?普通告白を断られたら悲しい顔になるんじゃないのか?
「橘君って楠木さんの事好きって今自覚したの?本当に自分に対しても鈍すぎじゃない?」
すごく呆れた感じで言われる。
「えっ・・あ・・・いや、って何で分かったんだよ。俺は今自覚したばっかりだぞ」
「分かるよ。1年の時から好きだからずっと見てたし、楠木さんの事話している橘君楽しそうだったから」
自分ではそんな自覚はないが、言われるって事はそうなんだろう。だけど、そんなに三条の前で舞の事話したかな?
「あと、最近お昼一緒に食べた後どういう状況か分からないけど、二人でくっついてるでしょ?橘君いつも戻ってきた時に少しいい匂いしてるよ。橘君は好きでもない子にそんな事させないタイプだし」
「・・・いやあれは」
それは昼飯食べた後昼寝してると舞が俺の腹を背もたれ代わりに使っているからだ。と言い訳しても結局くっついている事には変わりはない。注意しなかった俺も悪いが、自分の気持ちに気付いた今なら舞がくっついてきて嬉しかったんだと自覚する。
「やっぱり!何してるのよ二人で昼休みに!って言わなくていい!好きな人から他の人とイチャ付いてる内容は聞きたくない!」
「あ~スマン」
「・・・・・」
告白を断ってから三条がいつもの調子で話しかけてくるから、忘れて話をしていたが、そうだよな。たった今三条を振ったんだよな。
そう思うと謝る以外言えなくなってくるし、三条も黙ってしまった。
「あのさ。橘君と楠木さんが付き合い始めたって聞いた時、私すごく後悔したんだ・・1年の時から好きだったのになんでさっさと告白しなかったんだろうって。それからずっと後悔してたんだけど、3年になって同じクラスになって、二人が別れたって聞いたからすぐに橘君と仲良くしようと頑張ったんだ。でも頑張って仲良くなっても時間が掛かる程、橘君が楠木さんにどんどん惹かれていってるって思ったんだ。だからこのままジリ貧になってまた橘君に思いを伝えれないよりはいいやと思ってダメ元で告白してみました!」
「・・・・」
三条のこれは俺に意見を求めている訳ではないので何も言わない方がいいのだろう。
「だからさ、橘君も私みたいに後悔しない為にもすぐに楠木さんに告白した方がいいよ。いつ好きな人を誰かに取れるか分からないし、あれだけ美人で性格のいい楠木さんを狙っている人多いから」
「いや・・・さすがにすぐには・・・振られるってわかってるから」
三条から言われなくてもあいつが男子から人気がある事は分かっているし、気付いてしまったこの気持ちをすぐにでも伝えたいとは思っている。しかし舞には好きな奴がいて確実に振られる事が分かっているので躊躇ってしまう。
「・・・・振られるって何で告白する前から決めつけてるの?」
「あいつ好きな奴がいるって言ってたからな。すごく鈍感な奴らしいけど」
「・・・ふうん。それでも伝えた方がいいよ。私だって振られるの覚悟して告白したから。っていうか伝えろ!これは命令!私を振った罰!そして振られてきなさい!」
「いや、無茶苦茶すぎるだろ・・・はあ、でも分かったよ。後悔はしたくないからな。先輩の教えは素直に聞くよ」
「振られたら私が慰めてあげる。むしろ傷心の橘君にそこでアピールすれば」
「おい!本音でてんぞ!」
「まあ、楠木さんを諦めて私と付き合うってのが一番ダメージが少ないけど、私としてはこっちがおススメ」
「いや、好きでもないのに付き合うって、それこそ三条に失礼だろ」
「別にいいよ。それでも。そうなったら絶対私を好きにさせてあげるから」
どこからその自信がくるのか、真っ直ぐ俺の顔を見てはっきりと言い切る。
「強いな、三条は」
「橘君と楠木さんが付き合ったって聞いてすごく後悔したって言ったでしょ。だから。それに1回振られたぐらいじゃまだまだ諦めたりしないからね」
本当にこいつのメンタル強すぎだろ。
「じゃあ、すぐに告白して、結果教えてね」
そう言って満足したのか帰って行った。
俺は一人になった教室でどうすればいいのかを考えていた。
・・・
・・・
・・・
はあ~考えがまとまらん。
時間は?・・・大丈夫だな・・仕方がない。滝に行って一回頭をリフレッシュしよう。
そうと決まれば・・・俺は舞へメッセージを送る。
:悪いけど、今日の勉強会はなしにしてくれ。
舞も今は部活中だし、すぐには返信は返ってこないだろう。
そうして俺は荷物をまとめて家へ向かった。
家では親父と義母さんがいたので、バイクを借りて滝に行ってくると伝える。
そうして親父のバイクに乗って11時過ぎに滝に着いた。あの日と同じように散策コースで歩き始める。歩き始めてすぐにこの辺で舞と手を繋いでくだらない事で笑いあった事を思い出して思わず頬が緩む。傍からみたら一人でにやにやしているヤバい奴だ。
そうしてあの日より、かなりのんびり歩いて、例の桜の木の所で立ち止まる。花はほとんど散って葉桜になっている。
また今年も満開の桜は見れなかった。そういえばここで撮った写真は壁紙から変えてなかったな。別れたなら別の壁紙に変えなきゃと思いつつも面倒くさいと思って変えていないままだった。いや、面倒くさいと思った振りをして多分変えたくなかったんだろう。
桜の木を通りすぎて滝の見える吊り橋を渡る。いつものように立ち止まってしばらく眺めずにゆっくり歩きながら滝を眺める。吊り橋を渡り終えると母さんの事を舞に話したベンチが見える。今は老夫婦がそのベンチで休憩している。
腹が減ったので今の時間を確認しようとしたが、ここでスマホを家に忘れた事に気付いた。幸い財布は持ってきていたので、昼飯を食べる為、茶屋に入り肉うどんを注文する。注文は鴨南蛮を頼むかすごく悩んだが結局安い方を選んでしまった。前来た時は舞から3回も肉を食われて俺が食べる肉がほとんど無かった事を思い出して苦笑いする。今日は一人だから肉を全部堪能できるななんて思ったりした。食べ終わると普段は立ち寄らないお土産コーナーに足を運ぶ。あの時買ったキーホルダーは在庫の補充がされたみたいで、数が増えていた。自分のカバンに付けたままのキーホルダーは外した方がいいのかと考えてみたが、どうしたらいいか分からないので、今度舞に聞いてみよう。
店を出ると先ほどベンチにいた老夫婦が居なくなっていたので、空いたベンチに腰かけて、考え始める。
ここは母さんとの思い出の場所なのに、さっきから舞との初デートの事しか思い出せていないな。俺はどんだけ舞の事好きなんだ?はあ~。どうするか。
それから一人でベンチに座りたまに滝を見に行ったりしながらも1時間程考え、頭を整理する。考えをまとめようとすればするほど自覚してしまった舞への思いが強くなっていく。結局舞への思いが強くなっただけで、どうやって思いを伝えればいいか結論はでなかった。上手く考えがまとまらないまま俺は滝を後にした。




