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3話 親のデート

俺が小学1年の時に母さん・・・橘ひかりは死んだ・・・・。病魔に侵されてやせ細った母さんが「ごめんね。」と優しく謝って俺の頭を撫でてくれたのが母さんと俺との最後の思い出だ。両親は高校卒業と同時に結婚するつもりだったが、二人とも両親から猛反対された為、駆け落ち同然で家を飛び出してきたらしい。だから葬式は誰も呼ばず俺と親父だけで行い二人で大泣きした。だから俺は祖父母の顔を知らない。・・・いや母さんが死んだ時に一度だけ母さんの親に会いに行ったことがある。親父は母さんが死んだ事を祖父母に報告し、頭を下げていた。その親父に向かって「お前のせいで娘は死んだ!」、「だから反対だった!」、「お前が娘を不幸にした!」酷い言葉を浴びながらも親父はひたすら頭を下げていた。俺にも「こいつはウチの孫とは認めん!金輪際関わるな!出ていけ!」と言われた。長い時間罵詈雑言を浴びていた親父が顔を上げ「申し訳ございませんでした。失礼します。」と告げて、俺を促して祖父母に背を向けて歩き出した。背後では祖父母のすすり泣く声が聞こえた。「ごめんな。付き合わせて。」家に着くなり親父は俺に謝ってきた。かなり落ち込んでいた親父に俺はケツを思い切り叩き「大丈夫。気にしないで。」と言って笑ってやった。本来は背中を叩いて落ち込んだ俺を励ます親父のやり方ではあったが、当時は背が低かった為、叩く場所がケツになってしまった。親父は吃驚して俺をしばらく見つめていたが、いきなり俺を抱きしめると「これから父さん頑張るからな!」と泣きながら言ってくれた。それ以来親父は俺の前で涙を見せないようにしているが、時々夜中にアルバムを見ながら泣いている事を知っている。


「・・・あのですね・・・驚かないで欲しいんですけど・・・私の・・母親と橘君のお父さんがですね・・・お付き合いしているらしいんです!」


「・・・・・・はぁっ!?」


そんな母さん一筋だと思っていた親父だからこそ今まで再婚の可能性について全く考えていなかった。


「・・えっ!?親父が?噓だろ?」


「いいえ、本当です。母から聞きました。橘君の父親と付き合っている事。私と同じ高校に通っている同級生が息子にいて、名前が橘修一だって事」


「・・・まじかよ」


驚きすぎて理解が追い付かない。


「・・・本当です。・・・母が私にそう教えてくれたって事はあなたと・・・『きょうだい』になると思います。だから前もって仲良くしたいと思いました」


「ああ。そ、そう言うこと・・そ、そ、そうか、うん・・分かった」


「それでは、私と仲良くしてもらえますか!!」


混乱している俺に清水は顔を輝かせて言ってくる。


「・・・いや、ちょっと待て!今混乱してるから・・・よ・・よく考えさせてくれ!」


こういうと清水は「えーーー!」って感じで、キレ女は「さっさと『はい』って言いなさいよ」って感じでこちらを見てくる。俺は考えがまとまらないので引き延ばす事にした。


「えっと。その付き合ってる話本当?ちょっと信じられないんだけど」


「本当です!日曜日に母とそちらのお父さんがデートするそうです!嘘だと思うなら駅前に10時前・・いや9時半に来て下さい!!ただし後をつけるので目立たない恰好で来て下さい」


「・・・分かった。・・・9時半に駅前だな・・・。その話が本当だと思ったら、まあ、仲良くする方向で考える」


「約束ですよ♪」


未だに混乱している俺に何故かテンションが高くなった清水から押し切られるように約束をしてしまった。





土曜日

俺はいつも通りバイトを済ませ朝食の準備をする。いつもと違うのは弁当の準備をしない事、親父も休みだから時間を過ぎても起きてこない事だ。俺は一人で朝食を済ませ、制服に着替えて学校に向かう。途中コンビニに立ち寄り昼飯用のカップラーメンを購入する。

学校に着くといつもの通り自分のクラスに向かうが、休みだから当然生徒は全くいない。部活動の朝練があるのか、休日のこの時間でも校内の鍵は必ず開いている。俺はいつもより静かすぎる校舎の階段を上り自分のクラスへ向かう。途中空き教室の前を通ると、三つ編みで分厚い眼鏡をかけた所謂ガリ勉タイプの女子を見かける。この子も俺と同じで1年の時から休みの日は学校にきて勉強している。俺に気づくといつものようにペコリと会釈してきたので、俺も軽く頭を下げた。一度だけ成績について聞かれた事があるがその子の学年も名前も知らない。教室に着くと当たり前だが誰もいない、その静かな教室で勉強を始める。


もう昼か~。やっぱり休日の学校は勉強が捗る。・・・腹減ったから飯食うか。


俺は中庭のベンチに座り、ガスバーナーをセットし、お湯を沸かす。沸くまでは読書をしたり、単語帳を眺めながら待つ。お湯が沸いたら今朝買ったカップラーメンに注いで3分待ってから食べ始める。


美味しかったけどやっぱり想像できちゃう味だよな。


食後そんな感想を思いつつ教室に戻り勉強を始め、夕方まで勉強をしてから帰宅する。中学から休みの日はほぼ同じように過ごしている。





日曜日

約束の時間10分前に駅に到着。早速あいつらを探そうとした所で俺は気付いた。


北口か?南口か?


とりあえず北口へ向かい、いなかったら南口へ行こうと思っていたが、幸いにも北口を出るとすぐにキレ女を見つけた。キレ女の恰好はジーンズにダウンジャケットで特に変装しているようには見えない、俺には気づいていない様子だが気にせず後ろから声を掛ける。


「よお」


「おはy・・黒っ!」


挨拶の途中でいきなりキレ女が吃驚して声を上げる。


「橘、あんたそれ全身黒すぎでしょ。変装になってないわよ。逆に目立ってる」


「そうかぁ?いうほど変じゃないだろ?」


といいながら俺は自分の恰好を見る。今日は黒いズボンと上は黒いジャケット、中は黒いシャツに黒い帽子といういで立ちである。


「いえ、変だと思います」


「うお!びっくりした!」


俺とキレ女の会話に隣にいたジャージ女が入ってきたので、ものすごく驚いてしまった。

会話にいきなり入って来たジャージ女の顔をよく見ると清水だった。


「・・・えっと・・清水で合ってるよな?」


コクコクとジャージ女改め清水が頷く。


「何で?ジャージ?」


俺が疑問を口にすると清水は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

今日の清水は上下白いジャージで長い髪を三つ編みにして一つにまとめてその上で某プロ野球チームの帽子をかぶり、更に足元はクロックスという訳分かんない恰好である。


「・・・あの・・・変装・・・」


俯きながら清水はぼそぼそと言っていた。


「いや、さすがにその格好はおかしいだろ?」


「橘が言う?どっちもどっちよ」


「いや俺はおかしくないだろ?」


「舞~、ひどい!私もそんなに変な格好じゃないもん」


「はあ~。まあどうでもいいわよ。それよりもあんたの連絡先教えなさいよ。今日は北口って言い忘れてたから今後も連絡取れないと不便なのよ」


俺たちの格好に駄目出ししたくせにどうでもいいとか言い出して話題を変えるキレ女。

とここで俺はある事に気づいた。


「そういや、お前何でいるの?」


「何でって?いたら悪いの!」


やっぱりキレるなこいつ。カルシウム足りてないんじゃないか。


「いやそうキレるなって!ただ俺や清水は親の事だけど、お前は全然関係なくね?って思っただけだから。」


「・・舞には私からお願いしてついて来てもらいました」


俺の疑問には清水が答えてくれる。なんかこいつら二人でワンセットって感じなのか?


「そうよ!それに茜とは幼馴染でおばさんとも仲いいから私も気になってるのよ!っていうかさっきから『お前』って何よちゃんと名前で呼びなさいよ!」


ヤバい。


「・・・・・」


「・・・ちょっと!もしかして私の名前覚えてないの?」


「・・ダイジョウブ、覚えてる」


俺はキレ女から目を逸らしながら答える。


「じゃあ、私の名前言ってみなさいよ!」


「・・・・・田中?」


「違うわよ!楠木よ!楠木舞!!かすりもしてないじゃないの!」


「人の名前覚えるの苦手なんだよ」


そう答えるとプリプリ怒りながら楠木は「もう」とか「ちゃんと自己紹介したじゃない」とか俺を非難してくる。実際、クラスメイトとも全くコミュニケーションをとっていない俺はクラスの誰一人名前を憶えていない。


「・・まあまあ。落ち着いて、舞。それより連絡先交換しましょう」


そういいながら清水はスマホを取り出したのを見て俺も自分のスマホを取り出す。


「ほら、QRコード出して!」


楠木もスマホを出してそう言ってきた所で、俺は固まる。今まで自分から連絡先の交換をした事がないから何を言われてるか分からないのである。そもそも連絡先は親父と親父の弟である叔父家族の合計4人しか登録されていない・・・。その交換だって親父や叔父にまかせっきりだったのである。


「・・・・・・・・分からん」


「はあ?!」


絞るように声を出して伝えたが、楠木は何を言われたか理解していない。


「だから!連絡先の交換の仕方が分かんねえだよ!・・・・自分でやった事ないからな」


「プッ!あははは!」


「・・・・・ww」


俺が正直に答えると楠木は大きな声で笑いだし、清水も最初はキョトンとした顔をしていたが俺の言葉を理解すると声は出さなかったが笑い出した。


「あははは!そうか!橘ってボッチだもんね。やり方わかんないよね。しょうがない、お姉さんがやってあげよう!」


楠木がえらく上機嫌なのがムカつく。

かなりムカついたが今日駅に着いたときに連絡できない不便を感じていたので、我慢する。悔しいが俺ではやり方がわからないので楠木にスマホを渡し、連絡先の交換をしてもらう。交換が終わって返されたスマホの画面を見ると、


舞:よろ

あかね:これからよろしくお願いします。

となっていたので、俺も適当に

:あ

とだけいれておく。


「橘、言っとくけど茜の連絡先は超貴重だからね。男子で知ってるの彼氏の小笠原だけだから、聞かれても人に教えたら駄目よ」


「ボッチだから誰にも聞かれる事はないから安心しろ。それにしてもそんな貴重なのか?聞いてくる奴多そうだけどな?」


俺がスマホの画面から清水を見ると顔を赤くして俯く。


「・・・あー。この子男性恐怖症なの、だから普段はほとんど男子と喋らないようにして、必要な時だけは敬語で喋って距離をとるようにしてるから」


「ふーん・・・あれ?でも彼氏持ちだよな?」


「そこが小笠原のすごい所なのよ。前言ったでしょ、同じ中学って。そこで中1の時に茜に一目ぼれして告白して振られたの。そこから私や友達、女子に相談して茜の好きなタイプ、自分の駄目な所を聞いて、それを直してからまた告白して振られて、また直してを繰り返してようやく高2で茜も受け入れてつきあうようになったの」


「ええっ!それって・・・どんだけ清水愛されてるんだよ・・ちょっと重くね?」


「私もそう思うけど、まあ当人同士がいいんだから気にしない事よ」


意外な話をされてドン引きする。


あのイケメン結構面倒くさそうだな、絡まれないようにしとこ。


そこに楠木が追撃してくる。


「まあだからこの間みたいに勘違いして絡んでくる事も多いんだけどね」


「・・・・」


その勘違いにほんの数日前に巻き込まれた俺は何も言えなかった。

そんなやり取りをしていると、

「来ました。…母さんです」


と清水がささやいてきたので俺たちは近くの建物の影に隠れて様子を窺う。


「えーと。どの人?」


「ほら!あの看板の前に立っている黒いロングコートの人!」


何故か清水ではなく楠木が答えたが、当の清水は「気合いれすぎ」「恥ずかしい」と

かぶつぶつ言っている。

俺は教えてもらった看板の前に立っている女性を見つけた。すぐに清水の親族だと分かるぐらいに清水によく似ていた。清水より髪は短いが、仮に清水の姉ですと言われると絶対信じてしまう。そんな中俺は別の心配が思い浮かぶ。


若くね?いや背が清水並みに小さい事も考慮しても若すぎるだろ。清水の年齢から実年齢は40代前後だと思うが、見た目だけなら20代後半でも十分通用するぞ。本当に親父と付き合ってるのか?


「・・・・若くね?」


清水に対して疑問を投げかけてみる。


「・・・いえ、そんなことはありません。私はお母さんが17の時の子供ですからもう30代半ばですよ。・・・ただあの身長のせいかよく年齢より低く見られる事が多いんです」


俺の質問に清水からいきなり衝撃の事実が話された。


17の時って高2じゃん!俺と同じ年!いやいや俺も親父と母さんが19の時の子だから早い方だとおもったが、上には上がいるもんだ。


そんなことを考えてしばらく過ぎると約束時間の10分前に親父が現れた。


「親父がきたぞ」


建物の影に隠れてスマホをいじっていた二人に声を掛けると、二人は身を乗り出してきた。


「どれよ?どれがあんたの父親よ!!」


「ほらあそこのでかいのだよ!」


俺が清水の母の方へ向かう身長180㎝オーバー筋肉ムキムキのおっさんを指さす。


「でかっ!」


「ッ!・・・・」


俺の親父を見つけると楠木は見た目のままを言い、清水は絶句した。


「・・・ねえ!近い将来あの人が茜の父親になる可能性が高いんだけど、どうする仲良くできる?」


「・・・無理かもしれない」


将来娘になるかもしれない子から拒絶される、可哀そうな親父。

親父たちの方はというと、出会うと目尻を下げる親父とニコニコと本当に楽しそうに笑う清水母。

母さんが死んでから見た事ない親父のそんな姿を見れただけで今日は来たかいがあったなと考えてしまう。

そうして挨拶も終わったのか歩き出す親達。


「あっ!動くわよ」


「どこに向かうんだ?」


「母からは映画を見てくると聞いていますが。」


離れてから後をつける俺たち。

そして清水の言う通り映画館に入っていく二人。


さて、どうするか・・


「映画かー。多分2時間ぐらい出てこないわね。どうする?」


「どうしましょう?」


「2時間後だと大体12時過ぎか。じゃあ各自昼飯食べて12時にこの辺集合でいいだろ?」


「「・・・・・。」」


俺がそういうと二人ともジトーとした目で無言でこちらを見てくる。


「・・・なんだよ?」


「はあ。これだからボッチは」


「・・・ちょっと、さすがにその提案はフリーダム過ぎますね」


俺の提案は二人から却下される。

というか清水ちょっと言い方きつくなってない?


「え?なんでだよ?」


「橘ってこの前学校で茜が言った事覚えてないの?」


「あれだろ・・『仲良くしてください』ってやつ」


「そうそれ。今日はそれも含めて一緒に行動してるって分かってる?」


「いやいや、そんなこと聞いてないぞ。今日は親父を尾行するって話だっただろ?」


「あんたの考えは放っておいて、今日はそういう事だから、別行動の案はなしよ」


一方的に決められてしまう。しかも当事者じゃない楠木に言われるのは何でだ?


「とりあえずその辺ぶらついて色々見ましょう」


楠木のその意見に清水が頷いたので決定してしまう。

俺の意見は聞かれなかった・・・。


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