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28話 空き教室

金曜日

放課後傘を差して三条と駅に向かっている。あの日勝負を受けてから放課後は何故か三条から誘われる。まあ、俺の寝太郎生活を邪魔している訳でもないし、変な噂が流れても気にしないと言っているし、断るのも失礼なのでこうして一緒に帰っている。駅までの道のりで話す内容はもっぱら勉強の事ばかりで、俺に勝ちたいのか俺の勉強方法を詳しく聞かれる。


「それでリスニングはどうやってるの?」


「ネットに転がってる奴を聞いてるな。中学の頃は1日30分ぐらいずつ毎日聞いてたら、だんだん聞き取れるようになってきたんで、今だと2~3日に1回聞いてるぐらいかな」


相変わらず三条から俺の勉強方法を根ほり葉ほり聞かれる。


「そうか~ネットか。そこは思いつかなかったな」


俺の勉強方法はなかなか参考になるらしく、色々納得しているようだ。俺ばっかり教えるのも癪なので、三条にも聞いてみる。


「三条は現代文ってどんな勉強してるんだ?」


「別に普通よ」


「いや、俺も教えてるんだから、詳しく教えろよ。ずるいだろ」


「え~。教えて勝負に負けたら嫌じゃん。他の人ならいいけど、橘君にはな~」


「よし、じゃあ俺も三条に何も教えないようにしよう」


「嘘、嘘。冗談。って言っても私趣味が読書だから本読んでるだけなんだけどね」


「そうか~俺も読書してるんだけど、この時の心情は?みたいな問題が苦手なんだよな~」


「う~ん。橘君はリアルでも人とコミュニケーション取ったらそういう問題解けるんじゃない?」


「え~。それなら寝てる方がいいな」


「もう、そんな事だからあんな渾名付けられてるんだよ」


「別にその通りだからな。気にしてないし・・・それよりも明日もいつも通り学校で勉強するのか?」


「当然!橘君から学年一位奪わないといけないから」


「お手柔らかに頼む」


「むー。その余裕の態度がムカつくな~」


そんな他愛ない話をしながら駅で別れた。





土曜日

いつものように学校に行き自分のクラスで勉強を始める。昨日の夜に茜から今日は楠木が部活終わりに勉強しに来ると聞いている。何で楠木から直接言ってこないか気になったが、考えても良く分からなかったので、気にしない事にした。そうして勉強を始めてしばらくすると、


ガラガラ


教室の扉が開き名前も知らない男のクラスメイトが3人やって来た。


「アレ?橘?」

「ういっす」

「よう」


声を掛けてきたので俺も手を挙げて挨拶する。

ヤバいな・・・

この時点で嫌な予感がした。

3人は挨拶した後、真面目に勉強を始めた。





それからしばらくして


「だろ?」

「アハハ!馬鹿だろ!」

「まじで!はははは」


嫌な予感通り、3人は勉強そっちのけで駄弁り始めた。

・・・五月蠅くて集中できない。

仕方がないので、教室から移動する事にする。

取り合えず3年の空き教室に向かうとすでに何人か勉強か話しているかよくわからん状況になっている。ここに来るまでにも他のクラスも人が来て勉強している人もいれば駄弁っている人もいた。


う~ん。3年になった途端人が増えたな~。


どうしようかと考えていると先ほどの空き教室に三条の姿が見えなかった事に気付く。


あいつ今日も学校くるっていってたよな?


って事は。何となく思いついた2年の空き教室に行くと三条がガリ勉モードで一人で勉強していた。邪魔するのは申し訳ないが俺もここで勉強させてもらえないか聞いてみる事にする。


コンコン


何となくノックしてみると三条が顔を上げて俺を見つけるとビックリした表情になる。


「すまん。三条。ここで勉強させてもらえないか?」


俺が聞くと何故か納得した表情になり、


「橘君も他の人に邪魔されたの?」


「ああ、クラスメイトが来て集中できないから逃げてきた」


「そっか~。私も3年の空き教室で勉強してたけど人が来たから逃げて来たんだ。同じだね」


「そうだな、クククク」


「フフフ」


何となく二人で笑いあってから再度許可をもらう。


「で?いいか?邪魔ならどこか行くけど」


「別に私の教室じゃないから許可取らなくてもいいけど」


「そうか、悪いな」


そうして二人で黙々と勉強をするとすぐに昼になる。昼からは楠木と合流する予定なので、昼食を食べる前に楠木に連絡する。


:今日は1年の空き教室で勉強してるから


流石に楠木と一緒にいる所を見られるとマズいので、昼から1年の空き教室に移動する予定だ。最初から1年の空き教室で勉強していれば良かったが、あの時は考えが浮かばなかった。というかいつものように3年の教室で一緒に勉強しようとしていた事が間違いだった。楠木との関係がバレる前にクラスメイトが来てくれてよかった。ありがとう。名前も知らないクラスメイト。


メッセージも送ったので昼飯を食べる準備をして外に向かおうとすると、


「橘君、お昼一緒に食べよ」


三条から誘われる。


「俺の昼飯これだからいつも中庭で食べてるんだけど」


カップラーメンとバーナーを三条に見せる。


「うん。知ってるよ。私がどれだけ休みの日に学校きてると思ってるの?何回も見た事あるから」


「でも良いのか?今日の様子だと俺と飯食べてるの、誰かに見られて変な噂されても知らんぞ」


特にこの学校の連中は噂好きだからすぐに広まるだろう。しかも相手が楠木を悲しませて振られた奴として名前が知られた俺だから余計に早く広まるだろう。ちなみに俺が振った説はすぐに消えたらしい。まあ俺の想像通り、俺が楠木を振るって事がみんな信じられなかったようだ。まあ俺も第3者の立ち位置にいたなら信じなかっただろう。おかげで茜達が大分苦労しているらしいが。


「別に気にしないよ。それにこの格好なら私だってバレないだろうし」


俺の隣を歩いている三条は今日はいつもと違いガリ勉モードだ。


普段の三条とは全然違うな~本当に別人だな~とか思いながら、ジロジロ見ていたら、


「だから、あんまり見られると恥ずかしいって」


三条はあの時と同じように顔を真っ赤にして注意してくる。この間注意されたばかりなのにまた同じ事をしてしまった。


「ごめん、ごめん、本当に別人にしか見えないな~と思って」


「それでも!あんまり、女の子をジロジロ見たら失礼だよ」


頬を膨らませて抗議してくる。


「悪かったって。もうしないからそんなに拗ねるなって」


他愛ない話をしていたら中庭についたので、俺は湯を沸かす準備をしていると、


「・・・橘君は今の私と平日の私、どっちの格好が好き?」


三条が顔を真っ赤にして変な事を聞いてきた。そんなに恥ずかしいなら聞かなくてもいいんじゃないかと思ったが正直に答える。


「休みの日に空き教室で平日の格好した三条が勉強していると違和感しかないな。逆に平日に今の格好した三条が俺のクラスにいても違和感しかないな」


そう答えると何故か不服そうな顔をする三条。


「違うって、違和感うんぬんじゃなくて、どっちの格好が好きか聞いているの?」


「う~ん。親近感沸くのは今の格好だな~。なんだかんだ1年の頃からの付き合いだからな・・・って言っても会釈するぐらいの仲だったけど」


「そっか~やっぱり橘君って変わってるね。普通、誰に聞いてもこんなガリ勉みたいな子より普段の私の格好が良いって言うと思うよ」


あきれたように言ってくる三条の言葉を聞いてそんなもんなのかな~と思ってしまう。俺の中で三条といえば、まだ知り合って2週間も経っていない奴だが、目の前のガリ勉モードの三条は1年の頃から知っている空き教室の人だからだろう。


「・・・・やっぱりまだ早いかな」


三条がボソリと何か呟いた声が聞こえたが、俺に言ったわけではなさそうなので、特に気にしない。そんな事を話していると湯が沸いたので、ラーメンにお湯を注ぎまたしばらく待つが、俺の向かいに座っている三条は何故か弁当に手を付けていない。


「どうした?食べないのか?」


不思議に思って声を掛けると、また不服そうな顔をして俺を軽く睨んでくる。


「さっき一緒に食べよ。って言ったのに何でそういう事言うかな?」


「えっ?もしかして俺待ち?それなら悪いから先に食べてていいぞ」


「別にお弁当だし、ここまで待ったから待つよ」


「本当悪い。っていうか俺もそろそろだから食べるか」


「「いただきます。」」


そう言って二人で食べ始める、今日のカップラーメンは当たりだ、自然と顔がほころぶ。


「今日のは当たりって反応だね」


「おっ、わかるか?今日のは中々うまいぞ」


「わかるよ!橘君が学校で笑うのってこんな時しかないし」


そうか?とも思ったがボッチの俺はそもそも誰とも話さないから笑う事もない事に気付いた。


「良く知ってるな」


「へ?・・・ち、違うからね、たまたま空き教室からここが見えるだけだから!」


そう言われてみれば中庭から各学年の空き教室が見える。ついでにぐるりと周囲を見ていると、何人かこちらを見ている奴らがいる。また月曜日から変な噂が出そうだ。もう手遅れかもしれないけど昼から楠木もくるって事だし。


「昼から俺は1年の空き教室に移動するから」


「え?なんで?もしかして私何か邪魔してた?」


しまった。誤解させたかな?と思い慌ててフォローを入れる。


「いや、滅茶苦茶集中できたから。でも昼から合流してくる奴がいるからさすがに三条の邪魔になるだろ」


「ふ~ん。ちなみに誰と合流するか聞いてもいい?」


「・・・聞かないでくれると有り難い」


ちょっと失敗したかもしれない。楠木と一緒に勉強する事がバレてしまう。この間別れたって事にしたばっかりなのに、さすがにヤバいな。


「当ててあげようか?楠木さんか、橘君の元カノか、清水さんの幼馴染でしょ?」


「・・・・それ全部同じ奴じゃねえか」


もうこの時点で三条に99%バレている事は分かったが、俺もわずかの可能性にかけて悪あがきしてみる。


「違うの?」


「・・・チガイマス」


「ふ~ん。じゃあ後で見にいってみようかな」


「・・・・・すみません。黙っていて貰えると助かります」


くそ、やっぱり最初から分かってんじゃねーか。


「何で?別れたんじゃないの?」


まあ、さすがに不思議に思うよな。三条にはバレてしまったが全てを言う訳にはいかないので、少しだけ本当の事を話す事にする。


「ええっと。内緒にしていて欲しいんだけど。俺と楠木は別に喧嘩して別れたわけじゃないんだよ。まあ友達に戻ったって言った方が分かり易いかな?」


「色々ツッコみたいけど、何で最初からみんなにそう言わなかったの?橘君が悪いみたいにクラスで言ったの?」


それは協力してくれた楠木が絶対に悪く言われないようにした事が理由だが、そこまでは言わない方がいいだろう。そして、三条にも嘘や誤魔化しよりも素直に話せないって言った方がいい気がしたので、


「すまん、その理由は色々あって言えない」


「色々ね~」


三条はジト目で俺を見てくる。


あれ?知らない内に何か色々情報を漏らしている気が。ヤバいな。これ以上話すとさらにボロが出そうだ。昼飯も食べ終わっているので会話を切り上げて昼寝に行こう。


そう思うと、


「そんなに嫌そうな顔しないでよ。誰にも言わないから安心して」


また心読まれたよ。本当に最近の女子高生って読心術が必修科目なのか疑いたくなる。


「本当に黙っててくれるのか?それだとすごい助かる」


「橘君には嫌われたくないし・・・ああっ、勝負しているからね!嫌われて勝負してくれないと困るから!」


今の所は黙っていてくれるみたいだ。取り合えずお礼を言ってから俺は1年の空き教室に向かって勉強を開始する。





・・・遅いな。

昼から勉強を始めてしばらく経つが楠木がこない。先ほど送ったラインは既読になっているから俺がここで勉強しているのは分かっているはずだ。


何か用事ができたのか?それとも部活終わってから陸上部の連中と遊びに行ったのか?なんにしろ来ないなら来ないで連絡くれないと心配になる。もう一度だけラインを送ってみるか


:お~い、どうした?こないのか?


ラインを送ってしばらくすると誰かが歩いてくる足音がする。楠木だろうと思ったがそれにしては遅すぎだ、もうすぐ15時だからあんまり勉強できないけどいいのかとか考えていると空き教室の扉が開く。思っていたのとは違ってやってきたのは楠木ではなくて三条だった。


「・・・やっぱり私と勉強してると邪魔だった?」


「いや、邪魔じゃなかったって、めっちゃ捗ったから」


悲しそうに聞いてくる三条の言葉を即否定する。すぐに楠木がいないこの状況は三条から見て俺が一緒に勉強するのを嫌がって嘘をついたと思わせるには十分な証拠になっている。


「ほら、見てみろ。ちゃんと勉強する場所とかラインしてるだろ?」


俺はラインのやり取りを三条に見せる。見た途端納得してくれたのか、悲しそうな表情から少し安心した表情に変わった。


「本当だ。ごめんね少し疑っちゃった。でも楠木さんどうしたの?来てないの?」


「いや、俺も連絡きてないからよく分からん。こういう時はすぐ連絡くれそうな奴だと思ったんだけどな・・・」


今まで楠木が俺との約束破った事はないので、俺の勝手なイメージになるが、楠木はドタキャンはしないだろう。


「私も楠木さんと仲良くないから連絡先知らないしな~」


「まあ、いいさ。何か急用でもできたんだろ。それよりも何で今日楠木と勉強するって分かったんだ?・・・いや、違うな、何で別れた俺と楠木の仲をまだ疑ってたんだ?」


先ほど聞きそびれた事を三条に尋ねてみる。俺の中ではうまく行ってると思ったのだが、三条にバレていると、もしかしたら他の人にもバレているかもしれない。三条の理由次第では楠木と茜を交えて話し合いが必要になってくる。


「橘君が教室で別れた理由教えてくれた時、なんか演技っぽかったから?あとあれだけ人気のある『楠木舞』と別れたのに淡々として、悲しそうに見えなかったからかな?」


おお・・・全部俺の演技力不足か・・楠木の演技は過剰だと思ったけど俺もあいつぐらい過剰にやれば・・・いや俺にはできないな。この辺は今後楠木と茜に相談しよう。


「雫は付き合ってた事自体嘘じゃないかって言ってたけど」


おお~い。やばい、柴崎はやっぱやべえわ。まじであいつからは逃げ続けよう。


「そ、そんな事ある訳ないだろ!デートもしてるし、お前だって見ただろ腕組んで俺と楠木が歩いているの?」


「そうだよね。私もそれはないって言ったんだけど、雫は納得してなかったから・・・月曜に雫連れてもう一度話を聞きにくるね」


三条は笑顔でとんでもない事を言ってくる。このやり取りを柴崎としたら確実に気付かれてしまう。あいつ何者なんだ?鋭すぎる。このまま絡まれるとどこまでバレるか分からん。


「おい!柴崎の事は助けてくれる約束だろ。なんで嗾けてくるんだよ」


「それはテストで私に勝ったらって約束だから、今はまだ勝負すら始まっていないから助けられないな~」


「くっ・・・貸(借り)一つって事でどうだ」


「あはは。嘘。嘘。そんな事しないよ。橘君に嫌われたくないし」


「性質の悪い冗談はやめろよ。心臓に悪い」


「本当に雫の事苦手だね~。まあいいや、それじゃあ邪魔してごめんね」


そう言って三条は帰っていった。その姿を見て俺は近いうちに楠木と茜に柴崎の事について相談しようと決めた。


それから俺が楠木に送ったメッセージは既読になる事はなく夕方になったので、帰宅した。

帰宅すると慌てた様子で茜がやってきて、ニコニコしながら、


「お帰りなさい。義兄さん」


と笑顔で言ってくる。いつもと様子の違う茜を見ながら俺は何かあったか?と考えてみるが思い当たる事がない。


「・・・ああ、ただいま。・・・・そういえば舞の奴来なかったぞ?今日だったよな約束してたの?何かあったのか、メッセージ既読にもならないし。何か聞いているか?」


今日楠木が来なかった事を聞いてみる。俺には連絡なくても茜の方には連絡があるかもしれない。


「えっ?」


何も聞いていないのか驚いて固まる茜。すぐに我に返ると慌てて自分の部屋に向かって行った。あの様子だと茜も知らないのだろう。やっぱり心配だな。あとで茜に聞いてみるか。


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