表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/40

26話 握手の人からの苦情

教室に戻る途中や教室で冷たい視線を感じるが、まあどうでもいい。そうして弁当を片付けて次の授業の準備をしていると、サトリと握手の人がやってくる。そういえばサトリは『柴崎』って名前だったっけ?


「橘く~ん。2日目にして早速サボり~。不良だな~」


「サボりっていうか寝過ごしたって言った方が合ってるな」


まあ実際は楠木とサボっていたが、寝過ごしたという方が寝太郎の言い訳にはぴったりだ。


「ええ?そうなの?だったら今度から起こしに行ってあげようか?」


握手の人が親切な事を言ってくるがさすがに遠慮したい。体育館裏は俺の聖域だ。誰にも邪魔されない静かに弁当を食べて昼寝できる場所だ。楠木と茜には知られてるが、これ以上知られたくない。


「いや、大丈夫だ。寝過ごす事は滅多にないから、今日はたまたまだ」


「本当に~。2年の時は月に1回ぐらいサボってなかった~。」


柴崎が突っ込みを入れてくる。っていうか結構寝過ごしてた事バレてたんだな。


「そんなにサボってるの?ちょっとそれはどうかと思うけど」


握手の人が呆れた顔をしている。


「いやサボってないから、寝過ごしてるだけだから。それに柴崎も話盛りすぎだぞ学期ごとに1回ぐらいだったろ」


俺が訂正すると柴崎は何故かビックリした顔になったので何か可笑しな事を言ったか不安になる。


「橘君って~私の名前知ってたの~」


柴崎が変な事を聞いてくる。何で名前を知ってるだけで驚かれるか分からない。


「?」


「だって~、昨日まで知らなかったでしょ~」


「!!」


だから、何でこいつはそんな事知ってるんだよ。昼休みに楠木に聞いたばっかりだから合ってるけど・・・


「い、いや。2年で同じクラスで隣同士だっただろ。さすがに知ってるぞ」


慌てて誤魔化すが隣で握手の人がジト目で見てくる。


「まあ~嘘はつかなくてもいいよ~昨日ちょっと傷ついたぐらいだから~。それよりも橘君から知ってる人の匂いがする~」


傷ついてたのかよ!思わず心の中でツッコむが、その後の言葉がすごく嫌な予感がした。


ヤバい、何か楠木の匂いがするのか?やっぱりこいつは苦手だ。授業サボって楠木といたなんてバレたら非常にマズい。


「誰だろう~?結構良く知ってると思うんだけどな~」


ガラッ


「ほら席付け授業始めるぞ~」


先生が教室に入ってきたので、二人は慌てて自分の席に戻っていく。


ヤバかった。先生が来なかったら絶対にバレていた何故かそう確信していた。


次の休み時間、俺はトイレに籠って芳香剤を手に持っていた。シュールだ。授業が終わると柴崎がこっちに向かってくるのが見えたので、慌ててトイレに逃げてきたのだ。休み時間ここに籠っていれば匂いは消えるだろう。

そうして籠っていると、連れションしている男子の会話が聞こえる。大半が俺と楠木が別れた事が話題になっていた。俺が楠木を振った派は「もったいねえ」「寝太郎って美的感覚おかしいんじゃないか」「振られた楠木さん可哀そう」、俺が振られた派は「ざまあ」「ようやく楠木さんが目を覚ましてくれた」「あいつ楠木さんを悲しませたらしいぞマジで許せん」

分かってはいた、分かってはいたが、誰も俺を擁護してはいないみたいだ。まあ、楠木が悪く言われるよりはいいやと思い、トイレから出ようとしたら、


「別れたからこれから楠木さんに告白する奴が増えるな」


誰かが言った言葉に何故かモヤモヤした気分になってくる。



教室に戻ると、早速柴崎と握手の人が寄ってきたが


「トイレ臭い~」


失礼な事を言って柴崎は離れていく。分かってるよ。お前の為の対策だよ。

柴崎は離れていったが、握手の人は俺に近づいてくる。


「ねえ、もしかして橘君って私の名前も誰かも分かってない感じ?」


いきなり言われてドキリとした。やっぱり知り合いだったようだ。だけど俺は全く心当たりがない。どうする誤魔化すか・・・いやこいつの近くにはサトリがいるからすぐにバレそうだ。


「すまん。正直分かっていない」


素直に白状する事にしたが、握手の人は何故か納得した様子をしている。


「うん。そうだよね。わからないよね。じゃあ、放課後に教えるね」


それだけ言うと自分の席に戻っていった。





放課後

「橘君一緒に帰ろ!」


握手の人が結構大きめな声で俺に声を掛けてくる。周りからは冷たい視線が注がれている。これは、まずい


「とりあえず、ちょっとこっちに来い」


そう言って、俺は廊下の隅まで握手の人を呼び出す。


「お前、わかってるのか?俺は楠木と別れたばっかりだぞ!それなのにあんな事言ったらお前まで変な噂されるぞ!」


そう言うと握手の人はポカンとした表情になる。そして何か理解したのか笑い始める。


「あはは。大丈夫。私そういうの全然気にしないから」


「いや、そっちが気にしなくても俺が気にするんだよ。今ならまだ大丈夫だと思うから俺は先に帰るぞ」


「いやいや、放課後私の名前教えるって約束したじゃん。だから今日は一緒に帰る事は決定事項です」


約束してないだろ・・・一方的に言われただけで俺は了承していない。まあこいつの名前には興味があるが、変な噂が流れてまで聞きたいとは思わない。なのに握手の人の中では俺と一緒に帰る事は決まっているらしい。楠木といい俺の話を聞かずに決める奴ばっかりだな。女子ってこういうもんなのか?


「はあ~。もし変な噂されても苦情は受け付けないからな?」


「分かってるって。あ~でも別の苦情は言うつもりだから」


気になる事を言ってくる握手の人。何だろう?まるで心当たりがない。俺は握手の人と玄関に歩きながら、心当たりを考える。玄関で靴を履き替えて歩き出すと、握手の人が名前を教えてくれた。


「さて、それじゃあ私の名前は三条穂乃花。宜しくね橘修一君」


そう言って握手の人改め「三条穂乃花」はまた手を伸ばしてきたので、俺もそれに応じて握手する。


「それで、私の事聞いた事ある?」


名前を聞いても心当たりがないので無言で首を振る。やっぱり知り合いじゃなさそうだ。


「そっか。これでも結構有名だと思ってたんだけど、学年トップは気にしてないか」


そう言ってカバンを漁り始める三条。俺は三条の呟きを聞いて考える。


学年トップって成績の事だよな。でもその事は茜と楠木に教えるまでは誰にも聞かれた事もないから知ってる奴はいないと思うけど・・・口止めしてないから茜か楠木が誰かに話したのか?・・・・いやあと一人だけ教えた奴がいるな。


そんな事を考えていると三条はカバンから取り出した分厚い眼鏡を掛けてこっちを向く、片手は長い髪を後ろ手で一つにまとめている。それを見た瞬間、俺は1年の頃から休みの日に良く見る人物に思い当たった。分厚い眼鏡をかけて、今は後ろ手で一つにまとめているが本来は三つ編みで一つにまとめている、見るからにガリ勉タイプの人物。


「空き教室の人?」


ポロッと俺が勝手に付けていた渾名で呼んでしまった。


「フフフ、何それ?私ってそんな渾名付けられてたの?」


眼鏡を片付けながら、面白そうに言ってくる。


「ああ。すまん。名前知らなかったし、毎回空き教室にいるから俺の中で勝手にそう呼んでた」


勝手に変な渾名で呼ばれて不快な気持ちにさせたと思ったので謝って、渾名の由来を教える。


「まあ、実際その通りだからいいけど、『芋女』とか『ガリ勉』とか付けられてなくて良かった。まあでも今度からは名前で呼んでね?自己紹介ちゃんとしたんだから」


「ああ、分かってる。悪かったよ。変な渾名で呼んで」


そう言って三条をマジマジとみるとガリ勉モードと今とで全然雰囲気が違う。別人だと言われても信じてしまいそうだ。


「・・・あの・・・そんなに見られると恥ずかしい」


ジロジロ見ていると顔を真っ赤にして抗議される。


「ああ、悪い。雰囲気が全然違うと思ってな。なんで平日と休みで格好変えてるんだ?」


なんとなく不思議に思った事を聞いてみる。


「それはほら、高校受験の時はあの格好だったからその名残かな。あと学校で休みの日に勉強してるってバレると恥ずかしいから変装の意味もあるかな」


そういうもんなら学校来なくてもと思ったが、何か事情があるんだろと思い聞かない事にしたが、


「橘君はなんで学校で勉強してるの?」


俺が聞かなかった事を三条の方から踏み込んできた。


「俺は家だと寝てしまうからな・・図書館はまあ人がいて気が散るからって理由だな」


「図書館は同じ理由だね。私は家だと弟たちが五月蠅いからだな~」


結局、俺も三条も集中できる環境が学校だったってだけだった。話が一段落した所で、三条から


「さて、ここから少し橘君に言いたい事があります」


改めて言われると少し身構えてしまう。さっき言ってた苦情って奴だろう。ずっと考えているが本当に心当たりがない。


「その前にまずは確認なんだけど、橘君は高校入ってからずっと成績は学年一位って事で合ってるよね?」


まあ、その通りで別に嘘をつく必要もないので、素直に頷く。


「じゃあ、何でその事隠してるの?他の人から私が学年一位だって勘違いされててすごく迷惑なんだけど」


・・・・誤解されてる、別に隠しているわけではない。ボッチだから聞かれた事がないだけだ。


最近は個人情報とかうるさいので俺の高校ではテスト順位の張り出しはやっていない。代わりに各自順番が書かれた紙が配られる。


「ええっと、別に隠している訳じゃないぞ。俺の噂って聞いた事あるだろ」


「・・・寝太郎、ぼっち、空気、お兄ちゃん」


「・・・最後がおかしい気がするが、まああれだ、いままで聞かれた事なかっただけだ、ボッチだから」


信じられないという顔で俺を見てくる。いや本当の事なんだよな。


「そもそも三条が順番の紙や模試の結果を見せたらみんな納得しただろ?それか俺が一位かもとか言えば良かったじゃないか」


「何回も見せたよ。そしたらそのうち有志の人たちが学年の頭良いって言われてる人たちの順番を聞いて非公式の順位表を何回か作った事もあったけど、誰も橘君に聞かないから当然一位不在なの。『隠れて模試を受けた先生が一位だ』、『一位とると満足するから敢えて二位からの順番になってる』とか、とにかくおかしな話になって、それで毎回二位の私がいつの間にか学年一位って言われるようになったの。橘君の名前出したこともあるけど誰も信じてくれなくて、そのうちそのギャグは滑ってるからって言われて恥ずかしかったんだからね」


その時の事を思い出したのか顔を真っ赤にして三条は文句を言ってくるが、俺の責任なのか?


「なら三条が頑張って俺より成績上げれば良かったじゃないか」


軽い感じで言ったが、それを聞いた三条の顔を見て失言だったとすぐに分かった。

さっきより顔を赤くしてこちらをキッと睨みつけると、俺の肩をポコポコ叩きながら何故か敬語で抗議してくる。


「何ですか?嫌味ですか?こっちは頑張って勉強しているのに、何で勝てないんですか?どんな勉強しているんですか?」


少し考えが足らずに口にしたみたいだ。三条は本気で悔しがっている。


「ごめん。ごめん。今の言い方は失礼だった。悪かった」


「もう一つ!入学式の時!新入生代表挨拶頼まれなかった?」


まだ苦情があるのか。次は入学式か。2年前の事なんてと思ったが、心当たりはある。


「ああ、そういえば頼まれたな。確か面倒くさいから法事って嘘ついて断ったんだっけ?」


答えながら入学式をサボった事を思い出した。


「やっぱり!本当なら入試1位の人がするのに橘君が断るから私がやったんだから!それで入学当初から学年1位って言われだしたんだけど。しかも嘘ついて断ったってどういう事!」


さっき以上に怒りながら俺に詰め寄ってくる。知らない内に迷惑をかけていたみたいだ。


「迷惑かけたみたいで悪かった。すまん」


頭を下げて謝ると、


「悪いと思っているなら次のテスト私と勝負して」


いきなりおかしな事を言ってくる三条だが、先ほどと違って真面目な顔でこっちを見ている。何か嫌な予感がするが迷惑をかけたので内容だけは聞いた方がいいのだろうか・・・と思ったら三条は勝負の内容を勝手に話し始める。


「私が勝てば橘君の結果をクラス中に公開してもらう。橘君が勝てば何でも一つ言う事を聞くってのは?・・・あっ!言っとくけどエッチなのは無しだから」


「アホか。そういうのは頼むつもりはないから安心しろ。でもちょっとその勝負考えさせてくれ」


いきなり可笑しな事を言われたので即否定する。それから受ける必要もないのだが、勝負の結果を考えてみる。まず俺が負けた場合、俺の成績がみんなに知られるぐらいだな。別に大した事・・・。


「学年一位って勉強の事よく質問されるのか?」


嫌な予感がする。


「そうだね。テスト前とか勉強会のお誘いがすごいよ。普段喋った事ない人からも誘いがくるから下心ある人も多いかな。橘君に勝ちたいから毎回全て断っているけど」


「それは嫌だな。じゃあ勝負は受けない事にし「ちょ、ちょっと待って。本当にないの?私になんでも命令できるんだよ」


俺が断ろうとしたが途中で遮られてしまった。何としても勝負を受けてもらいたいようだ。

っていってもこいつの事今日知ったばかりだからなあ・・・特にやってほしい事って思いつかないな・・・いや、ある!あるぞ!柴崎だ!あいつの対策できるかも。


「えっと。三条は柴崎と仲良いのか?」


そう聞くと三条はジト目で俺を見てくる。


「何?橘君って雫が気になるの?別れたばっかりだよね?さすがにそれは感心しないよ」


「いや、違うその逆だ。あいつ苦手なんだよ。だからどうにかしてくれないかなって思って」


隠しても仕方がないので、正直に言う。まあこれで柴崎の耳にでも入ればあいつも俺に近づかないだろ・・・・ないよね?


「う~ん。別に雫って普通だと思うんだけど・・・取り合えず分かった。話すなとは言えないけど、話してる時に困ったら私に目線をくれたら雫を止めるから、それでいい?」


勉強の誘いはくるかどうか分からないけど来たら断ればいいだけだ、それよりも勝った時に三条の協力をもらえるのはでかい。


「ああ、それならその勝負受ける」


こうして何故か勝負をする事を決めて駅で別れて俺は帰宅した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ