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24話 約束破り

始業式、俺は新学期だろうが新年だろうがいつものように登校して今はクラス表を眺めている。1組か・・・クラス表をパッと見た感じ、茜、楠木、小笠原の名前がなかったので別クラスかと思いながら3-1に向かう。教室の黒板には席順が張り出されこれからクラスメイトになる奴らが集まっていて自分の席がどこか良く見えない。暫く眺めていると女子の集団が自席の場所が分かったのか抜け出したので見えやすくなった。確認すると2列目真ん中で特別目立つ場所でもない。が、さっきからヒソヒソと「寝太郎」、「楠木さん」の単語が周りから聞こえる。それでも俺に話しかけてくる奴もいないので、自分の席に戻ろうとした所、


「橘君だ~3年でも同じクラスだね~宜しく~」


俺はこの女子を知っている、いや名前は知らないけど2年の最後、席が隣同士だったから顔だけは覚えている。黒髪ショートヘアの身長は普通、顔立ちも普通で見た感じ特に特徴がないが語尾を伸ばす癖のある女子だ。この女子は何となく苦手だ。


「ああ、よろしく」


俺は努めて冷静に表情も何も変えずに普通に言ったつもりだったのだが、


「もう~そんなに嫌わないでよ~ひどいな~」


何故か考えている事がバレている。いや、バレてはいないな、苦手なだけで、嫌いではない。なんかこの子以外に楠木や茜にも考えてる事読まれるけど、俺って結構顔に出るタイプなのか。


「結構顔に出てるよ~」


読まれた!今絶対心読んだぞこいつ!何だこいつサトリの親戚か何かなのか。


「あっ!雫!同じクラスじゃん」


俺が心を読まれてビックリしていると知らない奴がサトリの親戚に話しかけてきた。どうやらサトリの親戚は「雫」という名前らしい。


「あ~穂乃花~よろしく~」


二人で話だしそうな雰囲気なので俺はその場を離れようとする。


「あっ!橘君待って!ようやく同じクラスになったね。今年は絶対負けないから!よろしく」


そう言って手を差し出してくる『穂乃花』と呼ばれた女子は茜より少し短めの長さの黒髪、スレンダーだが出るところは出ている体形、整った顔立ちをしている。当たり前だが面識はないはず・・・だが・・・


「?お、おう。よろしく?」


「何で疑問形?フフフ。それじゃ」


軽く握手してからそいつは自分の席に向かって行った。


誰?ようやくって事は今まで同じクラスになった事ないって事だよな。で、負けないって何だ?空手か?いや、空手は高校入る前にやめてるから今更だよな。本当に誰だ?・・・まあいいか。


俺は考えていても仕方がないので、自席に戻り寝太郎生活を開始した。

始業式と入学式中も寝て過ごして、今日は授業がないのでそのまま学校でいつも通り勉強して過ごした。





翌日

ま~た登校中から視線を感じるが相変わらず心当たりがない。昨日は視線を感じなかった、そして何事もなく家に帰った。何だ?俺が知らない所で何が起こってるんだ?3年の教室は3階にあるので、階段を上っていく中、周囲の視線がどんどん増えてくる。ちょっと今までの比じゃないな。不思議に思いながら教室に入ると、クラスメイトからの視線が突き刺さる。マジで何なんだ?

俺が登校してきた事に気づいたサトリの親戚と昨日握手してきた奴と他2人ぐらいが慌てて向かってきて俺を包囲する。


「た、た、橘君!楠木さんと別れたって本当なの!」


挨拶もせずに握手の人がいきなり聞いてくる。それを聞いてようやく周囲の視線の意味に納得した。


「ああ、別れたよ」


苦笑いしながら答える。


あいつもう言ったのか・・この間の感じだともう少し隠しておくと思ったけど、まあ、決めた事をさっさとやるのはあいつらしいけど。


そんな事を冷静に考えている俺と違い、クラスの奴らは大騒ぎしている。「やっぱり、奇跡だったんだよ。」「寝太郎が楠木さんと付き合うなんて釣り合いとれてなかったもんな」「楠木さんも目が覚めたようでよかった」まあ、概ね俺が悪く言われているので、予想通り。

そんな中、

握手の人は、

「何で?あの楠木さんだよ?」


サトリは

「舞のどこが駄目だったの~?」


他の二人も

「本当に何で?何が不満だったの?」


周囲と言ってる事が違う。この4人は何か言ってる事がおかしい。


「何か勘違いしていないか?俺が振られたんだぞ」


そう言うと4人は顔を見合わせて、最後に3人が疑わしい目でサトリを見る。


「ちょ、ちょっと待って!舞から直接聞いたんだってば」


サトリは慌てると語尾が伸びる癖がなくなるようだ。いやそんな事より楠木から直接聞いてるのに何でこんな勘違いしている?


「本当に舞が言ってんだって、橘君に振られたって。何回も確認したから間違いないよ~」


「・・・・は?」


サトリの言葉に固まる俺。いや、固まっている場合ではない誤解を解かないと、


「いやいや、何言ってんだ?俺が振られたんだぞ?聞き間違いじゃないのか?」


「だから~何回も確認したって~」


落ち着いたのか語尾を伸ばし始めるサトリ。見た感じ本当に嘘はついてないみたいだ、っていうかそんな嘘つく必要はない。ということは・・・考えるまでもない。楠木が約束破った・・・それしかない。あいつマジかよ、くそっ。その可能性も十分あったのに信じた俺が馬鹿だった。・・・あいつがその気ならこっちはあいつの人気を利用させてもらおう。


「・・・・・」


「・・・橘君?」


眉間に皺を寄せて考えていると握手の人が不安そうに声をかけてくる。


「うん?・・・ああ、やっぱり楠木は良い奴だな。俺が全部悪くて別れたのに庇ってくれてる」


「え?そうなの?」


驚いたように聞いてくるサトリ、他のクラスメイトもさっきからシーンとなり俺と4人の会話を盗み聞きしている。


「当たり前だろ。あの楠木だぞ、何で俺が振るんだよ。逆はあっても俺の方からなんて有り得ないだろ。けど付き合えたから俺は調子に乗っちゃって、あいつを悲しませる事をした。だから振られたんだけど」


・・・よし、即席にしては良い感じの理由になってる。

「「・・・・」」


よしよし、周りの視線が「うわ~。」って感じの軽蔑した感じになっている。ただ、サトリと握手の人は疑わしそうに俺をみている。特にサトリはヤバい、こいつは得体がしれないのであんまり喋ると気付かれる気がする。話をさっさと切り上げる事にしよう。


「これ以上はさすがに言えないけど」


「・・・うん、分かった、ごめんね嫌な事聞いて。ほら戻ろ」


握手の人がそう言って他3人を引っ張っていった。その後は寝太郎生活で昼休みまで寝てすごした。





昼休み

いつもの体育館裏まで来て弁当を食べ始める前に楠木にメッセージを送る。


:約束破るな


すぐに既読になるが返事は来ない。弁当を食べ始めるとすぐに楠木がハアハア言いながら弁当を持ってやってきた。

顔を見た瞬間文句を言ってやろうと思ったが何故かすごく落ち込んだ表情をしているので、困惑していると、俺の隣に座り何も言わずに弁当を食べ始める。しばらくポカンと楠木の行動を眺めていたが、我に返って文句を言う。


「なんで、俺との約束破って俺に振られたなんて言った?」


「別に・・本当の事言ってるだけだから」


こちらを見ずに悪びれもせず言う楠木に流石にカチンときた。


「舞!いい加減にしろ。怒るぞ」


「怒ればいいじゃない!怒ったら泣いてやるから!」


こちらを向いて怒った表情を見せる楠木だがその目には涙が潤んでいた。今にも泣きだしそうだ。さすがにそんな顔をされると文句は言えない。


「・・・・お前、その脅しは卑怯だろ」


「悪いとは思うけど私も譲れない所があるの!」


多分俺だけを悪者にしたくないって事だろうけどそれにしても約束を破ってまでするとは。


「・・・はあ~。人が良すぎだぞ。・・・将来騙されないか心配になる」


「その時は修一が助けてくれればいいわよ」


「いや、俺もいつも助けられるわけじゃないから・・。いや、そんな事よりどうすんだよ!この状況!」


何も良い打開策が思い浮かばない。というか楠木と歩調がバラバラだと打開策もくそもない。仕方がないが俺が浮気したって事にしよう。それなら何とかなるだろうと考えたが、


「もし修一が浮気を理由にしたら、私もそれを理由にするから」


先回りして止められる。なんで俺の考えが読まれるんだ。


「くっ!・・・じゃあ他の理由・・・って言っても舞も同じ事言って泥沼になるな・・・くそっ分からん」


「修一、私が約束破った事は謝る。ごめんなさい。でももうあきらめて。私でもどうしようもなくなったの!私達にできるのは、理由は言えないけど自分が悪いって主張する事だけだから、それで納得して!」


多分本人は気づいていないが涙が頬を伝っている。


「・・・・どういう事だ?」


何かがおかしい。


「・・・茜と小笠原が私達の為に動いてくれてる。別れた理由は『どっちも悪いけどお互いを庇ってる』って広めて私と修一どっちも悪く言われないように頑張ってくれてる」


「!!」


あいつら何で・・・と思ったが、


「何で・・・そんな事してんだよ。・・・って聞かなくても分かるな。お礼だよな。あの時の」


コクリと頷く舞を見て、色々考えるが自分が悪いと主張する以外、良い方法が思い浮かばない。


「はあ~。あいつらを出し抜ける気もしないし、もう考えるのも面倒くさいから俺はこのまま自分が悪いって主張しとくぞ」


家に帰ってから茜に文句言ってやる。そう決めて弁当を食べ始める。俺が弁当を食べ始めると楠木も隣で食べ始める。


「何でここで弁当食べてんだよ。友達はいいのか?」


「別にいいわよ。今日はここで修一と食べるって決めたから」


またこいつは俺の許可なく勝手に決めてる。相変わらずだな。


「それより、修一の方はどうなの?新しいクラス?友達とかいた?」


「いるわけねえだろ!ボッチ馬鹿にすんな」


「フフフ。そうよね~。あんたボッチだもんね~。・・・・クラスに可愛い子とかいなかったの?」


そう聞いてくる俺の隣で弁当を食べている美少女、女子が聞いたら嫌味にしか聞こえないだろう。


「良く見てないから知らん。・・・ああ、苦手な奴ならいたな」


「だ、誰?誰よその子どんな感じよ!早くいいなさい!」


何故か慌てた様子で聞いてくる。


俺の苦手な奴を聞いてどうするつもりだ?何か嫌がらせでもしたいのか?


そんな事を考えながらも、俺は正直に答える。


「サトリの親戚みたいな奴だな」


「・・・・・サトリ?」


こいつサトリ知らないのか?不思議そうな顔をする楠木を見て、そう思ったがまあ妖怪だし、知らなくても仕方ない。


「妖怪だよ。知らないのか?」


ジト目で俺を見てくるので何か悪い事を言ったか不安になる。多分何も言っていないと思うが。


「あんた、女子にそんな事言う奴だっけ」


妖怪という単語に反応したみたいだ。サトリの名前と特技は有名だけど俺も姿は知らないので誤解だ。


「容姿の話じゃないぞ、サトリってのは心を読んでくる妖怪で、苦手な子も心を読んでくる感じがして苦手なんだよ」


「ああ、そういう事。・・・私も一人心当たりあるわね。・・・もしかして柴崎って名前?」


名前を言われても覚えていないので、分からない。いや、確か下の名前は呼ばれているのを聞いたな。


「・・・苗字はしらんけど『雫』って呼ばれてたな」


「あ~多分合ってる。『柴崎雫』語尾が伸びる子でしょ。・・・そうか修一と同じクラスか~。私と同じ陸上部よ。じゃああの子に修一の監視頼もうかな。いや、聞いてくれるかな?」


「おい、なんの嫌がらせだ、苦手だって言ってるだろ。それに監視って何だよ。別に悪い事してないだろ」


「私を振ったって悪い事してるじゃない」


「・・お前、それは色々理由がある事分かってるだろ、当事者なんだから」


「分かってるわよ。でも事情を知らない人は違うでしょ」


「いや、そもそも俺が振られた事になってるから、俺悪くないから」


「修一が振られた理由は何よ」


「・・・舞を悲しまる事をしたからです」


思わず敬語になってしまう。


「ほら、結局あんたが悪いじゃない」


「・・・・・」


あっれ~?何でどっちでも俺が悪くなるんだ?やっぱりこいつには口で勝てない。


「それよりも頼むから俺になるべく関わらないように、その柴崎に言っといてくれよ。マジで苦手なんだよ」


「分かったわよ。言うだけは言うけど、あの子言う事聞かないからあんまり期待しないでよ」


不安になるような事を言ってくる。今からサトリ対策をしといた方がいいかもしれない。いや、もしかしたらサトリじゃなくて俺が分かりやすいのか?


「・・・・なあ、俺って考えてる事分かり易いか?」


「バレバレよ。今だってお弁当食べたからもう昼寝したいな~って考えてるでしょ?」


「な!・・・くっそ。・・・合ってるよ。・・・自分では結構ポーカーフェイスだと思ってるんだけどな」


「修一が?ポーカーフェイス?アハハハハ!」


腹を抱えて楠木が笑い出す。ジト目でみてやるが、俺の視線には気にせず笑い続ける。ひとしきり笑い満足したようだ。


「ああ、笑った、笑った。あとで茜にも教えてやろう。絶対笑い転げるわね」


「ほら、笑い終わったら、教室に帰れ。俺は昼寝するから」


そう言っていつも枕替わりに持ってきているタオルをたたみながら昼寝の準備を始める。


「嫌よ、今日はここにいるって決めたから」


なんとなく分かっていたが、帰るつもりはないようだ。


「何でだよ。まあ別にここにいてもいいけど俺は寝るからな。起こすなよ」


そう言って、横になって目を瞑るとすぐに腹のあたりに感触がある。目を開けると俺の体に寄りかかりスマホを見ている楠木が見える。


「おい!」


抗議のつもりで声を掛ける。


「ふん」


こちらから顔を逸らして鼻を鳴らす。この様子だとどいてくれそうにないし、どくように説得する時間ももったいないので、まあいいかと思い、再び目を瞑るとすぐに眠ってしまった。


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