21話 お礼と誕生日会
母さんが死んでからは親父も忙しく、俺もそこまで気にした事はなかったので、橘家でイベント事は全くやらなかったしやる気も起きなかった。年末に叔父家族が遊びにくるのが、橘家の唯一のイベントだった。だからか俺は自分の誕生日を過ぎてから気づく事が多く、気づいた所で親父にプレゼントをねだる訳でもないのでそれが当たり前だった。16歳の誕生日だけは親父に祝われた・・・いや祝われたんじゃなくて、自動車学校に申し込んだからバイクの免許取ってくるように命令されただけか。そんな訳で今年の誕生日も例年通り学校で勉強していつも通りに過ごすつもりだったのだが、ダブルデートの翌日茜からお願いされた。
「4月3日の義兄さんの誕生日にお祝いと作戦のお礼をしたいので、家にいて貰っていいですか?」
そう言われて自分の誕生日もうすぐだったなと思い至ると同時に何で茜が俺の誕生日を知っているか不思議に思った。親父にでも聞いたのかなと思い、聞いてみると、
「義兄さんが前に教えてくれたじゃないですか」
と言われたが教えた記憶がない。でも知っているって事は俺が教えたんだろう。
「当日は舞も作戦のお礼で呼びますけどいいですよね?」
俺はまだOKしていないが茜の中では俺の参加は決まっているらしい。まあ1日ぐらい義妹のお願いを聞くのも悪くないし、折角誕生日を祝ってくれるんだからまあいいだろう。だが、
楠木も来るのか・・・気まずいな。結局公園で何であんな事したか分からないんだよな。
「いいですか?」
「・・・あ、ああ」
ニコニコしながら聞いてくるが何故か威圧感を感じて頷いてしまった。
誕生日当日、今日は昼ご飯とケーキを茜が作ってくれるらしい。茜は朝からキッチンに立って色々準備を始めているみたいで、料理をする音が部屋で勉強している俺にも聞こえてくる。下からのそんな音を聞きながら勉強していると、
「お邪魔しま~す」
誰か来たようだ・・・いや今日ここに遊び来る人物は一人だけだし、その声も良く知っている。あれから時間が経ったが未だに答えがでていないので、楠木にどんな顔をして会えばいいか分かっていない。
トントン
しばらくすると誰かが階段を上がってくる音がして俺はすごく緊張した。
茜が料理できたと俺を呼びにきたのか?それにしては時間が早い。楠木が茜の部屋で待つように言われて上ってきただけだ。多分そうだろう。
コンコン
「修一?」
俺の予想は外れた。心臓がバクバクいっている。どうしようか、居留守は使えない。どうする?と考えていると再びノックされる。
コンコン
「修一?寝てるの?」
扉の向こうからそう言ってくる楠木の声はいつもと変わらないように聞こえる。
あれ、あいつ平気そうだな?もしかして俺の考えすぎか?そうだよ。気にせずいつも通り行けば大丈夫だ!
「あ、ああ起きてる、今開ける」
そう言ってドアを開けるとあの時と同じ笑顔で「えへへ~」と笑っている楠木が立っていた。あの時と違い目から涙は流れていなかったが、顔が真っ赤だった。
顔真っ赤じゃねえか。駄目だこっちも恥ずかしくなる。冷静に!冷静に!落ち着け俺!
「ふう~。どうした、ま・・・楠木?もう料理できたから茜から呼んでくるように言われたのか?少し早くないか?」
大きく息を吐いて落ちついて楠木に質問する。恋人の振りは終わったのでさすがに馴れ馴れしく名前で呼ばない方がいいだろうと思い、以前のように苗字で呼ぶ。時間は少し昼食には早いだろって時間だ。チラリと時間を確認した目線を楠木に戻すと、楠木は笑顔のまま微動だにしていない。
「どうし・・・え??なんで??おい!どうした!どこか痛いのか?」
微動だにしない楠木に声を掛けようとしたら、笑顔のまま、あの公園と同じように目から涙が溢れてきた。泣き出した楠木に慌てまくる俺。ワタワタしていると、
「義兄さん?どうかしましたか?」
階段を上がってきた茜が見えた。泡立て器でボウルかき混ぜている所をみるとケーキのクリームでも作っているのか。いや今はそれはどうでもいい。茜に助けてもらおうと声を掛ける。
「茜!良かった!助けてくれ!良く分からんが楠木が泣き出した!」
助けを求める俺を見て、楠木にも目線を送ると茜はビックリした顔をしたが、
「・・・すみませんが、今、手が離せないので」
そう言って階段を下りて行く。
「え?まじで?茜!嘘だろ!」
本当に助けてくれないみたいで、茜の足音がどんどんキッチンの方にむかっていく。
楠木はいまだに目からボロボロ涙を流している。さすがにこのまま放置できないので、楠木の手を引いて俺の部屋に入れ、本当に困った事があったら茜に聞こえるようにドアは開けておく。部屋に入ると楠木をベッドに座らせて落ち着かせる為に話かける。
「どうしたんだ?どこか痛いのか?」
首を振って否定される。
涙を拭かせないと、と思いティッシュを渡す。
「取り合えずこれしかないからこれで涙ふいてくれ」
言われた通りティッシュで涙を拭いている楠木に再度話しかける。
「えっと。俺のせいなのか?」
コクンと頷かれる。
ええ?何で俺のせい?公園の事が原因か?
少し考えたが原因については、良く分からないので今はどうでもいい、取り合えず今は泣き止ませないと、
「良く分からんけど、分かった、謝る。すまん。だから、な?頼むから泣き止んでくれ」
コクンと頷いてくれる。良かった、これで一安心だと思い楠木が落ち着くのを待つ。
しばらくして楠木がもう落ち着いたように見えたので声を掛ける。
「はあ~。なあ、楠木、一体どうしたんだ?ちゃんと言ってくれないとどうもできないし、俺ができる事は極力やるからさ。教えてくれ」
そう言うと楠木はこっちをキッと睨んでくるが、その目には未だに涙が溜まっている。
「・・それ!」
・・・・どれ?
楠木が何を言っているか理解できないが、目に涙が溜まっているから下手な事を言えばまた泣いてしまいそうだ。頭をフル回転させて考えているが、本当に『それ』が何か分からない。
「呼び方!なんで苗字呼びになってるのよ!前みたいに名前で呼んでよ!」
多分俺の頭上に?マークが見えたのだろう。楠木が答えを教えてくれる。
「ねえ?何で?悲しいよ」
そう言ってまた楠木の目から涙が溢れてきたので、俺はまたまた慌てる。
「分かった、舞!前みたいに、呼び方戻せばいいんだな、舞!頼むから泣かないでくれ、舞」
泣いた原因を本人から教えてもらったので不自然なくらい楠木の名前を連呼して落ち着かせる。しばらくすると落ち着いたみたいで、俯いて涙を拭いていた顔を上げて照れ顔で謝ってくる。
「えへへ~。泣いちゃってごめんね」
「はあ~。もう大丈夫だよな?頼むから泣くのは勘弁してくれ。親父との二人暮らしが長かったから女子が泣いた時の対応なんて全然わかんねーからな」
親父が再婚してからも義母さんと茜が泣いた事はない。むしろそうならないように親父と二人で細心の注意を払っている。
「うん。ごめんね。でも修一が悪いんだから。で?いきなり苗字呼びにした理由は何なの?」
いつもの調子に戻った楠木が質問してくる。
「もう恋人の振りは終わったんだから、いつまでも名前で呼ぶのは馴れ馴れしいだろって思って、苗字呼びにしたんだけど」
俺が苗字呼びに変えた理由を話すと、楠木はどんどん怒った表情になってくる。
「別に私達喧嘩別れした訳じゃないでしょ。・・・友・達なんだから呼び方なんて変えなくてもいいわよ。私さっき苗字で呼ばれてすっごく悲しかったんだからね」
何となく納得がいかないが、ボッチの俺より友達の多い楠木のいう方が一般的なのかと思い無理やり納得する事にする。
「まあ、舞がそれでいいっていうならいいけど・・・学校でも名前で呼んでいいのか?」
「当たり前じゃない!学校でも名前で呼んで!苗字で呼んだら怒るから!」
ええ~。何で怒るんだ?呼び方ってそこまで大事か?俺なんて寝太郎って呼ばれてんだけど。
俺が納得していない顔をしているのに気づいたのか、
「もし私が修一の事『橘』って呼んだらどう思う?距離取られたと思って悲しくならない?」
と、聞いてきたので少し考える。
「まあ、確かにちょっと寂しいかな?」
「ちょっと?」
「ああ、いえちょっとじゃないな、かなり、だいぶ寂しいです」
俺の答えが気に入らなかった楠木がジト目で聞いてきたので、慌てて訂正する。
「でしょ!だから別に馴れ馴れしくないからちゃんと名前で呼んで!」
「分かった」
そう言ってチラリと時計を見ると、もう昼食を食べていてもおかしくない時間になっている。
「じゃあ、ちょっと下の様子でも見に行くか、舞」
「うん」
楠木をリビングに誘うと元気に返事してニコニコしながら俺の後をついて下におりていく。
リビングに降りると料理ができたのかテーブルに料理を並べている茜の姿があった。
「ああ、義兄さん、舞、ちょうど呼ぼうと思った所でした。準備終わりましたので席について下さい」
こうして俺の誕生日会兼恋人の振りのお礼会が始まった。
しばらく食事を楽しんだあと、俺は聞かないといけない事がある事を思い出した。
「そういえば、舞と別れたって事になっているけど、正直に恋人の振りをしてたって言うのはどうなんだ?」
聞くと何故か二人は顔を見合わせる。しばらく二人でヒソヒソ話をしていると思ったら、茜は頷いてから俺に説明を始めた。
「義兄さん、その場合は理由を説明しないといけませんよ。そうすると私と義兄さんが兄妹になった事を説明しないといけませんけどいいですか?私は男子が苦手なので、義兄さんに結構説明を任せる事になりますが。」
「うっ!それは嫌だけど・・・だけど・・舞がどうしたいか決めてくれ」
また色々噂されて聞かれて睡眠時間が削られるのは嫌なので、俺だけなら余裕で断ったが俺だけの問題じゃないのでどうするかは迷惑をかけた楠木に任せる。
「私はこのままでいいわ。振りをしてたって言っても全員が信じてくれる訳じゃないし、茜と修一も大変なことになるからね」
という訳で当初の予定通り、特に異論はない。
「しかし結構大量に作ったな。これ絶対食べきれないぞ」
それからもしばらく他愛ない話を3人でしながら食事をして、腹も膨れてきた所で、残った料理をみて呟いた。
「ああ、それなら今日の夕飯の分もありますから残しても大丈夫です。それにこの後ケーキもありますから、その分はお腹を空けておいて下さい」
夕飯の分もあるなら親父もいるし全部食べ切れるだろう。
「それとももうケーキだしますか?」
安心していると茜から提案されたので、自分の腹具合を確認する。
「もう少し食べれそうだけど、もうケーキでもいいかな。舞はどんな感じだ?」
「私ももう食べれなくなりそうだから、ケーキ出してもらった方がいいかな?」
それならとキッチンに向かい茜がケーキを持ってくる。ケーキを切り分けて各自に行き渡った所で茜と楠木からお祝いの言葉を言われる。
「義兄さん、誕生日おめでとうございます」
「おめでとう。修一」
パチパチと拍手をされて、少し照れ臭い。
「ちょっと照れ臭いな。誕生日を祝われるなんて何年ぶりだろ」
照れ臭くて、つい言葉が漏れてしまう。その言葉が聞こえた楠木がピタリと止まる。
「え?修一って誕生日にお祝いしてこなかったの?」
何か勘違いしてそうなので、説明する。
「母さんが死んで数年は俺も親父も何も祝う気持ちになれなかったからな。それがそのまま続いているって感じだ。橘家の唯一のイベントは年末に紅葉達が遊びにくる事だけだったな。まあ、だから久々に祝ってもらって、何だ、その、嬉しいよ。ありがとうな二人とも」
お礼を俺が言うと二人とも笑ってくれる。その後楠木は何やら自分のカバンを漁りだした。
「それじゃあ、はい、これ。私からの誕生日プレゼント!」
そう言って楠木からラッピングされた箱を手渡される。誕生日を祝われたのも久しぶりだったので、誕生日プレゼントという物がある事を久しぶりに思い出した。
「ああ、ありがとう。舞」
「あの、義兄さん、すみません。私からは料理とケーキが誕生日プレゼントのつもりだったんですけど」
「別に謝らなくていいぞ、全然問題ない。美味しかったし、祝ってくれてありがとうな。茜」
二人に改めてお礼を言って楠木に尋ねてみる。
「なあ、このプレゼント開けてみてもいいか?」
「うん、早く開けてみてよ。」
久しぶりに貰ったプレゼントの中身がすごく気になったので、許可をもらって箱を開けると、中には高そうなペンが入っていた。
万年筆?いやボールペン・・・違うシャーペン?。こんな高そうなシャーペンなんて売ってるのか?俺が使ってる100円のシャーペンと明らかに違う。
「これってシャーペンだよな?」
多分合ってるだろうと思うが、念の為確認してみる。
「うん。・・・そうだけど・・・気に入らなかった?」
不安そうな表情で俺に聞いてくる。
「いや、そんな事ないぞ、気に入った。けどすっごく高そうに見えるんだけどいいのか?」
そう答えると、楠木は顔を輝かせて、教えてくれる。
「大丈夫。そんなに高くないわ。プレゼントは色々考えたんだけど、やっぱり普段から使えるものがいいかなって思ってこれにしたわ」
「そうか、ありがとうな。舞、大事に使うよ」
お礼を言うと照れたのか顔を赤くして顔を逸らしてしまった。その様子をみながら、俺はあとでこのシャーペンについて少し調べようと思った。楠木は高くないと言ったが、包装からどう見ても高そうなので、楠木の誕生日は同じぐらいのものをお返しで贈らないといけない。
「それでは舞のプレゼントも見た事だしケーキを食べますか」
「「いただきます。」」
茜から声を掛けられて俺も楠木もケーキを食べ始める。
美味い。ケーキを食べたのすごく久しぶりだな。っていうか前に食べたのいつ頃だっけ?
一口ケーキを食べた所で、そんな疑問が浮かんだが、楠木も茜もケーキを口に入れて幸せそうな顔をしているのを見て、そんな疑問はすぐに消えた。
「やっぱり茜の作るケーキは美味しいわね」
「フフフ。ありがとう、舞。自分で作っといて何だけどやっぱり美味しい」
二人はそんな感想を口にしながらケーキを食べている。
「ほら、修一も美味しいわよ。はい、あーん」
楠木と同じものを食べているのに何故か食べさせてこようとするが、いままでの習慣か俺は何も考えずそれを口にしようとした所で、気づいた。
「いやいや。これはおかしいだろ?」
そう言って、楠木から運ばれたケーキをギリギリ躱すが、それを見た楠木は怒っているのか、泣きそうなのか分からない表情に変わったので、慌てて茜に助けを求める。
「なあ、茜!おかしいよな!友達にそれも異性に対して食べさせるのはおかしいよな?」
当然茜も助けてくれるものと思ったが、
「別に普通ですよ?」
・・・あれ?・・・普通なのか?・・・・俺の常識がおかしいのか?え?本当に?
茜が表情を変えずに答えた内容に混乱している俺は楠木が再び差し出してきたケーキを、無意識で口にする。それを食べると、
「じゃあ、修一のも頂戴。あ~ん」
そう言って口を開けてくるので、俺もケーキを楠木の口に運びながら考える。
・・・おかしいな?茜が助けてくれない。やっぱり俺の常識がおかしいのか?・・・おかしいのか?・・そういえば助けてくれないといえば。
「もぐもぐ。・・・怒ってるわけじゃないって先に断っておくけど、さっき茜は何で助けてくれなかった?」
「さっき?」
「私も頂戴。あ~ん。もぐもぐ」
「舞が泣いてた時」
「ああ。あの時はちょっと手が離せなくて・・・あと義兄さんなら何とかしてくれるって信じてましたから」
そう言って茜は明後日の方に顔を向ける。これ絶対嘘ついてるだろ。
「はい、修一、口開けて」
「もぐもぐ。・・・本当か?結構慌てたぞ。今まで女子を泣かせた事なかったし、ましてやそれをなだめる事なんて」
クイクイ
「あ~ん。もぐもぐ」
「それでも出来たじゃないですか?私が泣いた時もお願いしますね。フフフ」
「そこは彼氏の小笠原にお願いしろよ」
「違いますよ。純君と喧嘩した時ですよ」
クイクイ
「もぐもぐ。・・・いや、頼むから俺の前では泣かないでくれ」
「フフフ。分かりました。それよりケーキなくなったみたいですけど、お替りします?」
気付いたら俺の皿からケーキが無くなっている。というか今茜と話ながら俺は何をしていた?楠木を見るとすごい笑顔で俺を見ている。
ああっ。またやってしまった。恋人の振りも終わってるのに・・・いや、茜が言うにはこれは普通らしいからそんなに落ち込まなくてもいいのか?
「義兄さん?」
「いや、もう大丈夫。お腹一杯だ」
「私もお腹一杯」
「それじゃあ、これで終わりにしましょう。義兄さん、舞、純君との事本当に有難うございました」
「いや、こっちこそ祝ってくれてありがとう」
「料理もケーキも美味しかったわ。ご馳走様」
それじゃあ、片付けでもするかと思いキッチンに向かうが、
「あっ。義兄さん片付けは私がやっておきますから、舞を送って行って下さい」
今日一日でこの間の公園で起こった出来事の気まずさもなく普通に楠木と話せるようになっていたので、まあ、いいかと思い送る事にする。楠木を後ろに乗せていつもの公園に到着する。さすがにここに来るとこの間の出来事を思い出して少し気まずくなる。楠木も同じ気持ちなのか公園に着いた時にお礼を言ってからはずっと無言で俺にヘルメットやグローブを渡してくる。
「今日はプレゼントありがとな。大事に使わせてもらうよ。それじゃあ」
お礼を言ってバイクの方に歩いていき跨ろうとした所で、
「待って!」
楠木から呼び留められる。この間の件があるので、悟られないように若干警戒する。
「どうした?何か忘れ物か?」
「違うの。一つお願いが」
「お願い?」
一体なんだろう。世話になっているからできる事なら叶えてあげたいが。
「・・・・あの・・・前みたいな関係に戻ってほしいの」
「・・・??」
楠木が何を言いたいか分からない。
「だから、前みたいに恋人の振りを続けてほしいの」
・・・意味がわからない。小笠原に本当の事を話した今、それを続ける意味もなくなったはずなのに何か理由があるのだろうか?
「・・・えっと、理由を聞いてもいいか?」
「・・・学年一位の修一に勉強を教えて貰える」
「いや、休みの日に学校くれば普通に教える」
「・・・じゃあ、バイクに乗せてもらえる」
「それも前もって約束してくれれば乗せてやる」
・・・『じゃあ』って今理由を考えてねえか?
「それじゃあ、他の人が告白をあきらめてくれる。そうよこれよ」
「いや、それはメリットであって、目的にしたら可哀そうだろ。それに俺と恋人の振りする前は自分でちゃんと断れてたんだろ。だったらわざわざする必要もないし、それに今から告白してくる奴の中に舞が好きになる奴もいるかもしれないだろ」
これ以上迷惑をかけたくないので楠木を諭すように言うが楠木は俺をキッと睨みつける。
「私が告白してもらいたいのは一人しかいないわ!他の人からされても困るだけ!もういい!修一の馬鹿!」
大声で怒鳴って、走って行ってしまった。まだ明るい時間なので、公園にいる人が何人か俺の方を見てヒソヒソ話している。
あいつ、何で怒ったんだよ。・・・ああ、そういえば好きな奴がいるって言ってな。それなのに俺が変な事言ったからか。悪い事したな。・・・・どうでもいいけどあいついつも走って帰ってくな。
帰宅後
「あいつ・・・何てものをプレゼントしたんだ」
家に帰ってから楠木から貰った高そうなシャーペンがいくらぐらいするか調べると、PCの前で俺は固まった。値段を調べるのはどうかと思ったが、貰ってしまったので楠木の誕生日には同じぐらいの物をプレゼントしないとなと考え、・・・いや言い訳だ、好奇心が7割だ。
そうして調べた結果、樋口さん以上諭吉さん以下の値段に驚いている。こんなに高いシャーペンがあるとは・・・俺なんて100均のやつなのに。いや高いのは諭吉さん以上の物もあるが、それにしては高校生が友達にプレゼントする値段なんだろうか、これが当たり前か誰かに聞いてみたいがボッチの弊害か残念ながら俺には聞く相手がいない。さすがに茜には貰ったプレゼントの値段を調べた事がバレると軽蔑した目で見られそうなので、聞けない。取り合えず楠木の誕生日がいつかだけは茜から聞くとして、同じぐらいの値段で現役女子高生がプレゼントされて喜びそうなものをネットで探し始めていたら勉強する時間がほとんどなくなっていた。




