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18話 ダブルデート

春休み

楠木の家の近くの公園にバイクを止める。今日は電車で一時間ぐらいの我が県の県庁所在地で茜達とダブルデートと言う物をやる事になった。前から茜に言われていた通り春休みに入って、楠木と小笠原の部活休みの日に行う事になった。本当は4人で電車でいくつもりだったが、楠木からバイクで行きたいと言われてこうしてバイクで迎えに来ている。


「お、おはよう~」


準備をしているとすぐに楠木がやってきた。相変わらず来るの早いなとか思いながら挨拶する。


「ようおはよう!また部屋から見てたのか?」


「そうよ!待たせると悪いと思ったからね。で、今日の格好についてご意見はどうですか?」


そういう楠木の格好は前のデートの時と着ているジャケットが違うぐらいで黒の普通のダウンジャケットになっていた。


「前とジャケットが変わったぐらいか?・・・まあ似合ってるよ」


そう褒めると楠木はペシッと俺の腕を叩いて文句を言って来る。

「全然違うわよ!下は前と色が違うし、上のジャケットはさすがに気付いてくれたけど、中のタートルは色は少し似てるけど模様が前と全然違うじゃない!」


ええ?前の服と全部違うのか?上のジャケット以外全く分からんぞ?


「・・・はあ。もういいわよ。修一だもんね、期待してないわよ」


俺が不思議に思っているのが伝わったのか、楠木はあきらめたように言って来た。

俺じゃなくてもジャケット以外気づく奴は少ないんじゃね?と思ったが更に墓穴を掘りそうなので、話題を変える事にした。


「今日は10時に向こうの駅前集合だったよな?ゆっくり行っても余裕だけど待たせるのも悪いからもう出るか」


そう言ってバイクに乗り駅まで向かう。まだバイクに乗るのは2回目なので怖いのかやっぱり今日もカップルスタイルだった。


約束していた待ち合わせ場所に着くと当たり前だがまだ茜達は来ていなかったので、少し楠木と話をする。


「なあ、今日どこ行くんだ?何するか全く聞いてないんだけど」


「だから、私と茜で決めたから心配しないでってば!修一こそ前のデートの時当日まで行先教えてくれなかったじゃない。まあ、今日は普通のデートよ。」


普通のデートって何するんだ?ダブルデートって普通なのか?今日はデート当日なんだけど、まだ教えてくれないのか?


色々疑問が浮かぶ。


「ちなみに私は街の中でのデートは初めてよ。っていうかこの間の滝に行ったのが私の初デートになるわ」


「まじかよ、早く言えよ、そんな大事な事。そしたら舞の意見もちゃんと聞いて行先決めたのに」


「別に楽しかったからいいわよ。・・・あっ、それより来たわよ」


そう言う楠木の目線の先には茜と小笠原の姿が見える。茜は俺たちに気付くと大きく手を振ってこっちに近づいてくる。


「ごめんね。待った?」


「別にそんなに待ってないわよ」


女子二人が挨拶しているので、俺は小笠原に話しかける。


「今日は悪いな。折角のデートの邪魔して」


「茜と楠木が決めた事だから、別にいいさ。俺も橘がどんな奴か興味あったし」


「はあ?別に俺なんて気にしても仕方ないだろ」


そう言うと小笠原は首を振って俺の意見を否定してくる。本当に寝太郎の俺なんか気にしても何も面白い事なんかないんだけどな。


「橘って謎が多すぎるんだよ。楠木と付き合いだしたって聞いてから友達に色々聞いてみたけど、お前いつも寝てて誰とも会話しないからどんな奴か全然わからないし、楠木は楠木で今まで見た事ないぐらい幸せそうな顔して彼氏自慢してくるんだぞ。興味持つなって言う方が難しいだろ」


俺の事は仕方ないが、楠木の演技はやっぱり大げさだな・


「それにお前は知らないだろうけど、中学からあいつ滅茶苦茶モテてたんだぞ。誰から告白されても部活を選んできたほどの陸上馬鹿のあいつの彼氏ってやっぱり気になるだろ」


「誰が陸上馬鹿よ!修一に変な事言わないでよ。あんたの事も茜に言うわよ」


「ええ~何々?聞きたい聞きたい」


「こいつの彼女自慢の話でね、まずおっぱ「ちょっと待て!言ってない!そんな事一言も言ってないぞ!」


「純く~ん」


胸を隠しながら小笠原に詰め寄る茜。必死に言い訳している小笠原とそれをニヤニヤしてみている楠木。3人とも仲良さそうで楽しそうだ。


「ほら。橘君が仲間外れになってるよ。舞がちゃんとしなきゃ」


俺が3人の会話に加われず一人でその様子を眺めていると、茜が楠木に注意する。

小笠原がいるので茜は今日は俺の事を「橘」俺は茜を「清水」と呼ぶ事になっているがどこかでボロが出るかもしれないので、極力俺と茜は話さないように決めている。


「じゃあ、映画の時間もあるしそろそろ行こうよ。場所は駅出たいつもの所だから舞も分かるよね?」


茜と楠木の会話から最初は映画に行くことが分かった。多分どの映画を見るかも事前に二人で決めているのだろう。


「じゃあ、行こっか」


そう言って手を繋いでくる楠木。俺は場所が分からないので、楠木に引っ張られるように歩き出す。


「なあ舞、俺は場所分かってないけど大丈夫か?」


「大丈夫、私何回も茜や友達と来てるから。それに駅出てすぐだから迷わないって」


それなら安心して任せられるなと思った所で、後ろに二人が付いてきている気配がない。振り向くと茜も小笠原もビックリした顔で俺たちを見ている。


「おい、どうした?」


「どうしたのあんたたち?置いてくわよ?」


俺と楠木が揃って声を掛けるとハッと気付いて、二人は手を繋いでこちらに小走りでやってくる。


「いや、何か自然に手を繋いだなと思ってビックリしてた」


「俺もその事にビックリした。まだ付き合って1カ月ぐらいだろ?それにしては自然すぎたぞ」


茜と小笠原に指摘されて俺は楠木と自然に恋人繋ぎをしている事に気づいて慌てて手を離そうとするが、楠木はそれを許してくれない。俺の手をギュッと掴んで二人に向ける。


「えへへ~。すごいでしょ。私、結構頑張ったんだから」


軽く自慢するように二人というより茜に言ってから再び歩き始める。歩き始めた所で後ろの二人に聞こえないように楠木の耳に顔を近づけて小声で話しかける。


「なあ、義妹に見られながら手を繋ぐの結構恥ずかしいんだけど」


「我慢して。それに今日は義妹じゃなくて清水でしょ。義妹と思うから恥ずかしいんなら清水だと思えば恥ずかしくないでしょ」


良く分からん理屈を言われるが、義妹だろうと清水だろうと恥ずかしい物は恥ずかしい。だがそれを言っても楠木は手を繋いだままだろうなと思い黙って歩く。

映画館に着くとやはり見る映画は決まっているようで、言われた通りそれぞれチケットを購入する。


「飲み物とかってみんなどうするんだ?」


俺はどちらでも良かったので、みんなに合わせようと思い声を掛ける。


「俺たちはいつも通りLサイズを二人で分けて飲むつもりだけど・・・茜もそれでいいよな?」


小笠原が答えると茜はコクリと頷くが顔が少し赤い。普段そんな飲み方をしている事が知られて恥ずかしいのか?そう思っていると楠木が俺の服の袖をクイと引っ張り耳を貸すように合図される。


「ほら、茜って貧乏だって言ってたでしょ。それでLサイズを二人でシェアしたら?って前にアドバイスしたの。それならお金も節約できるし、何よりカップルっぽいでしょ」


楠木が小声で俺に裏話を教えてくれる。そういう事なら茜達はそれでいいかと思い、俺は自分の飲み物を選ぼうとした所で、楠木の分も出してやろうと声を掛ける。


「舞は何飲むんだ?」


「無難にお茶でいいんじゃない?」


『いいんじゃない?』なんか言い方変だな。


「?」


不思議に思って楠木を見ると、呆れたように溜め息を吐いた。


「はあ~私達もあのバカップルと同じようにするわよ」


「えっ?なんで?金なら出すぞ?」


楠木今日はあんまり金持ってきてないのかなと思い奢ろうとするが、


「馬鹿!違うわよ。作戦よ作戦。あの二人と同じ事しないと疑われるでしょ」


「え~そうか~?大丈夫じゃね?」


「そうやって油断「分かった。分かった従うから」


また同じ事を言われそうなので楠木の言葉を遮り素直に従う事にする。まあ、全部楠木に飲ませて俺が飲まなきゃいいだろと軽く考える。

レジで支払いはどうするか少し揉めたが、「小笠原も茜に奢ったみたいだし、前のバカップルと同じ様にするんだろ」と言って楠木を押し切り、俺が支払った。

飲み物を購入したので、館内に入り指定の席に座る。座る順番は俺、楠木、茜、小笠原となった。席に着くとすぐに楠木が俺から飲み物を受け取って、俺にストローを近づけてくる。


「いや、今喉乾いてないからいいよ」


元々飲むつもりはないので、断るがニコニコ顔の楠木は引き下がってくれない。


「今ならまだ明るくて二人に見てもらえるから早く飲んで。」


小声で俺にだけ聞こえるように言ってくる。なんだ?その羞恥プレイ?とか思って、茜達の方を見ると、小笠原はチラチラこちらを見ていてるが、茜はこっちをガン見している。


茜は作戦って知ってるだろ。何でそんなキラキラした目してんだ?まあ、恥ずかしいけど仕方ないか・・・


そうしてストローに口を付けて一口だけ飲む。チラリと二人の方を向くと、茜は今にも「きゃああああ」とか叫びそうな顔をしている。何でだ?作戦知ってるだろ?

正直すごく恥ずかしい。小笠原は羨ましそうな顔をした後、茜の肩をトントンと叩いて、口を開ける。すぐに茜も何をして欲しいか気付いたようで、俺たちと同じように飲み物を飲ませてもらっていた。


「ね。やって良かったでしょ?」


楠木が笑顔でそう言ってくるが、俺の精神力は今ので結構削られたのだが良かったのだろうか?


まあ、楠木も茜も楽しそうに笑っているからまあいいか。


そうしてしばらく各自手洗い等を済ませたり準備していると館内が暗くなり、予告が始まる。


「ねえ。お茶は修一の方に置いててくれない?」


予告が始まると楠木が変なお願いをしてくる。


「何でだ?とりにくいだろ?」


今お茶は二人の間のホルダーに置いてある。それを俺の方に移すと楠木が身を乗り出さないと手が届かないのに何でそんな事を言うのか不思議になる。


「ちょっと考えがあって・・・駄目?」


「まあいいけど・・・飲みたくなったら合図しろよ」


「うん。その時は飲ませてね」


「どこの王様だよ」


文句を言いつつも楠木のいう通りにする。何故なら茜達も同じように小笠原の方に飲み物を置いているので、多分同じ事をするんだろう。

そうして予告も終わり更に館内が暗くなって本編が始まると同時に楠木が俺のシートに手を伸ばして手を繋いできた。

ギョッとして楠木の方を向くと俺に近づいて小声で話しかけてくる。


「隣も手を繋いでるから。」


そう言われて目線だけ茜達に向けるが肘掛けの上には二人の手は見えない。どちらかのシートで手を繋いているんだろう。こっちから見えてないって事はあっちからも見えてないからいいかと思い手を繋いだままにする。この時俺は気づいていなかった、楠木から見えているって事は茜からも見えている事に。

本編が始まってしばらくすると繋いでる手がギュッと握られたので、何だ?と思い楠木を見ると楠木は口を開けている。すぐに飲みものが欲しい事を理解してお茶を飲ませる。

お茶を飲ませて戻す際に、さっき飲み物を買った時に考えていた事をすっかり忘れて俺も一口だけお茶を飲むと、違和感を感じた。


何だ?さっきと味が違う気がする・・・気のせいか?


疑問に思っていると繋いだ手から合図があったので楠木を見ると顔を近づけてきた。


「ごめんね~。私のリップクリームがストローについてるから味が変でしょ」


味がおかしい理由はそう言う事かと言われて納得し、俺の考えていた事良く分かったなと楠木に感心する。と同時に今の行動がどういう事か気付くと恥ずかしくなってドキドキしてきた。


前にご飯食べさせて貰った時は気づかなかったけど、今のって間接キスってやつだよな・・・何やってんだ俺。


恥ずかしさと自己嫌悪で気持ちが落ち着かないが、どうしても気になるので、チラリと楠木に目を向けると、こちらを見ていたようでバッチリ目が合う。目が合うといたずらが成功したような笑顔になり、口に指を当てる。


くそっ、こいつ絶対からかってる。もうお茶は飲まないようにしよう。


そう決めたら、映画に集中するが、ふと気が緩むと先ほどの行動が頭に浮かび慌てて映画に集中する。時折繋いだ手から合図されて飲み物を飲ませるが、俺は楠木の方に顔を向けないように意識している。そうして映画が中盤ぐらいまで差し掛かった所で、楠木が顔を近づけてきて小声で話しかける。


「お茶飲まないとなくなるわよ」


「大丈夫だ、喉乾いてない」


本当は少し乾いているが、さっきの件があるので我慢している。


「そう、ならいいけど・・・。それよりも私手が疲れてきたのよ。だから次は私の方で手を繋ぐわよ」


「疲れたなら手を離せばいいだろ」


「嫌」


何をそんなに意地になっているのか作戦の為に手を離そうとしない。更に俺の手をそのまま楠木のシートに引っ張り込む。当然さっきまでは俺の太ももの上で手を繋いでいたのが、ジーンズとはいえ楠木の太ももの上で繋ぐ事になる。さすがにこの感触はマズいので、せめて肘掛けで繋ごうと手を動かそうとするが、俺が手を離そうと勘違いしているのか楠木は手に力を入れて動こうとしない。


「おい。太ももに当たってるからせめて肘掛けで手繋ぐぞ」


「別にここでいいわよ」


そう答えると楠木は映画に向き直る。

何度か手を肘掛に持っていこうとするが、その度に楠木が手に力を入れて抵抗してくる。しばらく同じ事をやっていたが全く譲る気がない楠木に俺も折れて映画に集中する。

・・・集中できるわけない。さっきからずっと楠木の太ももに当たってる手の感触にドキドキしている。たまに合図されて飲み物を口に運ぶがさっきの件もあり、まともに顔を見れない。結局集中できずに映画が終わり、感想会が始まる。


「まあまあおもしろかったな」


「そうかな。私は結構良かったよ。また見たいかなって思えるぐらい」


「私は・・・う~ん。良く分からない所があったから・・・また見たいかな?修一は?」


後ろの二人に見えないので隠そうともせずニヤニヤしながら楠木が聞いてくる。


「ああ、うん。そうだな。まあ面白かったよ」


楠木のからかいにドキドキしていた俺は映画をまともに見れていなかったので、適当に当たり障りのない意見を伝える。


「そう、橘君はどんなところが面白かったの?」


なんで茜がそんな事聞いてくるんだ?なんだ?作戦なのか?


そう思い楠木を見るとちょっとビックリした顔で茜を見ている。

そこから何故か茜が俺に色々質問してきたが、楠木も手伝って答えてくれたので、何とか危機が過ぎ去った。あんまり俺と喋らないって約束はどうなったのだろう。

映画館を出た所でトイレ休憩となり、小笠原と二人になると今の内にあの時の事を謝ろうと思い話しかける。


「今更だけど清水と変な噂を立てて心配させて悪かったよ」


「ああ、その事か・・・あの時はそうだな・・かなり余裕がなかったが今なら楠木の相談だったんだと納得できるからいいさ」


「そう言ってもらえると助かる。・・・清水とは本当に相談乗ってもらっただけだからな?勘違いするなよ?」


「今日の楠木と橘見てたらそんな勘違いしないだろ。上映中ずっとイチャイチャしやがって」


「・・・・え?見てたのか?」


「当たり前だろ。見えるわ!まあ、こっちも茜が対抗意識燃やして同じ事してくれたから良かったけど」


・・・マジかよ。見えてたのか・・・って事は茜からもバッチリ見られてるよな。・・・恥ずかしい。


俺が心にダメージを受けていると二人が手洗いから戻ってきた。なんか茜がこっちをニヤニヤ見ているのが気になる。


「小笠原、お前の彼女何かニヤニヤして気持ち悪いぞ」


「あっ。酷いです。ニヤニヤなんてしてないですよ」


「そうだぞ橘。あんまり人の彼女に気持ち悪いとか・・いやちょっと気持ち悪かったかな」


「純君!」


そう言って茜は小笠原をポコポコ叩いている。


「ほら。イチャイチャしていないでご飯食べに行くわよ」


「別にイチャついてねえよ」


小笠原が少し照れたように反論する。


「そうだよ。映画中ずっとイチャついてた人に言われたくないよ」


やっぱり茜にも見られていたか。


言われた楠木は「えへっ」って感じで笑っていたが、俺はヘコんだ。


「ほら。行くわよ」


そんな事はお構いなくそう言って俺の手を取って歩き出す。


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