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14話 買い物

テストも終わり教室で俺は読書をしている。クラスメイトは大半が打ち上げをするのかすぐに教室から出て行った。残っていたからか二人ぐらいから打ち上げのお誘いを受けたが楠木との買い物があると言って断った。そうするとすぐに教室に残るのは俺一人になる。


「修一~!待たせちゃってごめん!」


そうして読書をしていると楠木が現れたので、俺は読書をやめて読んでいた本をカバンに入れる。


「いや、こっちこそ悪いな。付き合わせて・・じゃあ舞、行こうか?」


流石に今日は俺の買い物に着き合わせるので悪いと思っているから、優しい感じで笑いかけると楠木はほけ~と俺を見てくる。


「おお~い。舞?どうした?」


「・・・ハッ!・・あんた今日はやけに優しそうじゃない?」


「そうか?まあこっちからお願いしてる立場だからかな」


「ふ~ん。いい心がけね。じゃあ、行こうか。・・はい」


そう言って何故か手を出してくる。


「???」


「・・・はい!」


手を出してきた理由がわからず、楠木の手を見ていると、再び、手を差し出してくる。


「何だ?手がどうかしたのか?」


楠木の意図がわからない。


「はあ~何でわからないのよ。こうするの!」


呆れた感じ俺の手を握ってくる。


「おい!やめろ!何してんだよ!」


慌てて手を振り払おうとしたが楠木は手を離してくれない。


「だったらこの前みたいに腕に抱き着く?私の胸の感触確かめないって約束してくれるならそれでもいいわよ」


・・・だから当たってねえよ。


口にすると絶対怒り狂うので心の中で悪態をつく。


「・・・・」


「いてええ!すみませんでした!繋ぐ方でいいです!」


何も言ってないのに手に爪を立ててきたので、手を振りほどきながら即座に謝る。そして抱き着く方では同じ事を繰り返しそうなので、繋ぐ方をリクエストする。


「ふん!だったら最初から文句言わなければいいのよ」


何故か俺が悪い事にされる。理不尽すぎるが買い物に付き合わせるのでこれ以上は何も言わずにおとなしく従う事に。


「ほら。手」


そう言われて手を差し出すと楠木が手を繋いできた。繋いできたが、俺が思っていたのと違う繋ぎ方、指と指を絡めて繋ぐ所謂恋人繋ぎだった。


「おい!これは駄目だろ!」


「はあ?何でよ?」


「この繋ぎ方は絶対おかしいって」


「だから何でよ?」


「いや、これって恋人繋ぎってやつだろ?俺でも知ってるぞ」


「で?」


「いやこんなの見られたら・・・あれ?」


「ね!恋人同士なんだから別にいいじゃない!」


「いや・・・でもなあ・・・」


今のやり取りで今更ながら楠木に確認しないといけない事があるのに気付く。


「何?まだ何かあるの?」


「ここではちょっと・・・作戦の事」


小声で楠木に言うと何も答えず俺の手を引いて無言で歩き始める。


「やっぱりちょっと、バカップルみたいで恥ずかしいわね」


恋人繋ぎで校内を歩くという羞恥プレイをしていると楠木が更に恥ずかしくなる事を言って来る。校内にはまだチラホラ生徒が残っているので、当然俺たちが手を繋いで歩いているのは目撃されている。


「それなら、もうやめとこう。な?」


「嫌よ。今日はずっとこれで行くって決めたから。修一も覚悟決めなさい」


とんでもない事を俺に断りもなく決めていた。


「はあ~!何でだよ!学校出たらもういいだろ?」


「声が大きい!聞かれたらどうするのよ!それに前も言ったけど、外で油断した人は誰?」


「・・・・くっ!」


そう言われるとやっぱり何も言えない。

下駄箱までくると流石に手を離してくれたが、靴を履き替えるとすぐに寄ってきて、恋人繋ぎをされる。俺はもう何も言わずに素直に従うとそれに満足したようでニコニコ顔になる。


「で?作戦の事って何?」


学校を出てしばらく歩くとさっきの件を聞いてきた。


「いや、ほんっとうに今更こんな事いうのもアレなんだけど、お前って好きな奴いるのか?」


「へっ?」


間抜けな声を出して立ち止まる、手を繋いでいる俺も当然立ち止まりきょとんとした楠木を見る。


「あ~。茜の為に俺なんかと恋人の振りをしてるって事はさすがに彼氏はいないと思うんだが、さっきのやり取りで恋人繋ぎしてるのを好きな奴に見られたらマズいだろって思ったわけだ。だからいるんなら作戦はすぐに中止しないとなって思ったわけ」


俺がさっき手を繋い時に思いついた事を話すと、困った顔でポリポリ頬を掻いて何か考えていると思ったら、


「え~っと。いるよ。好きな人」


そうしてそのまま上目遣いでとんでもない事を言ってきた。恋人の振りに協力してくれているので、好きな人も多分いないだろうと思って、本当に念の為に聞いたつもりだったが俺は大いに慌ててしまう。


「はあ!いるのかよ!だったら・・・」


「待って!いいの!このままで!」


俺の言葉を遮って、何故かこのままでいいと言ってくる。


「いや、さすがにマズいだろ。そいつ絶対勘違いしてるぞ?いや、俺たちが勘違いさせてるんだけど・・・それとも本当の事をそいつに話すか?」


少し危険だけど楠木の好きな奴なら多分悪い奴じゃないので、本当の事を話しても大丈夫だろうと思うが。


「ううん、大丈夫だから。何もしないで!このままでいいから」


「??・・・・ええっと。理由を聞いてもいいか?」


どんな理由があるのか答えてくれるか分からないが取り合えず聞いてみる。理由によっては作戦を中止する事も考える。


「・・・そいつすごい鈍感なのよ。私も頑張ってアピールしてるのに全然気づいてくれないし、多分まったく意識されてないんじゃないかな・・・だからこうやって恋人の振りをしてれば・・・それで反応してくれないかなって思って」


「ああ、ようするに、向こうに嫉妬させて意識させようって事か。押して駄目なら引いてみるって奴だな。なら俺の事は全然利用していいから頑張れ」


「・・・・・」


「しかし、お前ぐらい可愛い子のアピールならすぐにコロリと行きそうなもんだけどな?そいつ本当に鈍感だな・・・いや、舞のアピールが足りてないのか?もう少しアピールを激しくしてみるとか?」


そうアドバイスをすると何故かジト目でこちらを見ている。恋愛未経験の俺のアドバイスは気に入らないみたいだ。それとも的外れなのだろうか・・・今度紅葉にでも聞いてみるか。


「いいの?これ以上過激にアピールして?あとはもう体を使った色仕掛けぐらいしか思いつかないけど・・・いや実際少しやってみたけど駄目だったし」


「・・・・・すまん」


そこまでやっているとは思っていなかったので、それ以上は余計な事は言えなくなり、素直に謝る。更にそこまでアピールして反応ないなら脈無しじゃないかと思い一つ提案してみる。


「ええっと。その、怒らないで欲しいんだけど、選択肢の一つとしてだ。諦めるっていうのもあるんじゃないか?」


「それも考えた。でも諦められないの。・・・本当ムカつく、こっちが頑張ってアピールしてるのに全然気づかないし、私の事は考えてくれるのに、私の気持ちは全く考えてくれないし、優しくしてくれてもそれが斜め上の優しさだったり、もう、本当にムカつく」


「ええっと。そいつの事本当に好きなんだよな?」


地団駄踏んでキレる楠木が怖いので恐る恐る尋ねてみる。


「好きよ!でも本当にムカつくのよ!もし付き合えたら、私がどれだけ頑張ったか!一から聞かせて!その一つ一つにどう思っていたのか反省文を書かせたいわ!」


こいつの思い人は付き合うとなったら大変だな・・・


「だから、覚悟しときなさいよ!」


そう言って俺に指を突き付けてくる。


「いや、俺に言うなよ、本人に言え。本人に」




「・・・なあ、ためしに告白してみたらどうだ?案外上手くいくかもしれないぞ」


「・・・絶対上手くいかない。私の評価マイナスだって直接言われたから」


「・・・・・」


流石にそれはフォローのしようがないので無言で駅前のGUまで歩いた。しかしこいつにそんな事言える奴どんだけ高望みしてんだ?芸能人でも狙ってんのか。


「なあ、やっぱり出掛けるのやめとくか?」


「はあ?なんでよ?」


「やっぱり、舞に悪いしさ・・・」


「修一はそんな事気にせず今まで通り、私の彼氏してればいいの!分かった!」


そう言って強引に手を引っ張り店に入っていく。





「ふう。まあ無難だったんじゃない?」


「いや、ちょっと無難すぎないか?」


楠木の指示通り買う物を買い、店を出た所で今日購入した服について話しだす。

買ったものは茜に言われたジーンズや灰色や紺、白の無地の服で、汎用性が高いものばかりだ。汎用性は高いが若干・・いやかなり、アクセントが物足りない気がする。


「あんた、その無難な服も持ってないって茜から聞いてるわよ。っていうか今日買った服以外のインナーは全部部屋着にしときなさい」


インナーって何だ?


楠木から良く分からん用語が飛び出し、何の事か分からんが返事だけはしっかりしておく。


「おう、分かった!」


「分かってないから言っとくけど、私の言ってるインナーはあんたの持ってる羽根、髑髏、十字架がプリントされた服の事ね」


分かったって言ってるのに説明をしてくれる俺の彼女。日本語分かってるのか心配になる。しかし部屋着にしろと言われたのが、俺の外出用の服だったのでショックを受ける。


「なあ、もしかして俺ってファッションセンス変わってるのか?」


「変わってるっていうか、止まっているわね」


更に追撃されて再びショックを受ける。もう少しオブラートに包んだ言い方してくれよ。


仕返しに少し意地悪をしようと、学校のカバンと今日買った服を別々の手で持ち両手が塞がった状態にしてみる。


「む~」


案の定手を繋ごうとしてきたが、俺の両手が塞がっているのを見ると頬を膨らませて、不機嫌になる。


「ほら~舞行くぞ」


そう言って背を向けて歩き出す。背を向けたので楠木からは見えないと思うが、自分が今すごく意地悪い笑みを浮かべている事は分かる。


くくっ、さてどうリアクションするか。まさかいきなり怒り狂ったりしないだろうな?


面白さと不安が浮かぶ中、少し歩くと背中に感触があった。


「え?おい?何してんの?ちょっと待てって!」


振り向くと楠木が俺の背中に抱き着いていたので、滅茶苦茶慌てる。


「にしし~。な~に?修一両手塞がってるから、こうするしかないよね?」


顔は笑っているが、目が笑っていない。こいつ本気でこのまま歩くつもりだ!


「舞!分かった!俺が悪かった!片手開けるからな、許してくれ!」


楠木の覚悟に俺はすぐに降参した。さすがにこのまま歩くのは手を繋ぐより恥ずかしい。

降参を認めてくれたのか楠木は背中から離れて俺の正面に回って手を差し出してくる。


「修一が意地悪するのが悪いのよ」


少し膨れっ面で文句を言ってくる。


「ああ、悪かったって」


謝りながら荷物を片手で全て持ち、開いた手で楠木と手を繋ぐ、やっぱりさっきと同じ恋人繋ぎになり、二人して歩き出す。楠木とこうやって歩いていると何故か安心する気がした。





「ああっと。そういえば今日舞の家の近くまで送っていくから」


「へっ?」


駅が見えてきた所で、言い忘れていた事を伝えると間抜けな声を上げる。


「いや、舞の家の近くのコンビニとか公園とか分かり易い場所までな」


「いひひ~どうしたの今日は?そんなに私と離れたくないの~?」


楠木がからかった口調で言ってくるが、それは想定済み。


「ああ、そうだな。家まではさすがに舞の家族に見られるとまずいから近くまでだけどな」


「・・・・へ?・・ば?・・・な?はあ?」


俺が無表情でそう返すと、口をパクパクさせて、何か言おうとしているが、言葉が出てこないみたいだ。更に段々と顔が赤くなって俯いてしまう。流石にからかいすぎたと思ったのでネタ晴らしする。


「冗談だよ!日曜日出かけるだろ、近くまで迎えにくるからその場所の確認だよ。さすがに家までは迎えにいけないからな」


そう言うと楠木はバッと顔を上げて、怒りの形相に変わり手に持っていたカバンを俺にぶつけようとしてくるが、それも想定済みなので、自分のカバンでガードする。


「む~」


「ごめん、ごめん。からかって悪かった。許してくれ」


これ以上怒らせると楠木は何をしてくるか分からないので素直に謝る。


「何で家の近くまで来るのよ?駅に集合でいいじゃない?」


当たり前だが疑問を口にしてくる。


「あ~内緒にしていて欲しいんだけど、俺バイクの免許もってるんだよ、だから当日はバイクで迎えに行く予定。駅だと先生や高校の奴に見つかりそうだからな」


ジーと疑いの眼差しで俺を見つめてくる。先ほどからかったので、信じて貰えてないみたいだ。なので俺は財布から免許証を取り出し渡す。


「ほら。校則違反なのは分かっていたが、親父に無理やり取らされたんだ」


「・・・本当に持ってるじゃん。え?どこまで行くの?」


「いやいや、そんなに遠くじゃないぞ。ただバスで行くとなると不便な場所だけど舞も行った事があるのは茜から聞いてる。・・・あ、そうだ!バイクだから当日はいつもより暖かめの格好して、それでスカートは無しな、・・・そうだ!あと運動靴で来てくれよ。じゃないとバイク乗れないからな?」


「・・・うん、分かった。・・・っていうかどこ行くのよ?茜には言って私には教えてくれないの?」


「おう、教えないぞ!誰かさんは前みたいにすぐバラしそうだし。当日までの楽しみにしとけ」


「うっ!・・・もうばらさないわよ!」


当日の格好やバイクについて話していると楠木の家の最寄り駅に着いたので二人で歩き出す。


やっぱり、茜の前住んでいた場所と最寄り駅は同じか。


そんな事を考えて周囲の景色を確認しながら歩いていると、小さな公園まで来ていた。


「ここよ!ここから私の家まで2分もかからないわ。当日はここ集合でいい?」


「ああ、大体場所は分かった。っていうかあそこに少し見えてるの前の茜の家だろ?」


俺の指した先には茜と義母さんが以前住んでいたアパートの一部が見えていた。


「そうよ。良く知っているわね?」


「引っ越しの手伝いで来たからな。・・・やっぱり二人とも小さい頃からの幼馴染なんだな」


「この公園ね、昔から茜と良く二人で遊んでいたし困った事があったらここで二人でよく相談してたわね。最近だと小笠原と付き合うかどうかでよく話してたっけ」


公園の思い出を話し始めた楠木。後ろに立っている俺から表情は見えないがどこか寂しそうに見える。


「もう、ここで相談する事も無いわね」


やっぱり寂しそうに呟くので、俺は否定する。


「いや、茜なら呼べばすぐに来て相談に乗ってくれるだろ。・・・それに頼りになるか分からんが、俺でも良ければここに来て相談に乗ってやるぞ!」


そう言う俺をキョトンとした顔で見たと思ったら笑い出した。


「フフフ。そうよね。フフフ。修一ならそう言うわよね」


「ありがとう。」


そう言って俺に抱き着いてくる。


「あ!おい!恥ずかしいだろ!離れろって!」


ふいに抱き着かれてたので慌てて引き離そうと肩を掴む。


「ごめん。ちょっと気分が・・・。お願い少しだけこのままで」


「え?は?おい大丈夫か?」


ふざけて抱き着いてきたと思ったが、違ったみたいで、慌てて掴んだ肩から手を離し心配して声を掛ける。


「頭が・・・」


「どうした?頭?痛いのか?大丈夫か?」


頭が痛いというので、手に持っていた荷物を地面に置き撫でてやる。楠木の髪は俺と違ってすごいサラサラして撫で心地がいい。いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。


「・・・・ふあ」


頭を撫で始めると楠木が変な声を出して、しゃがみ込みそうになったので腰に手を回して慌てて支える。


「おい、本当に大丈夫か?」


「・・・・」


心配で声を掛けるが返事をしてくれない。返事をするのも辛いぐらい頭が痛いのか心配になるが俺には引き続き腰を支えて頭を撫でてやるぐらいしかできない。周囲を見渡すと公園の隅にベンチがあるのに気づいたので、何とかそこまで移動できないか聞いてみる事に。


「舞、あそこのベンチまで移動できそうか?」


「・・・・・」


そう尋ねても答えは返ってこなかった。変わりに俺の体に回している両腕に少し力が入ったので、動きたくない合図と判断しそのままでいる事にした。それから大体2~3分経っただろうか、


「うん。これ以上はヤバいわね」


そう言って回していた手を緩め軽く俺を押して距離をとる。その顔は俯いていてどんな表情をしているか見えない。


「おい。そんなにヤバいのか?どうする家まで送っていくぞ?」


楠木の家族に見られる可能性があるが、気分が悪いって言ってるのに一人で帰らせる訳にはいかないので家まで送ろうとするが、


「ううん。大丈夫だから!日曜日楽しみにしてるね!それじゃあ」


そう言うと俺に背中を向けて走って行ってしまった。一瞬だけ見えた横顔が赤くなっているように見えたが本当に大丈夫か心配になる。


「・・・・早っ。・・・さすが陸上部」


声を掛ける間もなく一瞬で公園から去ってしまったので、俺はそんな感想しか出てこなかった。


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