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13話 手作り弁当

翌日

茜の弁当箱を借りる許可をもらったので、茜と自分の弁当箱に料理を詰めていく。

昨日茜には理由を説明して弁当箱を貸して欲しいと頼むと


「舞がすみません。私のお弁当箱は使っても大丈夫ですよ」


そう言われて快く貸してもらったが、その後何か考え込んでいるのが気になった。

弁当を2つ持ち学校に向かう。いつものように空き教室の人に会釈してから自分の教室に向かい、席につき勉強を始める。暫くすると楠木もやってきた。


「おはよ~修一」


「おはよう。約束通り弁当持ってきたぞ」


約束はちゃんと守った事を伝える。


「本当に!ありがとう~。・・・・・にしし」


楠木は嬉しそうな顔をして俺にお礼を言った後、何か企んでいるのか悪い顔をして笑っていた。


「??」


疑問に思ったがそれ以上何も言わず楠木は俺の隣で勉強を始めたので、俺も特に追及せず勉強を始める。


二人で集中して勉強しているとすぐに昼になったので、楠木に弁当を1つ渡す。


「今日はどこで食べる?」


いつもは湯を沸かすのにガスを使うので中庭で昼飯を食べているが、今日は弁当なので、中庭に行く必要はない。弁当なのでここで食べてもいいが、楠木に任せる事にする。


「う~ん。それじゃあ、昨日と同じ中庭で!」


楠木の提案に了解して、中庭に向かう。昨日と同じで、向かっている最中は楠木がずっと腕に抱き着いていたが、さすがにもうやめるように言えなかった。


「ご飯~ご飯~お弁当~」


中庭のベンチにつくと上機嫌で変な歌を歌いながら弁当の包みを開いていく。

別にいつも作っている普通の弁当だが楠木は蓋を開いて中身を見ると顔を輝かせる。


「美味しそう~。ありがとね!作ってきてくれて!」


満面の笑みでお礼を言ってくるもんだから照れてしまう。


「別にいつも作ってるやつだから大したもんじゃないぞ。」


「そんなことない!修一の手作り弁当だよ!いつか茜からおかず全部交換して貰おうって思ってたのに・・・今日は簡単に独り占めできるのよ!」


こいつ、いつもそんな事考えてたのか。


若干呆れつつ、自分のいつもの弁当に本当に喜んでくれる楠木に少し嬉しく思う。


「ほら、いいから食べるぞ。・・・いただきます」


「いただきます」


そう言って楠木はまずご飯から食べ始める。今日は真ん中に梅干しが乗っているだけで他には何もかかっていないご飯、梅干しが全く当たっていない所を箸で口に運ぶ。


「やっぱり修一のお弁当最高ね!」


「ブホッ!」


白米しか食べてないのにそんな事を楠木が言って来たので、思わずむせてしまう。


こいつ、馬鹿にしてんのか?いや、新潟とか米所の人は米の品種の違いが分かるらしいしこいつもそうなのか?



「何よ!汚いわね!こっちに飛ばさないでよね!」


そう言って弁当を自分の体で守るようにして俺に文句を言ってくる。


「いや、何も手を加えていないご飯食べてその感想はどうなんだ?馬鹿にしてるのか?」


「ち、違うわよ、本当に美味しいのよ、このご飯!」


俺がジト目で言うと慌てて否定しくる。たかが白飯だろとか思ったが楠木に確認してみる。


「舞って米の品種の違い分かったりするのか?」


「ううん。全然わかんないわよ」


やっぱりこいつ馬鹿にしてるなと思いジト目で楠木を見つめる。


「・・・・わ、わあ~卵焼き4個も入ってる。茜から1回全部貰ってから最近は警戒して1個しか交換してくれないのよね」


俺のジト目から慌てて話題を変える。


こいつ本当に何してんだ?・・・茜は可哀そうだから今度から卵焼き少し多めにするか・・・親父の分が減るが、・・・魚でも詰めてればいいだろ。


そんな事を考えていると


「う~ん。美味しい・・・けど卵焼きなくなったわね」


楠木がさっきまであった卵焼きを瞬殺していた。そしてこちらをチラチラみてくる。俺の弁当にはまだ3個卵焼きが残っているので、分けてほしいのだろう。


「はあ~。ほら一つ分けてやるから持っていけ」


弁当を楠木に差し出すと楠木は顔を輝かせて口を開けてくる。


「いや。いや。持っていけって。何で口開けてんだよ。それはさすがに恥ずかしいからやらねえぞ。」


俺が注意しても楠木は口を閉じてくれない。梅干しでも放り込んでやろうかと思ったが、機嫌を損ねるのもアレなので、素直に卵焼きを楠木の口に運ぶ。近くまで運んでから口の中に放り込めばいいだろと思っていたが、口の近くまで卵焼きを運んだ瞬間、

パクッ

楠木が動いて、俺の箸ごと卵焼きを口に入れた。


「・・・ちょ!おい、何してんだよ!」


「もぐもぐ・・・えへへ~美味しいな~」


俺からの抗議も気にした様子もなく美味しそうに食べる楠木。


「でもちょっと恥ずかしいわね」


「ゴホ!」


楠木の一言に思わずむせてしまう。口に何も入ってなくて良かった。


「じゃあ、修一も!何食べたい?唐揚げでいいいよね?はい、あ~ん」


「いや。やらねえぞ、恥ずかしいって自分で言っただろ」


断固拒否の構えを見せるが、楠木は気にせずニコニコしながら箸でつかんだ唐揚げを俺に向けてくる。


「だから、やらないって!」


「・・・・・」


もう一回拒否してみるが、楠木はニコニコと無言で唐揚げを向けたままである。


こいつ、人の話聞いちゃいねえ・・・これ多分、食べないと許して貰えないよな・・・はあ・・・


そうして食べる覚悟を決めたが、さすがに誰かに見られてると恥ずかしすぎるので、周囲を見渡し人目が無い事を確認する。

パクッ

極力箸に触れないように歯で唐揚げだけ挟んで箸から引き抜いて食べる。


「む~」


俺が食べる様子を見た楠木はニコニコ顔から一瞬で不服そうな顔になり頬を膨らませている。


「・・・なんか思ってたのと違う。・・・もう一回しよっか?」


「何でだよ!ちゃんと食べただろ!」


楠木は何が気に入らないのかニッコリ笑いながらやり直しを要求してきたので、俺は抗議の声を上げるが聞いてくれない。本当に人の話を聞かない奴だ。


「う~ん。唐揚げだとまた同じ事されちゃうし、ミニトマトも同じ、レタスも似たような事されるわね。・・・そうだご飯にしよう。これならちゃんと食べてくれる。にしし~」


俺の話を聞かずに一人でブツブツ言っていたと思ったら意地悪い笑いをした後、俺にご飯を差し出してきた。


「はい、修一。あ~ん」


「おい!さっき食べただろ、もうやらないからな!しかも何で俺だけ2回なんだよ!」


再度俺は抗議する。


「じゃあ、後で私ももう一回するわよ。それより早くしてご飯落ちちゃう」


「・・・・・」


そう返されて、自分が墓穴を掘った事に気づいて何も言えなくなってしまう。先ほどの発言をした自分を殴ってやりたい。


「ほら、早く!」


楠木から再び催促されて俺は観念してご飯を口にする。箸に触れずに食べるのは無理なので、箸ごと口の中に入れてご飯を食べる。


「えへへ~、美味しい?」


満足したのか、ニコニコ笑顔で聞いてくるが、結局口にしたのは普通のご飯なので特別美味しい訳ではない。


「いや、別に普通・・・」


そう答えると楠木は真顔に戻った。


「・・・もう一回「美味しかったです!いや~、こんな可愛い彼女に食べさせて貰えて幸せだな~」


やり直しを口にしようとしたので、俺は慌てて言葉を遮り食べさせて貰った事を喜ぶ。


「でしょ!でしょ!にひひ~」


満面の笑みで答える楠木を傍から見ていればすごく可愛いと思うのだろうが、今の俺には悪魔にしか見えなかった。


はあ~。何で飯食べるのにこんなに疲れなくちゃいけないんだ・・・


「じゃあ、次は私ね、修一と同じでご飯でいいわよ。あ~ん」


すでに気力の無くなった俺は言われるままご飯を楠木に運んでいた。


「うん!やっぱり美味しい!」


少し顔を赤くしながらそう言った楠木の顔は満足げだった。


「でもやっぱりちょっと恥ずかしいわね。さすがに人前だとできそうにないわ」


「当たり前だろ、絶対やらないからな!」


その後は昨日と同じように夕方まで勉強して帰宅した。








月曜日

今日から期末テストが始まります。土日は義兄さんから教えてもらった勉強方法で勉強したので、今回はそこそこ自信があります。今回の期末テストは赤点を一つも取らない事が目標です。

学校に着いて友達と今日のテストについて話していると舞がやってきました。


「おはよ~」


いつものように色んなクラスメイトから挨拶を交わしながらこっちに向かってきます。

「おはよう」


「おはよう、舞」


私と周りの友達に声を掛けると私の前の席に座って話かけてきます。


「今日のテスト茜は大丈夫?」


「いつもより少し自信あるよ。土日結構勉強頑張ったし。舞の方こそどうなの」


「私もいつもより自身あるわ。土日修一とめっちゃ勉強したから」


そうでした。舞は義兄さんと土日学校で勉強していたのでした。その事を思い出してふと、私のお弁当箱を貸した事を思い出し小声で聞いてみます。


「そういえば、なんでお弁当だったの?」


「最近茜がおかず一個しか交換してくれないから、満足するまで食べたかったのよ」


何故か私が悪いみたいに言われてますが、私のお弁当を義兄さんが作っているって知った舞が卵焼きを勝手に全部食べたのが悪いのです。義兄さんがお弁当を作っているのが意外だったのか『悔しいけど、美味しいじゃない。』とか言って頻繁に交換しようと言ってくるので、最近は一個しかおかずの交換はしないようにしています。


「で、どうだったの?美味しかった?」


「すごく美味しかった!満足したわ!それにね!それにね!・・・でへへ~」


美味しかった以外にも良い事があったのか舞の顔がだらしなくにやけました。


「修一とお弁当食べさせっこしたんだ~。ぐへへ~」


さっきまでは小声で二人で話していましたがここからは周りに聞こえるように言って更に顔をだらしなくする舞。アホの子みたいです。多分舞から食べさせ合った事にしようと言ったのでしょう。その作戦に義兄さんがすごく困った顔をしているのが想像できます。


「はいはい、バカップルバカップル」


「はあ~あんたも茜側になっちゃったのね~」


それが聞こえた友達から呆れた声が上がりますが、私まで巻き込まれて心外です。


「私と純君そんなバカップルっぽい事していないよ。一緒にしないで」


そう言うと友達二人は顔を見合わせて溜め息をつきます。


「分かってないのは本人だけか~」


「あんたが小笠原君の事話してる時の顔よこれ」


これ呼ばわりして舞を指差す友達。


ええ~私こんなだらしない顔になってるの?恥ずかしい・・・


今度から気をつけて話そうと考えている隣では舞がいまだにだらしない笑顔をしています。

そんな舞を見て私は少し疑問が浮かびます。


でも舞、ちょっと演技が過剰なような。まだ付き合い始めだから少し過剰にしているのかな?



その日はテストの結果に手ごたえを感じて家に帰りました。家に着くと義兄さんが珍しくリビングでコーヒーを飲みながら読書をしていました。


「おう、おかえり、コーヒー飲むか」


「ただいまです。義兄さん。コーヒー頂きます」


そう答えると義兄さんは台所に向かいコーヒーの準備をして戻ってきました。


「ほいどうぞ」


「ありがとうございます」


そう言って砂糖とミルクをいれてからコーヒーに口をつけると義兄さんが話しかけてきました。


「ええっと、今日のテストはどうだった?」


「義兄さんが教えてくれた通り勉強したからか少しだけ自信があります」


「そうか、良かった」


恐らくその事を聞きたくてリビングで私を待っていたのだと思いました。そして私も義兄さんに言う事がある事を思い出します。


「義兄さん、昨日はすみませんでした」


「・・・・・昨日?何かしたか?」


「舞とのお弁当の事です」


「なっ!・・・・聞いたのか?」


私がそう言うと義兄さんはビックリしていたので、私に疑問が浮かびます。


あれ?お弁当の食べさせ合いっこは作戦じゃないのかな?だから舞も学校で言ったんだと思ったけど・・・


「ええ。今日の朝、舞が嬉しそうに私や友達に話してましたよ?作戦ですよね?ありがとうございます」


そう言うと義兄さんは手で顔を覆い俯いてしまいました。


「・・・あいつ・・・くそ、口止めしとけば良かった。いや、作戦だったのか」


義兄さんのその言葉を聞いてまた疑問が浮かびます。


あれ、二人の意思疎通ができてないな?っていうか義兄さんのその反応って振りじゃなくて本当に食べさせ合いしたって事?休みの日のほとんど人もいない学校で本当に食べさせ合いする必要があったのかな?いや、迷惑かけてる私が言っちゃいけないんだけど・・・


そこまで考えて私の中に一つの考えが浮かびましたが、最近良く浮かびますがすぐにそれはないと思い否定します。


「義兄さん?」


「うん?ああ。・・・・その事ってどれぐらい広まったか分かるか?」


私が声を掛けると義兄さんは顔を上げて私に質問してきますが、その顔はかなり疲れてみえます。その顔を見て正直に言っていいか迷いましたが、結局私が言わなくても誰かから噂で聞く事になるだろうと思い、正直に答える事にしました。


「多分、私のクラスはみんな聞いていると思います。何回か舞が話していましたから」


「・・・はあ」


義兄さんは大きく溜め息をついて何も言わなくなりました。そうなった根本の原因は私なので申し訳なく思ってしまいます。


「義兄さん、すみません。」


「うん?ああ別に謝らなくていいぞ、作戦!そう作戦だって」


私が謝ると義兄さんは作戦だと言ってくれましたが、それが嘘である事は先ほどの会話でも明白です。やっぱり義兄さんは優しいです。がその優しさにいつまでも甘える訳にはいきません。私も早く覚悟を決めようと誓いました。


水曜日

今日もテストの結果に手ごたえを感じ舞と話しながら駅に歩いています。


「今日のテストも良い感じだったみたいね?」


「ふふん、今回は赤点とらないよ。そういう舞こそ、何か良い事あった?」


いつもより嬉しそうにしている舞に私も質問する。


「・・・え、そう?そんな事ないわよ。ただ日曜日、修一と作戦の一環でデートするじゃない?修一が考えとくって言ってたからどこに連れて行ってくれるのか気になってるだけよ」


その答えが良い事=初デートなのに気づかずに答えてくる舞に、私の中で以前否定した考えがまた思い浮かびました。


「茜?」


そんな事を考えていたらいつの間にか立ち止まっていた私に声を掛けてきます。


「あ、ごめん。ぼーっとしてた。そういえばテスト明日までだけど、部活は明日からなの?」


「もう何言ってるのよ茜!テスト勉強ばっかりで忘れたの?明日まで部活禁止だからテスト終わったらみんなでカラオケ行くって言ってたじゃない」


そう、明日はみんなでテストお疲れ様のカラオケに行く約束をしていました。勿論覚えていましたが、敢えて忘れた振りをして確認をとりました。そうして舞には心の中で謝りながら私は私の中に浮かんだ考えが本物に変わるか、思い過ごしかを見極める為の作戦を考えます。


家に帰ると義兄さんはすでに帰ってきているようでしたが、リビングにはいませんでしたので、部屋にいるのでしょう。自分の部屋にカバンを置くと、すぐに義兄さんの部屋に向かい、ドアをノックします。


「どうした?」


すぐに扉が開いて義兄さんが顔を出してくれます。


「少しお話があります。いいですか?」


「ああ、俺の部屋で大丈夫か?」


私はコクリと頷くと義兄さんは部屋に入れてくれます。


「で?どうした?明日のテストで分からない所でもあるのか?」


「いえ、違います。今度の舞との初デートの事です」


「そっちか」


そういうと義兄さんは苦笑いをしました。


「まあ、初デートって言っても恋人の振りだからな。楠木には悪いが俺の行きたい所に付き合ってもらうよ。それで二人で出かけた事になるだ」


「どこに行くか聞いてもいいですか?」


義兄さんが行きたい所があるって事に興味が沸き行先を聞いてみます。


「ああ、他の人に言うなよ。特に楠木はみんなに言いふらす可能性があるから当日まで内緒にするつもりだから。どこ行くかバレると当日来る奴もいそうだしな」


そう言われて私はコクンと頷く。確かに舞は人気者なので、休みの日に外で私達と遊んでいる所に偶然を装って会いに来る男子もいるぐらいです。


「滝だよ。ここから一時間ぐらいの『案の滝』。この辺出身だと遠足で行くんじゃないか?」


「ああ、あそこですか。そうですね、私も舞も小学校の遠足で行きましたよ」


そう、その滝は地元の小学生の遠足の定番で桜と紅葉の時期は人が集まる観光名所ですがそれ以外の時期は観光客もまばらな場所です。この時期は桜にはまだ少し早いはずです。


「ええっと。理由を聞いても?」


「ん?・・・ああ、少しマイナスイオンを浴びたくてな」


嘘です。義兄さんの様子からすぐに私は絶対別の理由はあると確信しましたが追及はしませんでした。そうして、前置きはこれくらいにして本題に入る事にしました。


「義兄さん、当日はどんな格好で行くつもりですか?」


「え?ああ、このGパンとこのダウンジャケットだな。」


そう言って取り出したのは黒いジーンズと黒いダウンジャケットです。う~ん。


「義兄さん、上も下も黒はどうかと思うので、下は普通の紺っぽいジーンズが良いと思います」


「う~ん。他のGパンは親父からもらったこれしかないかな。」


そう言ってタンスから取り出したのは右足部分が太ももの付け根から無い色褪せたジーンズでした。更に左足部分は全体的にかなり擦り切れてボロボロになっていていつ千切れてもおかしくない感じでした。


「どこの荒くれ者ですか!私は普通の紺っぽいジーンズと言いました!何でそれがチョイスされるんですか!」


「ええっ?駄目?」


「全然駄目ですよ。むしろ何故これで良いと思ったんですか?」


「いや、ダメージジーンズだからかな?」


「そんなの履いてると頭にダメージある人だと思われますよ!」


「ははは、茜は面白い事言うな~」


「笑いごとじゃありません!・・・はあ~」

分かっていましたが、正直疲れます。一緒に暮らし始めてすぐに分かりましたが義兄さんはファッションセンスが絶望すぎます。パンツの時点でこれですから、これから先を考えると頭が痛くなります。ただ親友の舞と義兄さんの為、それから私の見極めの為に頑張ろうと思いました。


「はあ~取り合えずジーンズは新しいの購入は決定っと。それではジャケットの中の服を見せてください」


「いや、ジャケットは脱ぐつもりはないから、中の服はどうだっていいだろ?」


「あの滝なら周辺を散策するので、暑くなってジャケットを脱ぐ可能性があります。だから見せてください」


「まあ、いいけど・・・これかな~」


そう言って義兄さんが出してきたのは真ん中に大きな白い髑髏がプリントされた黒いロンTでした。


「・・・・・冗談ですよね?」


私はかろうじて口にします。


「うん?何かおかしいか?」


さも不思議そうに答える義兄さんについに私は爆発してしまいました。


「おかしいですよ!何で髑髏なんですか?義兄さんもうすぐ高校3年ですよ!いつまで厨二なんですか!こんなの来てたら舞も絶対恥ずかしいですし、私なら絶対離れて歩きますよ!」


そう言うと義兄さんは本当に驚いた顔をしました。なんでこれで良いと思ったのか不思議でなりません。


「そうか駄目か~。じゃあ、これかな~」


そう言って次に取り出したのは大きな十字架と英文が白でプリントされた黒いロンTでした。それを見た瞬間眩暈がしましたが、ここでガツンと言わないと舞が恥ずかしい思いをすると考え、気を振り絞りました。


「さっきと何も変わっていません!わざとですか?私をからかっているんですか!」


「あ、茜、お、落ち着いて。真面目だ、俺は真面目に言ってる!からかったりしてないから!」


義兄さんの慌てっぷりを見ると本気で言っている事が分かります。が、さすがにこのセンスはどうにかしないといけないレベルです。


「はあ~、他のはないんですか?」


私は一息ついて落ち着いてから義兄さんに尋ねます。


「あとはこれしかないかな~」


そう言って出したのは白の無地のシャツでした。


まあ、下が紺っぽいジーンズなら大丈夫かな。袖についてる小さい黒い十字架が若干気になるけど・・・


「まあ、それならまだい・・・・い」


そう言った所でふと悪い予感がしたので、口を閉じます。


「ええっと。義兄さん。それの背中を見せてもらってもいいですか?」


そう言うと義兄さんはすぐにシャツの背中を見せてくれました。


「羽根!!何で背中に羽根があるんですか!どこに飛んでいくつもりですか!」


「お、落ち着け茜、羽根は背中から生える物だからおかしくないぞ!」


「分かってますよ!私が言いたいのはシャツの背中に黒い羽根がプリントされている事で、それを義兄さんが外出用の服の選択肢に入れている事です!」


「ええ~」


私がそう言うと義兄さんはさも心外みたいな顔をしてきました。この時点で義兄さんのファッションセンスの信頼度は0になったので、心置きなく私の考えた作戦を実行に移します。


「義兄さん、明日テスト終わったら服を買いに行って下さい。買うものはジーンズとインナーって言ってもわかりませんよね?ジャケットの下に着る物です。言いたくないですが義兄さんのファッションセンスはちょっと、アレです。今のままだと舞が恥ずかしい思いをするのでお願いします」


「お、おう」


私も今までここまで強く義兄さんに言った事は無かったので、戸惑いながらも了承してもらいました。


「そして、このまま義兄さんだけで服を買いに行っても何も変わらないのは分かっています」


「酷くない?」


義兄さんから抗議の声が上がりますが無視します。


「だから舞に付き添いをお願いしてもいいですか?」


「う~ん。・・・・まあいいか、っていうかあいつ以外いないもんな」


そう、ここでまずは義兄さんから了承をもらう事が私の作戦。


「それでは義兄さんから頼んでもらっていいですか?」


「あ、ああ。・・・でも急に頼んで大丈夫かな・・・」


そう言いながら義兄さんは舞にラインしています。これが次の作戦、この返事で私の考えはどちらか確定するので少し緊張します。すぐに義兄さんのスマホから音がしました。


速っ!


その返信の速さで私は答えを聞くまでもなく考えが疑惑に変わりました。


「いいってさ。学校終わったら行ってくるよ。ええっと、Gパンと中に着る服だったよな買うの?」


「そうですけど、詳しくは私からも舞に伝えておきますので・・・」


「そうか?だったら頼む!」


「それでは勉強の邪魔して済みませんでした。お邪魔しました」

「気にすんな。そっちも明日頑張れよ」


挨拶を終えて自室に戻ってから疑惑について考えました。


今の所、義兄さんは×、舞はさっきので△になったって所・・・


そんな事を考えてから明日のテストに向けて勉強をするのでした。





木曜日

舞が学校に来るとすぐに今日カラオケに行けなくなった事を謝りだしました。理由は義兄さんと買い物に行く事になったと正直に言ってました。友達の大半は仕方ないわねって感じでしたが、一部の人は不満に感じているようでした。普段自分たちが同じ事をした時に舞がどれだけフォローしているか知っていればそんな事も考えないはずですが、知らないので仕方ないです。私から女子へはフォローはしましたが、男子へは純君にお願いしました。純君も上手くフォローしてくれたみたいで、その日は楽しくクラスメイトとカラオケできました。


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