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12話 腕組み

翌日

学校で空き教室の人にいつものように軽く会釈して自分の教室で勉強を始める。勉強を始めてからしばらくすると教室のドアが開き、楠木がやってきた。


「おはよ~。修一って何時から来てるのよ?」


「休みでもいつも通り登校して、17時に帰宅ってかんじだな」


「ふえ~。やっぱり学年トップは違うわね~」


感心したように言う楠木に俺は調子に乗ってしまう。


「ちなみに家でもう2時間ぐらい勉強してきてます。更に家に帰ってからも寝るまで勉強します」


「・・・・・あんた勉強はできるけど、馬鹿でしょ?」


ドン引きして人を馬鹿呼ばわりしてきた。失礼な奴だな。


「別にいいだろ。好きでやってるんだから」


「・・・どんだけ勉強好きなのよ。はあ~。ほら、さっさと勉強するわよ」


何か俺が勉強を中断させたみたいな言い方をされる。何でだ?

昨日茜に教えたように俺の勉強のやり方を楠木に教えた後は各自で勉強する。昨日聞いた通り、楠木は分からなくてもある程度自分で調べるタイプの様で質問攻めにされる事がなくて安心した。ただ、考えている時にこっちをジッと無言で見てくるのは視線が気になるのでやめて欲しい。

なんだかんだで自分でも満足できるぐらい昼まで勉強ができたので、昼飯を食べようと思い、楠木に声を掛ける。


「お~い、舞。昼飯にしないか?」


「は~。集中した~。分かった昼にしましょう」


「そ、それじゃあ、今からどこかで・・・・」


俺が昼飯のカップラーメンと湯を沸かすバーナーを準備していると、楠木は途中で話すのをやめる。


「うん?何か言ったか?」


良く聞こえなかったので、楠木に向かって聞いてみるが、楠木は膨れっ面になって、俺をバシンと叩く。


「いたっ!おい!何で叩いた?」


「知らないわよ。馬鹿!それより昼ご飯買いに行くからコンビニまでついてきてよ」


叩いた理由が『知らない』ってこいつ訳わかんねえと思いながら、言われた通りついていく。

教室から出て二人で歩き始めると、楠木がいきなり腕に抱き着いてきた。


「!!??」


ビックリして楠木の方を見るとこっちを見上げてニコニコしていたが、その顔は真っ赤だった。


「おい!離れろよ!恥ずかしいし歩きにくいだろ。お前も顔真っ赤だぞ。恥ずかしいならやめとけよ」


「いやよ。誰かに見られるかもしれないじゃない?疑われる可能性は少しでも排除しておくべきよ。」


「いや、今日学校休みだぞ。テスト前だからこの土日は部活も禁止だし誰に見つかるんだよ」


「そういう油断で、今この状況になっているのはどこの誰ですか~?」


楠木は少し煽る感じで言ってきたが、実際茜と電車で油断してやらかして楠木と恋人の振りをすることになったので、何も言い返せない。


「・・・くっ!」


「フフフ。これに懲りたらいちいち文句言わない事ね」


一方的に言い負かされて悔しいので、何か言い返したいが、何も思い浮かばない。

しばらく無言で言い返せる事がないか考えながら歩く。何も思い浮かばない。


「・・・・」


「・・・・ハッ!あ、あんた私の胸の感触確かめてたら怒るわよ!」


無言で歩く俺に何を感じたのか楠木がアホな事を言い出す。


なら腕に抱き着かなければ・・・いや、そもそもあたってないんだよな~。


そう思ったが多分口にすると楠木が烈火の如く怒る事が分かったので、楠木をジロリと一瞥して何も言わずに歩く。


「・・・・・」


「・・・・・」


ガリッ


「いてっ!おい!何で引っ搔いた!」


何も言わなかったのに手の甲を引っ搔いてきたので文句を言う。


「何か失礼な事言われた気がする」


こっちを見上げながらじっと俺の顔を見てくる。


「・・・何も言ってねえだろ」


実施失礼な事は考えていたので、目が泳いで誤魔化しきれなくなる前に顔を逸らして、言い訳する。


こいつこそ胸が無い事気にし過ぎじゃねえのか。


そんな事を考えていると、


ガリッ


「いっ!・・・」


また手の甲を引っ搔かれた。楠木は今回こっちを見る事もなく前を向いて歩いている


「・・・・・」


「・・・・・」


「・・・・・・すみませんでした」


「フン!」


俺は素直に失礼な事を考えていた事を謝るが楠木は膨れっ面になって顔を逸らして拗ねた様子。それでも何故か腕は離してくれなかった。

そんなやり取りをしながら二人で歩いていると離れた所から「ガタンッ!」と大きな音がした。


ああ、そう言えば学校にはこいつが居たな。


音がした方を向くと空き教室でビックリした顔をしている女子が立っている。その女子の足元には椅子が倒れているのでさっきの大きな音はそれだろう。楠木も空き教室にいる生徒に気づくとドヤ顔になる。


「ほら、いるじゃない。良かったわね、離れて歩いていなくて」


予想していた通りの言葉を言われて悔しいが、やっぱり何も言い返せない。


「俺、これ持ってるから外で待ってるぞ」


コンビニまで来るとそう言って朝買ってきたカップラーメンを見せる。さすがにこのまま店内に入ると出てくるときに万引きだと勘違いされそうなので、外で待つ事にする。楠木は少し不満顔だったが、俺の腕を離して何も言わずに店内に入っていった。


しばらく待つが楠木が出てこない。遅いなと思い店内を見てみると、4人ぐらいの女子グループと楽しそうに話しているのが見える。


やっぱり、あいつ友達多いな。・・・はあ。茜の為とは言え、俺なんかと恋人の振りをさせてやっぱり申し訳ないな。今日だって本当は俺なんかより友達と勉強したかっただろうな・・・。なんとかしたいけど、結局茜が覚悟を決めないと、俺は何もできないよなあ~。・・・かといって茜を急かしても駄目だろうな。結局は恋人の振りをしている間、楠木がなるべく嫌な思いをしないようにするしかないな。


「ごめん、友達がいたから少し話こんじゃった。ごめんね」


そんな事を考えていると楠木が戻ってきて謝ってくるが、


「いや、別にいいぞ。話、楽しかったんだろ?」


先ほどの考えを思い出し、少し優しい感じで答える。まあ、そんなに待たされた訳でもないので怒ってはいない。


「?うん。・・・修一、どうかした?」


何か俺に違和感があったのか楠木は探るように聞いてくる。こいつ結構鋭いな。


「いや、それよりも早く戻って昼飯食おうぜ」


「うん!行こう!」


楠木はそう言って来た時と同じように腕に抱き着いてくる。


コンビニは楠木の友達がいたので、今から話す事を聞かれないように少し歩いてから、楠木に話しかける。


「なあ。舞。有難いけど茜の為にこんなに頑張らなくても大丈夫だぞ。今見たいに腕を組まなくても、もう恋人同士って学校に広まってるんだから無理して嫌な事しなくても大丈夫だと思うぞ」


先ほど自分で決めた『楠木になるべく嫌な思いはさせない』に従って、楠木に言ってみる。多分こう言えば嫌がっている腕組みを離してくるだろうと思っていた。


「・・・・嫌じゃない。私は全然嫌じゃないよ」


俺の腕に抱き着いたまま立ち止まる楠木につられて俺も立ち止まると、まっすぐ俺の顔を見ながら言ってくる。

しばらく見つめあっていたが、さすがに美少女にジッと見られていると気恥しくなり、目を逸らしてしまう。


俺を傷付けない為に逆に気を使わしたか・・・友達が多い理由が分かるな、やっぱりこいつ良いやつだ。


「・・・それに頑張って評価を変えないと」


目を逸らしてそう考えていると、楠木がポツリとそんな事を言っていた。


それから腕は組んでいたがどちらとも話す事なく無言で中庭に戻ると、俺はバーナーをセットしてお湯を沸かす。お湯を沸かしている最中にふと見ると楠木もカップラーメンを準備している。その光景があまりにも可笑しくて、


「プッ」


思わず吹き出してしまう。


「何よ。何がおかしいのよ」


俺が噴出したのが聞こえたのか不機嫌そうに楠木が聞いてくる。


「くくく、だって女子高生が、昼飯に外で、学校で、制服で、カップラーメンって・・・なんか場違い感が半端ないなって・・・くくく」


「何よ!し、しょうがないでしょ!食べたかったんだから!」


俺は吹き出した理由を説明すると顔を真っ赤にして言い訳してくる。これでさっき腕を組んだ時に一方的に言われ放題だった悔しさが少し晴れた。


「ほら。お湯沸いたぞちょっと貸してみろ」


そう言って楠木のカップラーメンにお湯を注ぎ蓋をした所で、ある事に気づき動きが止まる。


「?・・・修一?」


動きが止まった俺に楠木が不思議そうに声を掛けてくる。


「・・・・いやなんでもない、大丈夫だ」


楠木にとっては本当にどうでもいい事なので、そう言って自分のラーメンにお湯を注ぐ。


楠木のラーメン、朝どっちにしようか迷った奴だ。くそ!今になってあっちの方が美味そうに見えてきた。


楠木にとっては本当にどうでもいい事だが、ラーメン好きの俺にとってはかなり重要な事。だけど口にするのは恥ずかしい。


3分経ったので、二人とも蓋をはがして、添付のスープ等を入れていく。俺は楠木のラーメンが気になって、チラチラ目線が向いてしまう。


「??」


俺の視線に気づいた楠木が不思議そうな顔をしているが、俺は気にせず食べ始める。

ズルズル。


美味い!やっぱりこっちで正解だったな、中々美味いぞこれ。


「・・・修一って、すごく美味しそうに食べるわね」


ラーメンを堪能していると楠木から話かけられる。


「そうか?」


「ラーメンを食べてるとすごい笑顔になってるわよ」


自分では意識してないが、言われるって事はそうなのか。


ズルズル

ラーメンを啜る楠木。俺はそれを駄目だと思いながらも見てしまう。


やっぱりあっちも美味そうだな。少し分けてくれないかな・・いやいや・女子の食いかけを少し食べたいって流石にまずいだろ。でも美味そうだよな・・・


「ちょっと!見られてると落ち着かないんだけど」


いつの間にか凝視していたらしい。楠木から注意されたので、自分のカップラーメンを食べ始める。食べながらも楠木のラーメンが気になるので、ついチラチラ見てしまう。

そういう俺の視線に気づいたのか、楠木は大きなため息をついてラーメンを机に置いた。


「はあ~。何?さっきから?気になる事があれば言って!チラチラ見られてると気になるのよ!」


これは正直に言わないといけないなと思いながら、


「言ってもいいけど、舞が嫌な思いするかもしれない。嫌なら絶対断ってくれ」


先ほどの決意と真逆の事をしそうなので予防線を張っておく。


「・・・・何?ちゃんと聞くわ」


楠木は深刻そうな顔に変わり俺に聞いてくる。


「・・・あのな、言いにくいんだけど・・・舞の食べてるラーメン・・・ちょっと味が気になるんだ」


そう言って顔を伏せる。さすがにこれは色んな意味で恥ずかしい。顔が赤くなってくる。


「・・・・はあ?」


楠木は『何言ってんだこいつ』ってのが聞こえてくるような「はあ」で返事をしてくる。


「朝、お前のと俺のカップラーメンどっちにするか迷ったんだ。だからそっちの味が気になってな」


「はあ~」


今度は『仕方ないわね。」ってのが聞こえてきそうな「はあ」と言ってくる。


「ほら、いいわよ」


そう言って楠木はこっちにラーメンを渡してくる。


「良いのか?マジで有難う!スープだけな!スープだけ少し貰うわ!」


そう言って一口だけスープを啜る。


美味い、こっちもまじで美味い。これは甲乙つけがたい、その日の気分次第で順位が変わるぐらい接戦だぞこれ。


久しぶりの当たりが二つもある事に興奮していると、楠木から


「修一のも私に少し頂戴」


そう言うと、俺のカップラーメンを手にとりスープを啜る。


「あら、こっちもかなり美味しいじゃない」


俺と同じ評価をする楠木だったが、何か思いついたのか口元がニヤリとする。


「ねえ、修一。一つお願いがあるんだけど・・・いい?」


「できる事ならやるけど、聞いてみない事には返事できないな」


何か悪い予感がした。すごく面倒くさい事を頼まれると思ったが、先ほどのコンビニで決意したばっかりなので取り合えず内容だけは聞いてみる事にする。


「ええっと。明日、修一が作ったお弁当が食べたい」


「・・・・・」


「駄目?」


上目遣いで懇願してくる楠木。かなり可愛い。


ええっと。そんな事でいいのか?まあ別に大した労力じゃないしな~。


「別にいいぞ。弁当箱は茜のになるけどいいよな?」


無理難題を突き付けられるかもと思っていたが、意外に大した事がなかったので了承する。


「本当に!やった~!」


俺が了承すると嬉しそうな声を上げるが、何がそんなに嬉しいか良くわからん。


「えへへ~」


昼飯を食べ終わってから教室に戻るまで楠木は終始ご機嫌でニコニコしていた。俺に抱き着いている腕にも先ほどより力が込められていて、腕には先ほどはなかった柔らかい感触が感じられた。





17時


「くあ~。疲れた~」


「久しぶりにこんなに勉強したわ」


昼からも二人で勉強して、良い時間になったので、帰る事にする。

帰る準備をして教室を出ると、当然のように楠木が腕に抱き着いてくる。


「ええ!帰りもやるのか?これ。」


「何よ?不満?駅まではこのままだから!」


びっくりする俺にさも当然の事のように楠木が言ってくる。


さっき気を使って嫌じゃないって言ってたから、意地になってるのか?あんまりしつこいのもあれだし、もう何も言わない方がいいか。


そんな事を考えて駅まで向かう。駅までの途中で楠木と勉強や明日の弁当について話していた。そうして駅について別れる際に楠木に念を押す。


「明日弁当作ってくるから絶対来いよ。来なかったら弁当無駄になるからな」


「分かってるわよ!これでも楽しみにしてるんだから!修一こそ作り忘れたなんていったら噛みつくからね!」


こいつなら本当に噛みついて来そうだなと思いながら楠木と別れて帰宅した。


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