10話 バラした理由
クラスメイトからは授業中もチラチラ視線を向けられ、休み時間になると他のクラスの奴もきて質問責めにされるが全て楠木を通すように言って質問を回避する。そうやって回避しながら放課後まで乗り切った。
放課後、帰る準備をして楠木がくるのを読書しながら教室で待っている。クラスメイトはチラチラ俺を見ながらほとんど帰ろうとしない。みんな早く帰れよとか思っていると、
「修一!ごめんね!待った?」
「ゴフッ!・・・ゴホッ!ゴホッ!」
楠木が大きな声で俺の下の名前を呼んで教室に入ってきたので、驚いてむせてしまう。
「まじか~」「やっぱり本当かよ」「楠木さんと本当に付き合ったんだ」クラス中から驚きの声があがる。
「ちょっと!大丈夫?」
そう言って俺の方に来て背中をさすってくれる。
「ゴフッ!ゴホッ!・・・・お前な・・・」
「舞!」
気管の詰まりも収まったので文句を言おうとした所で、近くの女子が楠木に話しかける。
「明美?どうしたの?」
「どうもしないわよ。ここ私のクラスだし。っていうかあんたが付き合うなんてビックリしたわよ」
「えへへ~。なんか流れでね~」
「はあ~。あんたがそんな顔するなんて」
話が長くなりそうなので、楠木に一言伝えて気まずいこの場から離れる事にする。
「教室出た所で待ってるから」
そう言って脇を通り抜けようとしたら、楠木に腕を掴まれる。
「・・・・おい」
逃がしてくれない楠木に文句を言ったが、俺を無視してクラスメイトと何事もなく話している。
「早速名前で呼んでるんだ」
「まあね。やっぱり呼び方って最初が肝心じゃん?」
「そうね。で?部活はどうするの?」
「修一と話してから行くから遅れるかも」
「分かったわ、じゃあ仲良くね」
「うん!バイバイ!」
「・・・じゃあ行こうか。修一!」
友達を見送った後、俺の方に向き直ってニコニコ顔で言ってくる。
「ああ、行くか。」
すでにクラスメイトには誤魔化しきれなくなったが、ニコニコ顔の楠木が更に何をして欲しいか何となくわかった。が、それを言いたくはなかったので俺は返事をするとすぐに教室から去ろうとするが、
グイ。
教室から出ようとした俺の腕を掴んで、楠木は一歩も動かずニコニコしている。
「行こうか。修一」
同じ言葉をニコニコしながら楠木は口にする。
「よし!行くぞ~!」
ちょっとテンション高めに言ってみるが
グイ。
楠木はニコニコしたまま、やっぱり一歩も動いてくれない。誤魔化されてはくれないみたいだ。どうしてほしいか分かっているので、俺は一息入れてから覚悟を決める。
「じゃあ、行くか。・・・・ま、舞」
「うん!」
ニコニコ顔を更に輝かせて嬉しそうに頷いてからようやく動き出してくれたので、俺も楠木の後をついていく。俺が楠木の名前呼びをした事でクラス中から更に驚きの声が上がっていた。
「どこで話す?」
教室から出た所で、いまだにニコニコ嬉しそうな演技をしている楠木に話しかける。
「う~ん。中庭でいいんじゃない?座れる所もあるし」
「じゃあ、そこ行くか」
そう言うと二人で歩き出す。中庭まで向かう間にすれ違う生徒から驚きの表情で見られるが、もう誤魔化しきれないので、開き直って気にしないように歩く。
しかし、楠木はずっと演技してて疲れないのかね。俺なら顔の筋肉攣ってるかもしれないな。
中庭までずっと嬉しそうな演技をしてついてくる隣の彼女を見て、そんな事を考えていた。
中庭には休日に俺が昼飯のラーメンを食べる机とベンチがあるので、そこに二人で腰掛ける。楠木は俺の対面に座るとボソリと俺にだけ聞こえるように呟く。
「見られてるから、少しは笑ったら」
言われてから俺はハッとして周囲を見渡す。すると見てる見てる、校舎の窓、渡り廊下、中庭等ざっと見ただけでも10人以上、いやひょっとするとそれ以上から見られてる。
おいおい。どんだけ俺たち注目されてるんだよ。・・・・いや、俺たちじゃないな、楠木『が』注目されてるんだ。こいつどんだけ人気あるんだ?俺と付き合ってる振りして大丈夫なのか。
改めて、楠木の人気っぷりを実感すると、こっちの事情に付き合わせてる事に罪悪感を感じる。
「ま、舞はすごい人気だな・・・本当に良かったのか?今ならまだ無かった事にできると思うぞ」
「別にそんな事ないわよ。ただ物珍しさで見られてるだけでしょ。それより無かった事ってどういう意味よ。作戦に変更はないわ。このまま続行よ。それにみんなにバレたからもう無理よ」
いきなり作戦変えてきたのによくそんな偉そうにいえるな~。
と思ったが、何も言わない、というか言ってへそを曲げられても困るので言えない。
「それより、少しは楽しそうにしたら?バレるかもよ」
ニコニコした顔から真面目そうな表情に変えて忠告される。
さすがにそう言われると困ってしまうので、表情を笑顔にする。・・・・うん、自分でも顔が引き攣ってるのが分かる。
「・・・プ、ククク」
俺の引き攣った笑顔を見ると、楠木は軽く吹き出した後俯いて肩を揺らす。
そんな楠木の様子を気にせず、俺は笑顔って作るの難しいなとか考えながら人差し指で頬を持ち上げて、笑顔の練習をしてみる。顔を上げてその様子に気づいた楠木は大きな声で笑い出した。
「ククク、あはははは。ふぅふぅ・・駄目お腹痛い。あははは」
「下手くそ」
「うるせー」
ひとしきり笑って、落ち着いてた楠木から駄目だしされる。
「だから昨日練習してきなさいって言ったじゃない」
「・・・くっ!」
昨日楠木を送って帰る時に言われた事を思い出し、何も言い返せない。
「で?どうなった?」
楠木も部活があると言っていたので、早速本題に入る。
「うん!バッチリよ!茜と小笠原仲直りしたわ」
「そうか、良かった。」
作戦が上手くいったようなので、ほっとする。
「あとは茜が覚悟を決めるまで待てばいいな。ちなみに小笠原ってどうなんだ?本当の事話したら別れる可能性あるのか?」
疑問に思っていた事を聞いてみる。
「私が見てる限りまず無いわね。むしろ今より過保護になって、あんたとも仲良くなろうとするんじゃないかしら?」
「うえええ!それは面倒くさい。俺の事は放っておいてほしい」
「そうなったらその時に考えればいいわ。私もあいつと付き合い長いから相談には乗るわよ」
「ああ、その時は助けてくれ」
「・・・でだ。内緒にしとくって作戦だったけど誰がバラした?」
茜と小笠原の件は大丈夫だと思ったのでもう一つの件について質問してみる。
すると、今までずっとニコニコ演技をしていた楠木の表情が一瞬で泣きそうな顔になり、机の上で指を組んでいた手を膝に置いてすごく申し訳なさそうに謝ってくる。
「ごめんなさい。私がバラしました」
「ええっと。楠木がバラしたのか?バレたんじゃなくて?」
「・・・・・あの・・・・・名前・・・」
俺の質問に答えず、小さい声で苗字呼びになっている事を指摘される。
「ああ、悪い。本当に舞がバラしたのか?」
「・・・はい」
「バレたんじゃなくて?」
「・・・はい」
別に楠木の判断でバラしても良いって言ったので、特に怒ってはいない、いや最初は怒ったけど・・・それよりもさっきから楠木はすごく申し訳なさそうに俺の質問に答えている。
「ええっと。舞?勘違いしてるみたいだから言っとくけど俺は別に怒ってないぞ」
そういうとバッと顔を上げて俺を見てくる。
「本当?怒ってない?」
緊張した様子でこちらを見て尋ねてくる。
「ああ。何か悪い事したのか?」
「勝手に付き合ってる事バラした」
「それはお前の判断でバラしても良いって昨日言っただろ」
「じゃあ、本当に怒ってないんだ?」
顔がパアァっていう効果音が聞こえてきそうなぐらい明るくなる。
「だからさっきからそう言ってるだろ。まあ、事前に連絡は欲しかったけどな」
「・・・ごめんなさい」
俺が怒ってないと分かると楠木の顔が明るくなったが、連絡が欲しかったというと、また落ち込んだ表情になり謝ってきた。表情がコロコロ変わる奴だな。
「だあああ!だから落ち込むなって!それよりバラした理由だよ。理由を教えてくれよ」
「ええっとね。みんなにバラした方が信じてくれると思ったの」
「どういう事だ?」
「例えば、私たちが『付き合ってる』って小笠原だけに直接言っても昨日の状況なら信じて貰えないし、茜の為に嘘ついてるって思わる可能性もあったわ。だからみんなにもバラした方が疑われないと思ったの」
「まあ全員にバラせば嘘だとは思わないから信じるしかないな」
そこまでやって信じてくれなかったらもうどうしたらいいか分からないが、幸い小笠原は信じてくれたので良かった。
「ね!そうでしょう」
俺が納得したら舞はすごく得意げな顔をした。
「あと何か聞きたいことある?」
「・・・舞の所にも色々質問する奴きてるのか?」
「そうね。バラしてからは休み時間ずっと誰かに質問されてたわ」
それを聞くとさすがに悪いと思ってしまったので楠木に謝罪する。
「あ~スマン。お前の言葉に甘えて、俺に質問してくる奴全員に、質問は舞に聞くようにって言ってる」
「別にいいわよ。バラしたの私なんだし。それよりも私に変な罪悪感を感じて質問に可笑しな回答してボロをださないでよね!彼氏さん!」
「・・・分かってる!明日からもお言葉に甘えさせてもらうよ!」
「じゃあ、聞きたいことも聞いたし帰る」
「そう、気を付けてね。修一、今日はごめんね、いきなりバラして」
「まあ、仕方ないさ。それよりも部活頑張れよ、舞。」
そういうと楠木はえへへ~と笑った後、グラウンドに向かって行った。
「さて、帰るか」
楠木の姿が見えなくなってから、そう呟いて帰宅した。
帰宅後、茜からお礼を言われた。
「義兄さん、純君と仲直りできました。本当にありがとうございます」
「ああ、良かったな。放課後楠木から聞いたよ」
「中庭の事ですね。凄い騒ぎになっていましたよ。帰りに純君と見かけましたが、純君は『あいつら早速イチャイチャしてる』って言っていました」
別に話してただけでイチャついてなんかいなかったが・・・
しかし凄い騒ぎって・・・・明日から俺の寝太郎生活大丈夫かな。
寝る前にそんな事を考えながら眠りについた。




