1話 呼び出し
ブーブーブー
スマホのアラームが震えて目が覚める。
いつものようにアラームを止めて体育館裏から教室へ向かう。ここ体育館裏は入学してから毎日弁当を食べている場所だが今まで誰かと出会った事もなくボッチの自分にとって快適に昼休みを過ごせる場所だ。
弁当を食べた後の俺は、そのままここか、図書館に移動して昼寝をしている。
今日は日が照って快適な陽気だったので移動せずそのまま昼寝をしていた。
2年1組。自分の教室に入り誰からも気にされず空気のような扱いでいつも通り自分の席につき、次の授業の準備を始める。
いつも通りのはずだった。
教室に入ると何人かの視線を感じる。
「・・・?」
気のせいだと思いたいが明らかに俺を見ている。
今日もいつも通り誰とも会話もせず過ごしてきたので思い当たる事がない。まあ気のせいかなと思いながら授業開始まで寝ようとすると、
「おーい。橘。お前何したんだ?」
クラスメイトの男子が俺に声をかけてきた。見た目はかなりのイケメンではあるが。
こいつの名前何だっけ?
いきなり話かけられた俺は質問の内容より、今まで話した事もないクラスメイトの名前について考えていた。
「昼休みに4組の楠木さんと清水さんが来てお前の事を探してたぞ」
こいつの名前については元々覚えていないので思い出せるはずもない。だから名前について考える事をやめて会話に集中する。
「お前、あんなに可愛い子達と知り合いなの?」
「いや誰?まったく知らん。可愛いって事は女子か?人違いじゃないか?」
「いや、マジだって。お前らも聞いてたよなー」
そいつは周りのクラスメイトにも確認して周囲も頷いている。
「本当に心当たりがないな。そもそも4組の楠木と清水だっけ?話した事もなければ、顔も知らんけど」
本当に心当たりがない。クラスメイトの顔と名前も憶えていないぼっちの俺が余所のクラスの人と接点等あるはずがない。
「俺に何の用事か言ってた?」
「いや、聞いてないな。ただ探していただけだったな」
「ふーん。何だったんだろ?」
「いや・・俺に聞かれても」
「だよなー。」
ここで授業開始のチャイムが鳴ったので会話を切り上げて席につく。
席についたら隣の女子が話しかけてきた。当然名前は知らない。
「ねーねー。橘君。4組の楠木さんと清水さんからの伝言で『放課後4組まできて。』だって」
「放課後・・・4組」
「ちゃんと伝えたからね」
うーむ。別クラスの全く知らない人からの呼び出しか。まるで心当たりがない。何だろうか・・。まあ考えても仕方ない・・・。多分大した用事じゃないな。
そう結論を出して、俺は授業に集中した。
放課後、駅まで歩きながら親父にメッセージを送る。
:今日晩飯、焼魚にするけど鯖でいいか?
父:肉!
:魚だっていってるだろ
父:刺身
:鯖ね
父:(´・ω・`)
:うぜえ
帰りにスーパーに寄って晩飯の材料を購入してから帰宅。
帰宅後は宿題をして18時ごろになったら晩飯の用意を始める。
大体親父は19時前後に帰宅するのでそのころまでに晩飯ができるように準備する。
ついでに翌日の弁当の仕込みもやっておく。
「・・・父さん。焼魚嫌いなんだ」
「知ってる」
「・・・肉が良かったな」
「文句いうな。黙って食え」
「・・・・」
親父と二人で食事。男同士なので会話は多くない。
「・・・なあ」
「何?」
「・・・母さんがいなくて寂しくないか?」
「別に・・・もう慣れた」
俺が小学1年の時に母さんが病気で死んでからもう何度目になるかわからない質問を親父からされる。いつからだろう、この質問に「もう慣れた」と言うようになったのは。
「・・・あのさ」
「?」
「・・・いや、やっぱり今度にするわ」
「何?気色悪い」
「・・いや、気にしないでくれ」
「ふーん」
ここ最近親父の様子がおかしい。何か俺に話したい事があるみたいだが、切り出せないって事が多い。
まあ、いつものように突拍子の無い事でも考えたけど無駄使いを怒られるから言いづらいとかそんな事だろうと思う。
思えば
『息子とキャッチボールするのは男親なら誰でも憧れる事だぞ』とか言いながらグローブ2つ買ってきた事もあった、
『釣りいこうぜ』と言って気づいたら釣り道具一式買ってきてたり、
校則違反だと言っても『黙っていればバレんから!それよりも親子でツーリングしてキャンプしたい』と言って16歳になったら無理やり教習所通わされてバイクの免許取らされた後、バイクとアウトドア用品買ってきたり、
毎日筋トレしているのに『これ流行ってるみたいだぞ』とか言ってスイッチとリングフットアドベンチャー買ってきたり、
まあ、そんな事でいつもの事だろうとあまり気にはしていない。
晩飯後は勉強していつも通り23時に就寝。
翌朝3時起床
身支度を整え、車庫に向かう。車庫には親父のバイクと俺のカブと自転車が置いてある。たまに親父とのツーリングで使う以外は新聞配達用と化した俺のカブにまたがりバイトに向かう。
「おはようございます」
「橘君、おはよう」
俺はいつものように店長に挨拶を済ませ準備を始める。この新聞配達も高校入学から始めて、1年半以上続いているので、準備も手早くすませ、出発。
いつも通り新聞配達が終わって家に帰り朝食と弁当の準備を始める。
「おはよう、修一」
「おはよう」
そのころになると親父も起きだしてきて出社の準備を始める。
いつも通り大して会話もなく朝食を食べて7時半過ぎに親父は家を出ていく。
俺はいつも通り余った時間は勉強してから学校に向かう。
今日もいつも通り。
昼休み
ブーブーブー
目覚ましのアラームが震えて目が覚める。
いつものようにアラームを止めて体育館裏から教室へ向かう。
ふあー・・。眠てー・・・。・・・昼一の授業何だった?数学?
とか考えながら教室に向かう。
教室に入っていつも通り空気の俺は席に向かう。
・・・何だ・・・クラスメイトが俺を見てる・・この光景は確か・・・あっ
そこで俺は昨日よく分からん呼び出しを受けていた事を思い出した。
ああ・・そういえば誰かに何か呼ばれていたな・・すっかり忘れていた・・・まあ・・行くって約束していた訳じゃないし・・用があるなら向こうから来るだろ。
なんて考えながら席に着くと昨日と同じように隣の女子が話しかけてきた。
「ねえ橘君。昨日楠木さん達の所、行かなかったの?今日も昼休みに来て探してたよ」
「あー。すっかり忘れてたわ。でも行くって約束していた訳じゃないから大丈夫だろ」
「うーん。清水さんはどうか分からなかったけど、楠木さんはめっちゃ怒ってたよ」
ここでチャイムが鳴り先生が来たので会話を切り上げる。
うーん。呼び出した二人は全く知らないからな・・・何の用だ?何か面倒くさそうだな、関わらないようにしとくか。
俺はそう結論づけて授業に集中した。
授業終了後、俺はいつもの用に眠っていた。中学では遅くまで勉強、高校では新聞配達のバイトをしているので基本的に寝不足の為、授業合間の休み時間と昼休みは俺の貴重な睡眠時間になっている。なので学校で授業以外は常に寝ている俺は中学からずっと『寝太郎』という渾名を付けられている。実際その通りなので、自分にピッタリの渾名だなと感心している。
「・・・っと!」
「ちょっと!!起きて!!」
休み時間、貴重な俺の睡眠中に誰かかが声を掛けて体を揺すってきた。
「う・・うーん・・。な・・・に?」
「あんた!何で昨日来なかったのよ!」
寝ぼけている俺に目の前の女子はいきなり怒り出した。
「誰だ・・・?何・・・?」
「私は楠木。いやそれよりも昨日『放課後4組まできて』って聞いてないの?」
「・・・うーん。何だよ?・・・。zzz」
「ちょっと!起きなさいよ!」
「・・何?」
「いい!今日こそ放課後4組まで来て!分かった!」
寝ぼけている俺は、こいつは何でこんなに怒ってるんだ?とか、さっさとどっか行ってくれ・・とか考えて
「・・・分かった」
と眠気と闘いながらおざなりに返事を返した。
「もう!本当に分かってるの!いいわね!放課後ちゃんと来てよ!」
俺の返事に満足していない様子だが怒りながらそいつは去っていった。その頃には俺は眠気に負けていた・・・
放課後
何か用事があった気が・・砂糖がきれたんだったかな?とか思いながら玄関に向かう。玄関で靴に履き替えた所で、
「ちょっと!待ちなさいよっ!!」
後ろから声が掛かる。
俺を含め周囲にいた3人の男子が声の方に振り向く。
そこには若干茶髪気味のショートカットでスレンダーな可愛い女子が立っていた。
ここまで走ってきた様子でその女子は息を荒げながらこっちを睨んでいる。
俺には見覚えのない女子だったので周囲にいる2人の男子どちらかに用事があるのだろうと思い、その場を立ち去ろうとした。
「だから!どこ行くのよ!」
・・・
「えぇ?・・俺?」
自分の事ではないと思っていたので吃驚して変な声がでた。
「あんたよ!あんた! 1組の橘でしょ!さっき休み時間に放課後4組来てって言ったじゃない!なんで帰ろうとしてるのよ!」
「・・・・!あっー!思い出した,、思い出した。忘れてたわ。ごめん、ごめん。で?誰?何の用?」
「もう!何で覚えてないのよ!私は・・・「舞~、待って~」
目の前の女子が説明を始めようとした所、もう一人女子が走って声を掛けてきた。
「はぁ、はぁ、待って、はぁ、舞、私が、はぁ、言わないと、ダメ、だから、はぁ、はぁ」
息を切らせながらまた新しい女子がこちらにやってきた。
やってきた女子は黒髪ロングのストレートヘアでこの子もさっきから怒っている女子に劣らず可愛いがかなり背が低い。にも拘わらず胸部は怒り気味の女子よりかなりある。
「スー、ハー。・・・えーっと・・橘・・さん?であってますよね?あの・・・私は清水茜と言います」
息を整えながら清水と名乗った女の子は少し怯えた口調で話しかけてくる。最初のキレ女に少し隠れながらもじもじしたような雰囲気で話してきたので、もしかしたら人見知りなのかもしれない。
「そうだけど。何?何の用?」
「・・・えーと・・・あの・・・ここではちょっと・・・場所を変えませんか?」
周囲を見ながら清水と名乗った女子が言ってきたので、俺も周囲に人が集まってきている事に気づく。確かにここだと目立つし、邪魔になるので了承してあとをついていくことする。
「・・・わかった。どこがいい?」
「じゃあ。ついてきてください。」
というわけで二人の後をついていき校舎裏の人気の少ない場所にやってきた所で俺から声をかける。
「この辺でもういいだろ?・・・で?何の用だ?確か・・・清水って言ったよな?」
「・・・はい・・そうです。清水です。・・用というのは・・・。・・・えっと・・・。あのですね・・・・」
何かもじもじして全然本題に入ってこない目の前の女子を見てると面倒くさくなってきた。
「なあ。用がないならもう帰ってもいいか?」
「待ってください!」
「ちょっと!待ちなさいよ!」
帰りたくなって声を掛けたけど、二人から止められる。もう早くしてくれ。
俺の呆れた表情を見ていた清水がキッと表情を引き締めて呼吸を整えながら俺に言った。
「・・・あの・・・私と仲良くしてください!」
「・・・・・???」
まったく予想していない事を言われた俺は何と返せばいいか分からず混乱した。
俺は一生懸命考える。
???この子は何を言っている?何で俺と?仲良く??意味が分からない。いや言ってる意味は分かるが何故この子にこんな事言われてるか分からない??・・・ドッキリ的な奴なのか?まあ、何にせよここで了解の返事はしないほうがいいか。
「・・えーっと・・・ごめん。無理」
「うええええ。何でですか?」
「何で無理なのよ!!」
とりあえず悪い予感しかしないから断ったら二人から非難の声が上がったので俺は極力丁寧に説明を始める。
「えーっと!よく考えてほしいんだけど、知らない人からいきなり『仲良くして下さい』って言われて『はい、わかりました。』って言えるか?」
「・・・うっ。それは」
「普通は言えないわね」
「だろ?だから今そっちが言ってる事は断られても仕方がないと思うんだけど」
「・・・でも・・・それでも…仲良くしたいんです!!」
小さい女子はそれでも身を震わせながら引き下がってくる。
何でそんなに俺と仲良くしたいのかねえと呆れていた所に、
「何で断るのよ?こんなに可愛い子が仲良くしてあげるって言ってるのに!」
キレ女のこの一言に俺はカチンときた。
『仲良くしてあげる』・・・何で上から目線なんだ?俺が友達いなくて寂しい奴だと思われてるのか?・・・見た目がかなり可愛いこいつらはクラスでも人気者なんだろう。その二人が友達いない俺が可哀そうに見えて慈善活動的な感じで俺と仲良くしようとでも考えたのか?




