【これで最後】逆ハー部屋担当侍女の日常
第4弾です。最終話扱いです。
メインは侍女と魔術師。
侍女は青いロボットポジション。魔術師はへたれ
それが分かっていれば他は添え物みたいなものです
2022.6/27 不揃いなところを揃えました。内容は変わっていません。
「あれは終わったな」
「もう戻れないだろ」
「いい恥さらしだ」
私はよく耳にする彼らへの嘲笑に少し同情する。
馬鹿やって逃げる道を選んだ代償は大きい。
でも彼らは失望されて自分の役割の大きさにも気づいたはず。
――もう少しだけ、捨てるのは待ってほしいなぁ……あれ、今日はなんだか思考が気弱だ。疲れてるのかな…メンタル最弱の日かも。こんな日はろくな事がなさそう。
***
「君への愛が止まらない」
「お前を想うだけで胸が高鳴る」
「自分が人を愛せると君のおかげで知ることができた」
「君の温もりは僕の冷たい心さえ溶かす」
「……少し顔色が悪いな。ちゃんと休めているか?」
ハーレムは昼のご機嫌伺い中である。
王子、筋肉、鬼畜、変態、の◯太、の順番
「みんなありがとう」
――返事軽いな。
鬼畜(宰相息子)の甘いセリフは貴重なのにもったいない。謙虚さ、初心を忘れてはいけないよ。1つもらったら同じかそれ以上のものを返す。これはママ友社会の荒波に揉まれて得た真理だからね!
「今日は忙しいから挨拶だけですまない。また夜に」
と王太子はローズちゃんの手の甲にキスをする。
昼のご機嫌伺いでローズちゃんに触れていいのは王太子だけ。謎ルールだ。そして今日は珍しく午後の2時間休憩はないらしい。
去り際、ローズちゃんは扉の脇に立ち彼らを見送る。最後に宰相息子が扉を閉めようとして、ローズちゃんが宰相息子の手の甲を人差し指でスルッとなぞった。宰相息子が口の端を少し上げる。
――こういうとこだよね……私もキュンとしたわ
要所要所で決めるから私の悪意も3歩進んだところで2歩下がるんだよね……好きにはならないけど。
「侍女ノ〜ト〜」
待機部屋で青いロボットの真似をしてみた。
日々自ら楽しまないと、寂しい職場なので。
この侍女ノート、決して人には見せられない禁書だ。ハーレムのアレコレがつぶさに記されている。
……スミマセン、単に彼らの情事を壁越しに聞いて、気になる事があればメモしているだけのノートです。
不穏な空気を感じたらノックしてクールダウンさせたり、もちろん事後のお着替えもあるから、常に聞き耳を立てていないといけないわけ。
――仕事だからだよ!?趣味じゃないからね!
で、私は皆が何回果てたか大体知っているし、それもメモしている。たまに泣きたくなるよ?
今は最近元気のない団長息子が気になりノートをチェックしてる。
****
「ご褒美か……」
いまはティータイムに王太子が顔を出したので、お願いをしているところです。
団長息子、実は1週間もためこんでた。
彼は1回がかなり長い。後が詰まってるので途中で譲る羽目になる。それが積み重なっていた。かなりキツかっただろう。
「いいだろう。今日の模擬戦の結果次第で今夜ローズを独り占めさせてやろう」
――ケチか。1週間も我慢したんだから、それのご褒美でよくない? 自分は満足してるからってそれはナイわ。そこは器の大きさ見せてほしい。いつまでもそれじゃあ誰も忠誠を誓わないよ?
結果、団長息子は男を見せた。私も見てたけど惚れそうになった。男の本気、イイね!
一緒に見ていたローズちゃんが終わった瞬間に団長息子に走り寄って抱きつき、一瞬にして場が白ける一幕も。
――せっかく団長が長男にまた目を向けたのに台無しだよ……まぁ本人はデレデレしてるからいっか。良かったね団長息子。
それにしても……模擬戦に裏から手を回して、副団長をぶつけた王太子。ガッカリだよ。クーデターあっても逃がしてあげないからね。
ローズちゃんと部屋へ戻る途中、久しぶりに絡まれた。
「あら、何か臭うと思ったら発情猫が紛れていたわ」
でた。王妃様付きたちだ。あからさまにローズちゃんに敵意むき出し系です。
「獣だから品性のカケラもない」
「小屋から出てくるとはエサが足りないのね」
「騎士団にエサを探しに来たのかしら」
――どうすっかな〜ローズちゃん半泣きだし
「今日はご容赦いただけますか。すぐに部屋に戻りますから」
なんとなくかばってしまった。らしくない。
「あら、あんたもいたの」
「私たちがいじめてるみたいな事言った?」
「くだらない仕事をしてるくせに偉そうに」
「おこぼれでももらってるのかしら」
――いつもなら笑って流せるのに……! メンタル最弱の日にコレは駄目だ……
鼻の奥がツンとして、返す言葉に詰まる。
瞬間、突風が吹き、王妃様付き達がよろけて尻餅をついた。
「すまん。人がいるとは思わなかった。木に向けたはずが人に当たるとは。怪我はないか?」
現れたのは魔術師様。慌てたような顔を作ってみせていた。演技下手だけど。
ローズちゃんは目を輝かせて彼を見ている。
――こういうとこだよね。ヘタレなのにここ1番で決めるんだよ……
「大丈夫です」王妃様付き達は涼しい顔に戻り、服についた土を払う。
「私たちはこれで失礼致します」彼女らはそそくさと去った。
王太子様も一緒にいたようで、キラ目のローズちゃんを無言で抱え、走り去ってしまった。魔術師様にまで嫉妬か。
今夜は団長息子に独占されるし、これから一戦交えるつもりなのだろう。器小さすぎる。
――今日の王太子株は大暴落です。賭けも成立しないな……第3王子に賭けてみるか
残されたのは魔術師様と私。
「男を見せましたね」
一応褒める。
「なんのことだ」
「さすがにバレバレですよ。絡まれていたのを助けてくださったのでしょう?」
「……君が泣きそうにみえたからな。つい魔法を使ってしまった」
「…………それ、はダメですよ……」
「そうだな。軽々しく人に向けてはダメだな」
魔術師様は私の言葉の意味に気づかない。
「ローズ様も惚れ直したと思いますよ」
「そうかな」
「目をキラキラさせていました」
「そうか」
魔術師様の表情は変わらない。いつもならテレテレと笑うところなのに。
「それより、もう大丈夫なのか?」
「……なんの事ですか」
「昼に顔色が悪かったから休めているのかと聞いたのに返事がなかっただろう?」
「…………私に聞いていたのですか?」
「ローズの頰は薔薇色だったではないか。君が真っ白な顔色だったから聞いたのだが」
――なっ…なんなのこの人!? 私をどうしたいの? ホントにそれはダメ!!
「……少し眠れない日が続いたので疲れていたかもしれません」
「そうか。無理はするなよ」
「お心遣いありがとうございます。私は部屋に戻って少し休みますので、失礼いたします」
――今日はこれ以上の会話は無理だ。逃げよう。そうしよう。またいつもの私に戻って仕切り直そう。今日はメンタル弱いからグラグラしてるだけに違いない。これが吊り橋効果ってやつ?違う?どうなの? の◯太のくせになんなの?
それからずっと頭の中が騒がしいままで、仕事はキチンとこなしたつもりだったけど、侍女仲間数人に何かあった?と聞かれた。ポーカーフェイスが崩れていたかもしれない。ハーレム部屋担当失格だ。やっぱり今日はろくな日じゃなかった。
約束どおり、夜は団長息子だけが部屋に入った。
私は仮眠用のベッドに横になる。
団長息子には事後も優しくと伝えた。今日は朝まで呼び出しはないだろう。
ようやく騒がしい思考も落ち着いてきて、 私はへたれ顔の魔術師様を思い浮かべる。
ハーレムメンバーって時点でマイナスイメージだし、ローズちゃんに対して今は嫉妬はない(と思う)からまだ本気じゃない(はず)
まだ後戻りはできる!(きっと)
それに彼は恋人でなく、夫なら理想なだけ。
まだハーレムの成り行きを楽しみたいし、しばらくはこのままでいいや。
楽しむのにも飽きたら侍女仲間にハーレム情報を流して、彼らの性癖に見合った相手を探してもらおう。あげまんなら尚良し。
彼がここに落ちてくるかは分からないけど、私は腰を据えて果報を待つことにしよう。
団長息子の長ーーーい夜をBGMに私は目を閉じた。