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inner world  作者: 蒼羽 桜
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003.君と秘密を分かち合う

 「殿下……俺とあなたの想いが同じと知った今、俺はあなたと共に生きていきたいという願いを持ってしまいました。あなたも……そう願ってくれますか?」


 エアネストが告げた言葉は、口に出してはいけないものだ。

 今まで作り上げてきた、王女としてのアリーシアには、答えることはできない。

 想い合えていると知れただけでも幸せだと……思わなくては。

 それでも、すぐには言葉が出ない。


 「言ってください、殿下。そうすれば俺は、それを叶えるためになんだってできる」


 アリーシアの躊躇いを察して、エアネストは言葉を重ねた。

 それに押されるように、アリーシアの口から掠れた声が零れる。


 「ほんとう……に……? あなたが……叶えてくださる……の……?」

 「必ず」


 短く、はっきりとした言葉。

 自信に満ちたそれに、アリーシアは夢見ることすら諦めた未来を信じたいと思った。

 

 「わたくしは……あなたと、共に生きていきたい」


 願いを言葉にすると、エアネストは力強く頷いた。


 「俺にお任せください。内緒ですよ? 俺はね、ちょっとした魔法が使えるんです」


 その言葉は、にわかには信じられないものだ。


 「魔法!? 魔法なんて、二百年ほど前には使える人もいたという話は聞くけれど……お伽話ではないの?」

 「ふふっ……だから内緒、です。現に今だって、こうして話している俺とあなたを誰も気にしていないでしょう? 周りからは具合が悪そうにそこの長椅子に座っているあなたと、王太子殿下に言われてそんなあなたを護衛している俺がいるようにしか見えていないのですよ」


 茶目っ気たっぷりに言うエアネストの瞳は、嘘をついているようには見えない。

 それに、言われた内容に納得する気持ちもある。

 秘めた想いを瞳の奥に見つけ、それを切っ掛けに言葉にして確かめた、お互いの想い。

 愛しいひとと想い合える喜びに、王女としての仮面を保つことを忘れていたのだから、誰かに見咎められる可能性はあったのだ。


 「あなたがそう言うなら……信じるわ。あなたはそんな嘘をつくひとではないと、信じられる」


 直接言葉を交わす機会は少なかったが、様々な場所で上とも下とも良い関係を築いていることを知っている。

 何より、あんなに綺麗に澄んだ瞳で笑うあなたを、信じている。


 そう告げれば、アリーシアがそれを知っていたことにエアネストは驚いたように僅かに目を瞠り、そして心の底から嬉しそうに、笑った。


 「……見ていてくださって、信じてくださってありがとうございます。だから、これも信じて欲しい。あんな男……あなたに指一本触れさせはしない」


 最後の一言は強く、瞳は真剣だった。

 だから、他の誰が言っても無理に思えるその言葉を、疑いなく信じることができた。

 強く頷くと、エアネストはこれからのことを説明してくれた。


 これからアリーシアを広間のフランツのもとへ送ること。

 その際、彼にちょっとした魔法をかけるという。

 そうすれば、公爵家に入るアリーシアのもとに、フランツが訪れることはなくなること。

 ……それは、今夜からであること。

 アリーシアはこの先も夜は一人になれるため、その時間を見計らって、やはり魔法で手紙を届ける。

 それはアリーシアにしか読めず、一度開いた後に閉じれば消えてしまうらしい。


 「今はとりあえずそれだけを知っていてください。詳しいことは手紙に」


 そう締めくくったエアネストに、アリーシアは迷惑になるだろうかと迷いながらも尋ねた。


 「あなたに、わたくしから手紙を出したいときは、どうすれば届けられるかしら……?」


 そんな思いを吹き飛ばすように、エアネストは嬉しそうに答えてくれた。


 「そうですね……俺宛に書いた手紙を事前に用意するのは危険ですから、俺からの手紙の裏に書いてください。閉じた後にただ消えるのではなく、俺の元に戻ってくるようにしましょう。……あなたから手紙を頂けるとは……幸せだ」

 「解ったわ。……エアネスト。ありがとう……」


 そのお礼の言葉には、様々な想いが込められていた。


 わたくしの想いに気付いてくれて。

 わたくしを想っていてくれて。

 わたくしに、夢見ることすら諦めた未来を信じさせてくれて。

 それを実現すべく、動いてくれて。

 あなたの秘密を教えてくれて。

 わたくしからの手紙が嬉しいと笑ってくれて。


 ありがとう。


 察したエアネストは、甘い笑みで応えた。

 そして次の瞬間、護衛の顔になる。

 それを見たアリーシアも、王女の顔に戻った。


 「顔色も大分よくなられましたね。それでは、夫君のもとへお送りいたします」

 「ええ。付いていてくれて助かったわ、ありがとう。あなたをこちらへ寄越してくれたお兄様にもお礼を言わなくてはね」

 「はい。大変ご心配なさっておいででしたから」


 今まで周囲が見ていた通りの、具合が悪かった王女とその護衛を装い、二人は王太子とフランツのもとへ向かった。


 「フランツ様、席を外していて申し訳ありませんでした。風に当たったら気分も良くなりましたわ。お兄様、ヘルシャフト卿を付けてくださってありがとうございました」

 「ああ、もう大丈夫そうだな。今日は疲れただろう。そろそろ頃合いだ、二人は下がるといい」


 フランツは表情を変えることなく、アリーシアを気遣う素振りも見せなかった。

 それはいつものことなのか、アリーシアも気にした様子はなく、王太子へ辞去の挨拶を述べた。

 エアネストはそんなフランツへの怒りをなんとか抑え、王太子の斜め後ろの定位置へ付く。


 お前の隣に並ぶ愛しいひとを見るのは、これが最後だ。

 愛しいひとに触れることも、そのエスコートが最後になるだろう。


 アリーシアは、俺のものだ。

エアネストに大変都合のいい能力がありますが、それも理由があります。

理由はエピローグにて。

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