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7 決断は深く、決心は重く

 





 七時間目が終わり、その後のHRも終わった今は、もちろん放課後。

 ていうか、月曜日にある七時間目が面倒くさすぎる。部活入ってなくても帰る時間が遅くなる。ニートの敵だわ。いやまず学校行ってる時点でニートじゃねえ。


 それは置いといて、作戦実行の時が来た。

 俺と山口さんとの関係性を深めよう大作戦だ。


 この作戦に至った経緯を簡単にまとめてみよう。

 山口さんと話したいけど話題がないから話せない。でも俺、雄也とは話題を用意しなくても自然と会話できる。それは仲が良いから。じゃあ山口さんにとってそういう関係の相手は誰か。美佳だ。美佳と山口さんなら話題を用意してなくとも、会話の中で自然と話題が生まれてくる。なら、その話しやすい空間に俺が混ざれば俺も山口さんと話せるじゃん。ということだ。


 俺は今とりあえず帰る準備をしている。今日から通常授業が始まり、荷物がバカみたいに増えた。鞄重ェ。

 少し右の方をチラリと見てみる。正確に言うと山口さんの席。

 そこではもう既に美佳との会話が始まっていた。

 つまり、もう既に作戦は開始されているのだ……。って言っても、俺は美佳に呼ばれるまでなにもすることはない。まず、この作戦って結局してることただの会話だかんね!?


 俺がソワソワしていると、その時が来た。


「英斗ー。ちょっと来てー」


 美佳が俺を手招きしながら呼んだ。

 俺は何も知らないフリをして、『え?なんだろ。俺に用事?』的な反応をする。まあ、会話の話題は本当に何もしらない。でも俺が呼ばれるという時点で俺に関わる話題だ。


 俺は席を立ち、山口さんの席へと向かう。別に小走りで急いだりはしない。ゆっくり歩いている。

 山口さんを見てみると、わちゃわちゃと焦っている。目線が泳いでいて、落ち着きがない。


「どした?」


 俺は俳優顔負けの名演技で尋ねる。この三文字に俺の全演技力がかかっている。


「英斗って去年菜月と文化祭の実行委員してたの?」


 美佳は何でもないように俺に聞いてくる。

 ふむ。この子もなかなかの演技力だ。


「おう。やってたぞ」


 そう言って俺は山口さんの方へ視線を向ける。山口さんは美佳の方を見ている。美佳だけを見ている。あれだけ泳いでいた視線が美佳の存在の一点に凝縮されている。俺が話してるんだよォ!


「そーなんだー!じゃあ二年連続このペアか!」


「そうだなぁ。まあ、忙しすぎるわけでもないし、去年もやってるってことで仕事内容ある程度分かってるから、そこまで去年と変わることはない、よな?」


 最後の二文字だけで会話の主導権を山口さんへと渡した。もう逃がさねえぜ。


 急に話を振られた山口さんはビクッと肩が揺れた。そして俺と視線がぶつかる。そしてまた視線を逸ら――さなかった。


「そうだね!期間も短いし、大丈夫だと思うかな!」


 山口さんは肩に乗る黒髪を揺らしながら、ハキハキと元気に話した。

 こんな山口さんは初めて見た。というのも二年生になってからだが。そして去年の様子はあまり覚えていない。

 今まであんなにオドオドしていたのに、さっきはしっかり目線を合わせて会話することができた。初歩の初歩に過ぎないが、それでも大きな進歩だと思う。


 たが俺は同時に、人間関係とはこうして作り上げていくものだったのかとも思った。

 そもそも『友達』なんて、定義のないあやふやな関係でしかない。それ故に人間関係とは、勝手に築き、気づけばそれに至っているものなのだ。

 雄也やその他の仲のいい男子だって、俺は友達になろうと思ったことはない。普通に過ごしていれば勝手にできているようなものだった。そんなものなのだ、『友達』なんて。


 じゃあ今こうして、関係を築こうと自発的に行動しているのは何故なのか。相手が女子であるからだろうか。それは違う。

 現に俺は美佳と『友達』だ。なろうとしてなったものでもない。なろうと思っていたわけでもない。誰かがそう決めたわけでもない。それなのに『友達』になれているのは、それが定義されていない、形だけの関係だからだ。何か関わりさえあって、『友達』だと思えばそうだし、そうじゃないと思えばそうじゃない。それは女子だろうと変わらない。


「そっかー!じゃあ今年も二人で頑張ってね!」


 意図して関係を築こうとする。その行動を取るのはきっと、本当に欲しいときだろう。

『友達』にもなれていない状況で、その人物と『友達』になりたいと思う。そんな状況って、よくあるようであまりない。

 そうだとすれば、きっと今の状況は多くない例外だ。


「うん!頑張るよ!ね、木枯君?」


 山口さんが首を傾げて笑顔で聞いてくる。

 俺が彼女を知っている。彼女の抱えているものを。彼女が持っている『それ』が形作った、俺への好意を自覚していて無視なんてできない。だからこうして、行動に移した。


「おう!頑張ろうな」


 再び繋がることなんて本当はなかったはずだ。薄っぺらい繋がりは一年経って、消えていくはずだった。


 俺が彼女からの好意を知らなかったらどうなっていただろうか。彼女から動いたのだろうか。

 きっとそうではなかった。そうではなかったら、消えていた。抱えるものを、放り投げるでもなく、潰すでもなく。彼女の好意は自然と、霧のように消えていくはずだったのだろう。


 これも等しく、あやふやな関係だというなら、そうではないものにする。

 だが、そうしていくのは俺じゃない。彼女だ。

 俺には、彼女があやふやな関係から脱しようとする、そうしやすい環境を作ることしかできない。


 ――『それ』を知らない人間が、意図して得て良い関係じゃないから。


 それはたぶん不誠実で、正しくない。その結果として得ても、ろくに続いたりなんかしないだろう。


 だから、『それ』を知っている彼女が動く。動かなければいけない。


 今回の作戦で、彼女の背中を押してあげれただろうか。

 できたなら、俺も歩きださなければ。


『それ』を知らない人間が意図的に得てはいけないのなら。


 ――俺は『それ』を知る。それが目的だ。


 その目的のために、彼女と関わる。

 知らない『それ』を、知っていた『それ』を、思い出すために。


 ――思い出して、その先の関係へと辿り着くために。








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