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2 知ってて見てたらそうとしか思えない

 




 時刻は午前九時。一時間目は八時五十分からはじまるので、ちょうど十分が経った頃。


 今日は学校が始まってからまだ二日ということで、授業はない。午前中に帰れる。

 普段、学校から帰るのは帰宅部でも四時五時くらいだから、こういう午前の内に帰れる日は空気が新鮮で、爽やかな気分になる。

 ああ、早く帰りたいなぁ。


 と、頬杖をつきながら俺は教室の窓の方を見ていた。

 今はHRの時間。


 そんなところで、この教室の構図を説明しよう。


 まず、席は基本横が六列、縦が七列。だが、窓側の列と廊下側の列のみ、一番前の席が他の列の縦二列目の位置にある。つまり両サイドは縦六人。よって、六掛ける七引く二で全体四十人のクラス。

 現時点、座席は名前の順に並んでいる。


 まず俺の席は、窓側の列から数えて二列目の一番後ろの席。周りは話したこともない人ばかりだ。

 正直寂しい。


 続いて雄也の席。雄也は俺と同じ列の前から三番目の席。名前順的には割かし近い方だが、俺との間には三人もの壁がいる。授業中とか話したりできない。


 そ、そして山口さんの席を紹介しよう。そうだぜ?山口さんって俺の事好きなんだぜ?

 山口さんは名前の順が一番最後だ。よって、必然的に廊下側の一番後ろの席となる。

 いいよね、名前が山田とか渡辺とかの人って。クラス始まってすぐは席が後ろの方って保証されてるんだもん。


 ちなみに、天海さんは窓側の一番前。まあ二~五列目でいう前から二番目の位置だ。

 逆に名前があから始まる人は理不尽に前の席にされるということで、ちょっと可哀想。

 俺はランダム性高め。


 といったところで、自分の世界に浸っていた俺の耳に浅田先生の高い声が届く。


「じゃあ、今からは委員会を決めたいと思いまーす」


 手をパチンと合わせ、先生は笑顔で皆に呼びかける。

 うーん、やっぱり可愛いな。


「どんな委員会があるかざっと教えるねー」


 と、先生は黒板に委員会の名前をチョークで書き出した。


 学級委員、体育委員、保健委員、風紀委員、図書委員。それぞれ男女一人ずつの二人組でないといけないらしい。

 男女で二人組とか青春の匂いがするわぁ。クサッッ!!


 そして、


「後は、体育祭実行委員と、文化祭実行委員も男女で二人ね。どれにもならなかった人は教科係ねー」


 俺は去年、文化祭実行委員になった。

 特に理由といった理由はないが、なんとなく委員会には入っていた方がいいと思ったのと、他の委員会と比べて期間が短いってのが大きかった。


 そして、俺とのペアは、山口さんだった。

 その頃俺の事が好きだったかは分からないけど。

 その時の俺は特に何も考えずやることだけきちんとやってたと思う。山口さんとの思い出なんかはこれっぽっちもない。

 山口さんと俺は、委員会で必要な会話くらいしかしないような関係だった。


「じゃあまず、学級委員やりたい人ー?」


 先生が手を挙げてみせ、立候補者を促す。

 そして、誰も手を挙げないまま十秒ほど静寂が続いた。


「い、ないのかな?じゃ、じゃあ、体育委員やりたい人ー?」


 浅田先生は学級委員の立候補者がいないことが意外だったのか少々困惑している。

 そして学級委員を飛ばし、次にいく。

 体育委員はすんなり男女一人ずつ決まった。

 二人とも見た感じ明るいっぽくて体育会系っぽいやつだ。名前は、男子が浜口、女子が石田、らしい。先生が黒板に名前書いたからわかっただけで、二人とも俺とは接点無し。


 その後も順調に保健委員、風紀委員、図書委員とメンバーが決まっていった。


「じゃあ次はー、体育祭実行委員やりたい人ー?」


 すると俺の視界に、真っ直ぐと伸びる腕が見えた。

 俺の席の前の前の前の前の席。って雄也じゃねえか。


「はーい。じゃあ男子は鎌田君ねー。女子でやりたい人はー?」


 今度は俺の視界の端で何かが動くのが見えたので、左斜め前を見る。

 あれは、天海さんである。

 天海さんは笑顔で元気よく挙手していた。


「はーい。天海さんねー」


 あの二人って仲良いのかな?

 ふと頭に過ぎった。まあ、去年も同じクラスらしいし、雄也は天海さんを下の名前で呼んでいた。ちぇっ、イケメンかよ。


「次ー、文化祭実行委員やりたい人ー?」


 ついにきた。

 去年やっているので、大体やる仕事は分かっている。楽と言うほど楽ではない。


 俺はゆっくりと腕をあげた。


「じゃあ、木枯君に決まりねー」


 正直、やってもやらなくても大した差はないと思う。いやむしろやらない方がいいのかもしれない。文化祭の時期が近づけば、ある程度忙しくはなるし、帰るのも遅くなる。


 それでも俺はやろうと思った。それは、この学校生活において暇を持て余しすぎるのは、何か勿体ない気がしたからだ。


 きっと俺も、青春というものに何か思うものがあるのだろう。

 だが、それでも、青春はクサい。

 足の親指の爪の裏の黒いアカの如く。


「女子でやりたい人ー?」


 俺の眉がピクリと動いた。

 だってこれ、やりたい人いなかったら俺嫌われてるみたいじゃん。えー、やりたいけど男子がー、とか思われてないかな。

 めでたく俺のパートナーとなるのは誰なのだろうか。


「よし、じゃあ女子は山口さんねー。これで委員会は、学級委員以外決まったねー」


 学級委員だけが決まってないっていきなりクラス崩壊寸前か?

 とか、そんなの関係ない。


 や、や、山口さん??

 と思って、俺は右を向く。

 俺は二列目の一番後ろの席。山口さんは六列目の一番後ろの席。三人を挟んだ先にいるのは、


「ふんす!」


 全力で腕をあげている山口さんがいた。

 右手をビシッとあげていて、左手は机の上でぐっと拳が握られていた。


 これって、俺が立候補したから……か?


 でももし、そうだとしたら。


 そうなのだとしたら、それは、やっぱり。

 俺は今、少し実感したのかもしれない。


 そう思うと、ちょっと笑えた。







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