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1 俺の事を好きな人がいるらしい

 



 俺、木枯英斗(こがらしえいと)は、県立の高見石高校に通っている。


 四月になり、新年度。進級した俺は今、二年五組の生徒として在籍している。

 ちなみに部活には入っていない。理由?家でニートするのが楽しいからだよ?


 去年の一年間は普通に過ごして普通に終わった。

 俺が一年だった頃のクラス内カーストは真ん中だ。

 クラスの中心、明るいヤツばっか集まる上位層でも、休み時間も一人で読書したり、友達と全く話さないような下位層でもない。ど真ん中。

 まあ、正直下位層でもよかったとも思わんでもない。楽そうだもん。


 休み時間はなんとなーく仲のいい友達のところに行き、なんとなーく話して、男子とはそこそこ上手いことやっていた。

 女子には、自分から話しかけることはほとんどないが、たまに話しかけられることくらいはあった。

 別にコミュ障ではないので、話しかけられたとしても普通に会話できていた。


 ちなみに俺的には自分の顔は悪くないと思っている。イケメンとまではいかなくとも、ブスじゃないと思う。お風呂上がりとか、鏡見たらまじイケてる。うん。


 そんな俺氏。今世紀最大の情報を昨日聞きつけた。


 そう。


 ――このクラスに、俺の事が好きな人がいるらしい。


 ちょっとにわかには信じられないのだが、真実ならそれは純粋に嬉しい。


「英斗ー。はよー」


 と、そんなところでやって来たのは雄也。相変わらずモテていない。当たり前か。


「おう、はよ」


 今は朝八時十分。うちの学校は八時半からSHRが始まる。ので、時間的にはまだ余裕がある。


 俺は昨日、こいつから衝撃的な情報を得た。

 昨日は特に深く聞いた訳ではないので、それ以上もそれ以下も知らない。

 てことで、聞いてみる。


「なあ、お前昨日言ったよな」


「何を?」


 何も心当たりがないように聞き返してくる。


「い、いや、あの、山口さんが、その、お、お、俺の事を、す、す、好きって……」


 ちょ、自分で言うのまじ恥じぃ。穴があったらハイリターン。なにそれどういうシステムだよ。


 山口さん。フルネームは山口菜月。俺の事が好きらしい人物。

 俺との接点としては、去年同じクラス。一緒に文化祭実行委員として活動した。くらいだ。


「ああ、言ったな」


 雄也は思い出したように頷く。


「それって……誰情報?」


 まだ嘘か誠かの判断を出来ていない。そもそもそれが正しい情報という根拠がない。もし何かの手違いで勘違いとかだったら、俺死ぬから。


「えーとな、俺の去年から同じクラスの女子の友達で、天海美佳(あまみみか)って子がいるんだけど、そいつ、山口さんと結構仲良いらしくてさ。山口さん本人が美佳に、美佳が俺に、って感じ」


 天海美佳。確か今年同じクラスだ。

 てかこいつ、さりげなく下の名前で呼んでたな。こんちくしょうイケメン野郎が。モテないからいいけど。


「なるほどなぁ。本人が言っちゃってる時点で本当っぽいな」


「だな。まあその本人を除いた三人以外は誰も知らないと思うから安心しろよ」


「お、おう」


 まあ、てことで真実らしい。

 まじか。俺の事が好きって言葉にしたらなんかやべぇ。山口さん、男見る目なげふんげふん。……見る目しかねぇな。


「お、噂をすれば」


 雄也が教室のドアの方を見て、ニヤニヤしながらそう呟いた。

 俺も見てみる。


 教室に入ってきたのは、他でもない、山口さ――と思ったけど、誰?


「あの子が天海美佳だよ」


「そっちかい」


 天海さんは、茶色がかった髪を横で束ねたいわゆるサイドポニーだ。なんか見た感じは元気な女の子っぽい。


 てか別に今重要じゃないし。噂をすればって、噂の主はその人じゃないんだよ。


 と、思っていたら、


「――あ」


 思わず声が出てしまった。

 今教室に入ってきたのは、間違いなく。

 そう、とんだ物好き、じゃなくて神がかったセンスの持ち主、山口菜月その人だ。


 黒髪で肩に乗るくらいのセミロング。その髪にはくしゅっとパーマがかかっている。


 山口さんはそのまま自分の席へ直行。

 机の横にかけた鞄から筆箱を取り出し、机の上にポンと置いた。

 今日はまだ新学期二日目ということで、ほとんど持ち物はない。


 今度は鞄から水筒を取り出した。

 机に置くわけでもなく、キュッキュッと音を立てながらその蓋を開ける。ポンッって開くタイプじゃなくて、蓋を回すタイプね。


 そして、水筒の飲み口に唇がつく。そのまま水筒を傾け、その中身が口内へと流れていく。それをゴクゴクと飲む。飲む度に喉が上下に動いて――。

 って俺は何観察してんだ。いかんいかん。もうちょっと見よ。


 やがて満足できる程に飲み終えたのか、蓋をまたキュッキュッと閉め出す。

 と、


「あ」


 ふと目線が合った。山口さんの顔は水筒の方に向いてるが、目線だけが俺の方を向いている。

 そんな時間が三秒ほど経ち。


「――っ」


 状況を理解した山口さんは、急いで視線を逸らす。

 自分のスカートの上で、水筒を両手でにぎにぎしている。

 目線は下を向いていて、こっちを見ないように意識しているだろうか。

 顔は、なんか、赤い、と思う。

 あ、耳まで赤くなった。


 ――そして、俺は思ってしまった。



 あー、これ、あれだわ。俺の事好きだわ。





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