狂った住民
ネイミーにとって、頭の悪そうな男…凹のヘマも、如何にも真面目そうな凸のフォローも、周囲が爆弾で寝てしまうことも、そして、お気に入りの女の子を担いで逃げることも…いつも通りのことだった。はずだった…。
「はへっ!?」
だが、この街の住民はおかしい。普通なら、この現場から逃げるか、どこか家にでも隠れてしまうはずなのだが、何故か? ここの住民は必死の形相で突っ込んでくるのだ。男も女も老人までも…。
街の住民には、多くの冒険者が紛れ込んでいる。そしてこの街の住民なら知っている。四ツ子の危機は、世界の危機なのだと。
市場に大量の素材が流れ込み価格が下落した理由を調査すべく、聞き込みをしていた次女のトーラは、街の騒動にいち早く気がついた。騒動の中心には、長女のサーチャいて、マッチョなお姉系男性魔道士に抱えられていた。次女のトーラは、焦らず状況の確認を行う。
まずはマッチョなお姉系男性魔道士の周りに倒れている街の住民だ。ありがたい事に長女のサーチャを救出するべく、捨て身のKAMIKAZEアタックを繰り返している。しかし、マッチョなお姉系男性魔道士が、住民が近づくと爆弾を投げつけ、住民を倒していた。
爆弾である以上、恐らく所持数は有限なのだろうが、現場に何か違和感を感じる。倒れている人の衣服が、燃えた様子も破けた様子もない。それどころか爆弾で吹き飛ばされた様子もない。つまり? あの爆弾は…毒ガスか睡眠ガス? 残念なことにマッチョなお姉系男性魔道士は、恐らく仲間であろう人物まで倒してしまっていた。うん? 起こしているのか…な? だとすれば、爆弾は睡眠ガスだろう。
マッチョなお姉系男性魔道士には効果がない? マスクもしていないのに…。
そこに騒ぎを聞きつけた三女のグラビィと四女のハーヴァが近づいてきた。
「ねぇねぇ、何の騒ぎ?」とお花畑なグラビィと「サーチャっ!?」と洞察力が一応あるハーヴァ。そして、次女のトーラは、二人に状況を説明する。すると四女のハーヴァは、何を思ったか、薬草店に駆け足で戻って行く。
「そこのおじさん。大魔導師グラビィが相手です!!」
「うん? 何かしら? あなたのような…チンチクリンには用は無いわぁ」
「な、何をっ!?」と、グラビィは樫の木の大杖を振り上げるが、マッチョなお姉系男性魔道士に抱えられたサーチャが目に入る。えっ!? 「えいっ」ってして…サーチャまで、ペタンコになったら…。そもそも…人間を「えいっ」ってしたことないし…どのぐらいの力で…やれば? あっ! サーチャを引っ張って助ければ…。あっ。でもでも…やっぱり…人間に魔法かけたこと無い…。でも、サーチャが拐われちゃう。助けないと…。
人を殺めたことがないグラビィは、覚悟が足りなかった。ぐぬぬぬ…と、しばらくマッチョなお姉系男性魔道士を睨みつけていたグラビィ。その足りないオツムは、キャパシティを超えた…。
そして、泣きながら杖を大振りして、マッチョなお姉系男性魔道士に殴り掛かる。
「グラビィ…。待って…」
次女のトーラは、三女のグラビィを制することができず、舌打ちをした。案の定、三女のグラビィは、睡眠爆弾で、スヤスヤと気持ちよさそうに…地面に寝っ転がっていた。
「あっ…遅かったか…」
四女のハーヴァは、薬草店から戻ってきた。頭の回転の早いトーラは、「睡眠耐性の薬出来たの?」と聞くと、「勿論っ!」と元気よく四女のハーヴァが答えた。
睡眠耐性の薬を飲み干すトーラは「反撃と行きますか?」とニヤリと笑った。