挨拶回り
本日は、四つ子揃って、お世話になった街の人たちに挨拶回り。
まずは物心付いたときから、ずっとお世話になっているアパートの大家さんからだ。グラビィは、いつも不思議だなと思っていることがある。一体誰が家賃を払っているのだろうかと? 大家さんに聞いても、「それは…契約時に内緒にと言われているから…」と、教えてくれない。またサーチャ達は、「考えても無駄よ」と思考停止状態だ。
挨拶に関しては、基本的に次女のトーラにおまかせだ。トーラは街の噂に誰よりも詳しくて、おしゃべり好きな女の子。どんな相手にも合わせて話せるコミュニケーションマスターだ。長女のサーチャは上から目線だし、四女のハーヴァは人見知り、そしてグラビィは…話しにならないらしい…。
どんどん行こう! 次は、グラビィ達を育ててくれたローズお婆ちゃんだ。でも残念な事に…。昨年、病気で亡くなってしまったのだ。お婆ちゃんには、本当の子のように育ててもらえたと思う。やばい…。思い出したら、悲しくなってきた…。お婆ちゃんの娘のアイルさんに挨拶を終えると、そのままお婆ちゃんの眠るお墓に向かった。
その足で、今度は、事ある毎に後ろ盾になってくれたシルフレーゼ男爵にご挨拶!! 不思議なことに、ある日突然、男爵は、グラビィ達のアパートに使いを寄越し、グラビィ達の後ろ盾になると宣言したのだ。そして、自身の息子たちよりも、なぜかマカ家に尽力を注ぐ不思議な男爵として有名であった。だが息子たちは、何一つ文句を言うこと無かった。一般的な話だが、次男や三男は、爵位を持てずに自力で仕事を見つけるのだが、なぜか…この男爵の息子たちは、領主オウルバンズに気に入られ、男爵の爵位を授かっていた。不思議だ。
そんでもって、シルフレーゼ男爵は、二日後に会うであろう謎の人物との顔合わせの際に立ち会うと言い出したのだ。二日後に何があるかと言うと、父の残した遺書には、グラビィ達が16歳を迎える日、父の友人たちが迎えに来るから、その人たちと共に生きなさいと書かれていたのだ。
「私の他に、領主オウルバンズ様も、別れの挨拶を兼ねて立会に参加するのでな。よろしく頼むぞ」
「「「「な、な、なんで? 領主様が!?」」」」四つ子が綺麗にハモる。
「家族会議をしますので、しばらく待ちなさい」と、上から目線で長女のサーチャが宣言し、四つ子は部屋の角に移動する。
「わ、わ、わ、私は…まだ死にたくないよ!?」
四女のハーヴァはビビりまくっていた。それには理由がある。シルフレーゼ男爵が、無用なトラブルを回避させるために、他の貴族に近づけさせまいと、事ある毎に…「貴族などのお偉いさんに無礼を働けば、不敬罪となり…即死刑だぞ?」と脅していたからである。涙目のハーヴァだ。
「う〜ん…。でもさ、ある意味ね。私達は何処の誰と会うのかさえも知らないんだよ? 私の情報網を持ってしても調べられなかったし、もしかしたら、すっごく悪いやつかも知れないよ? そんなとき…男爵や領主様がいてくれたら…心強くない? 大抵の奴等なら、イチコロじゃないの!!」
次女のトーラの提案には一理あると全員が頷き、「来るなら来なさい」と長女のサーチャは上から目線で回答した。
シルフレーゼ男爵の屋敷から大通りへ出ると、はぐれゴブリンのコアを売りたかったことを思い出す。
「まぁ、後はハーヴァの薬仲間に挨拶するだけだし、その場所も市場だから。ついでに寄っても良いわよ?」
同業者からの嫌がらせが多いハーヴァは、引きこもりマスターであり、当然、個人別の挨拶も出来ていなかった。ここは四つ子の四姉妹の結束力を見せるときだと、全員でハーヴァをフォローする。それに長女のサーチャ自身もはぐれゴブリンのコアを売りたかったのだろうとグラビィは思っていた。
魔物のコアを専門に扱っている店舗に買い取りをお願いしたのだけれど、何故か昨日、大量のコアが持ち込まれたらしく、買取価格がありえないぐらい下がっていたのだ。ゴブリンのコアだと、宿代一泊分と朝昼夕の食事分ぐらいでるのだが、宿代のみぐらいの価値しか無かった。
「おかしいわね。そんな情報知らないわよ? これは調査するしか無いかしら?」
「待ちなさい。今日は別行動なしよ。それに調べなくても問題ないでしょ?」