大魔導師の出陣
「お詫びにさ。この街の…近くの森でしか採取できない”月隠れ草”を採取して来てもらったらどかしら?」
マークス探偵事務所の送別会から帰ってきた。如何にもできる女っぽい服を着込んだ次女のトーラが、この惨状を打開するべくして、四女のハーヴァに提案する。
「ぐっすん…。うん、それでいいよ…」
とても優しい性格の四女は、これ以上、長女のサーチャを困らせてはいけないと、必死に泣き止もうとしてのだが、7歳の誕生日に貰った熊の絵が描かれたマグカップが可哀想だと、気持ちの整理がつかなかったのだ。
何も出来ずに、ただ行く末を見守っていたグラビィは、ちょこんと椅子から降りて、引っ越しのための荷物整理に戻ろうとしていた。
「グラビィ? 夕飯はまだなの?」
「えっ? トーラ、食べるの? 送別会だったんでしょ? もう片付けちゃったけど…」
家事などは全て当番制になっていて、本日の夕飯の当番は、グラビィであった。
「食べないと言ってなかったわよね? 勿論、今すぐ出せとは言わないわ。待っているから作ってくれるかしら?」
トーラは完全に酔っていた。そりゃ、アレだけ赤くなった顔と、部屋に入ってきてから、ずっと酒臭いので、誰が見てもわかるのだが…。”絡み酒のトーラ”と言われるだけある。うざい…。
そもそもグラビィ達四つ子は、まだ16歳になってもいない未成年。そう丁度、グラビィ達が街を出て行く、その日が誕生日で成人式だった。
そんな事が昨日あって、目の前にいるサーチャは、グラビィに”月隠れ草”を採取して来いと言っているのだ。
「えっと…。近くの森って、”常闇の森”?」
「そうね。魔物も出るでしょうけど、大魔導師グラビィなら大丈夫でしょ?」
そんなグラビィは、マカ家の三女。【引力】の魔法を使う。そう! 夢は大魔導師なのだ!! グラビィは、チョロイ。ちょっと褒めると浮かれポンチモードになり、なんでも安請け合いしてしまうのだ。
「ふっふふ〜ん。サーチャはわかってるねぇ! そんじゃ、ちょっくら行ってくるねぇ〜」
『作曲:グラビィ』のトンデモ音痴な鼻歌を歌いながら、グラビィは街の外にある”常闇の森”へ向かうのであった。
自宅に戻ったサーチャにハーヴァは、「サーチャが採取しないと意味ないじゃない?」と、ツッコまれ、グラビィの後を追い”常闇の森”へ向かう。しかし、サーチャは、おNEWのレイピアで魔物をグサグサと刺したい欲求もあったので、一石二鳥か!!と、何だか得した気分になっていたのだが、やはりハーヴァに怒られたことが、ボディ・ブローの様にジワジワと心を追い詰め、ウルウルと涙目に変わっていく。
さて、マカ家の三女であるグラビィが本作品の主人公である。グラビィの【引力】の魔法は、グラビィが認識する物を引っ張るだけの魔法である。しかしながら、このショボい魔法をグラビィは、努力と忍耐の末、かなり使える? 魔法に仕上げていたのである。
ちなみに、この世界の魔法の常識であるが、魔法が使える者は、魔道士の血を受け継ぐ者のみで、使える魔法は、一人一種類のみだ。しかも、どんな魔法が使えるのかは、12歳にならないとわからない。なので、攻撃に使える【火炎】の魔法や【回復】の魔法などが使えると、そりゃ…あっちこっちから、引く手あまたであり、人生スーパー・イージー・モードなのである。






