(4)
怪盗シーフは結局……。
「じゃあこうしない?私と一緒に片付けを手伝ってくれたら、宝を渡すっていう」
「却下」
「えっどうして?」
「あのなぁ、俺は怪盗なんだ。本人の承諾ありで受け取ったら、それは贈り物やプレゼントと同じだろ。怪盗の名折れが過ぎるから却下」
「どうして?欲しいから取りにきたんでしょう?それをどういう方法で手に入れても、嬉しいんじゃない?」
「……これは、そういう生き方をしてきた奴らにしか分からないんだよ…」
名前が決まっていない女は分かりやすく意気消沈。シーフもこのままでは埒が明かないと察した。速攻で却下したものの、選択肢はこれしかなさそうだ。
「…この家が、人を呼べるぐらいまともになったら俺は出て行く」
「どういうこと?」
「だから、その…片付けを手伝ってやるってことだよ」
「本当!?ありがとう~助かる~!!」
「ほらもう絶対そっちが本命じゃん!!聞くしかねぇなって思っただけだよ!その代わり、衣食住の保証はしてもらう」
「衣食住?」
「俺は決まった場所に帰るわけでも、安定した食事が取れるわけでもないからな。ここの片付けをするっていうなら、衣はともかく、食べ物と住居の確保をしたい」
「食べ物と住居……」
……待て。ここまでの流れで分かるぞ。不安になってきた。
「私あんまり外に出ないから…」
「そういや出入りもなかったしな。食事どうしてんの?」
「お湯があるから…」
「カップラーメンかぁ…」
「一年に一回、送られてくるのよ」
「誰から?」
「ゆ、有志の方から…」
「なにその怪しい経由…。え?てことは毎日毎食カップラーメンなの!?」
「そ、そういうことになるわね…」
「は!?一年に一回届くって言ったよな!?何個届くってこと!?」
「い、一日二食程度だから……」
「……700個以上!?」
「……よく生きてると思う」
シーフと女は、現実的に考えてお互いヤバイと思い、何かしら買ってくることにまとまった。
「住居、住居はここの家のまともな部屋を貸してもらえればそれで」
「ないかなぁ……」
「ないの!?」
「ゴミ溜めって訳じゃないんだけど……寝るスペースがないというか」
「……部屋があるならそこだけ俺が片付けておこう」
「そしたらその部屋で私が寝るわ」
「なんでだよ!? 俺が寝る所を確保したいのに!」
「そっちのが綺麗そうだし……」
シーフと女は、掃除機などの掃除グッズを改めて探すことにした。家の中に見つからなければ(もしくは探すことも叶わなければ)買うということで。
「じゃあ今日からよろしくね、怪盗シーフ!」
「…あ、あぁ、こちらこそ?」
「ふふ、怪盗にこんなこと言うなんて初めて」
「俺も初めてだよ。忍び込んだのがバレたどころか、そこの家がゴミ屋敷で、しかも家の中見られたくないから警察にも通報しないなんて。お前、やっぱり不思議」
「そうかしら?」
本の山を壁際に出来るだけ寄せて空間を作った。真夜中なのに二人とも眠くない。ギャアギャア言い合っていたせいで、目が覚めたのもある。
「あとさぁ」
「なあに?」
「やっぱりお前の名前知りたい」
「だから、決まってないのよ」
「決まってないってことあるか?生き物や物には生まれたときから名前があるだろ?」
「生まれたときは名前はないものよ。その後に誰かがつけてくれるから」
「てことは、お前は名前をつけてもらえなかったのか?」
「デリカシーのない人ね。まぁ、そういうことにしておくわ」
「でも名前はあるべきものだ」
「私は何も気にしないから、好きにして」
「スキ」
「……好きにしてって『スキ』って名前にしてってことだと思ったの?違う違う。あなたの好きなように呼んでってこと」
「!! そ、そうか、何言わすんだよ!!」
「ほとんど自爆じゃない、ふふふ」
「嬉しそうにしやがって……、じゃあ、『ニーナ』」
「ニーナ? 素敵な名前ね。あなたと真ん中がおそろいね!シーフとニーナ…。パートナーみたい!」
「出来るだけ早めに解消できるよう頑張ろう」
そして怪盗シーフは、ゴミ屋敷にご厄介になることとなった。
おしまい、かもしれない。
キリのいい所まで書けました。
とりあえずここまでということで。
読んでいただき、ありがとうございました。