(3)
怪盗シーフは家主と良いコンビ?
「要するにこの家はゴミ屋敷だったのか……」
ゴミ屋敷に忍び込む怪盗がどこにいるんだろう。というか、思い返してみると、自分のやっていることは泥棒に近いのでは?予告状出してないし。でも泥棒もゴミ屋敷にゃ忍び込まないよな。
女はまだ怒っていた。
「もう!ゴミ屋敷って言わないで!」
「だってそうじゃねえか!いらないんだろこれ!」
「いらなくはないの!いつか使うの!」
「『いつか使う』は使わない!」
「そんなぁ……せめて片付けが出来れば……」
と、救いを求める眼差しをシーフに見せてくる。逃げることも盗むことも出来なくなってしまった。シーフは頭を掻いて、壁に寄りかかった。その壁は本の山ではなかった。
「それは一旦、置いといて。お前は誰だよ」
「私?私はここの家に住んでいる者よ」
「名前は?」
「名前?私の?」
「俺は名乗っただろ」
「怪盗シーフ、だったわね」
「…!」
「な、なぁに?違った?」
誰かから名前を呼ばれるなんて、いつぶりだろう。
こんなにも過剰に反応する自分がおかしかったが、嬉しい感情は抑えられなかったらしく、ゆるんだ表情を見られた。
「そう!俺の名前は怪盗シーフ!」
「間違ってないじゃない、カッコいい名前ね」
「そ、そうか!?」
「ええ、怪盗シーフード!」
「誰が海鮮だ」
上がったテンションを引きずり下ろされた感。警察にも言われたことないぞ。女は「冗談冗談」と自らのボケにウケている。
「で!お前の名前は!?」
「名前はないの」
「は?」
「決まってないの。誰にも呼ばれて来なかったから、絶対必要でもないし。私も知らないのよ」
「…じゃあお前が二年間探してる物って…名前?」
「そんなお洒落な物じゃないわ」
「アクセサリーとか」
「身につけるものじゃないわね」
「写真」
「飾るものでもないわ」
「…財布?」
「流石に失くさないわ。でも、そうね、持っていたいかな」
本題をどんどん置き去りにしている気もするが、シーフは自分の気になったことを聞きたかった。分からないものを分からないままにするのは、シーフは嫌だったのだ。
「ふーん…それがこの家の宝?」
「え?違うわ、この家の宝と私の探している物は別」
「こんな家にも、やっぱり宝はあるにはあるんだな」
「! 謀ったわね…」
「謀ったつもりないけど…」
「ともかく!あなたにはここに残ってもらって、私と一緒にこのゴミを片付けて欲しいの!」
「お前もゴミって言ってんじゃん」
「いちいち揚げ足とらないで!」
「俺がここに残る義務はない!」
女は本当に警察に言うつもりも、捕まえて閉じ込めておくつもりもないようだ。だからといって、シーフは怪盗業を休んでここの掃除屋になるつもりもない。
(俺には、やることがあるから…)
「じゃあこうしない?」
「ん?」
「私と一緒に片付けを手伝ってくれたら、宝を渡すっていう」
続くかもしれない
あと少し書きたいなあ。