(2)
怪盗シーフは家主と出会ってしまった。
声の主は女だった。携帯ランプを手にして、夜だから寝間着姿で、顔に垂れた横髪を耳に掛けながら、不思議そうにシーフを見ていた。
「あなた、お友達?」
「まさか…。友達が真夜中に地下から出てくると思うか?」
「それは…心当たりがないって言ったら嘘になるけど…」
嘘になるんかい。
真剣に考え込む女の、現状を理解していないのんびりした喋り方に、シーフは半ば呆れながらそう思った。
「っていうか、あなた誰!?」
「遅い!」
「泥棒?」
「あ~…やぁ…仕方ないな…」
不法侵入した人間が自分から名乗るなんて聞いたことないが、聞かれたことにはちゃんと答えるのがシーフだった。女に本を避けてもらい、服についた埃をパンパンと払った。立ち上がり、目線を合わせて改めて自己紹介する。
「俺の名前は怪盗・シーフ。ここの家の宝を盗みに来たんだ」
「怪盗…シーフ…?怪盗怪盗って2回言ってるわよ」
「違う!いや、厳密に言えば違くないんだけど…」
「どうしてこんな家に?」
「だから、宝があると思って盗みに来たんだ。豪邸だし、人の出入りも少ないみたいだし、窓から部屋の中が見えなかったから、きっと何か隠されてるんだと思って…」
「あっ…あぁ~…それは…そうねぇ…」
女は突然動揺した様だった。普通、知らない人が家にいた時点で動揺や混乱するものだが、何かいけないスイッチを押したような…。おかしな女だったが、姿を見られたなら長居する必要はない。シーフは元来た道を帰ろうと、床に開けた穴の方へ足を向けた。
「じゃ」
「おっ、お願い!出て行かないで!」
「はぁ!? 俺のこと捕まえる気だろ!?」
「捕まえないから!!警察にも突き出せないから!!」
「? 『突き出せない』って、どうして?」
「あ……」
失言だったらしく、女は女らしくもじもじして下を向いた。
「け、警察に通報したらニュースになっちゃうじゃない。ニュースになったら、人が集まるじゃない。そうしたら、この家の中も見られちゃう!それだけはダメ~!社会的に死んじゃう!!」
「なんだそれ…。お前が人に言わなきゃいいだけだろ」
「あなたにはここにいてほしいの!」
「えっ」
突然の縋りつき。女はやや涙目でシーフに懇願した。かなり必至なようだが、シーフはピンときた。
「わかった。俺に片付けさせる気だろ」
「……そ、そそそ、そんなつもりじゃななな、ないけどぉ?」
図星かい。
ぶつかっていない本の山、及び本の柱は不安定な状態でいくつもそびえ立っている。明かりのある中で見ると、この部屋はほとんど本で埋め尽くされているのが分かる。なんだこの部屋。書庫か何か?
それにしても、今夜初対面の家主と怪盗とは思えない会話の内容である。
「私、探し物をしていたのよ。この家がこんなんだから、二年探しても見つからなくて」
「二年……?もしかして他の部屋もこんななの…?ていうか、なんなんだよこの本の山は。死にかけたぞ、勝手に入ってきた奴が言う事じゃないかもしれないけど」
「えぇと…、一言じゃ言えないけど、私が片付けたくても片付けられない、大切だったような気がする、今は使わない物かな」
「つまりゴミか」
「ひっどーーい!! 一言で言ったーー!!」
この家やばいなって思ったけど、家主も面倒そうだな…。
続くかもしれない
キリのいい所まで書きたいですね。もう少し先です。