(1)
怪盗シーフは町を騒がせるほどではない、ちょっとした怪盗。
二重の意味だと言われ続け、未だ「怪盗シーフ」と呼ばれたことはない。
それでもシーフは、名前を大事に自ら名乗り続けていた。
ある日、屋根の上で軽食を済ませていたシーフは、そこから見える豪邸が気になった。そういえば、誰かが出入りしたところを見たことがない。誰も住んでいないのだろうか?たくさんある窓からは何も覗けない。カーテンと思われる目隠しがされている。
「これは、隠したいものがあるって言ってるのと一緒でしょ…、盗みに行きますか!」
玄関から正々堂々盗みに入るのはないので、地面を掘って地下から盗みに行くことに。実行当夜、ゴリゴリに掘ってなんとか家の内部に顔を出せたシーフ。よいしょと乗り込んだはいいが、そびえ立つ影がいくつもシーフを囲んでいる。警備か!?と驚いたが、違った、がある意味驚いた。
「び、美術品…?ではないな、こんなに埃をかぶってるわけ…」
石像や絵画、骨董品の類いではなかった。それは何十冊も重なった本の山だったのである。それはそびえ立つ柱のようで、召喚されたかのように中央にシーフが立ちすくんでいた。
「ど、どうなってんだこの家は!?」
大男達に見下ろされている感覚に戸惑い後ずさりしたシーフは、ドンッと壁にぶつかった。壁はぐらぐらとバランスを崩し、シーフの背に降りかかってきた。
「うわああああああっ!!」
避ける事は出来なかった。この部屋は足の踏み場と言えるスペースがない。それに真夜中、外からのわずかな光もない。暗闇でバサバサと羽ばたくような音が響いた。
「う、うぅ……」
「あの、大丈夫ですか」
「っ!?」
大量の本を背負う格好で床に伏せていたシーフは、衝撃で気を失いかけていたが、突然聞こえた自分以外の声にヒヤっとした。頭の近く、すぐ聞こえる場所から。
(まさか家主か!?今の音で侵入したことがバレ……て?)
色んな事が頭を過った。騒がれるんじゃないか、捕まるんじゃないか、逃げようにも本をどけなきゃ逃げられない、どうする、どうする、と。本当はすぐにでもいなくなるべきで、顔を見られるなんてもってのほかだったが、シーフは思わず声の主の方へ顔を上げてしまった。
「あなた……誰?」
声の主は、きょとんとした表情で、シーフを見ていた。
続くかもしれない
形式を連載小説にしましたが、私の性格からしておそらく続かないでしょう…。ですが、キリのいい所まで書きたいなあと思っています。