【Prologue2】
2020年某月某日 日本
田中次郎は眠かった。
しかし、夏休みの宿題を終わらせていないのは
他ならぬ自分のせいである。
高校3年生にもなって情けないものだが
このだらしない性格は成長の兆しもない。
兄の誠一とよく比較されるが
あんなスーパーマンと逐一比べられる
こちらの身にもなってほしい。
学生時代は常に委員長か生徒会長。
運動神経抜群で、テストは毎回学年1位。
公平な性格で自律心が強く、誰にでも優しい。
こんな化け物、世の中にそういるもんじゃない。
なんでそれが兄なんだ。ちくしょうめ。
「ジロー! あんたまだ終わんないのぉ!?」
「もうちょいだよもうちょい!あ、腹減った!」
「だらしのない息子に食わせる飯はないよ!」
なんてこったい。
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高柳真吾は興奮していた。
「2020年の春は当たり年だぁ……。エンジェルフォースと枝豆戦士の2期。巫女スタジオのオリアニ新作も楽しみだし、なによりプリチュアの新シリーズもあるんだなぁ」
鼻息荒く、モニターの春アニメ一覧を眺める。
PCと向き合いながら独り言を呟く習慣は
いつからついたものだか、もう思い出せない。
「モモカたん! 一緒に見ようねぇ!」
そう言って、真吾は彼女を抱き寄せる。
プラスチック製の彼女、モモカは
何も言わず一点を見つめていた。
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聖堂正樹は怒っていた。
「あぁ!? 今月分のみかじめ料払えねぇってのは、どういう量分だ?? なめてんのかコノやろぉ!!」
「ひぃぃ、勘弁して下さいよ聖堂さん。ウチもカツカツでやってるんです。それに最近はお上の規制がきつくて、売上も右肩下がり。今まで通りのお支払いは厳しいんです!」
「それが舐めてるって事だろぉが! 売上が減ろうがなんだろうが、ウチに納めるもんが最優先じゃなきゃ筋が通らねぇんだよ!」
「聖堂。そんくらいにしとけ」
威勢よく捲し立てる正樹を
同行していた若頭が諌める。
「頭!でもこれじゃウチの面子が立ちません!」
次の瞬間、正樹は若頭に殴られ吹っ飛んだ。
頬が熱い。ジンジンして目眩がする。
「誰にもの言ってんだてめぇ」
「すいやせん……」
正樹は正座すると、頭を下げた。
「店長すみませんね、若いもんはどうしたって血の気が多いもんですから」
若頭が笑顔でそう言うと、店長の顔も緩む。
ここからはお決まりの流れだ。
若衆が脅し、頭が情で流す。
任侠者は役者であれ、とはよくいったものだ。
目の前で仏のように微笑む若頭に
正樹は背筋が寒くなる思いがした。
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