第1章「怪盗Tからの挑戦状」 第3話
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-問題-
「怪盗Tからの挑戦状」
警察に一通の犯行予告が届いた。
差出人はもちろん今世間で話題沸騰の怪盗Tだ!
翌朝、各メディアがこのニュースを大々的に報じている。
それを見て、カメオはホッとした。
いったいなぜ?
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-質問-
1:お前なんて関係ないだろ? NO
2:お前怪盗Tの知り合いか? NO
3:お前は怪盗Tの正体を知らない? NO
質問回数 残り7回!────
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カメオは何も言わない。ただベッドに座り俯いている。
その表情は分からないが、ラテ夫はハッキリと感じた。
その恐怖。底知れなさ。そう、まるでこの街に初めて来たときのような不穏さ。
「ぇ、ぁ、ぇと、」
「待って!」
言葉に詰まるラテ夫にラル子はとっさに声をかけた。
「ちょっと待って、1回ストップ。今何か言おうとしてた?」
「ど、どうした。いやまぁ、そうだけど。」
「また質問になっちゃうかもしれない。」
「あ、確かに。」
「カメオさんの近くにいると、ペンダントが反応しちゃうのかも。」
「マジか!たいしたことない会話が質問として判定されちゃったらもったいないぜ・・・。あれ?でもそういえばさっきさ、」
カメオの部屋に入ってからの会話を思い出したラテ夫。
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「犯人の名前は『あ』から始まりますか?」とか。そうすれば~
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「俺、言ってるぞ?質問っぽいこと。」
「あー確かに。よく覚えてたわね。」
「カメオも目の前で聞いてる。」
「そうね。でもペンダントは反応しなかった。その時何してたっけ?」
「何って、今と一緒だよな?ソファに座ってルールの紙を眺めてた。」
「ペンダントは?」
「いや普通。首にかかってたよ?」
「・・・もしかして、そういうこと?ペンダントは手で持っていなきゃいけない・・・?」
今までの3回の質問の状況を思い出す2人。
全てラテ夫は手にペンダントを持っていた。
「なるほど、それが条件か。ペンダントを手にした状態で、対象者に向かってYESかNOで答えられる質問をすると、それが質問として成立する。そんなとこか?」
『それで合ってますよ♡』
突然入ってくるカメオ。
「なんでお前が知ってんだ!てかだったら教えろよ!1回質問無駄にしちまったじゃんか!」
「まーまー、分かったんだしいいじゃない。」
『ごめんね♡じゃぁ代わりにほら、そこ見てくださいよ。』
そう言ってカメオは、ペンダントの周囲に位置する宝石を指さした。
リングの周囲に位置する10個の宝石。
よく見ると、1時~4時の辺りに位置する3つの宝石は黒ずんでいるようだ。
「知らないうちに、右側の宝石が黒ずんでる。これ、全部で10個ってことは・・・。」
『そう。ほら、今って3回質問して残りは7回でしょ?』
「なるほど。これに対応してたのか。」
ラテ夫は残り7つの宝石を見つめ考えた。
まだ7回あるのか、もう7回しかないのか。
そして、これが0になったときに何が起こるのか・・・!
「とにかく、うかつに触っちゃダメって事だわね。」
その矢先だった。
ラテ夫は突如立ち上がり、なんとペンダントを手にした。
「ちょっと!話聞いてたの!?それ持ってると質問が始まっちゃうわよ!?」
「分かってる。さっきは動転したけど、今のやりとりの時間で落ち着けた。大丈夫。」
「どーいう事?」
ラル子がそう尋ねると、ラテ夫は一呼吸置き、目を見開き話し始めた。
「カメオはこの事件の重要人物。でも怪盗Tとは知り合いという関係じゃない。でもその正体を知っている。わけ分かんないだろ。2番目と3番目の質問、矛盾してんだ。」
「確かに。」
「例えば、国民の誰もが怪盗Tの正体を知ってるけど捕まってない、って事なら矛盾しないけど、それなら警察がとっくに逮捕してるさ。でもできていない。海外に逃亡してるんなら、日没までに俺が逮捕できない!!」
「なんか勘違いしてそーな推理だけど聞くわ。」
「怪盗Tの正体は誰にも知られていないはず。でもコイツだけは知っている。」
『・・・。』
ベッドに座るカメオを見下すラテ夫。
カメオはまた俯いたままだ。
「考えられるのは一つ。質問だ。」
固唾を飲むように見守るラル子。
ラテ夫はペンダントをカメオにつきつけた!
「カメオ。お前、怪盗Tだろ?」
その瞬間、ペンダントは光り輝き回転し始める!
いままでの3回よりも、より強力な光と回転を見せていた!
カメオを見つめるラテ夫。それを見つめるラル子!
その間誰も何も言わず、ただ時間だけが過ぎた!
そしてプレートの回転が止まった瞬間───
『YES』
カメオは重い口を開いた。
その口調は、先ほどまでの飄々とした優男とは違っていた。
「カメオ・・・。」
「カメオさん・・・。」
『ふぅ・・・。いやーバレちゃいましたね。思ったより早かったな~。いやね、2番目の回答、微妙じゃないですか。本人ってのは、知り合いって言えるか言えないか微妙でしょ?でもまぁ知り合いって感じではないからNOにしたんですよね。いや、フォローしようとしたんですよ?ミスリードになっちゃいそうだったから。でもすぐに3番目の質問が来ちゃって、タイミングがなかったんですよ~。いや、おめでとうございます♡』
カメオは飄々とした口調に戻っていた。
どこかスッキリしているようにも見えた。
「ラル子?」
「はい。」
「逮捕だああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「え!あ、え?」
突如叫ぶラテ夫に困惑するラル子。
驚いたのはカメオも同じ。
『え!え!話が違う!ちょっと!』
「ラル子!窓をガードだ!そこから外へ逃げる可能性もある!俺は玄関を封鎖する!」
1Kのアパート。2つの逃げ道を封鎖しにじり寄るラテ夫。
「タイムリミットは日没?おいおいまだ13時過ぎだぜ。名探偵を甘く見ていたようだな。さぁ堪忍しろ!」
『いや、だから違うって!』
「違わねーよ!ペンダントが示した。お前も認めた!犯人はお前だ!逃がすなよラル子。コイツを捕まえれば、俺は探偵業に戻れる・・・!」
「いや、えーと、その。」
「かかれ!」
飛び掛かったラテ夫。
身長180cm。身体能力は高く、頭脳よりも体を使うほうが得意。のはずだった。
しかし、カメオはとっさにアクロバティックな動きでラテ夫を受け流し、
『ラル子!』
「きゃっ。」
ラル子に向かって今度は飛び掛かろうとした。
思わず頭を抱えてしゃがむラル子。
カメオはその上を目掛けて飛び込むと、そのまま窓を割って外に逃げてしまった。
ラテ夫はひっくり返った姿勢であっけにとられている。
「ナンテヤツ。」
ラル子はゆっくりと立ち上がった。
「あー怖かった。もー、何してんのよ?」
「ホントだよ。」
「ちーがうわよ。ラ・テ・夫!」
「俺?何言ってんだよ。アイツが、」
「そーじゃなくて!」
「とにかく後を追おう。逃げられたらヤバイ。間に合わない!」
「違う!いったんストップ!座る!」
なんだか今日はやけに主導権を握る。
普段と違うラル子に疑問を感じつつ、やや圧倒されるように言う事を聞いた。
「何なんだよ?」
「ねぇ、これ見て。何て書いてある?」
渡されたのは問題文であった。
「さんざん読んだよ。何がおかしいんだ?」
「あたしたちの目的!」
「え?怪盗Tを捕まえることじゃないのか?」
「ちがーう!」
「違うの!?」
「ちがうよ、見てよ!」
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-問題-
「怪盗Tからの挑戦状」
警察に一通の犯行予告が届いた。
差出人はもちろん今世間で話題沸騰の怪盗Tだ!
翌朝、各メディアがこのニュースを大々的に報じている。
それを見て、カメオはホッとした。
いったいなぜ?
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「あたしたちはこの問題を解かなきゃいけないの!」
「問題を解くって・・・、この、いったいなぜ?ってとこ?」
「そう。」
「カメオがホッとしてる理由?」
「そう!」
「・・・。そんなの知ってどうすんだ?」
「そーゆー問題なの!」
「じゃぁ捕まえても意味ないって事?」
「というか、捕まえられないかも?」
その発言に深く考えるラテ夫。
「・・・なぁ、ラル子。何か知ってんのか?今日のお前、いろいろ変だぞ?」
「いや、そんな事ないと思うけど・・・。」
「捕まえられないって、まるで決まってるみたいに。捕まえてみてもいいじゃん、無理だったけど。」
ラル子も少し考えた。
しばらくの沈黙の後、ラル子は切り出した。
「この世界、現実だと思う?」
「!?な、なんだよ急に。」
「そう、急だったじゃん。突然ワープした。このペンダントだって非科学的。この街なんて見たことない。携帯も、ホラ。」
ラル子はおもむろにスマホの画面を見せつけた。
「ね?圏外。今時そんな場所ってある?日本に。これだけ人がいるのに。」
「たしかに変だ・・・。カメオも明らかに変人・・・。」
「それはどーでもいいけど。とにかく、ここは架空の世界なんじゃないかって。」
「架空の世界!?」
「そう。よくは分からないけど・・・。」
「確かに、説明がつかないことが多すぎるな。」
「架空・・・というか、ゲームの世界。」
「ゲーム!?」
「そう、“水平思考ゲーム"。」
「水平思考ゲーム・・・?そういえば封筒にも書いてあったな、そんな事。」
「あたし、ちょっとだけそのゲームやったことあって、だからなんとなくルールとか知ってたの。」
「そうだったのか!いや、普段と違ってやけに頼りになるなって思ってさ!」
「いや別に、ホントにちょっとだけ、やった事あるだけ・・・。」
「ふーん・・・。となると、ゲーム内のプレイヤーは決められた選択肢の範囲でしか行動しかとれない。だからこっちとしても捕まえるとかそういう事はできない、って事?」
「多分。それにほら。」
今度は割れた窓の外を指さした。
すぐ階下。先ほどの電気屋の前にはなんとカメオも立っている!
そして・・・
『ホッ』
「あいつ!!逃げずに何やってんだ!?」
「・・・ホッとしてるんだと思うよ。」
「ホッとって、あ!そういう事か。カメオもゲーム内のキャラクター!」
「そう、しかも重要キャラ。だから決まり決まった行動をしてくれてる。分かりやすくね。」
「・・・。」
謎の老婆、謎の問題、謎の男カメオ、謎の街。
一つ一つ思い出し考えるラテ夫。
「今俺たちは、ゲームの世界にいる。もしだよ?もしもこのゲームクリアできなかったら・・・。つまり10回の質問で謎が解けなかったら・・・どうなるんだ?」
「・・・。」
「例えば、この世界から出られなくなったりとか・・・。」
しばらくの2人は何も言えなかった。
時間だけが過ぎ、お互い目を合わせず、ただ街ゆく人々の動きを見つめるしかなかった。
「・・・とにかく、問題を解こう・・・それしかない。」
空気の重さにそう切り替えたラル子。
しかし問題文を読み返しながら、次第に指先が震え始めた。
「おいどうしたんだよ。」
「読んでみた。怪盗Tをカメオに変換して読んでみたの。そしたら・・・。」
「貸せ!」
強引に紙を奪い、声に出し読みはじめたラテ夫。
「警察に一通の犯行予告が届いた。
差出人はもちろん今世間で話題沸騰のカメオだ。
翌朝、各メディアがこのニュースを大々的に報じている。
それを見て、カメオはホッとした・・・。 」
読み終えてようやく、ラル子の気持ちを理解した。
「謎が・・・さっきより深まってる・・・。矛盾してる!アイツ、なんで注目されてんのに喜んでんだ・・・?」
「分からない。」
「いろいろおかしいだろ!ヒントを得たらかえっておかしくなったぞ!警察や世間に注目されたら困るだろフツー!」
「・・・。」
「ホッとしてるって」
「見て!」
ラル子はそう言い、フローリングの床を指さした。
気付いた時には2人の影が床一面に伸びていた!
慌てて空を見上げるラテ夫。
「おいおいおい!タイムリミットって」
「日没。」
質問を言い終わる前に答えるラル子。
「もう考えてる時間はない!とにかくカメオを連れ戻そう。早くくしないと・・・。」
「・・・連れてくるね。」
ラル子はそう一言告げ部屋から出ると、カメオに何か話しかけた。
ラテ夫それを窓から横目で見ながら、もう1度問題文とルールを確認している。
「(なんなんだよ・・・全然意味わかんねーよ、どうすりゃいいんだよ!)」
そこに2人が戻ってきた。
カメオは口元に静かな笑みを浮かべていた。
『さぁ、そろそろ再開します?尋・問♡ 嘘はつきませんよ?ついてもいません。それに』
「黙ってろ・・・ゲームキャラのくせに。」
『・・・あなただってそうでしょ?』
「やめて。言い争ってる時間はない。」
ラル子の断定的に攻める口調に、余裕は感じられなかった。
「大丈夫。質問、考えといた。」
口元をキリッと閉め、決意を固めるラテ夫。
まるで挑発するかのように、飄々とした態度のカメオ。
向かい合う2人をよそに、ラル子は太陽を見つめていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
-問題-
「怪盗Tからの挑戦状」
警察に一通の犯行予告が届いた。
差出人はもちろん今世間で話題沸騰の怪盗Tだ!
翌朝、各メディアがこのニュースを大々的に報じている。
それを見て、カメオはホッとした。
いったいなぜ?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
-質問-
1:お前なんて関係ないだろ? NO
2:お前怪盗Tの知り合いか? NO
3:お前は怪盗Tの正体を知らない? NO
4:お前が怪盗T? YES
質問回数 残り6回!────