第1章「怪盗Tからの挑戦状」 第1話
どこか静かで不穏な町・・・。
行き交う人々、流れる風。
全てが初めて見る景色なのに、新鮮味は感じない。
「ラル子・・・生きてるか・・・?」
「死んでないけど・・・分かんない!」
だだっ広い大通りの真ん中に2人は立っていた。
もちろんどうやってここに来たか、連れてこられたのか、今何時か、ここはそもそもどこなのか、全てが謎だ。
「なんだココ・・・。なんで俺たちここにいるんだ?なぁ・・・俺たちハメられたんじゃねぇか!?やっぱりあのばあさん取り立てだったんだ!それでこれからさ!強制労働施設みたいなとこでさ!うおおおおおお人生の終わりだあああああ!」
思わず頭を抱えようとするラテ夫。
「痛い痛ーいッ!!」
ラル子の声に気付き、ようやく手を繋いでいたことを思い出したラテ夫。
「あ!ごめんごめん!って、俺たちいったい何時間手ぇ繋いでたんだ・・・?」
「そんな事よりラテ夫ー、それ何ー?」
怒りに震え握ったもう一方の拳には、封筒が握られている事を思い出した。
「これも何時間握ってたんだ・・・そういえば何だったんだ?コレ。」
「・・・何か書いてあるね。」
クシャクシャの封筒を広げると、そこには
「「水平思考ゲームへようこそ」」
2人は声をそろえて読み上げた。
「・・・どういう意味だ?」
「中を見てみようよ」
封を開けると、紙が入っていた。
そこには、こう書かれていた─────
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
-問題-
「怪盗Tからの挑戦状」
警察に一通の犯行予告が届いた。
差出人はもちろん今世間で話題沸騰の怪盗Tだ!
翌朝、各メディアがこのニュースを大々的に報じている。
それを見て、カメオはホッとした。
いったいなぜ?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「なになに?警察に──・・・──いったいなぜ?」
全て声に出し読み上げたラル子。
その横でまじまじとラテ夫も一緒に読んだ。
「・・・知ってる?」
「どれの事?」
「いや、この怪盗Tって奴。」
「知らなーい。」
「だよなぁ・・・誰?てかそもそもこれ何だ??」
「問題・・・って書いてあるね?」
「・・・、よく分かんないけど、この怪盗Tって奴を捕まえればいいのか?」
突然目を大きくするラテ夫。
「待てよ?怪盗Tからの挑戦状だぁ!?それが俺のところに来たってことは!」
「ことは?」
「フン、やーはーりーな!見ている奴は見ているんだよ。俺の天才的な推理センスを!あのばあさん隅に置けないじゃないかー!世紀の怪盗Xと名探偵ラテ夫の勝負を見たかっただけなんじゃないか!?なんだなんだー普通に依頼してくれたって引き受けたのにー。俺が怖気ずくとでもー?ハーッハッハハハ!」
「怪盗はTだよ迷探偵・・・ん?これは?」
封筒の中には、もう1枚の紙が入っていた。
「ねぇ、ルールって紙が入ってるけど?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
-ルール-
水平思考で謎を解け!
・「質問」は計10回まで。「回答」も質問回数に含みます。
《例》
「犯人は滑っている?」(質問) ⇒ YES (残り質問回数3回)
「犯人はスキー選手だ!」(回答) ⇒ NO 残念! (残り質問回数2回)
「犯人は滑りたくなかった?」(質問) ⇒ YES (残り質問回数1回)
「犯人はお笑い芸人だ!」(回答) ⇒ YES 正解おめでとう!
・「YES」か「NO」で回答できる質問のみ有効です。
《例》
「お前は誰だ?」「犯人を教えろ?」 ⇒ 回答できません。無効です。
「犯人と知り合いか?」「お前が犯人か?」 ⇒ YESかNOで回答できます。有効です。
「凶器は鈍器?」「現場はドンキ?」 ⇒ 重要ではありません。or YESでもNOでも成立します。
(本作品のシステム上、この回答は意図的に避けています。)
・タイムリミットは日没まで。
もし間に合わなかった場合~~~~~~~~~~~~~~~~
━━━━━━━━━━━~
「何なんだ?質問?回答?え、怪盗?」
「なんだかすごーく肝心なところの字がかすれて読めないんですけどー。さっきクシャクシャにしちゃった人は誰ですかー?」
「ぐぬぬ・・・。タイムリミットなんかあんのか・・・?そしたら迎えが来るのか?」
「だったらまだ、いいけどね。」
「ん?ラル子、何か知ってんの?」
「いや別に?そんな事ないけど・・・ただなんか、すごーく不安な・・・」
「不安に感じることなんてないさ!今目の前にしてるのは誰だい?」
「さっき廃業しかけた名探偵様です。」
「・・・。その通りだ。なら大丈夫。闇夜に潜む大怪盗、華麗にズバッと捕まえて見せましょう!」
「だからタイムリミットは日没だって。闇夜にはならないわよ。」
────街を見渡す2人。
「とにかく、この怪盗Tって奴の情報を探そう。ラル子、二手に分かれて聞き込み開始だ。そういえば今は・・・。」
腕時計を確認するラテ夫。
「12:10か。」
「あたしたちがここに来たのって、ちょーど12時頃かな?」
「ん?あぁそうなるな・・・って、え?となると・・・俺たち、ほとんど時間経ってなくないか?ばあさんに誘拐されたのもちょうどその頃だったような・・・?アレ?」
「んー、とにかくさっさとこの問題に挑戦しよーよ。」
「あぁそうだな。日没って、今は18時くらいか?って事は・・・たった6時間しかないのか!?それだけの時間で大怪盗を捕まえる!?そんな事が出来たらまさに」
「名・探・偵。だね!」
「よーし、やるぞー!!」
「(・・・大丈夫かしら、思っていたより・・・)ボソッ」
「ん?何か言った?」
「ううん?何も。ところでさ、この問題、もう一人登場人物がいるようだけど・・・」
2人の目の前には、こじんまりとした電気屋さんがあった。
何台も積まれた店頭のテレビには、ワイドショーが映し出されていた。
アナウンサーもコメンテーターも大興奮している。
「遂にキターーー!怪盗T!!次の標的はあああレインボーダイヤー!!!」
自然と2人も吸い込まれるように足を運んだ。
店の前にもいつしか人だかりが出来、十数人のギャラリーが囲んで見入っていた。内容は勿論
「・・・これが、」
「怪盗T・・・。」
店の奥からはラジオの音が聞こえていた。犯行予告の文を繰り返し読み続けているようだ。
「我は怪盗T 竜宮城に潜むレインボーダイヤ 華麗に頂戴致す ~~~~~~~」
レジの横には新聞や雑誌も売られていた。中身こそ分からないが、全て表紙は怪盗T一色だ。
「見たことない番組だなぁ・・・これどこのローカル局だ?俺たちはマジでどこまで連れてこられたんだ?」
ラテ夫がいぶかしげにモニターに注視していると
『ホッ』
隣には、どこか高貴な印象を受ける色白の若者が立っていた。
それもそのはず。
時代錯誤な服装・・・というかコスプレと言うべきか?
中世のヨーロッパが舞台の、おとぎの国の王子様とも言えそうな風貌の・・・
とにかく、とても浮いているい男が立っていた。
『ホッ』
ラテ夫の耳元で息を吐いていた。
「・・・ちょっとアンタ、さっきから何なんだ!人の耳元で!」
『ホ?あ~すみませんすみません、つい。いや~すみません。ホッ。』
「だからそれをやめろって!わざとやってんのか!?」
『そんな~、いいじゃないですか~♡ホッ。』
「何だよさっきからホッホホッホって!」
その男は笑顔だった。
だが、周囲のギャラリーの熱狂的な表情とは違う。
どこか静かで不穏な男。
まるで安堵しているような・・・。
「ねぇラテ夫ー?さっきさ、」
「ラル子!早く行くぞ!今変な奴に絡まれてる。」
「いや、さっき言いそびれたんだけどー、この問題、登場人物がもう一人いるわよね?」
「もう一人?」
「そー。この4行目。」
「“それを見て、カメオはホッとした”・・・カメオ?」
「そう、カメオさん。」
「カメオ?知らないよそんな奴。テレビでもカメオなんて一言も・・・」
『ちょっと~、さっきから何なんですか~?』
先ほどの若者が話しかけてきた。
「ゲ、さっきの非常識な奴!まだいたのか。」
『何なんですか~?』
「それはコッチのセリフだ!」
『コッチのセリフですよ~。』
「な・に・が・だ!」
『だってさっきから~、ボクの名前をず~っと耳元で繰り返してるじゃないですか~。何で知ってるんですか~?』
「え!?」
思わず驚いたラテ夫。
『何で知ってるんですか~?怖いです~。警察呼びましょうか~?いやそれはチョットやめとこうかな~・・・。』
「コイツが、そのカメオ!?この事件の?」
「この問題の、ね。」
『え~?何々~?問題~?事件~?』
「うるさいな、黙ってろ。」
『え~いいじゃないですか~面白そう♡見たところあなた、探偵?』
「そうだ!俺は私立探偵ラ」
『の、コスプレ?もしかしてホームズ!?ボク大好きなんですよ~ホームズ♡』
「俺は本物だ!」
『・・・(クスクス)。この世界にホンモノなんて必要ないですよ。ね?お嬢さん?』
「・・・。」
男はクスクス笑いながらラル子に小声でつぶやいた。
ラル子は、何も返さなかった。
「もう何なんだよ・・・ほら、よく文章読んでみろ、カメオなんて最後一文に出てきただけ、オマケじゃないか。俺が知りたいのは怪盗Tの情報!」
問題文の最後を指さし、面倒くさそうに吐き捨てるラテ夫。
『ホッ』
「もう!いい加減にしろよ!お前なんてこの事件に関係ないだろ!?」
その時だった。
ラテ夫の胸の中央が突然光りだした!
「わ!何だ!?・・・あのペンダントか!」
ラテ夫は、謎の老婆の指示で首に掛けられていたペンダントを思い出した。
眩い光を放ったが、事務所で最後に見たほどではない。
薄目でなんとか開けていられた。
「ぇ、動いてる・・・!回ってる!?」
その大ぶりのペンダントは、よく見ると2つのパーツに分かれていた。
1つは装飾が施された大きなリング。
表面には、10個の宝石が均等に装飾されていた。
もう1つは、1枚の円形のプレート。
リングの中に縦に1本の軸が通っており、そこに刺ささって回転できるようになっていた。
その装飾の内1時の方向、右上の一つが眩しく光り輝き、リングの中央のプレートが勝手に回転しているのだ!
「ぉぃぉぃ、また何かされるんじゃ・・・」
怯えるラテ夫をよそに回転は勢いを増し、やがて光量のピークと共にピタリと止まった・・・!
「・・・何だったんだ・・・。ん?これは・・・NO?」
プレートにはよく見ると掘り込みの文字でNOと描かれていた。
「NO・・・」
ペンダントを裏返すと、プレートの裏側にはYESの文字が同様に描かれていた。
「こっちはYES・・・でも、今のはこっちが表示されたからNOって事だよな・・・?何が?もうわけわからん。ラル子ー!いるかー?」
「いるわよ、ずっとここに。」
「よかった、誘拐されてなかった。なぁ、ちょっとどういう意味なんだ?コレ。」
「自分で考えなさいよ、本物の探偵なんでしょ?」
「考えるの、苦手なんだよ・・・。」
「・・・多分、ね。」
ラル子はそう言って、先ほどの2枚目の紙を取り出した。
「コレ見て。」
「ルール?」
「そう。読んでみて。」
「えっと・・・あ、”「YES」か「NO」で回答できる質問のみ有効です。”」
「そう、つまり」
「今のが質問ってわけか。」
「多分ね。」
「んー、でも俺今質問なんてしたか?誰に?」
「・・・ちょっと思い出してみよっか。」
先ほどの直前のやり取りを回想する2人。
──────────────────────────────
「もう!いい加減にしろよ!お前なんてこの事件に関係ないだろ!?」
──────────────────────────────
「たしか、お前なんて関係ないだろ?ってカメオに問い詰めた。つまり」
「質問した。そして」
「ペンダントが”NO”を示した。」
「そう。」
「今のが・・・質問・・・。なんて・・・なんて便利な道具なんだ!!コレ、携帯型のウソ発見器なのか!すげぇ!」
「いやなーんか違うような。」
「と・に・か・く!これで犯人を突き止めればいいってことだな♪ワクワクして来たぜ!」
「それもなーんか・・・。」
興奮して喜ぶラテ夫だったが、ほどなく事の重大さに気づいた。
「・・・ちょっと待った。俺、”関係ないだろ?”って質問したよな?で、NOだったわけだよな?ってことはさ・・・カメオは・・・」
少し後ろで様子を見ていたカメオ。
2人が同時に振り向くと、悟られない程度に微かに微笑み、小声で呟いた。
『さぁ、ゲームの始まりだ。』
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
-問題-
「怪盗Tからの挑戦状」
警察に一通の犯行予告が届いた。
差出人はもちろん今世間で話題沸騰の怪盗Tだ!
翌朝、各メディアがこのニュースを大々的に報じている。
それを見て、カメオはホッとした。
いったいなぜ?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
-質問-
1:お前なんて関係ないだろ? NO
質問回数 残り9回!────