来訪者
「えーと、移住の勧誘、薬の購入、武器に農具、か。意外と村長の仕事は多いんだのう」
「そうですよ。前の村長が頻繁に村を出ていったのもそのためです。薬は都に行かなければ手にはいりませんし武器とか農具などの金属の類もです。村には加工できるものがいませんから」
クーデはそう説明する。
クーデはなれないラルグのために村長補佐を立候補したのだ。教えてもらった恩を返すとかで。
「しかし、クーデ、農業の方はいいのか。お前が抜けるのは痛手じゃろう」
「いいんです。両親もいろいろ覚えましたから。それに村長がヘマをするとそれどころじゃなくなりますし。感謝してくださいよ?先生みたいな老人に若い女の子がついてあげているんですから」
クーデのきれいな金髪が揺れる。
クーデはそう強くラルグに言い放った。
「ハッハッハ。それほど自分に自信があるのか。都に行けばクーデよりもべっぴんさんはたくさんいるかもしれんぞ?」
ラルグは高らかにそう笑ってクーデに話しかける。
「別に容姿の話をしているんじゃないわよ。とにかくしっかり仕事しなさいよ。じゃないと介護してあげませんからね」
頬をぷくっと膨らませて怒ったような表情をするクーデ。
気の強い女の子だ。
同じ一期生のシューベルは控えめなタイプなのだがクーデはその逆だなとラルグは思った。
「まだ介護はいらんわい。そうやって減らず口をたたいていると結婚できゃせんぞ」
そう冗談交じりに茶化すと
「先生に心配されるようなことではありませんー。結婚といえば先生は奥さんいないの?」
「儂に妻はいないよ。儂は結婚できない男じゃからな」
急に雰囲気が暗くなった気がしたが、ラルグの絶妙なコントロールのおかげでクーデがラルグの異変に気づくことはなかった。
「ふーん。先生ならいい女性がつくと思うけどなー。若いときの先生とかすごく興味ある!」
クーデは過去を教えてほしい、そう思っていることがバレバレだった。
「過去、か。聞くな聞くな。何も面白くないし聞いたところで何も生まれん」
今回は流石のラルグも隠せなかった。少し気分が沈んだような、悲しいような様子のラルグを察したのか、クーデもそれ以上言及しなかった。
「あ、じゃ、じゃあ私はシューベルのところへ言ってきます。訓練の様子をチェックしてきます。先生も後で稽古つけてあげてくださいね。それと昨日の夜に三人組の旅人が村にやってきてひどく疲れているようだったので離れの小屋に泊めておきましたので先生確認よろしくおねがいします」
そう言って急いでその場を離れるクーデであった。
「はぁ。心は冷たく、しかし芯は暖かく、でしたよね師匠」
誰もいない空間に向かってラルグは独りそう呟くのだった。
「あなた方が旅の人ですな。儂はこの村の村長を務めているラルグといいます」
「泊めてくれてありがとう。私達は獣狩をやっているわ。私はラルフ。右がダンで左がロータスよ」
簡単にすばやく自己紹介を済ませるラルフ。
「早速で悪いんだけど聞きたいことがあるの。隻腕についてなにか知っていることはない?私は本で読んだときからその人探しているの。大切なことなの。昨日、その人にあったんだけれど、行方がわからなくて」
いきなり来たな。
まあ遅かれ早かれどうせ聞いてくるだろうと思っていたのだが。
「隻腕ですか。知りませんなあ。書物に書かれているぐらいならもうこの世にはいない人物なのかもしれませんぞ。昨日あったと言われる人も人違いなのでは?」
「そんなことないわ!」
急に声が大きくなるラルフ。隻腕に対するなにか強い思いのようなものがあるのか。いずれにしろ隻腕に大きな興味があることは間違いない。
「ごめんなさい。でも間違いはないはずよ。だって昨日見たもの。フードの男が使った術。あれは間違いなく紋章術だったわ。習得難易度が高く扱いが難しくて今ではもう殆ど失われた術。それを使っていたなんて絶対にあれは隻腕だわ。それに決定的なのは腕よ。その呼び名の通り右腕がないの。これだけ証拠が集まっているのにあれが隻腕じゃないなんてことあるはず無いわ」
「一つお聞きしたいのですが、なぜその隻腕という人を探しているので?」
ラルグはそう尋ねた。
なぜこれほどまで隻腕にこだわるのか。理由を聞いておかないとあとあと厄介なことになる。そう思いラルグは興味深くラルフが口を開くのを待った。