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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯
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ホムンクルス?

「こ、この、扉かてぇ~」


 ディランは蔦に塗れ、取っ手も何もない金属の扉を無理やりこじ開けようとしていた。

「うぬぬぬぬぬっ」

 目一杯力を籠めると僅かに隙間が開いた。

 そこに指を差し込み、さらに扉を横に押し込んでいく。

「おりゃぁあぁぁぁ!」

 

 扉はディランの咆哮に驚いたのか、ガギギギと何かを削る音を立てながら、横に押し込まれていった。


「はぁはぁはぁ、疲れるわっ。はぁ~あ、で、どれどれ?」

 外から内部を覗き見る。

 しかし、太陽の光が届くのは手前だけで、奥は暗く、様子はほとんどわからない。

 

「不気味~。だけど、危険な気配はねぇな。暗いところは光の魔法でも使えば大丈夫か」

 と言って、彼は一歩、屋敷内に足を踏み入れた。

 すると突然、天井や左右の壁下の側面に光が灯った。

「うお!? なに、これ、すご~い」


 光は空に輝く太陽を閉じ込めたように明るく、それはずっと奥に続く廊下を照らし出している。

「どんな仕掛けなんだ? だけど、これなら普通に歩けるな」

 彼は警戒を怠ることなく、ゆっくりと屋敷の中へと入っていった。

 

 


 屋敷の廊下は人が三人並んでも余裕の広さがあり、また背も高い。

 さらに、いくつもの分かれ道があり、さらには下の階層や上の階層もあった。

 この屋敷はディランの想像よりも大きな屋敷のようだ。

 

「こりゃ、こまったなぁ。上や下へ行く梯子まであるし、下手すりゃ迷子になりそうだ」

 彼は立ち止まり、通路の銀色の壁をコンコンと叩く。

「金属? 妙な廊下だ。それにこの明かり。動力源はなんだ? 魔力ではなさそう。ゴーレムと同じ雷の力を利用しているんだろうかねぇ」

 先に続く、果てしない廊下を目に入れる。


「雰囲気は皇都の研究所に似ているな。もっとも、皇都のはこんな金属の廊下じゃねぇけど。それにこんな魔力を使わねぇ不思議な照明はない。ま、どちらにしろ魔術士や錬金術士のセンスってのはいまいちわからん」


 彼は勇者一行の一人として、皇都ミズガルズの重要機関を自由に出入りしていた。

 そこでは様々な魔導や錬金術の研究が行われていた。

 その研究所には珍しいものがたくさんあったが、それらは全て魔力に由来するもの。

 しかし、この屋敷からは魔力に関する気配は一切なく、全く未知の力が全体を覆っているようにディランは感じていた。



「たぶん、研究所……だと思うが、自信はねぇな。一度、町に戻って魔術士なり錬金術士なりを連れて戻ってきた方がいいか……ん?」


 廊下の奥から奇妙な振動が伝わってきた。

 それはウン、ウン、ウン、ウンと一定のリズムを刻んでいる。


「なんだ? 聞いたこともねぇ音だな。どうする?」

 不気味な音に、一瞬だけ彼は躊躇した。

 それは彼の持つ特性。大きな危険を冒さないこと。

 だが……。

「音の発生源を覗いてから帰るか」

 どうやら、今回だけは好奇心が上回ったようだ。

 ディランは音にいざなわれ、廊下を進んでいく。




 廊下を進み、一度梯子降りて、さらに進んだところに音の発生源があった。

 音は一枚の金属の扉に隔たれた場所から出ているようだ。


「この扉の先か。部屋っぽいけど……」

 気配を探る。

 だが、中に誰かがいるような気配は全くない。

 彼はつるりとした扉の表面を見つめる。

「大丈夫そうだな。さて、中に入りたいが、またもや取っ手も何もないんだよなぁ。ってことは、ギルドと同じからくり扉かな? それで開かなかったら、屋敷の入り口みたいに力づくになるか」


 首を左右に振って、指の骨をこきこき鳴らしながら扉に近づいた。

 しかし、力に訴える必要もなく、扉は彼に道を譲った。


 扉の中もまた、廊下と同じように光が満たされている。

 中に気配はなくとも、ディランは慎重に足を運んでいく。



「お~や~?」

 部屋を見回す。

 壁の隅には光るパネルがあり、すぐ傍にも無数のパネルのついた机がある。

 その不思議な机と同じものは部屋のあちこちにあった。

 それは大層不思議なものだったが、それ以上に彼の目を奪うものが部屋の中央にあった。

「こいつぁ……人か?」



 部屋の中央には台があり、そこには半透明な青い液体に満たされた巨大なガラス管が鎮座していた。

 ガラス管は台座から飛び出している蛇腹のパイプと繋がっている。

 そして、管の中には人らしき物体が浮かんでいた。

 ディランはその透明なガラス管に近づき、中にいる存在を覗き見る。



「子ども? 女か?」

 液体に満たされた管の中には、銀色の長い髪を持つ少女が一糸纏わぬ姿で浮かんでいた。

「これは……人工生命体ホムンクルス?」


 ホムンクルス――優れた魔術士や錬金術士の手によって作られた人造人間。

 

「すげぇな。皇都の研究所だってこんなの作れやしねぇ。いや以前、自称天才マッドアルケミストが試みたが、姿は化け物だった。なのに、この子は……」


 液体の中には、人と何ら変わりない少女が浮かぶ。

「かなり若いな。いくつくらいだろ?」

 彼は視線を上から下へと降ろしていく。

「生えてない……俺が生えたのが十一歳の頃だったっけか? 産毛程度だったが……ってことは、この子は十歳くらい? にしては、身長が少し高い気もするが……十二くらいか? 生えてないけど」


 視線を上にあげて、少女の薄っすらと膨らんだ胸を瞳に入れる。

「はぁ~あ、どうせ作るなら胸のおっきな大人の女にしろよ。これじゃ目の保養にもならん。ま、人工生命体ホムンクルスを作ってるだけでもすごいんだが」


 少女から視線を外し、部屋を見回す。

 あるのは光るパネルを要した、壁や机たち……。


「こりゃあ、俺の手に余るな。やっぱり、一度引き返して魔術士でも連れてくるか」

 ディランは大きく肩を竦め、部屋から出て行こうとした。

 そこに声が響く。



<お待ちください>

「なっ!?」

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