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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯
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あれは屋敷ではない……

 一瞬にして大地の顔が変わってしまったことに、ディランは言葉を詰まらせる。



「こ、おま、は? え? ちょ……やり過ぎだろっ!? 何考えてんだ!? 森が無くなっちまったぞ! 馬っ鹿じゃねぇの!? 森の動物さんたちに謝れよ!」

「目標の生存を確認。再度、エネルギーを充填」

 ゴーレムは彼の言葉には答えず、再び顔に開いた大きな穴に光を集めている。


「クソッタレ、こんなヤバい奴だったとは。やっぱりリスクなんて背負うもんじゃねぇな。下調べをしてからくりゃよかったっ。だけどなっ」

 ディランはゴーレムを見つめる瞳に殺気を籠める。 


「これ以上はやめとけ! どうせ俺には当たらねぇ。無用な被害を広げるだけだ。頼むから、俺にお前を壊させるな」


 ディランはゴーレムに手を振って、何とか次の攻撃をやめるよう説得するが、彼の声は届かず、光の力が高まっていく。



「融通が利かねぇ奴だなぁ。くそっ、仕方ねぇ!」

 彼は長剣を抜いた。

 それは、月明りを失った夜よりも黒き両刃剣。


 その真っ黒な刀身をゴーレムへ向ける。

「本当は壊したくねぇんだぜ。お前さんはたった一人で今までここを守ってきた。そんな立派な守護者を俺は壊したくはねぇ。だがっ」


 後方に広がる森だった場所をチラリと見た。

「こんな力を持った奴が壊れてるなんて洒落になんねぇ。まかり間違って町にでも向けられたら……すまねぇな、壊させてもらうっ」

 ディランは身に宿る魔力を高め、剣に注ぎ込んでいく。

 ゴーレムは彼の力の高まりを、瞳に宿る画面に映し出していた。



「敵、急速にエネルギー上昇。ノスターレ粒子反応検知。戦闘レベル120……375……1273……5369……尚も上昇!? 1万2千、2万6千、三万2、」

「せめての手向けだ、一瞬に終わらせてやる」


 ディランはゴーレムの視界から消えた。

 ゴーレムの瞳には地面と数字のみが残り、それには一筋の線が入った。

 そして、ゆっくりと像はズレていく。


 さらに両手と両足は胴より離れ、ゴーレムは轟音を響かせながら地面に倒れ込んだ。

 何一つ動けぬ中で、ゴーレムはちらつく画面に男の姿を見る。


「すまねぇな。お前の倒し方がわからなかったから、切れるところは全部切り落とした。だが、頭を真っ二つにしても、まだ生きているようだな。すぐに介錯を済ませる。辛抱してくれ」

 ディランは剣の柄を握り締めて、点滅を繰り返すゴーレムの頭に刃を突き立てた。

 ゴーレムは何も語ることなく、バチバチと火花を数度上げて、顔の穴の点滅を消し、黙して沈んだ。



 彼は眠りについたゴーレムから視線を剣の刃に向ける。

「硬い……なんでできてんだ? アダマンタインの合金で作られた魔剣ティルヴィングじゃなかったら傷一つ付けられなかったぞ。それに、この火花……」


 眠りについたはずの切断された四肢と胴体からは、いくつもの線や管が飛び出して、火花を産み続けている。


「これは雷の力か? だけど、魔力を感じねぇ。不思議な技術だ。これは魔術士の技術というよりもたぶん錬金術士の類だな。あいつらの研究所でこんなの見たことがあるが、それよりも遥かに洗練されている。念のため、まだ警戒は緩められねぇな」


 

 ディランは飛び散る火花をじっと見つめ、それが収まったことを確認してから剣を腰に戻した。


「死んだか? さて、依頼は完了したが……こっちはどうするかねぇ?」

 彼は視線を土に埋もれた屋敷に向ける。

 屋敷は長い間放置されていたためだろうか?

 土と植物に覆われていて、もはや屋敷には見えない。

 近づかなければ、小さな丘や小山としか認識できないだろう。

 

 しかし、その小山からは、いくつもの金属でできた塔が飛び出ており、土の下に人工物が眠っていることを証明している。



「魔術士の屋敷、か。屋敷しちゃデカいな。ゴーレムの存在から見て、何かの研究所かもしれねぇな。ってことは」

 ディランは口端をニヤリと上げた。

「魔術士にしろ、錬金術士にしろ、あいつらは貴重な貴金属や宝石を使って研究してるんだよなぁ。ちょっと、覗いていくか」

 彼はちらりと周囲を見回す。

 そして、言い訳じみたひとり言を漏らした。


「別にネコババするつもりはないよ~。屋敷の中にアイアンゴーレムみたいなのが残ってないか確認しないとねぇ」


 彼は呵責を薄めるように呟きながら、草木に埋もれた入り口らしき場所へ近づいていく。

 



――その様子を、空を自由に飛び回る一匹の鳥が見ていた。

 鳥はディランだけではなく、魔術士の屋敷の全景を瞳に宿す。


 広々とした三角の形をした小山。

 そこからは何本もの金属の塔が聳え立ち、先端は鋭くとがっている。

 後方には半分以上土に埋もれ、丸い輪っかの形をした、いくつもの金属の物体。内部は複雑な模様を描く。

 草に埋もれた場所には、透明なガラス窓のようなものが立ち並ぶ。


 もし、この光景を目にした者が無知な鳥ではなく、知性と教養を兼ね備えた存在であったのならば、その者はこう答えたであろう。



「あれは屋敷などではない。星を渡る船だ」、と……。


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