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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯
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ギルドにクエスト

――ギルド


 ギルドとは、多くの冒険者たちにクエストと呼ばれる仕事を斡旋する場所であり、同時に町の治安を守る自警団として機能している場所。


 ディランは町の人にギルドの場所を尋ね、町の西地区にあるギルド『プランバラン』に訪れた。

 町を囲む城壁とは違うがギルドもまた、不思議な材質でできた三階建ての建物だった。

 彼は外壁を叩く。



「硬い……魔法石による強度補強は見られねぇ。ただの灰色の石っぽいが、なんか違うね? 変な建物」

 建物にさほど詳しくないディランは肩を竦めて入口へ向かった。

 入り口は左右から閉じられたガラス戸。

 しかし、取っ手はない。

 不思議に思いつつ近づくと、ガラス戸は勝手に開いた。


「おおぅ、びっくりした。からくりドアかよ」

「あっはっは、兄さん。まほろばは初めてかい?」


 ギルド内にいた一人の中年男性が声を掛けてきた。

 その彼に言葉を返す。

「ああ、初めてだが。不思議なドアだな。勝手に開きやがった。魔力も何も感じねぇのにどうなってんだ?」

「入口の足元だよ、足元」

「足元?」


 ディランが視線を下へ向けると男性は説明を加える。

「足元に圧力がかかるとドアが勝手に開く仕組みなんだ。油圧ってのを利用しているらしい」

「油圧?」

「それは俺にもわからねぇ。ま、とにかく自動に開くってことだ」

「なるほど。あ、そうだ。ここがこの町のギルドで間違ってねぇよな?」

「ああ」

「そっか、よかった」


 と、言いつつ、ディランはギルド内を見回した。

 ギルドにはいくつものテーブルや椅子。待合用のソファが置いてあり、観葉植物などが飾られてある。

「外観は妙だが、中はミズガルズのギルドとあんまり変わらねぇな」

「ミズガルズ? てーと、兄さんは西の?」

「そ、ミズガルズ出身。そして、この町の勇者になる男だっ。遠慮なく崇めてもいいぞ」



 堂々とした立ち振る舞いを見せて、ドンッと自信満々に胸を叩く。

 だが、その態度を見た目の前の中年や、ギルド内にいる冒険者たちは大声で笑い始めた。

「あはははは、勇者かぁ。そいつはぁ参った!」

「いや~、俺も若いころ勘違いしてたときがあったなぁ。懐かしい~」

「だなっ。しっかし、はたからみると結構痛いな。なんだか、俺の方が恥ずかしくなっちまったっ」


 冒険者たちはディランを物笑いにする。

 中には指を差して笑っている者もいる。


 ディランはそんな彼らへ、額にいくつもの青筋を立てながら唾を飛ばす。

「このっ。腹立つ連中だなぁ~、おい。ま、見てろよ。すぐに吠え面をかかせてやっからなっ」

 彼はどんどんと足を踏み鳴らし、不満を表しながら受付へと向かっていった。

 


 受付にはとても背の高くがっしりとした肉体を持った、浅黒で顔中傷だらけの凄みのある中年の男性がいた。

「くそ、ムカつく。なぁ、おっさん。こいつらキュッと黙らせる、すげぇ仕事くれ」

「誰がおっさんだっ。俺はギルド『プランバラン』のマスター、アーマッドだ。口の利き方を気をつけろよ小僧っ」


「誰が小僧だ、こう見えても18だっつ~の」

「小僧じゃねぇか」

「何言ってんだよ。女の経験は結構あんだぞ」

「そんなもんを自慢しているうちは小僧だよ。で、仕事だったな」

「そう、それ」

「はぁ~、それじゃ」


 ギルドマスターのアーマッドは大きなため息を吐いて、いくつかの依頼リストを取り出した。

「小僧にやれそうな仕事は、これくらいか。好きに選べ」

「小僧じゃないっ。名前はディラン! ディラン=ローズル!」

「はいはい、ディラン閣下。さえずってないでお仕事を選んで戴けますか?」

「くそ~、舐め腐ってからに! まぁいい、まずは仕事だなっ。どれどれ?」


 

 依頼①――ベビーシッターのお願い。

 依頼②――行方不明のペットの捜索。

 依頼③――町の清掃とドブ掃除。

 依頼④――町内の荷運び。

 依頼⑤――カパックの餌やり。



「うわ~、依頼がいっぱい。り見取りだぁ~って、ふざけてんのか? ってか、最後のカパックの餌やりってなんのこっちゃ!?」

「口臭のくっさい魔物への餌やりだよ。たしか、魔導の実験に使うとか?」

「だれがするかそんなもんっ! こういうのじゃねぇんだよ~。ほら、魔物退治とか盗賊退治とか。できれば、誰もできねぇような高難易度をクエストをさ~。アーマッドさ~ん」


 ディランは猫なで声を上げながら、擦り寄っていく。

 それにアーマッドは首を大きく横に振った。


「あのな~、何の実績もない奴にそんな仕事任せられるわけないだろ。こういうのは積み重ねが大事なんだぜ。四の五の言ってないで、カパックに餌やってこい!」

「なんで餌やりに決まったんだよっ? いいから高難易度の仕事寄越せ! こう見えても俺は剣に魔法に武術。全て超一級品なんだぜ」


「はぁ~、お前みたいな自分の実力を勘違いした小僧はよく来るんだよ。十日に一回くらい」

「いや、俺が言うのもなんだけど、それは多すぎだろ」

「とにかくだっ。今日、初めて顔を見せた奴に命の関わる仕事は任せられねぇ」

「任せられねぇって、そんな……あのさ、普段はここに居る連中が盗賊退治や魔物退治とかやってんだろ?」

「ああ、そうだが」

「そっか……」


 

 ディランはニヤリと薄ら笑いを浮かべて、後ろを振り返った。

 そして、嫌らしい顔を浮かべながら彼らに向かって嘲笑を浴びせ始める。

「ははん、だったら楽勝だろ。ここにいる連中なんて俺から見たら鼻垂れ小僧同然」

「んだとっ?」


 ディランの挑発に乗って、幾人かの男たちが席を立った。

 さらに彼は挑発を続ける。


「腰に剣をぶら下げただけで冒険者気取りだもんなぁ。その程度の連中が撃退できる魔物なんて、至上最弱のもっちもっちなスライムくらいだろ?」

「おい、ガキ。あんまり舐めた口利くと、ケガじゃすまなくなるぞっ」


 山のような巨躯を持つ男たちが凄みながらディランに近づいてきた。

 それをディランはニヤニヤした笑いで出迎える。

 

 その彼の背後にいるアーマッドは頭を抱えていた。

(まったく、小僧がわざと挑発しているくらいわからんのか。簡単に挑発に乗りやがって馬鹿どもが。仕方ねぇ、とりあえず小僧の挑発を止めさせないとな)

「小僧、やめとけ。あいつらに実力を見せたいのはわかるが、怪我をするだけだぞ」


「お、流石マスターだけはあるな。でも、やめるわけにはいかねぇ」

「何っ?」

「俺はあいつらに見せたいんじゃない。アーマッドさん、あんたに俺の実力を見せつけたいんだよっ」



 彼は腰に差した剣に手を置いた。

 その瞬間、ギルド内に緊張が走る。

「小僧!」

 アーマッドが大声を張り上げるが、彼は全く動じない。

 それどころか、挑発を続ける。


「どうした、おまえら? 怖いのか?」

「この糞餓鬼! もう、怪我じゃすまないぞ」


 男たちは一斉に自身の武器に手を置こうとした。

 しかし、その武器がどこにもない。


「あれ? 武器は、え!?」

 一人の男が腰元の剣を確認しようとした。

 だが、そこにあったのは毛むくじゃらな肌色の足……。

 次に聞こえたのは、ギルドにいた女性職員の悲鳴。


「きゃぁぁ!」


 鼓膜を劈く悲鳴が男たちに現状を把握させた。

 男たちは皆、素っ裸。

 全裸で立ち尽くしているのだ。


「は、は、は、何が起こったんだ!?」


 混乱を極める男たちへ、ディランは余裕を含む声を掛けた。

「何って、お前らの服を刻んでやったのさ。床に布切れが散乱してるだろ」

「え?」

 

 男たちは一斉に床を見る。

 そこには服だった布たちが散らばっていた。


「さぁ、どうする? 次は皮膚を刻むことになっちまうなぁ」

 不敵な笑みを浮かべ、男たちを見る。

 そこにゆっくりと殺気を織り込んでいく。


 彼の姿に、男たちは肌を粟立てて、言葉を失う。

 さらにディランが言葉を吐き出そうとしたところで、アーマッドが大声を被せた。

「そこまでだっ! これ以上されたら面倒だからな。俺は男の小便を片付ける趣味はねぇ」

「うん? 女のなら片づけんの?」

「嫌味はやめろ。小僧、いや、ディランだったな。お前の実力はわかった。ったく、とんでもない奴がいたもんだ」

「俺、性格悪い?」

「極悪だ! ま、いい。先にからかったのはあいつらだからな。で、仕事だったな……」


 

 アーマッドは机の奥から一枚の依頼書を取り出した。

 だが、それをすぐに渡そうとせず、ディランに問いかける。


「ディラン。お前の実力がこいつらとは段違いってのはわかったが、これはかなりヤバい依頼だぞ」

「ギルドの仕事ってにはそういうもんだろ。だからこそ、この仕事をやってみようと思ったわけだし」


 彼は今まで情報がはっきりした仕事しか請け負ってこなかった。

 未確認情報の多い仕事はなるべく避け、受けても慎重に行動した。

 だが、それでは彼の望む人生は開けない。

 

 宰相ヴァ―リの言葉通り、リスクを怯える者は誰の目にも止まらない。

 彼の言葉がディランの心に深く突き刺さっていた。

 だからこそ、自分を変えるために、不確定要素の多いギルドの仕事を受けてみようと考えてみたのだ。


 彼は真っ直ぐとアーマッドを見つめる。

 そこには先ほどまでお茶らけていた男の姿はない。


「ふむ、なるほど。お前さんにはお前さんの覚悟やら事情やらがあるってわけだ。わかった、この依頼を頼む」

「ああ、了解だ」

「だが、この依頼はかなりヤバい。いくらディランが凄腕だろうと、やり遂げられるか疑問だ。少しでも危ないと思ったら、逃げろっ」

「そこは抜かりねぇよ。しかし、そんなにヤバい依頼なのか?」

「ああ……今まで、この依頼を受けた者は大勢いるが……」



 アーマッドはごくりと唾を飲んだ。

 重々しい空気に押されるように、ディランは息を吐く。

「生きて……帰ってこなかった?」

「いや、全員無事だ」

「おっさ~ん!」

「いや、おちつけ。無事なのは受けた連中が敵を見てすぐに逃げ出したからだ。そんだけヤバい相手ってことだ」

「敵ってことは……」


 依頼に目を通す。

 そして、ディランが出した答えは。


「フフ、なるほど、面白そうな相手だ。依頼料もスゲェし、受けるよ」

「気をつけろよ」

「大丈夫。逃げ足には自信あるから。じゃ、サクッと片付けてくらぁ。悪いけど、荷物預かっててくれるか?」



 ディランは旅の荷物が詰まったズタ袋をアーマッドに放り投げて、後ろを振り返り、依頼用紙をひらひらと振りながら全裸の男たちの間を通り抜けていく。

 そして、自動で開くガラス戸から外に出ようとしたところで、一人の男性にぶつかった。


「っと」

「これは失礼」

「いや、俺も悪かった。すまない」


 ディランは男に道を譲り、先に通してからギルドから出て行こうとした。

 そこで小さな地震が起こる。


「おっと」

「ふむ、またか」

「また? 東でも地震が起こってんのか?」

「東? というと君は、西の?」

「ああ。それにしても世界のあっちこっちで地震とは、小さいとはいえ不気味だねぇ」

 そう言葉を残して、ギルドから去って行った。

 男性はディランの背中を見つめながら呟く。


「西でも地震? ふぅ、やはり何らかの問題が生じているようだな」

「これは町長の山田様」

 

 いつの間にか受付から出てきたアーマッドが話しかけてきた。

 町長と呼ばれた男性は視線をディランから外し振り返った。


 その容姿は初老の男性。

 パリッとしたスーツを着こなす、白髪交じりの精悍な紳士。

 彼はアーマッドにディランのことを尋ねる。


「先ほどの青年は西から来たようだが、新人の冒険者かね?」

「ええ。ですが、新人とはいえ、凄腕。その腕前はここにいる連中が束になっても敵いません」

「ほぉ、それは。流石は万年戦場と呼ばれる西の出身者だ。若くとも歴戦の戦士というわけか」

「あいつが特別って感じもしますがね。ですので、あの依頼を彼に任せてみました」

「アーマッド、それはいくら何でも」


「ですが、いつまでもあのままには……最近は特に動きが怪しいとかで住民が不安がっていますし」

「ふぅ~、万全を期さない限り、あそこには人を寄せ付けたくないのだが……ま、どのみち彼にはどうすることもできないだろう」

「どうでしょう、凄腕ですよ?」

「あれは人の力でどうこうできるものではない。いつものように逃げ帰ってくるのが関の山だ。それよりもだ……」


 町長山田はギルド内をざっと見回す。


「どうして男たちは皆、裸なんだ?」

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