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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯


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顕在匪砲(レゾンレイン)

 空を舞い、マチノミを攻撃を躱し続け、ひたすら剣で傷を刻み続けるディランは顕在匪砲レゾンレインの力を目にする。



「おお、なんかヤバくないか、あれ。魔力とは違う、何か……見てるだけ、全てを失いそうになるな。おっと、俺がぼさっとしてちゃいけねぇよな」


 ディランはマチノミの背に降りて、剣を突き立て、その背を駆け回る。

「おらおらおらおらおらおらおらおら!」

 人がコメ粒になるほどの背中の上で、彼は剣を用い、子どもたちが地面へ落書きをするかのように自由奔放に走り回った。

 マチノミは激痛に悶え、それから逃れようために触手や鱗を使い、ディランを払い落とそうとするが、彼の身のこなしの前ではそう簡単にはいかない。

 

 だが、マチノミはそのようなこと構わず、幾度も幾度も己の持つ牙をディランへ突き立てようとしていた。

 それは絶対に尽きぬ力。

 その力は牙だけではない。



 剣が描いた傷の道へ彼は視線を向ける。

 傷口はブクブクと泡を立てて、瞬く間に修復されていく。

 その光景に、ディランは舌打ちをする。


「チッ。これだからマチノミは! 馬鹿げた再生能力に、無限とも思える魔力。単独でやり合うなんざアホだ……と言いたいが」


 マチノミは背を走るディランの足元に棘を産み出し、彼へ飛ばす。

 彼はそれらを手で払いのけて、さらに走り、背中に傷をつけ続ける。

 時間稼ぎのために、ひたすら走り続けながら、ディランは考えていた。



(以前遭遇した軟体タイプとは違う、装甲タイプのマチノミ。体も軟体タイプより巨大でどうしようもないかと思ったが、想像より弱いな。これなら、俺一人で倒せそうだが……)


 ちらりとミシャへ視線を向ける。

 彼女はシャラノを前に忙しく指先を動かしていた。


(ミシャがマチノミに挑まなきゃ、わからなかった。俺は逃げを選択した。それはそれで間違いとは思わないが……あいつが前に立たなきゃ、勝利は得られなかった。だから……)



「ミシャ、まだか!?」

「あと五秒で発射できます、お兄ちゃん!」

「わかった!」


 ディランはマチノミを攻撃を躱しつつ、背よりひらりと舞い地面に降り立つ。

 そして、剣に魔力を宿し、それを大地に突き立てた。


 すると、大地の一部が隆起し、マチノミの腹部を拳のように何度も打ち据え、大空へと突き上げていく。

 夏の陽射し突き抜ける真っ青な空に、巨大な影が現れる。

 その影はまほろばの町を飲み込み、人々の瞳を埋め尽くす。


「ミシャ、御膳立ては揃ったぜ!」

「標的、補足。射線、空間隔離。命中後、霧散。顕在匪砲レゾンレイン、発射!」


 ナシェヤードの背の上で螺旋を描く三本の鉄塔。その中心に浮かんだ光の玉は、生命の鼓動を止める奇怪な音を跳ね上げた。

 同時に、全てを飲み込む光の道がマチノミを目掛けて飛び出していった。

 それは全くの無音。


 光の道として存在し、瞳に入れることができるが、心が味わう感触としては存在を感じさせないもの。

 命宿す者たちにとって、存在を許されない光の道。


 

 光は世界を白く染め上げて、空に浮かぶ巨大な影を一気に呑み込んだ

 

 世界を包み込み、青き空を切り裂く光。

 全てを否定し、奪い去る光が空を越えて、人が届かぬ場所へと吸い込まれていった。

 光は過ぎ去り、多くの人々が目に宿したのは、何もない空……。


 山を覆い、町を一飲みで奪い去る巨大な魔物、マチノミ。

 たしかに、その巨体は空に浮かんでいた。

 空に浮かぶ巨体は太陽の光を遮っていた。

 だが、命暖かな光である太陽を蹂躙する光が空を過ぎ去ると、マチノミの姿は消失していた。

 

 人々には何が起こったのか全く理解できない。

 ただ、確かにわかることは、今日という悪夢を乗り越えたことだけ。

 でも、心に宿す思いはそれで十分すぎるものだった。



 町から徐々に声が上がり、歓声となり、それは広がっていく。

 歓声は遠く離れたディランたちの耳にも届いていた。


 

 ディランは剣を腰に納め、ミシャに近づき声を掛ける。

「どうやら、町の連中にも見えてたらしいな」

「そのようですね」

「怪我は?」

「問題ありません。お兄ちゃんは?」

「かすり傷一つねぇよ」


 彼は力こぶを見せて、ニカリと歯を見せる。

 その言葉通り、彼の肉体には傷など全くない。

 ミシャはその姿に驚嘆を声を産む。



「かなりの実力者と思っていましたが、これほどとは思いませんでした。まさか、生身で戦闘人形である私の能力を上回るとは」

「ミシャもなかなかだったぜ。俺の仲間だったフレイヤやエイヤ程度の強さはある。ミズガルズが喉から手が出るほど欲しい人材だろうな」

「主たるお兄ちゃんに褒めて頂いて嬉しいかぎりですが、今回ばかりは悔しさが勝ります」


 ミシャは表情なく、言葉を返した。

 だが、表情なくともディランには、その言葉に戦士としての己を戒め未熟さを恥じている、と感じ取る。

 だから、彼はこれ以上言葉を掛けることなく、話題をナシェヤードの主砲へ移した。



「マチノミを一瞬にして消し去った大砲。あれはとんでもなかったな。ミズガルズ南方にあるダム砲台なんか目じゃない」

「ナシェヤードは様々な分野を行う研究所としての役割もありました。その実験の一つが主砲顕在匪砲レゾンレインです」

「つまり実験段階であの威力かよ。連邦ってのは凄い国だな」


 

 ディランの知らぬ技術を持ち、恐ろしい兵器を操る謎の国家――連邦。

 それに対し、ディランには警戒と違和感が生じていた。

 警戒は、ミズガルズの敵として、連邦が前に立つ可能性があるということ。


 そして違和感とは、自分の知る概念を覆す多くの事象。

 不思議な屋敷。ガクテンソクの存在。戦闘人形と名乗る人工生命体ホムンクルスの女の子

 そこには『まほろば』の町も当てはまる。


 これらはまるで、どこか別の世界の存在のモノとも思えてしまう違和感……。

(最近の地震といい、世界になんか妙なことが起こってる気がするが……もっとも、俺は西しか知らないからな。世界には俺の及ばぬ不思議があるってことかな?)

 彼は違和感を払い落とす、いまは……。

 そして、ミシャに優し気な眼差しを向けた。


「帰るか?」

「はい」

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