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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯
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その町の名は『まほろば』

 魔力の根源たるマナの揺り籠と称される世界――その名は『バールバラ』。


 このバールバラには大きく分けて五つの大陸が存在する。

 そのうちの二つを紹介しよう。



――西大陸トゥーレ


 この大陸は魔族の侵攻から人類を守るミズガルズ皇国が存在する。

 万年戦場と呼ばれる、戦争こそが日常の大陸。

 そのため、満足に食料生産も行えず、常に食糧事情がひっ迫し、民は困窮にあえいでいた。

 しかし、戦争に必要な物資は何も西大陸だけで賄っているわけではない。

 それを賄っているのが東大陸タミアラ。


 

――東大陸タミアラ


 西の壁、ミズガルズに守られたタミアラは平和であった。

 ここでは穏やかに時が流れ、西のために必要な物資が生み出されている。


 この二つの大陸、タミアラとトゥーレはかつて一つの巨大大陸であったが、長い時を経て陸地は別れ、そこには海が埋まり、現在に至る。

 両大陸とも多くの種族が混在する場所であるが、タミアラ大陸はトゥーレ大陸と違い、ミズガルズのおかげで魔族が少なく、人間が大きな力を持っていた。




 ディランは王都から馬を駆り、港から魔力を動力とした魔導帆船に乗り込み、十日ほどかけてタミアラ大陸南方に向かった。


 南方は海に面しており、山もあり、自然豊かな場所。

 人が住むにはこれほど適した場所はない。

 これがここを目指した理由の一つ。

 だが、最大の理由は別にあった。


 彼はタミアラへ向かう船の中で、ある町の噂を聞く。

 それは――空から降り立った魔術士たちが作り上げたという町の噂だ。


 その町の名は『まほろば』。

 そこは世界『バールバラ』のどこを探そうとも目にかかることのない技術が存在する不思議な町。

 とても賑やかで、毎日がお祭りのようだと。

 また、他の地域と比べ種族による差別がなく、多くの種が共存しているそうだ。


 ディランはその噂に惹かれ、どのようなものかと『まほろば』を目指した。



 

 早朝に魔導帆船は『まほろば』へと通じる港に到着した。

 ディランはくすんだ麻のロング服に麻のズボンと簡素な旅人の服に、若草色のパンチョを纏い、最低限の生活必需品を放り込んだズタ袋を背負い、魔剣の名を冠するティルヴィングを腰に差して、タミアラの大地に降り立った。


 一度、一緒に下船してきた多くの客を瞳に入れ、そこから周囲を見渡す。

 東に延びる一本の道以外、周りは森ばかり。

 傍にいた、港を管理している年老いた男性に彼は話しかける。


「なぁ、爺さん。『まほろば』って町はどう行けばいい?」

「ああ、それなら小一時間後に定期馬車が数台来るからそれに乗り込めばいいよ。ほら、他の人たちもそれを待っているだろ」


 老人が視線を周囲に振ると大勢の人が暇そうにあたりを散策したり、座り込んだり、談笑していたりしていた。


「馬車ねぇ……ここから『まほろば』まではどのくらい?」

「丸一日だね」

「なっが……この道をまっすぐ進めば、まほろば?」

「ああ、そうだよ」

「そ、あんがとね。爺さん」

「いやいや、大したことじゃないよ。ん、おや?」


 老人がディランに声を返したが、彼の姿形はどこにもなかった。



――

 ディランは『まほろば』へと続く道を己の足で駆け抜けていく。


「のんびり馬車旅もいいけど、丸一日はなぁ~。さっさと町について、冒険者に仕事を斡旋してくれるギルドに登録したいし、ついでに仕事を請け負って俺の凄さを響かせたいし」


 風より速く影を置き去りして駆け抜け、一時間程度で町が見えてきた。


「お、見えてきた…………なんか、浮かんでるな?」


 視線の先には、町の上空に浮かぶ色とりどりの無数の丸い物体。

「風船? 下には垂れ幕? えっと『ようこそ、まほろばへ』……はは、変な町」



 どうやら、町に浮かぶ風船たちは旅人を歓迎するもののようだ。

 中には店の宣伝も混じっている様子。

 

「聞いてたとおり、賑やかそうで楽しそうだ。ちょっとワクワクしてきたぜ」

 ディランは駆ける速度を上げて、町へと向かった。




――

「ほぉ、すごいねぇ……」


 町の入り口に立ち、彼は顎先を空に掲げる。

 町は表面がつるりとした堅牢な黒の壁に囲われて、入口には巨大な門が待ち構えていた。

 ディランは壁に視線を飛ばす。


「材質はなんだ? 石にも見えないし、金属? 魔法石? いや、魔力は感じない。だけど、丈夫そうだ」

 壁からは魔法や結界といった力は感じない。

 しかし、それとは違う不思議な力が宿り、町全体を守っているように彼は感じ取る。


「ま、外観はどうでもいいや。中へ入ろっか」

 大勢の人々に混ざり、彼は門の中に吸い込まれていった。




「ほあ~、すごいじゃん」


 町の内部は綺麗に道が整備されてあり、あちこちに出店が建ち並ぶ。

 家々の多くは石造りやレンガ造りで、皇都ミズガルズにあるものとあまり変わりはない。

 

 だが、それらの建築物と一線を画する高層建築も混じっている。

 とりわけ高い建築物は三つ。

 

 最も背の高い建物は、町の中央と思われる場所に立つ円柱状の塔。

 表面にはガラス窓が無数在り、高層階は剣で切って落としたような斜めの造りで、さらにそこから湾曲した鉤爪のような形をしていた。

 これは皇都ミズガルズにはないもの。また、皇都の城よりも数倍は背が高い。


 次に高い建物は時計塔と一体になった教会。

 時計は町のどこからも見えるように、壁の四面に巨大な時計盤が設置されてあった。

 

 その次にディランが目に入れたものは、町の北の方にうっすらと見える、レンガ造りの橋のような建築物。

 彼は道を歩いていた男性を捕まえて尋ねた。



「あの、北の方にある建物はなに?」

「ああ、あれかい。水道橋だね。北の方は古い建物が多いから水道橋を利用して農業用水を運んでるのさ。ここら一帯は地下に水道管を通して蛇口からいくらでも水を得られる必要ないけど」

「お、そうか……うん、ありがとう」


 ディランは後半の、蛇口という説明に首を捻る部分があったが、とりあえず納得した振りをした。


「よくわからんが、皇都よりも発展している?」

 町の広さは皇都ほどの広さはないようだが、町の造りからは皇都より優れている部分が多々あるのではないかと、彼は感じているようだ。


「東の方は田舎だと思ってたが、こりゃ、俺の方がおのぼりさんみたいになりそうだなぁ。魔族が少ねぇから、町の発展に力を注げるのかねぇ? それに早朝からこの賑やかさに、この種族の多さ」



 彼は町を見回す。


 通りには人より耳が尖がった者。人より背が低い者。全身を体毛に包まれた者。頭に獣の耳を生やした者。とても小さく、蝶の羽を生やした者。青白い肌を持つ者。

「エルフ。ダークエルフ。ドワーフ。獣人。ピクシー。お、吸精鬼ヴァンパイアまで。彼女たちのエロテク半端ねぇんだなぁ。この光景は皇都じゃ考えられねぇな」


 皇都ミズガルズは人の国。

 僅かばかりの異種族がいるが、多くは人。

 もちろん、周辺地域を見渡せば多くの種族がいる。

 だが、皆、独立した生活圏に存在し、共に暮らすことは滅多にない。


 しかし、ここまほろばは違う。


 多くの種族が諍いを起こすことなく、笑顔で町を闊歩する。

 人間の子どもと獣人の子どもが一緒に道を駆けて行き、友として存在している。



 ディランは町の様子を瞳に入れ、微笑みを浮かべた。

「ふふん、悪くねぇ。この町を選んで当たりだったな。じゃ、とりあえず、ギルドを目指そうかね」


 空を見上げれば、まだ太陽は昇ったばかり。

「うん、早速仕事を貰って、最高難易度の仕事をあっさりと片付けて、この楽しそうな町に俺の名を轟かせるとするかっ」

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