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言葉の神が見る世界  作者: つまり%
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04 雉も鳴かずば撃たれまい3

新元号おめでとうございます。

令和はもっと自分らしく頑張って成長していきたいと思います!

「──────!!!」


暗い暗い闇中で雫の耳に悲痛な叫びが聴こえる。

その声には相手への強い感情が乗っている。


私を認めて

私を見て

私と一緒にいて

私を褒めて


またか、と私は思った。

あの日から何度この悪夢を見てきただろうか。

記憶の奥底に押し込めたはずの記憶が時折夢となって浮き出てくる。

初めの時は耳を塞ぎ早く覚めないかととにかく耐えた。

だけど今となっては私の心は壊れてしまって何も感じない。

なぜならこの悪夢は今も続いているから。

だからいつもと同じ通りに私は、いつ覚めるのかなと思いながら眼下に映された悪夢を見ていった。


─────────

「お母様のわからずや!!!」


お母様に向かって私は感情を爆発させていた。


「私はただお母様のお手伝いしたかっただけなのに!」


私のお母様は村の子供達を集めて勉学を教えている先生だ。

お母様は昔から身体が弱かったので、お城で勘定方をしているお父様の勧めから別邸のある田坂村に移住してきた。

ただ療養しているだけだと居心地が悪いと言って、お母様は村の子供たちを集めて文字や算術など教えていた。

もちろん私もお母様から学んでいたので、手伝うと言ったけど直ぐに断られてしまう。


貴女はまだ子供だから

貴女には人に教える事はまだ早いから

貴女はまだ学ぶ事があるから


何度手伝うと言っても様々な理由を付けてお母様は首を縦に振らなかった。

この日も手伝うと言ったけど断られてしまった。


「なんで駄目なの!?私はもう子供じゃないもん。村の子より文字も書けるし、算術も出来るもん。」

「それでも駄目です。貴女にはまだ任せられません。」


お母様からきつく言われ、私はつもりに積もった感情に突き動かされるままに言葉を発してしまった。


「もう知らない!いつもいつも否定して!お母様なんて大っ嫌い!!」


私は泣きながら家を飛び出た。


「こら!待ちなさい!」


後ろからお母様が呼び止めるも構わず走り続けた。



涙で前があまり前が見えないがとにかく今は感情が制御出来ない。

無我夢中で動かなくてはどうにかなりそうだった。


(お母様を少しでも楽にしてあげたかっただけなのに!)

(わからず!屋わからず屋!わからず屋!)


頭がぐちゃぐちゃになり、嫌な事まで想像してしまう。


(どうせ私はいらない子だったんだ。だから私にお手伝いをさせてくれないんだ。)


感情制御が出来なくなった私は掛ける足を止めることなく村の外へ出てしまった。


──────────

見境なく走っていた私は、足に疲れが蓄積していたのも気づかずにいた。

そのせいで足がもつれてしまい転んでしまった。


「痛っ」


幸いにも土が柔らかい所で転んだ事もあって膝を少し打った程度で済んだ。

土から伝わる冷たさもあり、さっきより冷静になれた私は今まで見たことが無い場所にいる事に気が付いた。


「ここはどこ?」


周りには大きな木々があり、辺りに生えている草も長々と育っている。

後ろを見てみると自分が走って来たであろう獣道らしき道があるだけだった。

冷静になった事で此処が知らない場所だという事を自覚してしまい、後悔と恐怖が胸の中を満たしていく。


(ど、どうしよう。)


身体から汗が溢れてくる。

私はここで死ぬと不意に思ってしまい、更に恐怖が心を蝕んでいく。


(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい)

(お母様お母様お母様)


泣きながらうずくまってしまった私に風が吹き抜ける。


「────。」


震える身体を撫でるように流れる風に混じって人の話し声が聞こえた気がした。


(何か聞こえた?)


何かに縋るような気持ちで声が聞こえた方向に耳を澄ませてみると、微かに水の流れる音が聞こえた。


(川が近くにあるのかな?)


先程の声は聞こえなかったかけど、水場に出れば村までの道が分かるかもしれないと思い、私は水が流れている場所を目指して駆け出して行った。


歩いて少し経つと水が綺麗な小川を見つけた。


(やった。この川を下っていけば少なくとも知ってる場所に着くかもしれない。)


これで帰れるかもと思ったら安心感の為か、喉が渇いているのに気がついた。

小川に駆け寄り水を勢いよく飲み始める。


「ゴクッゴクッ·····はぁはぁ。」


私が川の水を飲んでいると川の上流から声をかけられた。


「おや?こんな場所に珍しいお客様ですね。」


急に声をかけられ驚きながら声の主を見てみると。


「──·····ぁ」


川の上流にいたのはなんとも神々しい雰囲気漂う人がいた。

この時私は人とはこんなにも清く美しくなれるものなのだろうか、と思うほどに目を奪われてしまっていた。

長くとても繊細な銀髪は太陽の光を浴び輝かしく煌めいているように見え、来ている着物も私が見たことが無いような美しさがあった。


(綺麗なお人·····)


私がその方に見とれているともう一度声をかけられた。


「えっと。声聞こえてますか?お嬢さん。」


その声にようやく我に返った私は慌てて返事をした。


「も、申し訳ございません。貴方様があまりにも美しかったので見とれてしまっていました。」

「いやいや、そんなに畏まらなくてもいいですよ。ところでお嬢さんはどうしてここに?」

「えっと·····実は道に迷ってしまいまして、田坂村に帰りたいのですけど、どこに向かえばいいのか分からず困っていたら水が流れる音が聞こえまして。」

「なるほど、何か分かるかもしれないと思って来たんだね。」


綺麗なお人は少し考えるような動作をしてから、私の方に歩いてきた。

そして私の前に来ると懐から何かを取り出した。


「君にこれを。」


そう言って私の手に何かを渡してくれた。


「あのこれは?」


見てみるとそれは小さな御守りだった。

一見なんの変哲もない御守りだけど、不思議と心が暖かくなっていく気がしていた。


「これは見ての通り御守りです。厄除け、不安などを祓う物になります。ここからこの川を下っていけば田坂村に着きます。移動する途中動物達に襲われないようにお渡しします。」

「あ、ありがとうございます。でも貴方様はどうしてここまでしてくれるのですか?」

「ん?そうですね〜。久しぶりに人と接触出来て嬉しかった、からですよ。ですから少しお節介をと思いまして。」


あまり気にしないでくださいと言うので、単なる親切な人なのだと私は思い、素直に受け取る事にした。


「そろそろ向かわないと村に着く頃には日が暮れてしまいますよ。」

「そうなのですか!?色々とありがとうございました。」


お礼を言う私にこちらこそと仰ってくれた人に改めてお礼を言いその場を後にした。

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