01 一言主神
この世は言葉で全て決まってしまう。
善や悪、味方や敵、家族や他人など全てのものは言葉で決まっている。
その言葉を間違えると、全てが無くなる力もある。
(私はどこで間違えたのだろう。)
水の中を漂っている時、私はずっと思っていた。
息もできず、ただ深く底へ落ちていく。
(ああ、でもやっと母様や父様の所に行ける。)
自分にはもう何も無い。
両親も
兄妹も
居場所も
なら皆がいる黄泉の国へ行きたい。
そう思い私は死んだはずだった。
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ここは現世と幽世の狭間、いわゆる三途の川である。
周りには枯れ木しかなく、川はゆっくりと流れ大小様々な石がある殺風景な畔にとある神様が降りてきた。
その神の名は一言主神と言う。
一言主神とはその名の通り言葉の神であり、全ての事柄を一言で現す神である。
「はぁ〜、面倒臭いですけど仕方ないですね。」
面倒臭そうに頭を掻きながらゆっくりと木製の門から出てきた一言主神は、眼前に人間の子供が仰向けに倒れているのに気が付いた。
人間の子供はボロボロの布を纏っており、髪も伸びきって手入れもまともにされていない状態だった。
「おや、死人ですか。」
倒れている少女に近寄り、額に手を当てると接触した箇所から淡い光が子供の身体全体に広がった。。
「なるほど、まだ完全に死んではいないみたいですね。ですからこの三途の川に留まっているのですか。」
調べて分かったことは、子供の性格は女性で年齢は14歳。水をくみに山へ向かった時、野生の熊に追われて川へ落ちてしまった。
一言主神が少女の事を調べていると、少女が目を覚ました。
「おや、目が覚めましたか。」
目を覚ました少女はゆっくりと起き上がり暫く周りを見渡したあと、一言主神を見た。
「あの、ここは何処でしょうか。」
恐る恐るといった感じに疑問を投げかけた少女に、なるべく優しく答えた。
「ここは極楽浄土と現世の間にある三途の川という場所になります。」
「三途の川・・・・・・。私は・・・死んだのでしょうか。」
「いえ、あなたの場合はそうではありませんね。勝手ながら貴女の状態を調べさせてもらいましたが、まだ生きていますよ。」
「そう・・・なのですか?」
「ええ、今の貴女は生きるか死ぬかの瀬戸際にいす。」
「そう・・・なんですね。」
「ですからこの場に留まっているのでしょう。本来であればあちらに見える橋渡し方が極楽浄土まで送って下さるはずですから。」
少女から後方に離れた場所にある船着場を指さし、少女に場所を示した。
「教えてくださいまして、あ、ありがとうございます。」
お礼を言って立ち去ろうとした少女に一言主神は一呼吸考えた後に少女を引き止めた。
「もし貴女がまだ生きていきたいと少しでも思うのであれば、私と一緒に来てはいかがでしょうか?」
「貴方様は一体・・・」
「私は一言主神と申す者です。今は上役の神の命で人間界の視察を行う為、こちらまで降りてきました。」
「ですが私一人で視察をするよりも、人間の方が傍に居てくれた方が安心して旅を行えると思いましてね。」
どうでしょうかと尋ねてみたが、少女は俯いてしまい反応が無かった。
「もちろん、貴女が嫌なら断って頂いて大丈夫ですよ。ただ貴女に少しでも未練があるようでしたら、私と共に旅をして頂けませんか?」
少女は暫く考え、一言主神の提案に頷いた。
「わかり・・・ました。」
「それは良かった。私は偶然貴女の前に現れた。これは何かしらの縁と私は思うのです。」
「それを私は大切にしたかったので本当に良かったです。」
一言主神は優しく微笑みかけ少女の名前を聞いていない事に気が付いた。
「そう言えば貴女の名前を教えて貰ってもいいかな?」
「名前は無い・・・です。周りの人は私の事を物みたいに扱っていましたので。」
事情を聞き、ならばと一言主神は少女に名前を考えた。
「そうですね。ではこれから貴女は雫と名乗りなさい。」
「しず・・・く」
「そう雫。お淑やかで心を豊かな人になるように願いを込めて名付けました。」
「私にはもったいないお名前です。」
畏まる雫に頭を撫でながら会話を続けた。
「貴女にとても合う名前と思いますよ。それと私が貴女の名前を付けたことによって、雫は私の巫女になります。」
「そんなとても・・・畏れ多いです。」
「今はまだ実感がないだけですよ。それでは参りましょうか。」
一言主神は懐に仕舞っていた転移の札を使い転移門を召喚した。
門が勝手に開き向こう側には小さな社が見える見える。
「雫、大丈夫ですよ。」
俯いている雫の手を引いて現世へ通じる門をくぐり抜けた。
読んでいただきありがとうございます。
初めての投稿で少し緊張しました。
まだまだ未熟で拙い文ではありますが、これから少しずつ投稿していく予定ですのでよろしくお願いします。