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8話 いざ本拠地へ

「本気で言ってるのかい!?」

「止めておいた方がいいです!」

「無謀だぜ兄ちゃん!」


 店内では全員が全員思い思いに喋るのでもはや何を言っているのか聞き取れないほどだ。

 まあ、本拠地に乗り込むなってことが言いたいのは伝わってくるけど。


 でも、そこまで止めてくる理由が分からない。

 ギルド「ドミナント・バンディット」に迷惑しているのは確かなことだろうに。

 それに、旅人である俺が死んだところでここにいる人たちにとっては無関係のことだろう。


「何でそんなに止めるんですか?」


 騒がしい店内で、近くにいる店長に聞いてみた。

 店長は目を丸くして唖然としているように見える。

 言わなくても分かるだろうといった表情だ。


「そんなの、勝てっこないからさ。あんたはまだ若いんだ、命は大事にするもんだよ!」

「でも、さっき買ったじゃないですか。だから本拠地に行っても勝てますよ」

「あんなのはただの下っ端さね。ギルド長は実力者だと聞くし、あいつらは魔物を飼育しているなんて噂もある。だから行かない方がいい」


 何やら物騒な話を聞かされたな。

 魔物を飼育している?

 もしそれが本当ならとんでもない犯罪行為だ。


 本来ギルドは、魔物を討伐する集団という認知が強い。

 もちろん魔物討伐以外の依頼もあるが、やはり大部分は魔物関連の依頼だ。

 人類共通の敵である魔物を対処するという名目で地位を与えられているといっても過言ではないだろう。


 ギルドの役割を逸脱して魔物の飼育をするなどもはやギルドの風上にも置けない奴らだ。

 いや、それどころか人類の敵だ。


「すいませんがどれだけ止められても俺は行きますよ」

「どうしてそこまでして……」

「別にこれといった理由があるわけじゃないですけど、気に食わないんで潰してきます」

「……。分かった、教えるよ」


 諦めたように店長は呟くと、店の奥に周辺の地図を取りに行こうと踵を返した。

 これでようやく戦いに行けるな。

 さっきからイライラが溜まってるから早いところ発散したい。


「待って、お母さん……じゃなくて店長!」


 歩き出した店長を呼び止めたのはリリアだった。

 なぜ、呼び止めたんだ?

 ようやく話が付いたところだというのに。

 また蒸し返すつもりなのだろうか。


「なんだい、リリア」

「私が案内する!」


 何を言っているんだ?

 聞き間違いか?

 案内って俺と一緒に本拠地に行くってことか?

 リリアの本心が分からず頭の中で疑問ばかりが渦巻く。


「何を言ってるんだい、リリア!?」


 店長も俺と同じ反応。

 どうやら聞き間違いではないらしい。


「地図で教えるよりも誰かが案内した方がいいでしょ!」

「あんたが行く必要はないわ!」

「行くっていったら行くもん!」

「ダメよ! 聞き分けの無い子だね!」


 親子喧嘩が始まってしまった。

 どちらも譲るつもりがないらしい。

 このままだと掴み合いになりそうな雰囲気だ。


「さっき危険な目にあったばかりなんだし、案内は止めといたほうがいい」


 言い合いをしている二人に割って入って意見を述べる。

 もちろん店長側に着いた意見だ。

 正直、護りながら戦うのは得意じゃない。

 だからドミナント・バンディットの本拠地へは一人で行く予定だ。

 リルにも留守番してもらうつもりだし。


「やだ! 何て言われても着いて行きますからね!」


 どこまでも強情な人だな……。

 これは俺じゃあ説得できそうにない。


「なあ、リル。説得してくれよ!」

「私がですか?」

「ああ」

「分かりました!」 


 リルはトコトコと歩き出した。

そして、リリアと店長の近くに辿り着くと、店長の方を見つめて、


「リリアさんは私とアビスさんが必ず護りますので、どうかお許しいただけないでしょうか」


 と言い放った。


 おかしい。

 俺が思っていた説得と違う。

 なんで店長を説得してるんだ?

 というか、リルが着いてくるのが前提条件になってるんだけど。


「でも、リリアを危険な目に合わせるわけには……」

「大丈夫です! アビスさんの実力はあんなものではありません! 絶対に安全ですから!」


 リルのキラキラと輝く瞳からの上目遣い。

 男ならイチコロだが……。


「どうか、リリアのことをお願いします」


 堕ちたー!!

 何やってんの店長!!

 確かにリルは可愛いけど、そこは意思を強く持ってよ!


「ありがとう、お母さん! すぐ準備してきますね!」


 母からの許しを得て意気揚々と走り出すリリア。

 もはや止めることはできそうにないな……。

 護り切れるかなぁ。


 今後のことを考えて頭を抱える俺の下に、リルがちょこちょこと寄ってくる。


「上手く説得できました!」


 えへんと胸を張りにこやかに微笑むリル。

 こんな笑顔見せられたら攻めることはできないな。


「ありがとな、リル」


 とりあえず頭を撫でることにした。

 ナデナデと頭を撫でるとリルは気持ちよさそうにしている。

 やっぱり獣人は撫でられたりするのが好きなのかな。

 それならこれからも撫でよう!

 リルのフワフワの髪と耳は疲弊した俺の心を少しだけ癒してくれるし、win-winの関係というやつだろう。


 リルの頭を撫でていると、ドタドタと足音が聞こえてきた。

 どうやらリリアの準備ができたみたいだ。


「お待たせしました! さっそく行きましょう!」


 店の制服から着替えたリリアは少し印象が違って見える。

 やっぱり服っていうのは印象を変えるものなんだな。


「気を付けるんだよ、リリア」

「うん!」

「それから、迷惑をかけないようにするのよ」

「分かってる!」

「それから……」

「もう! 分かってるよ、お母さん! 元気に帰ってくるから!」

「あんたの好物作って待ってるからね」


 なんだこの今生の別れみたいな雰囲気は。

 出発前にこんなやり取りをするのは不吉らしいけど大丈夫かな……。

 何が何でもリリアを護らないといけないな。


 その後、店の外まで心配そうに見送ってくれた店長や店内にいた客たちに手を振りながら歩き始めた。

 なんで客たちも見送ってくれてるのか分からないけど、こんな風に送り出されることも滅多にない経験だ。

 悪い気分はしない。


 街道を歩き始めてしばらく経ったころ。

 俺とリル、そしてリリアはお互い自己紹介を済ませて、雑談をしながら歩いている。

 リリアは年も近いし話が流暢だから一緒に居て楽しい。

 リルとも打ち解けているみたいだから、獣人だからといって差別したりしないところも好感度が高いところだ。


「リリア、目的地までどれくらいなんだ?」

「今でちょうど半分くらいですね!」

「じゃあ、もうすぐですね。緊張しちゃいます」

「なんでリルが緊張してるんだよ?」

「戦うのとか慣れてませんから……」


 なぜか戦う気満々のリル。

 旅の同行者としては頼もしい限りだが、実力としてはよく分からないんだよな……。

 魔物に襲われているところしか見たことないから、心配になってしまう。


「まあ、無理するなよ」

「頑張ります!」

「わ、わたしも!」

「リリアはダメだ」

「そんなぁ……」


 和やかなやり取りをしていると前方からガラの悪い奴らが歩いてくる。

 一目で悪人だと分かる見た目だ。

 十中八九ドミナント・バンディットのメンバーだろう。


「お前らだなぁ? 俺たちの仲間に恥かかせてくれたのは!」


 連中は武器を構えて俺たちの前に立つ。

 斧や短剣などいろんな武器を装備していることから俺たちを無事で済ませる気はないらしい。


 数としては五人ほど。

リルとリリアを護りながら戦えるかここで試しておく必要があるな。

 肩慣らしの相手になってもらうとしよう。


「おい、無視してんじゃねえよ!」


 怒気を込めた口調で問いただしてくる。

 こういう輩はどうして不意打ちしようとか考えないんだろうな。

 いちいちこちらの反応を待ってくれる。

 それが自分たちの隙になると考えが及ばないのだろうか?

 まあ、好都合だけど。


 連中に反応することなく、俺は足に力を込めて間合いを一気に詰める。


「なっ!?」


 驚いた表情をしているな。

 だが、今から武器を振るっても手遅れだぞ。


 まずは一番近くにいた男のみぞおちに掌底を食らわせる。


「ぐぅぇ……」


 口から濁った声を出して地面に崩れ落ちる男。

 まずは一人だ。


「こいつ!!」


 倒れた男の横にいたやつが手に持っている斧で切り付けてきた。

 その程度の攻撃予測済みだ。

 ひょいと攻撃を躱して、反撃として下段蹴りをかます。

 ゴキッという音を立てて男の膝が変な方向に曲がる。

 どうやら骨が折れたみたいだな。


「うぎゃぁ!」


 足の痛みから男がうずくまる。

 こいつはもう戦線復帰できないだろうが、まあ、とどめを刺しておくか。

 うずくまっている男の頭を掴み、顔面に膝蹴りを叩きこむ。

 グシャッと鼻が砕ける感覚が膝を通して伝わってくる。

 鼻をつぶされた男は何も言わずに鼻血だけを吹き出しながら仰向けに倒れた。

 これで二人目だ。


「なんだ……こいつは……」


 地面に転がっている仲間を見て残りの三人が狼狽えている姿が目に映る。

 かなり戦意を喪失しているみたいだな。

 まあ、逃がすつもりは毛頭ないけど。


 俺は再び足に力を込めて間合いを詰めた。

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