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4話 二人で

「ふぅー、気持ちいいな!」


 水面から顔を出して声を出す。

 水が冷たくて体も頭も冷やしてくれる。


 今、俺が浸かっているのは、森の中にある小さな泉だ。

 リルが案内してくれた。

 綺麗な場所で、人が来た形跡もないので穴場というやつだろう。

 世界にはまだまだこんな場所があるんだろうな。


 泉の水はとても冷たくて気持ち良い。

 水は澄んでいるし、飲んでも問題なさそうだ。

 狼型の魔物を食ってから飲み物を飲んでないから少し喉が渇いていたところだし飲んでみようかな。


 泉にガバッと口をつけて飲んでみる。

 水は口当たりがよく、スルスルと喉を通過していく。

 おお!

 これは美味しい。

 商品として売りに出せそうだ。


 その後、泳いでみたりもした。

 ゆったりとした時間が流れて行く。

 喉も潤って、体の汚れも落ちて、リフレッシュもできた感じがする。


 ちなみにリルは少し離れた木の陰にいる。

 俺が殺した魔物の返り血がリルにも少し飛んでいたから「一緒に浸かるか?」と誘ってみたけど断られてしまったからな。

 まあ、当然か。

 出会って間もない男に肌を晒そうとは思わないわな。

 だけど、誘ったときに少し頬を赤らめてプルプルと頭を横に振る姿は可愛かった。


 俺が泉に浸かってから暫く時間が経った。 

 そろそろ上がるかな。

 ちょっと寒くなってきたし。


 泉から上がり、服を着て、リルの下へと向かう。

 泉の中で今後について考えてみた。

 俺の旅にリルも誘ってみようと思う。

 断られたらそれでいい。

 だけど何となくリルのことが放っておけないんだよな。

 俺と同じく一人ぼっちだから親近感でも湧いてるのかもしれないな。


 木陰にいるリルの下に行くと、膝を抱えて木によりかかるように座っていた。

 歩み寄ってくる俺に気づいたリルが上目遣いで話し掛けてくる。


「アビスさん、満足いただけましたか?」

「ああ! リルのおかげで気分も体もスッキリしたよ。綺麗な泉だった!」

「それは、良かったです!」


 エヘッと笑顔を見せるリル。

 本当は笑えるような胸中じゃないだろうに……。

 良い子だな。


「なあ、リル。一つ聞きたいことがあるんだけど」

「なんでしょう?」

「今後、行く当てはあるのか?」

「……ありません。なので、人間の街にでも出ようかと考えています」


 リルなりに今後のことは考えているみたいだな。

 だけど、人間の街に出るのは止めさせなきゃいけない。


 人間の街で暮らす獣人はそれなりにいる。

 だからリルが街に出ても不自然ではない。

 むしろ可愛いから注目を集めるかもしれないな。

 だけど、身寄りのないそれも可愛らしいリルなんて捕まえられて売られるのが目に見える。

 人間っていうのはそういう種族だからな。

 まだまだ他の種族への排他的思想が根付いているのだ。


 さて、さっきの質問でリルの行く当てがないことは分かった。

 あとは、スマートに誘うだけだ。


「リル、もし良ければ俺と一緒に来ないか?」

「……!?」


 リルが俺の目を見ながらパチクリと瞬きをしている。

 反応は悪くないな。

 後は上手く言葉を繋ぐだけだ。


「えっと、俺もさ、行くところがない方浪人なんだよ。だからさ、一緒にどうかなって。もし旅の途中で気に入るところがあればそこでお別れで構わない。どうかな?」

「本当に……宜しいんですか?」

「俺も一人ぼっちは寂しくてさ……。リルが一緒に来てくれたら嬉しいんだけど」


 しばしの沈黙が訪れる。

 リルは耳をぴょこぴょこ尻尾をフリフリしながら思案しているようだ。

 この子はどうも感情が見た目に出やすいらしい。

 獣人っていうのはみんなこんな感じなんだろうか?


 しばらくリルの思案姿を見ていると、決意したようにこちらを見つめてくる。

 そしてゆっくりと口を開く。


「アビスさん。不束者ですがよろしくお願いします」


 ペコっと頭を下げてくる。

 一瞬、了承されたのか断られたのか分からなかった。

 リルはちっちゃい割に言葉遣いが小難しいというか丁寧なんだよな。

 俺とは正反対だ。


「よろしくな、リル!」

「はい!」


 手を差し出すと、小さな手で握り返してくれた。

 リルの手は温かかった。

 

 握手も済んだことだし、旅の続きをするとしよう。

 まだまだ俺が目指す理想の地は遠いからな。

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