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妖怪の少女と逆襲のキリカ編


 だんだんと暖かくなってきている三月の十四日、四時限目の授業を受けていたリムは何気なく窓の外へと視線を移すと、グラウンドでサッカーをしている初等部の生徒の中によく知った少女の姿を見つけた。

 「体育なんだ、お姉ちゃん達……」

 小さく呟いた直後、「こら、よそ見するなリム!」というフェリオン先生の声に慌てて視線を戻し「す、すいません……」と謝った。


 サッカーといっても男女関係なくクラスで半分に分かれてボールを蹴り合う半ば遊びみたいなものであるが、小学校の体育であればそういうものである。

 その生徒達の中でも小柄な女の子のエターナは、自分よりも体格の良い男子相手に中にも果敢に突っ込んでボールを奪っていく。 そして「メア! パス!」と蹴り上げたボールは、まったく見当違いの方向に飛んでいきフィールドの外へと転がった。

 「ありり?」

 「……まったク、いつもの事なガラ……ノーコンなのデスネ」

 相手チームの男子がボールを拾いに行くのを目で追いながらそんな事を言うメアである、現在彼女らのチームが負けてはいるが、別に勝とうが負けようがどっちでも良かった。

 「ちょっとエターナ! 何やってるのよっ!!」

 アリスの怒声である、普段はおとなしく他人に対して遠慮がちなアリスなのだが、エターナに対しては遠慮なく自分の感情をぶつけているようにメアには感じられる。

 「たはははは~ごめん~~!」

 あまり反省のしてない様子のエターナは、相手の男子がスローインしたボールを追いかけ始める。 残りの授業時間を思うと勝ち目のない勝負であるが、それでも手を抜く事もしないのは、メアには理解出来ない事である。

 「マ、お腹を空かせた分お弁当が美味しいカラでしょうカネ?」

 言ってはみたものの、多分違うのだろうとは分かる。 何度も転び体操服も奇麗な銀髪も土で汚れるの構わず走り回るあの小さな魔女は、きっと手を抜くという気ような事が出来ないだけなのだろう。

 「……ン?」

 その直後、一瞬にして世界が灰色に染まり周囲にいたはずの生徒達の姿も消え去った……いや、正確にはメアと後二人、エターナとアリスだけが残されている。

 「……へ?」

 「ちょ……何? 何なの!?」

 当然ではあるがいきなりの事に驚き戸惑う友人達へと駆け寄りながら、「メアにも分からないデス」と言う。 そこへ「くっくっくっくっ!」という不気味な女の笑い声が聞こえてきた。



 「……な!? 何が起こったんです!?」

 生徒たちの授業を見守っていた黒い猫の耳と尻尾持つアイン先生は、突然にエターナ達三人の姿が消失したのに驚きの声を上げながらも少女達の姿を必死に探そうとする。

 生徒達がアインの元へ集まって来て、驚きと不安の入り混じった表情「先生……」と見つめてくる。

 「……大丈夫ですよ、エターナさん達ならきっと……」

 それはどこか自分に言い聞かせる風でもあった。

 とにかくこれでは授業を続ける事も出来ない、アインはみんなに教室に戻るように言うと自身は学園長であるトキハの元へと急いだのであった。



 三人の女の子達の前に現れたのは青いツインテールの少女であった。

 「あんたは……」

 エターナはその蒼い瞳で少女を見つめていたが、やがて名を口にした。

 「キリコだっけ?」

 少女は一瞬キョトンとなった後、「だぁぁあああああっ!!!!」と大声を上げた。

 「私はパーフェクトなソルジャーのアー〇ード・トルーパー乗りじゃないですわぁぁあああああっ!!!!」

 首を傾げながら「あり?」というエターナをアリスは呆れた目で見ながら「違いでしょ、キノコよ!」と訂正した。

 「それも違う~~~! てか、”キ”しか合ってないでしょうがぁぁあああああああああああっっっ!!!!!」

 「……別にドウでもいいデス」

 友人二人のやり取りと少女のツッコミをどこか冷めた様子で見物していたメアは小さく息を吐いた。

 「どうでもいいとか言うな! 私はキリカ! 魔神サフィール様の部下のキリカですわっ!!!」

 顔を真っ赤にし叫ぶキンコは、実際酸欠間近であろう。

 「書き手おのれもかぁぁああああ……がほっ……」

 最後の無駄なツッコミで肺の中の酸素を使い果たしたキリカはパタンとグラウンドに倒れた……そして再び動き出すまでに要した五分間にエターナ達は何をすることも出来ず……というか、してはいけない気がして、ただ可哀そうな子を見るような目で見ているしかなかった。

 「……ま、まあ……いいですわ」

 気を取り直したキリカはスッと右手を天に掲げると、光が現れ棒状の形を形成し、最後にはハルバートとなった。 ニヤリと笑みを浮かべながらそれを掴むと見せつけるかのように構えをとってみせる。

 「この結界の中には誰も入ってはこれはしない、ゆっくりと遊んであげましょう!」

 アリスが「……ひっ!?」怯えたのに、エターナはその前に立ちエターナル・ピコハンを出現させた。

 「……っていうか、あんたはあたし達の何の恨みがあるのよっ!?」

 「恨みではありませんわ、我が主の暇つぶし。 それにあなた方が選ばれたにすぎないのです!」

 言い放つと同時に突撃して来たキリカに対しエターナも「そんな事で!」と言い返しエターナル・ピコハンを振ると、そこから光弾がキリカめがけて跳び出し高速で迫るが、彼女は余裕の表情で回避した。

 「エターナ・シュート! その技も調査済みですわっ!!」

 躊躇なくハルバートが振り下ろされるが、それをエターナが回避出来たのはキリカが本気で当てる気がなかったからだ。 

 「簡単には終わらせないですよ? 前回はあんた達のおかげで宇宙そらの藻屑になるところだったんですからね!」

 その言葉は、エターナはもちろんアリスやメアにも意味が分からない。

 だがそんな事を気にしている暇もなくキリカの攻撃は繰り返され、エターナはそれを避けるので精いっぱいになった.

 「むぅ……エターナ一人ではキツイ相手デスカ……」

 今のところ相手の攻撃を上手く避けてはいるが、攻勢に出れなければいつかはやられてしまうだろう。 誰かが助けに入らなくてはいけないが、アリスは吸血鬼とはいっても戦う術は持っていない。

 「仕方ありマセン。 エターナ、お礼はお弁当の半分デスヨ!!」

 メアが手をかざすとそこから出現した光の矢が高速で飛び出し、キリカの手に命中しハルバートを弾き飛ばした。

 「……っ!?……というか魔法!? 妖怪の付喪神がナンデっ!!?」


 説明が必要であろう……。

 メアは間違いなく妖怪であるが、同時に実はソードなワールドのTRPGのために創り出された存在なのである。 細かい経緯は省くが、要はそんわけで妖怪という実際和風な存在でありながら西洋ファンタジーめいた魔法を使えてしまうのである。

 ……以上、説明おわり。


 「……って!? そんなのありなんですかぁぁああああっ!!!?」

 などと叫んでる間にエターナがキリカの背後に回り込み、エターナル・ピコハンを振り上げていた。

 「……し、しま……」

 「エターナ・インパクト~~~~!!」

 勢いよく脳天に振り下ろされたピコハンは名の通りの可愛い音を鳴らし、そして実際本物のウォーハンマーで殴られたような衝撃を与えた。

 「アヴァァアアアアアッ!!!?」

 キリカの悲鳴と同時に灰色の世界にひびが入り、そして彼女がばたんきゅ~と倒れるとそれが一気にガラスめいて砕け、世界は色を取り戻したのであった……。


 高等部のリムと中等部のアストに由仁ゆにが初等部の教室でエターナ達とお昼を一緒にしているのは、心配で様子を見に来たついでにそうなったのである。

 近くの机と椅子も借りそれらを一か所に集めて、みんなで囲んでいる。

 「まったク……いい迷惑だったのデス」

 自分の分とエターナから貰った……というか強引に徴収した卵焼きなどのおかずを前にメアが言う。

 「まったくよねぇ~」

 同意するエターナのお弁当箱の中身がちゃんと詰まっているのは、リムやアストが彼女に自分の分を分けてあげたからである。

 「キリカだっけ? いつの間にか消えてたらしいけど……大丈夫かな?」

 「まあ、死んではいないと思うよ?」

 アストが答えると「そっちもだけど……また襲って来ないかなって……」とエターナを見るアリス。 あえて巻き込まれたいわけでもないが、純粋に友達を心配しての事だとはアストには分かる。

 「……ん? 大丈夫よ? その時はまたぶっとばしちゃるし~」

 言ってから、アストから分けて貰ったブロッコリーを箸で摘まむ姉に「お姉ちゃんたら……」と呆れ顔のリム。 少しは危機感を持ってほしいのだが、襲撃者を怖がる姉の姿というのも想像出来ない。

 「まったく……エターナ姉ぇの自身はどこからくるんですか……」

 由仁のリムと同じような呆れ顔は、彼女が同じような事を思っているからである。

 そんな年下の先輩達を眺めながらメアは、まったくデスと心の中で呟く。

 メアは危険だったり恐ろしい目に会うのは嫌いだった、三百年も生きていれば決して無縁ではいられないのも理解はしていてもである。 だから、そういった事を怖れずに、時には自分から危険に首を突っ込むようなエターナはどこか異様な生き物に感じられる時もある。

 昼食中の生徒の話声にかき消される程の小声で「ほんト……ニンゲンはよく分からないのデス」と呟く付喪神の少女であった。


 学園長室でユリナから報告を受けたトキハは、事務仕事用の机の上で組んでいた手をほどく。

 「……魔神サフィールとキリカ、やはりあの子達を狙っていますか」

 「そのようです」

 頷くユリナの顔は一見すると落ち着いているが、付き合いの長いトキハには彼女が苛立っているのが分かる。 学園の生徒、それも私的な付き合いの中では妹のように可愛がってる姉妹を狙われればそうもなろうとは思う、トキハ自身とて同じ気持ちだからだ。

 「まあ、それを自分達で撃退してしまうのもあの子らしいわね?」

 だが、同時に彼女らの強さも信じているので、そんな事を言う表情はどこか嬉しそうでもあった。

 ユリナもそれは分からないでもないがやはり呑気な考えだと、ムスッとした表情でトキハを見ると、やれやれという風に肩をすくめられた。


 

 某所の薄暗い室内でニヤリと笑うのは実際”黒い人影”である、それは例えるなら名探偵コ〇ンに出てくる犯人のアレである。

 「まったく……またもや失敗とはね」

 その視線が見つめる先にいるキリカは頑丈そうなロープでミノムシめいて縛れ、そして直径三メートルはあろうかというクッキーの生地にのせられ、更にはその規格外にも程があるクッキーがすっぽり収まる程のデカいオーブンの中にいた。

 「ひぃぃいいいいい!!! サ、サフィール様! どうかお慈悲をぉぉおおおおおおおっ!!!」

 黒い人影こと魔神サフィールは「うふふふふ~」と愉快そうにしばらく嗤った後で……。

 

            ――慈悲はない♪――

 ……と言ったのであった。



 この後にキリカがどうなったのかは、読み手の方々のご想像にお任せします。


 

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