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鬼の少女と首無しライダー編

天文部とはざっくり言うと夜に天体を観測する部活である、そして朱鷺坂由仁はその部員の一人だ。

 「……いや、ざっくり過ぎるんですけど……」

 中等部の後輩が部室でそんな事を言ったのに、高等部の先輩である実際石仏のような風貌の男子生徒が「?」と不思議そうな顔をした。

 「あ、気にしないで下さい」

 そこへ「朱鷺坂さんはいます?」と部室に入って来たのは、天文部の顧問であるリリーだった。 眼鏡を掛けた知的な顔立ちの教師は、由仁の姿を見つけると傍によって来た。

 「リリー先生?……って、まさか”事件”ですか?」

 天体に関する資料や望遠鏡といった道具こそ揃ってはいるが、実際の天文部の活動でこれらが使われる事はほとんどない。 それは天文部員達は全員が妖怪であり、人間社会で問題を起こす妖怪がらみの事件を解決する集団だからである。

 「それって……TRPGのガー〇スの百鬼なんたらですよね?……いや、まあ……確かに私は”そのためのキャラ”ではあるんですけど……」

 リリーと先輩の生徒が不思議そうに顔を見合わせるような由仁の発言はさておく事にする。

 「良くないと思うんですけど……」


 リリーの話を要約すると、最近学園周辺で”首無しライダー”が目撃されいるらしい、今のところ実害はないのだが何かあっては困るので由仁に調べてほしいとの事だった。

 そんなわけで午後十時半を回ったこの時刻に由仁は一人で夜の街を歩いているのであった。

 「まったくもう……か弱い女の子を一人でって、リリー先生も何考えてるのよぉ……」

 その気になれば並大抵の相手は髪の毛で切り刻めはするが、あくまでその気になればの話である。 逆にそれ以外での戦闘力は鬼の姿に変身したとて決して高いものではない。

 武器なしで戦ったらリムはもちろんエターナにも勝てるか分からない。 そんなわけで由仁の中では自身はか弱い女の子の範疇なのである。

 一緒にいた先輩も今は別件があるし、由仁はあのエターナとリムの従妹だから一人でも大丈夫でしょう……というのが理由だった。 事実ではあるがどうにも釈然としない。

 その由仁に「君、こんな時間に何をしている?」と声を掛けてきたのは一人の警察官だった。 

 「へ?……え~と、私は……」

 「ん? ソルシエル学園の制服? もしかして天文部なのかい?」

 由仁が答えるより早く警察官が気づき言った。

 「あ、はい」

 「そうか例の件か……」

 天文部の活動は人間には秘密というのが建前ではあるが、実のところ学園の一般生徒はおろか学園外の一般人もほとんどが知っている事であった。 そんなわけで警察官は「僕の方でも何か見たら学園に連絡しておこう、よろしく頼むよ」と言い残し去っていった。

 なお、どうしてそんな事になっているかは気にしてはいけない。 何故ならこの小説は何でもありのギャグ小説だからである。

 「……ギャグなら何でも許されるわけでもないと思うんですけど?」

 どうせ未だに評価もブック・マークもゼロなのだから何も怖れる事はない。

 「……わぁー開き直ってるよ、”このヒト”……」

 時間は更に経って多くに商店が立ち並ぶ広い通りの歩道を歩いた由仁が、携帯の時計を見るとすでに十一時を過ぎていた 。明日の学校を考えれば今日はもう帰るべきであろう。

 「……ってか、首無しライダーなんて本当にいるのかなぁ?」

 呟きながら立ち止まったのは、信号機が赤だったからである。 車も走っていなければ他にヒトもいないのだが、だからといって信号無視をいいわけではない。

 ふと近くでエンジンのアイドリング音がしているのに気が付き車道を見ると、そこには信号待ちをしている二代の大型バイクがいた。

 黒い車体に同じ色のライダースーツ、そしてその上にはやはり黒いヘルメット……はなかった、メットどころか頭そのものがない。

 「…………って!? 出たぁぁあああああああっ!!!!?」

 思わず大声を上げてしまい、その声に気づいたライダー達がこちらを見たのにギョッとなった……いや、頭はないのだが何故かそう感じたのである。

 「ど、どうしたんだ君?」


 リムの部屋には畳が敷かれ勉強机や本棚、それにタンスという日本風の部屋である。 すでに押し入れから出した布団を敷き就寝の準備は出来ているが、部屋の主はパジャマ姿で机の上のノート・パソコン向かっている。

 握っていたゲーム・コントローラーを置くとキーボードを使い”それじゃお休みなさい”とタイプしエンターキーを押すと、モニターの中の『キザム』がフキダシでその言葉を喋る。

 もちろん音声ではなく、漫画のような意味合いで喋るである。

 リムも人並みにはゲームを嗜んでいて、今ログアウトしたのは最近始めたオンライン・ゲームだ。 ちなみにこのゲームはエターナもやっているが、彼女はとっくの昔にログアウトしておそらくすでに眠っているだろう。

 「さてと、私も寝ようかな」

 パソコンを閉じて立ち上がろうとした時、どこからか爆音めいたエンジン音が聞こえてきた。 おそらくどこかの誰かが暴走行為でもしているのだろうとは簡単に想像出来る。

 「まったく……何が楽しいんだか」

 お金をかけてヒトに迷惑を掛ける上に、自分の命すら危険に晒すという暴走行為などとてもリムには理解出来る事ではない。 いつだったかせつなが言っていた言葉を思い出す、年齢や恰好だけ大人でも中身はダメな意味で子供な大人も世の中には大勢いるんだよ……だったか。

 自分もエターナも、そんな大人には絶対なりたくないと心底思った。 




 出会いから五分後、三人は近くのスーパーマーケットの駐車場にいた。 もちろん店は閉店していて人の気配はない。

 「…………つまり、あなた達はただバイクで走っているだけなんですか?」

 「うむ、単なる趣味だな」

 そう答えたのは首無しライダー一号と名乗った方であった、もう一人の、二号と名乗った男も「そうだ、何も悪い事はしてないよ」と頷く。 やはり頭がないのだがそう感じた.

 「ん? ああ、もちろん無免許ではないぞ?」

 「へ?」

 そう言って一号がスーツのポケットから取り出したのは間違いなく実際運転免許証であった。 どうやって取得したのだろうかと、そんな疑問は考えてはいけないのだろうなと思う。

 「それに交通ルールも守っているし、俺達は天文部に関わるような事はしてないはずだよ?」

 確かに赤信号でちゃんと停止してたと思い出す。

 「でも、ノーヘルはいいんですか?」

 「……と言われてもねぇ」

 「被る頭がないのだから被りようもあるまい? そもそも何の意味もないしな」

 二号と一号が苦笑しながら答える、確かにヘルメットは頭を守るのだから守るべき頭部がなければただ無意味に重くなるだけだろう。  道路交通法にも頭部がなくてもしっかりヘルメットを着用する事とは、多分書かれてはないだろう。

 「はぁ……まあ……てか、頭がないのにどこからしゃべってるんです?」

 今思い付いた疑問を半ばどうでも良さそうに聞く、すると一号が心外そうな顔になったのは、もちろん感じたのだ。

 「頭なんて飾りだ、人間にはそれが分からんのだ!」

 どう考えても飾りではないんですけど……と溜息を吐くが、妖怪には妖怪の感覚があるんだろうとは分かる鬼の少女。

 その時、エンジン音というよりほとんど爆音ともいえる音が響いた、反射的にそちらを見れば、明らかに違法改造していると分かる一台の車が明らかにスピード違反と分かる疾走してくる。

 ドライバーは由仁達……というか首無しライダー気が付かないのかそのまま通りすぎて夜の闇へと消えて行った。

 「危ない奴だな……」

 「まったくだな、あれではいつか事故を起こすね」

 ライダー二人が呆れと憤りを混ぜて言い合うのに、妖怪より人間の方が性質悪いのかもと由仁は思うのであった。


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