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エターナの登校風景編


 そこには何もなかった、だだ虚無が広がるのみ……。

 だが、そこに”意志”は存在した。 いや、意志と呼べる程のはっきりしたものではなかった。 自分が何者で何故ここにいるのか? そんな事に疑問を持つ事もなく悠久の時が流れていた……。

 そんなセカイに起こった事は偶然だったのか必然だったのか?

 別のセカイと繋がり大量の”情報”が流れ込んできた、彼ら・・の言葉で電子世界と呼ばれるそのセカイとの接触で、カタチのなかったセカイの住人達はカタチというものを知った。

 まず求めたのは己自身のカタチ……あるモノは巨大で頑丈な身体を持ったモンスターに、またあるモノは脆弱だが賢い頭脳を持つニンゲンに……。

 ヒトが生まれれば次に必要なのは彼らが生きる場所である……そうしていくつものセカイが構築されていった。

 そのセカイは、後にそれを発見した人間によってこう名付けられる……。


             ――幻想電子世界――





 季節の割には温かいと言っていい朝であった、それに雲もほとんどんない青い空はすがすがしいと言ってよいだろう。 その空の下に広がる街並み、そんな中の一軒の家……やや古い木造二階建ての家で、「わ~~~!!」という女の子の大H声が響いた。

 「やばい~遅刻しちゃう~~~!」

 決して朝寝坊したわけではない。 いつも通りに起き朝ご飯もちゃんと食べた、失敗だったのはまだ十分に余裕があったからと少しベッドに寝ころんでしまったという事だ。

 それでついウトウトしてしまい、気が付くと実際やばい時間だったのである。

 「おばーちゃん、いってきま~す~~~!」

 そんな声に続いて玄関の引き戸が勢いよく開き女の子が跳び出した、年齢は十歳前後か、天辺にアンテナめいて立つ毛が特長的な長い銀髪に澄んだ蒼い瞳だ。

 「慌てないで、気を付けて行っておいで」

 呆れと心配の混じった表情で孫娘を見送る朱鷺坂せつなに、赤いランドセルを背負ったエターナは「は~~い!」と元気よく返すと走り出そうとして、一度”このセカイではないどこかを見るかのような視線”でニコリとなった。

 「あたしの名前はエターナよ♪ よろしくね~~♪」

 それから改めて石畳を蹴ってダッシュしたのであった。


 「……お姉ちゃん、大丈夫かなぁ……」

 半数以上のクラスメイトが登校してきた高等部の教室で呟いたのはリムだ、いつもなら姉であるエターナと一緒に登校するのだが、今日は日直だったため少し早く登校して来たのである。

 やる事も終って席に着き多少時間に余裕が出来ると、心配が頭を過ってくる。

 余裕があるからとたまにベッドでウトウトしているのは一度や二度ではなく、今更に行きがけにひと声かけて来れば良かったと後悔していた。 さりとて流石に初等部の教室まで様子を見に行く過保護にも見えてしまう行為まではする気にはなれない。

 「大丈夫だよね……多分……そうだよね?」

 自分にそう言い聞かせ、それからまるで”この場にはいない誰か”に問いかけた後に、今日使う教科書やノートを鞄から出していなかったのを思い出したリムは机の横に掛けてある黒い学生鞄を開いたのだった。



 急いでいても交差点に来れば、青信号を待ってきちんと横断歩道を渡るのがエターナである。 この交差点はいつも通る道で車通も多いのは十分に分っていればなおさらであった。

 しかし、横断歩道の真ん中あたりで大型トラックが右折してきたに驚き「あ……!」と声を上げた。 

 おそらくは向こうも急ぐあまり少女の姿を見落としてしまったのだろうが、そんな事は問題ではない。 ちゃんとスピードを落としていないトラックの質量がぶつかればエターナの小柄な身体ではただでは済まないだろう。

 もちろんトラックの運転手も慌ててブレーキを踏んだが実際手遅れだったが、両者が激突する寸前に女性と思えるシルエットが跳び込んで彼女を抱えると、間髪入れずに跳躍した。

 トラックの運転席の上までという跳躍力を見せた女性は、更にその屋根を蹴って跳んだ。 「俺のトラックを踏み台にした~~!?」という運転手の声が聞こえるはずもないが、「まあ、お約束ですか……」と女性は呟くのである。

 キョトンとなったエターナを抱えた女性とトラックが離れた場所で停止するのは同時だった。

 「……ケガはありませんか、エターナさん?」

 「……イクス?」

 メイド服を纏った女性の顔を見上げるまでもなく声で知り合いだと分かるのと、「ちょっと! あんた大丈夫なのっ!!?」という声が響くのは同時だった。

 「アリス……?」

 自分と同じ制服姿に金髪の女の子が慌てた様子で走って来る。 アリス・スカーレットとう名前の友達である吸血鬼の少女は、少し息を切らしながら目の前にやって来た。

 メイドさんを連れているのは彼女は大きな会社の経営者の娘であり、登下校の安全のためというのが理由ではある。 車でも使えば一番なのだろうがアリスはそれを嫌がった、他の子達が歩きや自転車なのに自分だけが楽をするのはダメだいう考えだ。

 「あ……うん、大丈夫よ?」

 イクスがエターナを降ろして立たせてると、「ありがとね」とお礼を言った。

 「まったく、朝っぱらから何をやってるのよ……あんたは……」

 「いや……何って言われても……さぁ?」

 怒ったような顔で言われてエターナは少し困った様子で頭を掻く、アリスに怒られるような事をした覚えはないからだ。

 そんな女の子二人の様子を微笑まし気に見つめながら、「まあ、アリス様にも言いたい事はあるでしょうが……」と口を開く。

 「後の事は私が対処しておきますので、お二人は早く学校に向かった方がよろしいかと?」

 「「……あっ!!?」」

 イクスの後ろで声を掛けづらそうにしている男には気が付いてはいない二人の声が重なった。

 「ちょ……ヤバイわ、急ごう~~!……っていうか、アリス寝坊でもしたの?」

 「うっさい! どうせあんたもでしょう!?」

 言い合いながら走っていく仲が良さげな少女達の後姿を見送りながら微笑むイクスであった。



  下駄箱でクラスメイトの男子に「おはよう、アスト君」と挨拶した中等部の少女の名は朱鷺坂由仁だ。 「由仁さん、おはよう」と返すアスト・レイというこの少年が彼女を苗字ではなく名前で呼んだのは、特別仲がいいからではない。

 アストはエターナとリムの家のご近所さんの男の子であり姉妹とは幼馴染みであり、由仁もまた彼女らとは従妹同士なので互いに昔から面識はあった。 故に呼ぶ時に名前で呼ぶのは習慣なのだ。



 見慣れた私立ソルシエル学園の校門が見えたのにホッとなったアリスは、次に自分の腕時計を見やるとチャイムが鳴るまで後五分程だった。 流石にこの時間に登校している生徒の他には姿はない

 「ギリギリで……って、エターナ!?」

 その時、いきなり進路を変えた友達に驚き彼女の向かう先を見ると、二人乗りの黒いスクーターとその後ろに尻もちをついた老人の姿。 誰が見てもひったくりの現場と分かる光景である。

 「こんな時にっ!……じゃなくて危ないってばっ!!」

 友達の制止を無視して駆けるエターナとスクーターの距離は十メートル程まで縮まっていた。

 「兄貴、あの小娘……?」

 「ほっとけ! 邪魔するなら痛い目見るだけさ!」

 そう言いながらもアクセルを緩めスピードを落とすノーア・クトゥとトーリィ・スガッリがきちんとフルフェイスのメットをしているのは、顔を見られないためである。彼らにはエターナはくだらない正義感で突っ込んで来る子供でしかない……のだが、何故か嫌な予感というかそんなものを覚えた。

 それは、例えるなら忘れていた前世の記憶を思い出しているかのような、そんな感覚であった。

 まるでそれを肯定するかのように、少女の左腕に嵌っていた腕輪が光り輝きその姿を大きなピコピコハンマーへと変えた。

 「エターナル・ピコハン~~!」

 「「ナ、ナンデ~~~~!?」」

 少女の身長程の柄は一般的なピコハンと変わらないが、赤いハンマー部分は一回りか二回り程大きかった。 だが、もちろんこのまま殴っても音の鳴る玩具でしかない。

 しかし、エターナはこのピコハンに魔力を込める事が出来た、それは彼女が魔女だからである。 威力は込める魔力の量でいくらでも強力に出来るが、エターナはいちいち考える事はせず勘に任せて決めているのは、生来の大雑把な性格だ。

 両者の距離が二メートル程になったタイミングで「エターナ・インパクト~~~!!」と叫び跳ぶ、そして迷いなくピコハンをライダーの顔面目掛けて振るった。

 ピコッ♪という可愛らしい音に続き運転していたノーアの「あばばばぁあああっ!?」という悲鳴。 

 エターナが着地した時には、スクーターがバランスを崩し転倒しひったくられた手持ちのバックが宙に舞ったのを、アリスは反射的に駆けてキャッチしていた。

 その直後に始業を知らせるチャイムの音が鳴り響いた……。

 

 「まったく……」

 遅刻した上に騒ぎまで起こした生徒二人を見下ろして溜息を吐いたのは、教頭であるユリナだった。 金髪に狐の耳を生やした彼女の横には学園長であるトキハも立ってる。

 シュンと俯き「すいません……」と謝るアリスに対し、エターナは多少不満そうな表情である。 結果的に遅刻した事や騒ぎになった事を反省はするが、怒られるような悪い事をしたとは思っていないからだ。

 トキハがふと校舎を見上げれば、いったい校門で何があったのか?と生徒達がこちらを窓から見ている。 そんな中によく知った少女の姿を見つけ、彼女がこの年上の下級生である姉とそっくりな顔を心配そうにさせていた。

 「……まあ、いいわ。 あのお婆さんもあなた達に感謝してもいた事だし、今回は遅刻も騒動も大目に見ましょう」

 優しい声でトキハが言ったのに、エターナとアリスは「「え?」」と亜麻色の髪の学園長を見上げた。

 「ちょっと……学園長!?」

 ユリナの抗議の視線を無視して「もう行っていいわよ。 アイン先生には私がそう言っていたと言いなさいね?」

 「……あ、はい……」

 「は~い、行こアリス」

 返事をして走り出した子供達が校舎の中へと消えるのを待って、ユリナはわざとらしい溜息を吐く。

 「まったく……あなたはあの子に、エターナに甘いんですから……」

 トキハとエターナの祖母であるせつなは親友であり、彼女ら姉妹とは入学するずっと以前から交流があった。 せつながきちんと教えたのだろう、学園では彼女らは公私混同はしないし、トキハもそのつもりではいる。

 「あれ? なら、あなたはあの子達に罰でも与える気だったの?」

 わざとらしい言いようは、ユリナも自分と同じ考えだと分かっているからだ。

 規則を守るのも大事だし生徒が騒ぎを起こしたとなっては学園側にも迷惑が掛かる場合だってある。 だが、規則を守るのは正義であっても規則が正義だから守るのではない、規則など所詮ニンゲンの作ったものであり絶対ではないのだ。

 一部の愚か者は頑なに規則を生徒に強要すると聞くが、それは教育ではなく力で支配するのと同じである。 教師という権力と規則という名の武器を使い子供たちを押さえつけ力で支配する……ただ教科書の知識を暗記させる事を教育と考える大人が仕事を遂行するための安易な手段でしかないのだ。

 少なくとも規則や守るために明確な悪を見逃すようなニンゲンを育てるために教育者をしているつもりは、トキハにもユリナにもない。

 「まさか……そこまではしません」

 大学の後輩であり私的にも付き合いの長いユリナも朱鷺坂家との付き合いもまた長く、エターナとリムも妹のように可愛がっていた。 学園では教頭という立場のために彼女ら姉妹には厳しい態度で接するのもその裏返しなのだ。

 その先輩であり上司である女性の心の内がはっきりと分かるのに腹を立てながらも、一方では自分の望み通りの言葉を言ってくれた事に感謝してもいるユリナだ。


 授業中に勢いよく音を立てて扉が開かれてもアインは驚く事はない、カジュアルな黒い髪に猫の耳と腰から黒い尻尾を生やしてこの女性教師は落ち着いた様子でそちらへと視線を移す。

 「おはよう、アリスさんにエターナさん。 話は後で聞きますから早く席についてください」

 アインは学園長には大きな信頼を置いている、だから彼女が無罪放免したように見えれば二人が悪い事をしたとは考えない。

 「……はい。 お、おはようございます……」

 先に遠慮がちに教室に入ったのはアリス、続いてエターナも入ろうとしたが何か思い出した風に立ち止まる。 それから小さく息を吸い込んだ……。

 「おっはようございます~~♪」


 



 この物語は何もしないでいるくらいなら、これまで私が創ってきたものを使い好きなように書いていこうというコンセプトで書いていきます。 

 ただそれだけの事で、何か意味があるとかいう事はありません。

 それでも構わないという人は、エターナ達の紡ぐ日常の物語にお付き合いください。




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