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第三話 名前
僕と悪魔は、ヴィントス街という近くの都市に来ていた。
正直、こういう賑やかな都市に来るのは初めて…だと思う。記憶がないから何とも言えない。
コイツは何の為に僕をここに連れて来たのだろう。まさか悪魔が都市で買い物、ということもあるまいし。
相手が悪魔だとはいえ、一緒に歩いている相手と何も話さないのは気まずい。何を話そうと考えてすぐに、この悪魔の名前を知らないことに気がついた。
「…なぁ、」
「…何だ?」
「名前、教えてくれないか? いつまでもお互い『お前』って呼び合ってると不便だろ?」
「…確かにそうだな… 俺の名はディアボリ=オーミデュマだ。好きに呼んでくれて構わない」
「じゃあ…ディア、でいいかな?」
「…好きにしろ」
じゃあこれでいいのかな…。
「…お前の名はアレク。アレク=サンドラだ。契約前のお前から聞いた」
アレク…全く実感が湧かない。
「行くぞアレク。無駄話は終わりだ」
ディアは街を足早に歩いていった。