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歌劇場の怪人

ノア目線です。

「・・・・・・火の竜、たべちゃえ!」


 パフォーマンス中に突然現れた少女。そして、私のパフォーマンスを喰っていく火でできた竜。呆気にとられるとはこういうことか、と私はただ茫然と竜に喰われていく幻を見つめていた。


「・・・・つまんなかったから。」


 いくら聞いても彼女は私のパフォーマンスをめちゃくちゃにした理由をそれ以外に答えてくれない。そんな理由だけでパフォーマンスをめちゃくちゃにする子のようには見えないのだが・・・。しかも、どこがつまんなかったのか尋ねても答えてくれない。


「しつこい。」


 半ばヤケだった。残りの半分は嫌がらせと興味。彼女が何度つまんなかったからと言っても、私は同じ質問を繰り返し続けた。私だって多少頭にきたのです。私のパフォーマンスをめちゃくちゃにされて。私のパフォーマンスは決してつまらなくなどはなかったはずだ。だって皆笑っていたし、驚いていたし、拍手していた。


「・・・・だって・・・・なんか・・・へんで・・・。かなしそうなのにわらってるって・・・・へんじゃん。」


 やっと、彼女は口を割った。そして、私は口をぽかんと開けた。

 確かに、私は悲しかった・・・のかもしれない。なぜなら、先代ロゼ・ロードンの母があの日の前日に死んだから。でも、母が死んだということは私がロゼ・ロードンになるということ。一度ロゼ・ロードンになれば、感情を表にだしてはいけない。それは母から教わったことであり、幼い頃から将来ロゼ・ロードンになったときのために練習してきた。それに、気が付けばいつでも口元に笑みが浮かぶようになっていた。だから、あの日も母が死んだ日も誰も私の感情に気づくものなどいなかった。私も・・・そして、父すらも。父は、


「・・・・なぜ、母を失ったにも関わらず笑っていられるのか・・・。」


 と、私を蔑んだ瞳で見つめていた。その言葉と視線に満足し、微笑みを父に向けると父はますますこちらへ向ける視線を鋭くした。それが、こんな小娘に・・・・。


「なんか、ソレルちゃんって生意気だよねー!」


 パフォーマンスを壊されたことと、私の感情を見破ったことへのちょっとした意趣返し。みんながあの少女を厭い始めるようにすこーしだけ誘導する。


「ぐずっ・・・ううっ・・・なんで、イワナシちゃんも・・・みんなわたしを・・・。」


 あら?おやおや!これはこれは!・・・・少しだけやりすぎてしまったかもしれません。パフォーマンスをぶっ壊すくらいの度胸があるようですから、こんなこと気にしないかと思っていましたのに。


「・・・・え?なんであなたが?だって・・・あなたが・・・。」

 

 一緒に遊びませんか?と声をかけてみればそんな言葉と間抜けな顔が返ってきた。・・・・どうやら、私が主犯であること、バレていたようですねぇ・・・。


「あなたなんかと、あそびたくないっ・・・!!!」


 ・・・・逃げられた、だと?このロゼ・ロードンとあろうものが・・・・。


「・・・・またきたの?あなたとなんてあそびたくない。」


 なんど誘ってもかえってくるのはつれない返事。この、ロゼ・ロードンが一年間毎日わざわざ通っているにも関わらず・・・。

 ・・・はて、私はなにをこんなにムキになっているのでしょうか。ムキになるなど見苦しい。ロゼ・ロードンの名が廃る。・・・まさか、気が付けば顔から剥がれなくなっていた笑顔の仮面の裏にある、自分すらよくわからなくなっている自分の感情をわかってくれるかもしれない人間がいたと舞い上がっていたと・・・・?それこそ、ロゼ・ロードンの名が・・・違う。私がムキになるのは彼女に対して少し不平等な扱いをしてしまったことに対する償いをしようと思っただけだ。ロゼ・ロードンは万人に対して平等に接さなくてはいけない。特別扱いなどもってのほか・・・・だが、なぜ私はそもそも彼女に対してあんなことを・・・・いや、考えることはやめよう。私はただ舞台で美しく舞うロゼ・ロードン。皆からの拍手だけが存在意義。感情などなく、考えることなどしない道化。


「ディアポロ・・・・!そっか!はるになるとまいとし来るもんね!」


 ・・・・どちらさまでしょうか?その方は。どうして、ロゼ・ロードンには一切触れさせないのにその方には触れさせる?なぜ、ノアールローズ・ロードンの誘いにはのらないくせに、それを遊びに誘う?私だったら、それなんかよりもずっとずっと・・・・


「ロゼ・ロードン!!すごいや!ほんものだ!!オイラ、ファンなんです!!!」


 気が付けば二人の前に飛び出し、彼女の腕をつかんでいた。が、その手は彼女の腕からはがされ、それの手の中に納まっていた。腕を思い切り振られる。かなり痛い。


「え、ディアポロ、この人のファンなの?」


 彼女の問いにディアポロと呼ばれたそれは大きく首を縦にふった。


「この人、すごいんだぞ!えんげきがちょう上手くて、ゆうめいじんなんだ!」


 ・・・ふふっ、これは都合がよさそうです。


「え?オイラたちの遊びにまぜてほしい?もちろんいいぜ!」


 彼女が嫌そうな顔をしているのも気にせず、それは大きく首を振った。


「じゃあ、ばーいばーい!!」


 春が終わると、それはこの土地から立ち去っていた。

 あれには多少感謝しています。あれのおかげで彼女の名がソレル・スイバ・タデだと知ることができたし、あの日遊びに入れてもらって以来ずっと共に遊んでいたため彼女・・・ソレルにも大分気を許してもらえたのだから。


「ロゼ・・・!!私、ディアポロがいなくなってさびしい・・・・!でも、ロゼがいるから大丈夫!あと・・・これまでずっといっしょに遊ぼってさそってくれてたのにことわりつづけて・・・ごめん。」


 ほら、ね?

 あれの姿が見えなくなったことを確認して、ソレルを腕の中に閉じ込める。ソレルはぽかーんとしている。そのまぬけな顔を少し笑ったあとに、ソレルの耳に囁く秘密の名前。他人に明かすことを禁止されている内緒の名前。”ノアールローズ・ロードン ”


「えっ・・・?ロゼがほんとのなまえじゃなかったの・・・?」


 肯定の意味を込めて笑みを深くする。


「じゃあ、これからはノアって呼ぶね!」


 ソレルの満面の笑みに私は久方ぶりの心からの笑顔で返した。その笑顔はもしかしたらロゼ・ロードンらしからぬ少し不格好な笑みだったかもしれない。でも、それでもよかった。


「ノア!!!あーそぼ!」


 ふと、我に返った。私はなにをしているのだ。特別をつくって、秘密の名前を明かして・・・・。こんなのロゼ・ロードンじゃない。


「・・・・なんで、ノアはロゼ・ロードンにそんなにしばられてるの?」


 ・・・・だって、私にはそれしか存在意義がないから・・・。人ならざる者が人のふりをするには、そうしないと生きていけないから・・・・・。


「へぇー!だったらだいじょうぶ!ノアにはそんざいいぎはあるよ!!わたしの遊びあいてっていうそんざいいぎがあるもん!」


 それは存在意義と呼べるのか?と少し疑問に思ったが、私の口元には自然と笑みが浮かんでいた。心が軽くなった。そして、もしかしたら私の秘密も彼女だったら受け止めてくれるかもしれない・・・・などとありえもしない幻想を心の中で抱いた。


「このかいじんひどい!!かいじん、きらい!!」


 やっぱりそんなものは幻想だった。そらみろ、彼女は物語のなかの怪人ですら忌み嫌っている。これが、現実にでもなってみれば・・・・。

 でも・・・・いや、だからこそ。彼女に渡すと決めた黒薔薇の宝石を見つめる。これは、私が生まれたときに握りしめていたもの。ロゼ・ロードンに相応しい子供の手には生まれたときに宝石が握られている。・・・まぁ、私が生まれるまでありえないことだと言われていたロードン家に伝わる話だが。でも、どうやらこれには私の力がつまっている・・・というより、私の力がずっと流れ込んでいるようだ。これを身に着ければ永遠の命を手に入れることができる、これもロードン家に伝わる話。これまで何度も奪われそうになってきたが、そのたびに母が守ってくれた。

 私の先祖だという怪人も初代ロゼ・ロードンも永遠の若さと命を持っていたという。そして、初代ロゼ・ロードンは今も生きてこの世界中を旅して暮らしているらしい。私も一度会ったことがあるが、何千年も生きているようにはとても見えない若々しい見た目をしたその人は眼の中の蝶を舞わせながら私に言った。


「あなたも私と同類だ。怪人の血を強く受け継いでいる。あなたも永遠を生きることになるでしょう。その宝石は、あなたが一番大切だと、永遠をともに生きたいと思える人に渡しなさい。」


 と。あなたの宝石はどうなったのか、と尋ねてみてもその人は曖昧に微笑むばかりでなにも答えてはくれなかった。

 そして私には、


「ノア!遊ぼう!!」


 永遠をともに生きたいと思える人はこの子以外に見つからない。大人になっても絶対に。そんな予感がする。だから、私は彼女にどんなに拒絶されても憎まれても・・・・すべてを明かしてこの宝石を彼女に渡す。いや、押し付けよう。


 それから何回も季節は廻り、ディアポロとやらも気が付けばこちらに来なくなっていた。そして、ついに私たちは花園学園へ入学しました。


「ノ・・・ロゼ!!同じ部屋だって!」


 ええ、知っていました・・・という言葉を心の奥底に押し込んで、さも驚いたような表情と動作をして見せる。ソレルは胡散臭そうに私を眺めている。


「ロゼ・・・・部屋割りがこうなるって知ってたりした・・・・?」


 ・・・・・貴方には敵いませんねぇ。


「ま、それはないか。」


 楽しい日々はすぐに過ぎていき、気が付けば二年生になっていました。もちろん相変わらず部屋はソレルと一緒。

  

「そのソレル嬢っていうのやめてくれないかな?」


 私は貴方に憎まれ嫌われる、そんないつか訪れる日を恐怖しながらもずっとずっと望み続けている。



『乙女ゲームの世界で人生幸せ計画を立ててるけど結構上手く行きそうな件!!!』と『乙女ゲームの世界でハッピーライフプランを立ててるけど結構上手く行きそうな件!!!』の最終話、投稿しております。

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