〜今日も今日とてメンヘル暮らし〜
一人の青年がいた。
曰く、その青年は弓を扱わせれば天下一品で竜種でさえも仕留めることができる。
一人の青年がいた。
曰く、その青年は魔族に匹敵する魔力量を持ち、それを遺憾なく発揮できる実力がある。
一人の青年がいた。
曰く、その青年は誰とも群れずに魔王城まで到達することができる。
__これらは、ただの噂にすぎない。
しかし、目の前の青年は噂を否定しない。
見たままが全て、噂が虚偽はないと物語っている。
体が特別大きいわけでもなく、武器が魔剣の類なわけでもない。
それでも言いようのないプレッシャーに溢れている。是非とも私の下僕にしたい。下僕にすることができれば即戦力なんてものではない、人間界などすぐにでも掌握することができるだろう。
そして、
そしてなにより、
___私が惚れてしまったのだから下僕、いや夫になって欲しい!私が幸せになるのなら彼が確実に必要だ!
彼の瞳が好きだ。深い群青色で魔界にはない冴え冴えとしていて鋭い輝きを放つ、あの瞳が好きだ。
私を睨む反抗的に輝く瞳も呆れたように見つめる見下した瞳もどうしようもなく好きだ。
彼の声が好きだ。熱さを感じさせるものの、冷静さを失わずに耳に心地よい落ち着いた低い声が好きだ。
激昂したときでさえ、奥底では冷静さを失っていないあの声が好きだ。
彼の髪が好きだ。黒みがかった茶髪で短めに刈ってあり、短すぎない程度に伸ばされている髪が好きだ。
きっとどのような髪型も似合うだろうと思うが、彼にはあの髪型が一番似合っていると思う。例え彼がどんな髪型でも私は愛することができるけど。
彼の耳が好きだ。エルフのように尖っているわけではないが、形の良い角ばった耳が好きだ。形だけでなく、聴力も良いようで物音を正確に聴き分けるあの耳が好きだ。
彼の口が好きだ。動くたびに艶やかに言の葉を紡ぎ、その動き自体もまた艶やかに動く口が好きだ。
冷静さを失うまいと堪える口も堪えきれなくなり私をなじる口もどんな口の形も好きだ。
彼の鼻が、
彼の首が、
彼の腕が、
彼の胸が、
彼の腹が、
彼の足が、
手が、舌が、指が、肩が、腰が、歯が、尻が、_________彼の全てが好きだ。
なら、彼も私のことを好きで好きでたまらないはずで、私にはそれが分かってる。
でもでも、私は愛しい愛しい愛しい彼の口から愛しい愛しい彼の言葉で私への愛を紡いで欲しい!
だから、私から愛しいあなたへこの言葉を贈るの、答えは分かってる。それでもいいの。
だってだって、夫を立てるのが妻の役目だもの!
「私と結婚してください。」