拝啓 大切な君
拝啓
窓の外は、雪がこんこんと降っております。
庭が雪景色になるのも時間の問題でしょうね。
とても寒い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。
さて今日は何の日でしょうか。
君のことだから、きっとすぐにカレンダーを確認したことでしょう。
残念。
別に何の日でもありません。
強いて言うならば、今日の晩御飯は君の好きな麻婆豆腐にしようと思います。
これはただ、ふと思いついただけのこと。
そういえば、君に手紙の類を書いたことがないなぁ、と思っただけです。
書くとしたら書置きくらいのもので、味気ないものばかりだったから。
たまには遊び心でも発揮してみようかな、なんて思っただけです。
改めて言う機会もあまりないし、君もあまり言わないから、最近は忘れがちだったけれど。
ふと思いついたときに、ふと思いついた形で、こうして残していかないといけないと思ったのです。
つまり、僕は
***
ある日、珍しく寝坊した朝のこと。
中途半端に書き残された手紙が、ダイニングの机の上に転がっているのを見つけた。
窓の外を見れば、確かに雪がこんこんと降っている。
「ふむ」
手紙を取り上げてまじまじと見ていたら、玄関の方から戻ってきた夫が、私を見て「げっ」という顔をした。
「ああっ、いやその、それはその!」
「おはよう」
「お、おおおはよう!ちょ、そうじゃない、それはそのっ」
「まだ途中なんだよね。勝手に見ちゃってごめん」
ゆるむ顔が抑えられない。
夫の方を見て笑って見せたら、夫は恥ずかしいのを誤魔化すように、ため息をついた。
「朝ごはんにしようか」
そう声をかければ、夫はちらりと私を見て、うん、と頷いた。
***
つまり、僕は今日、君に出会えてよかったと、改めて実感したのです。
僕と出会ってくれて、僕の奥さんになってくれて、ありがとうございます。
僕がおじいちゃんになって、君がおばあちゃんになるまで、ずっと寄り添って生きていきましょう。
敬具
雪がこんこんと降っているのを見ながら、ちょっとラブソング的なものを聞いていたら、衝動的に書きたくなってしまいました。
こんな夫、実在するんだろうか……実在したら逆に驚きそうです。