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7 バンディット視点2

「こ……の、化け物め……」


 規格外だ。次元が違う。人間じゃない。


「ふふふ、そうかなあ。まあ、僕がどうかは置いておいて、君たちも弱いね。僕を楽しませてくれない。この世界なら僕を楽しませてくれる存在がいると思ったんだけどな。まあ、過剰な期待はしないでおいたほうがいいかなあ」


 この世界?

 こいつは他の世界から来たっていうのか?

 こいつの言う言葉が少し気になった。


「えーと、君たちなんて言ったっけ? バンディットだったかな? うんうん、僕は売られた喧嘩は買うたちでね。もう、君のような死にかけには興味ないからさ、死ぬ前に君たちのボスのこと吐いちゃってくれない?」

「誰が……言うも――」


 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 激痛が、激痛が俺に襲い掛かる。


「はあっ……ハア」


 奴の右手が俺の左太ももに突き刺さっている。そして、ぐりぐりといじり、俺の麻痺していた痛覚を刺激する。


「僕はね、ひどく気まぐれなんだ。だからね、まあ僕が君を殺してしまう前にちゃっちゃと吐きなよ。僕はね、人を殺すことに一切のためらいを持たない。息を吸うように自然に君を殺すことができる」

「それは……脅しか?」

「うーん、脅しというかまあ、事実ってやつかな?」

「俺がバンディットや団長の情報をお前に言えば、俺は助かるとでもいうのか?」

「え? 言わないねえ。君は死ぬ。これは決定事項なんだ。ただね――」


 そこでガキは言葉を区切り、ニタニタとした気色悪い笑みを消した。その表情は無だ。顔には一切の表情を浮かべていない。そいつの顔からは人間らしさが消えた。

 それとともに、俺の中にある一つの感情が生まれた。

 恐怖。

 俺はこのガキがとてつもなく恐ろしくなった。幼い女みてえな顔をしながら、その奥には悪魔みてえな本性が潜んでいやがる。俺は化け物のその一端を見てしまったのだ。

 急に寒くなってきた。体が小刻みに震える。恐怖と痛覚から息が荒くなる。


「――苦しみながら死ぬのと、楽に死ぬのとどっちがいいかい?」

 

 その台詞を聞いたとたんなぜか死ぬのが怖くなった。今までも死にそうになったことは何回もあるが、そのたびに死ぬならそれもまた運命だとか気取ったことを考えてきたが、今はそんな考えは出てこない。

 死にたくない。

 死にたくない。

 死にたくない。

 頭の中でそんな思いがグルグルと周り、まわり続ける。


「ああああああああ、嫌だ、死にたくない! 頼むよ、助けてくれよ。お願いだ!!」


 自分でも無様に思う。プライドもクソもあったものではない。普段の俺なら考えられない。だが今は普段の俺ではないのだ。緊急事態なのだ。

 涙を流しながら、俺は懇願した。


「うーん」


 そんなガキにもう一人のレンとかいう奴が何かを耳打ちした。

 ガキはにやっと笑って頷いた。


「君はとても運がいいね」

「がっ!?」


 次の瞬間、ガンッと鈍い音がし、俺の視界は闇に染まった。

 何が起こったかは予想がつく。殴られたのだ、頭部を。

 そして俺は――死んだ……のか、昏倒したのか、わからない。

 いや、俺は今状況をうっすらと確認、思考できている。ということは、俺はまだ死んではいないのだろう。

 痛い、眠い。

 団長に……伝えなく……あいつのこと……

 化け物……

 規格外……

 悪魔……



「はっ!!」


 悪い夢を見ていたような気がした。

 悪夢。そう夢ならどんなに良かったことか……。

 俺は脚を見た。血だらけでろくに動きはしない。腹部を触る。痛覚が体の異常を訴えている。あれは決して夢ではない、現実だ。

 けれど、俺は生きている。あいつは俺を決して生かしてはおかないと思っていたが、俺の予想以上にあいつは甘かった。所詮はクソガキだ。まだまだ詰めが甘い。

 俺は血まみれの手でポケットから通信用のお札を取りだした。魔力を込める。つながった。


「団長……」

『どうした?』

「奴に……クソガキにやられました。化け物です……あいつは……。やつはバンディットや団長のことも狙ってます」

『ほお、俺たちに喧嘩売るか……』

「あいつはとんでもない強さです。確か連れがいたはずです。そいつを人質に取れば何とか……」

『わかった、お前は今どこにいる?』


 俺は今どこにいるだろうか。何か目印になるようなものは、ない。


「噴水広場まで何とかして向かいますので、そこで落ち合いませんか? ここがどのあたりなのかわからないので……」

『ああ、急いで来いよ』


 通信はそこで途切れた。

 何とかしてはいつくばってでも行かなくては。壁にもたれながら立ち上がり左足を引きずりながら歩きだした。

 

「はあっ……はあ」


 歩きだしてすぐに曲がり角だ。右に曲がる。


「やあ」


 その陽気な声に俺は驚き、しりもちをつき倒れた。目の前にはあいつが立っている。あの化け物が……。


「うんうん、なるほどね。噴水広場ってとこに行けば君のお仲間に会えるんだね」

「てめえ、さっきの会話を――」

「ああ、もう君には用はないよ。さよなら」


 俺の体は二つに裂かれた。意識が途絶える一瞬の間には、俺の裂かれた下半身と、あのクソガキの笑みが見えた。

 ああ、なんで俺はこんな化け物と関わってしまったのか。ああ、なんで俺はギロのかたきを討とうとしたのか。そんなことに価値なんてないというのに。

 俺はただ死にゆく間に化け物と関わってしまったことに後悔した。

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