4 町(スラム)
人間見た目が九割。
なんて言ったりするけど、まさしくその通りで、外見っていうものはかなり重要である、と僕は思う。
本当は善良な性格をしているのに、強面で図体がでかいから周りから怖がられたり、恐れられたりするかわいそうな人もいる。逆に穏やかそうな人畜無害な見た目をしているけれど、実際は鬼畜極まりない性格をしている人もいる。
つまり、人間見た目だけで判断してはいけないよ、と僕は警鐘を鳴らすわけだ。
世の中にはあどけない幼顔をした、パッと見小柄で穏やかそうな少年が、化け物じみた力を持ち気まぐれな性格をしていることもあるわけだ。猫を被っていたり、能ある鷹は爪を隠すみたいなね。
さてなんでこんなことを話したかというと、僕は外見からはその中身を知ることができないからだ。一目見ただけだと、気弱な少年に見えることだろう。だから僕は絡まれることが良くある。無論、僕に絡んだ連中はすべからく返り討ちだ。
今、僕の前には男が三人立っている。全員僕より背が高く、そして人相が悪い。山賊や盗賊はこんな感じの連中なんだろうな、と思わせる面構えだ。
「てめえ、どっかの貴族か?」
僕の姿をじっくりと観察しながら言った。僕の格好はシャツにズボンという、おしゃれでもなければださくもない無難なものだ。ありきたりな格好というのは、あくまでも僕のいた世界のお話であって、この世界ではそこまで一般的なものではないのだろう。
「いや、違うけど?」
僕は微笑みながらそう言った。僕は絡まれるのは嫌いではない。暴力、喧嘩大好きだ。
周りに人はいないので、悪目立ちすることもない。
ここから先の会話は省かしてもらうけど、まあごくありきたりな展開だ。
つまり、
「金を出せ」
「嫌だ」
「じゃあ、力尽くで奪う」
といった感じで、結果は僕が一方的に暴力をふるって、終了。逆に僕が荒くれ共の金を奪って逃走、という結末だ。血を吐き地面に倒れ伏していたけど、多分死んではないだろう。人間の体は思っているよりかは丈夫なものなのだから。
まあ、もし仮に死んでいたところで、僕の知ったことじゃない。僕は見ず知らずの赤の他人の心配をするほど善人ではない。
僕は舗装されていないむき出しの道を歩きながら、財布の中の金を数えた。今僕が歩いているのは、レンゼンヒルの小さな町(名前は忘れた)で、その中でもあまり治安がよろしくない地区だ。俗に言うスラム街というやつか。
建物はどれも廃墟のような朽ちかけのボロボロのもので、何らかの木の蔓が巻き付いているものもある。ほとんどは木製のもので、ごくまれにある石造りも半壊している。
道はもちろん舗装されている区域はこの地区には無いだろう。空気は淀んでいて息苦しさを感じる。
この地区の住民は薄汚れた布きれの服を着ているものが多く、それはとても服とはいえないものだ。
なるほど、この地区では僕のような恰好はさぞかし目立つことだろう。現に先ほどからすれ違う人々は、僕のことを物珍しそうに、あるいは舌なめずりをするかのように見てくる。
正直言って不愉快だ。
違う地区へ行こうかな、などと考えていると、
「おい、そこのあんた」
と話しかけられた。僕は後ろを振り返った。そこには(失礼だけど)薄汚い格好をした少年が立っていた。髪はぼさぼさとして前髪は目元を覆い隠すように伸びている。身体はとても細く、余分な肉はおろか必要な肉さえも備わっていないほどのものだ。
背は僕よりか幾分か高く、一六〇センチ半ばといったところだろう。外見からは正確な年齢は判断できないが、声は成人男性のものよりかは高く、背も僕よりは高いといっても町の男の平均よりは低いだろう。よって、一五歳前後ではないかと僕は予想する。
「やあ、こんにちは。僕に一体何の用かな?」
僕は古くからの友人に挨拶をするように、親しみを込めてフレンドリーに、にっこりと笑みを浮かべながら陽気に挨拶をした。
その微笑みに面食らった表情を一瞬見せた少年は、しかしすぐに表情を無愛想なものに戻した。
そして僕の服装を観察しながら、
「ここでそんな小綺麗な格好してるとあいつらに目をつけられるぞ」
「あいつらって?」
「『バンディット』って呼ばれてる連中」
バンディット……山賊か。なんというか、捻りのないネーミングだ。
山賊というと、先ほど僕に絡んできたあのいかにもな男たちは、山賊面をしていたな。
「その山賊さんはどんな連中なんだい?」
「その名の通り……っていうか、まああらゆる犯罪を犯してて、この地区に住んでてバンディットに下手に関わると面倒なことになるぞ」
「ふうん」
僕の全く危機感のない声に多少の苛立ちを感じたのか、
「とりあえず来い!」
荒らげた声とともに僕の腕を強くつかみ、路地へと引っ張っていく。僕はなされるがまま少年についていく。細く暗い路地を迷うことなくずけずけと進んでいき、迷路のように複雑に入り組んだ道を抜けていく。
歩くこと一〇分。たどり着いたのは小さな崩れかけの家だった。