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?日目・早川 ■ (コンクルージョン) 1

ひとごろしたちのコンクルージョン

時系列としては25話〜27話の間?

 首の後ろがちりちりとする。

 何か絶対良からぬことが起きると、長年の勘がそう言っていた。まだ俺若いけど。


 後ろを振り向くと小柄な少女と犬がついて来ている。

 『百人殺しの殺人鬼』

 『未成年の死刑囚』

 そんな経歴がへばりついていることが信じられないほどに彼女は大人しい。

 疲労もあるのだろう。それに、先ほど川で傷口の周りを洗った。心配していた膿はなかったが発赤ほっせきはあったので、身体の調子もあまりよくないに違いない。


 俺の視線に気付き、明日香は首をかしげる。


「なにか」


「いや…」


 なんでもない。そう言おうとして、考え直した。


「嫌な予感がする」


「はぁ」


 それがなんだという風の無関心さだった。

 さてはこいつ、他人の勘などあてにしないタイプか。


「ほんとだって」


「疑っているわけではありませんよ」


「でも信じているわけでもないんだろ」


「はい」


 はいじゃないが。

 素直というよりも俺のご機嫌取りをすることがめんどくさいようだ。投げやりともいう。

 無駄にへこへこされてもそれはそれでウザいけれど――もう少し円滑なコミュニケーションをしようって思わないのだろうか。

 口数が少ないからそうコミュニケーションが上手いってわけでもないのかもしれない。


 まあ、少なくとも人の話は(ある程度は)聞くし、相槌ぐらいなら打てるし、ぴーちくぱーちくおしゃべりでやかましくないだけいい。

 そもそもこんなところで人間関係や上下関係を考える方がおかしかった。会話が成立するだけ奇跡だ。なんだかどんどん求める水準レベルが下がっているけど大丈夫か。


「逆にお聞きしますが」


 俺の沈黙をなんと受け取ったのか、あちらから口を開いた。


「ここに来てから、いい予感になったことはありますか?」


「…あー。ないな…」


「でしょう」


 それきり黙ってしまった。これで会話終了かよ。

 何が言いたかったんだ。悪い予感なんて珍しくもないだろって抗議なんだろうか。


 そりゃそうだな。だって、目的が目的なのだから。

 『自分以外を全員殺せ』。

 それがゲームクリアの条件。恐らくは絶対に覆せない悪魔のルール。

 いい予感なんて一切どこにもあるわけがない。


 が、しかし群を抜いて嫌な予感がする。

 予知能力だとかそういうオカルトめいたものはあまり信じてはいないが、野生の勘は信じたほうが良いだろう。特にこういう場では。



 やっぱり第六感というか、そう言うのが働いていたらしい。

 巨木に身を隠しながら俺はそんなことを考えていた。


 進路方向に人が居て、さらには気付かれた。

 銃を持っていないとは限らないので慌てて隠れたわけだが、やけに静かだ。

 こっちが出てくるときを狙っているのか、もともと持っていないのか。後者であると嬉しいものだが。


「…何人いた?」


「四人でしょうか」


「多いな…」


 明日香とブルータスを戦力に無理やり数えても、あちらのほうが多い。

 加えて俺はブランクがあるし、明日香は怪我をしている。ブルータスについては未知数すぎて何とも。

 逃げを選択したいところだが、あの人数を完全に撒くまで逃げ切れるか? それに追いつかれて戦闘にもつれ込むぐらいなら…。

 今やってしまったほうがいい。


「戦うぞ」


「分かりました」


 明日香はすんなりと頷く。

 なら次だ。邪魔になる荷物を降ろし、そろりと木の陰から様子を伺う。ひい、ふう…やっぱり四人だな。先ほどよりも近づいてきている。

 どう対応するか思案している横で明日香が普通に出ていった。馬鹿か!

 もう心臓が飛び出るぐらいにビビったが、撃ち殺されることもなく明日香はそこに立っている。


「飛び道具持ってる奴は?」


「いません。みんなバッドとか斧とか、そういうのです」


 信じていいのか。いいんだよな。

 やけくそ気味に躍り出る。


 

 男四人組とご対面だ。互いの顔がはっきり見えるぐらいの距離にいる。

 一人はポーチのみを身に付けていた。となると死刑囚だな。

 あとの三人は俺と同じ一般参加者だろう。どうやったらこんな人数と手を組めるのだろう。

 まあいい。俺と明日香だって殺し合いから手を結んだのだ。色々あるんだろう。

 顔を順々に見ていき、最後の男で視線が止まった。


「え…」


 細目の男。

 一見華奢な背格好。

 むかつくほどに整った顔つき。


 他人の空似だとしてもこれはさすがに――できすぎではないか。

 おいおい神様、俺がいまだに後悔しているからって――いくらなんでも悪趣味な巡りあわせをしてくれんじゃねえか。死ね。


「どうする」


「決まってる。殺そう」


 警戒を滲ませた声で男たちが言葉を交わす。

 俺の横で明日香もナイフを引き抜いて構え、ブルータスが牙をむいた。


「いいねえ、女だ」


「この際しょんべん臭いガキでもいいな」


「やめておけ。こんなところに来ているぐらいなんだ、ただの子供じゃない」


 下品な笑みを浮かべる男たちに、そいつは淡々と注意する。

 その声も、話し方も似ていない。

 けれど、射るような鋭い目はあいつにそっくりだった。

 視線が交差する。敵意しか感じられない。


「早川…」


 他人だと分かりつつも思わず口に出してしまった。

 そいつは意味が分からないというように眉を顰め、明日香は小声で質問を投げてくる。


「知り合いですか」


「…いや、違う」


 なにを馬鹿なことを言っているんだか。心の隅の冷静な部分でせせら笑う俺がいる。

 早川なんてもういるわけがない。ちゃんと死体も確認して、葬式にも出て、墓参りだってしたんだ。

 あいつは死んだ。

 



 ーー俺が殺してしまったのだから。


前原が早川似の敵に会ったらどうしたのかな、みたいな話です。整合性はありません。

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