表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

最後の晩餐

作者: 山村いつき

時計の針は午前3時。

何度目であっただろうかこの本を読むのは。

三島由紀夫の憂国を読んで以来この国のことを考えるようになった。

そして未来に何もないこと。

政治家は国民に何もしてくれないことを理解した。

都合の悪いことは知らんぷり。

そのくせ大言壮語のスタンドプレイ。

もう飽き飽きだ。

そろそろ着替えよう。

私は白いカッターシヤツと黒いパンツに着替えた。

最愛の人は横で心地よい寝息を立てている。

五十嵐麻美とはこれまで長い時を過ごしてきた。

「あなたは私のこれから為すことを理解してくれるだろうか?」

「数々のわがままを聞いてくれたね。これが最後のわがままだ。」

いつのまにか独り言をつぶやいていた。

その言葉に気がついたのか麻美が目を覚ました。

「あら、これから寝るんじゃないの?なんでそんな格好をしてるの?」

麻美は不思議そうな顔で聞いた。

「なんだか落ち着かなくてね。それより熱いお茶でも入れてくれないか?」

私は苦笑いをしながら答えた。

寝起きにありがちな不機嫌さの欠片も匂わさずはいはいといいながら麻美は台所に向かった。

この後ろ姿も見納めかと思うと一段と愛おしく思えてきた。

思い返せば私にはもったいないぐらいに完璧な女だった。

料理をさせても家事をさせても文句のつけようがないくらい完璧にこなした。

容姿も端麗であった。

そんなことをおもってるうちにお茶が入った。

「お茶を飲んで一服したら私も寝るから先に寝ててくれ。」

言い終わるが先か麻美は布団に入っていた。

それから1分とたたないうちにまた心地良さそうな寝息が聞こえてきた。

煙草を燻らせながら熱いお茶を飲む。

煙はゆらゆらと漂い、オレンジの灯りにとけ込んでいく。

至福の時である。

ふと私は女を抱いている時とこの時、どちらが幸せだろうかなどと秤にかけていた。

思わず吹き出しそうになった。

こんな時でさえこんなことを考えるとは。

なんとも滑稽である。

いつのまにか時計の針は4時になろうとしていた。

そろそろやらなければ朝を迎えてしまう。

私は煙草を灰皿でもみ消し、ポケットから白い粉を取り出した。

それを残ったお茶に溶かした。

これを飲めば何秒間かした後すべてが終わる。

最後にみるこの世界は綺麗なものでありたい。

そう思い私は麻美の顔をもう一度見た。

そしてその美しい顔にそっと最後の口づけをした。

最愛の人と共有するこの空間。

それだけがこの汚い世界で唯一純血を保っている。

私はお茶を一気に飲み干した。

この世界が美しくなることを願いながら。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 軽い絶望、発作的な自殺といったところでしょうか。 この主人公は弱い人ですね。 結局自分でも何も変えようとせず、何もかも残して死ぬ。 格好いい死に方なのかもしれないけど、足掻く強さがない。 薄…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ