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佐藤邦明の場合 4

「おい。ちょっと顔貸せよ」


 伊井島が終礼が終わると声を掛けてきた。また、金を(たか)るつもりだろうな。今日までに持ってこいって言ってたし。

 千木良さんの助言を思い浮かべる。


 (いいか。やるときには教室の中とか必ず他の人がいるところでやれ)


 確かベタな体育館の裏でやるのは悪手だって。他の人の目を味方にしないといけないって。最悪の場合も止めてくれる可能性が少しでも上がるからって。


「……い、嫌だ」


 僕はかすれた声で辛うじて言い返す。


「何だと?」


 伊井島は僕が素直に頷かないことに不信感と苛立ちを感じたようだ。そんな様子を見ていた取り巻き達が近寄ってきた。


「伊井島、どうした? おい、佐藤。お前最近ちょーしに乗ってんじゃねえか?」


 日永田がズボンに手を突っ込みながら頭を寄せてきた。


 (最初だけだ。ちょっと大声で言い返してみろ。彼奴等は大人に知られるのが嫌なんだ)


「僕はもうお前達の言うことは聞かない!」


 僕が叫ぶと、伊井島や取り巻き達はびっくりしたように目を丸くする。湖林はおどおどしたように周囲を見渡す。掃除当番達が何事かと僕達のやり取りを興味津々に見てくる。

 伊井島は怖い目つきで僕を睨み、俺の襟首を掴んできた。


「お前。やる気か?」

「は、離せよ! 汚い手で触るな!」


 夢島は笑いながら茶化してくる。


「ハナセヨ! キタナイテデサワルナ! なんだそりゃ。俺達をバカにしてんのか。お前が言っても全然怖くねえわ」

「ぼ、僕はお前達に払う金は無い。こ、これ以上ちょっかい出すと僕にも考えがあるぞ」


 僕は凄んだ。ただ、迫力が無いのか夢島はバカにしたように笑ってるだけだ。

 伊井島が襟首を揺すりながら臭い息を吹きかけてくる。


「お前。わかってんのか。ちょっと来いよ」

「い、嫌だ」


 僕は引っ張るよる伊井島を思いっ切り突き飛ばした。たたらを踏んだ伊井島が転ぶと、一気に顔が赤くなり、殴りかかってきた。


「佐藤!きさま!」

「うっ!」


 思いっ切り頭を殴られた。いつもは怖くて頭を抱えるところを千木良さんの言葉を思い出す。


 (最初の一手は相手にやらせて耐えろ。その後は……)


 僕は椅子を持ち上げると思いっ切り伊井島に叩きつけた。


 ガンッ!


 椅子は避けようとした伊井島の腕に当りすごい音がした。

 教室は一瞬にして静寂になり次の瞬間伊井島が叫び声を発した。


「……がぁぁぁ!」


 腕を抑えながら床を転がっている。


「お、お前……な、なにすんだよ、殺す気か!」


 夢島が狼狽(ろうばい)しながら俺に近寄ってくる。

 俺はそれには答えず思いっ切り椅子を横に振り回す。


「うゎ! アブねぇ!」


 夢島が後ろに下がって避ける。

 僕は追い詰める様にジリジリと近寄っていく。


 (やるときは思いっ切りやれ! 殺すつもりでやれ。人はそんなに簡単に死なないから気楽にな)


 日永田が横から回りこんで俺を牽制しようとしてきた。

 俺は日永田に椅子をぶん投げる。


「うがっ!」


 日永田が頭を押さえてうずくまる。ぶん投げた椅子が掃除当番に当たりそうになって一瞬僕は冷やっとする。


 (いいか。思いっ切りやっても絶対に関係ないやつに当てるな。複雑になるからな)


 湖林は変な笑いをしながら、呻いている伊井島と俺を交互に見ながらオロオロしている。

 椅子が当たりそうになった掃除当番がはっと我に帰ったのか「先生呼んでくる」と教室を飛び出していった。

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